<憑依>黒き過去① ~光~

もしも”当たり前”だと思っていた日常が
”当たり前”では無かったとしたら…

自分の”通ってきた”と思っていた人生が、
そうでなかったのだとしたら…

人はーー
その時、どのような決断を下すのだろう…。

-------------------------—

可愛らしい小物類が机の上に置かれている。

年頃の少女らしい、明るい色合いの部屋ー。
その部屋の主ー、福井 結加里(ふくい ゆかり)は、
カレンダーを見つめた。

12月7日の部分に赤く○がついているカレンダー。
・・・今日はちょうど、12月7日。

だがーーー。
結加里には、自分でその○をつけた記憶がない。

「何の日だったかな~」

最初は家族が〇をつけたのかと思った。

けれど、、
そうでもなかった。

結加里は高校の制服を着こむと、ほほ笑んだ。

「-ーまぁ、覚えてないぐらいだから、
 いいよね♪」

結加里はトレードマークのポニーテールを
揺らしながら、自分の部屋から出て、
学校へと向かったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

教室がいつも通りの賑わいを見せている。

お調子者の男子生徒が、
スマホでクラスメイトに写真を見せながら笑っている。

クラスのおしゃれ女子が、ファッショントークで
盛り上がっている。

いつも通りの日常ー

いつも通りの光景ー。

高校2年の結加里は、
もうすっかり慣れたこの光景を微笑ましく思い、
自分の座席へと向かう。

「おー、福井さん!」
クラスメイトの”変態”生徒ー
須磨 拓馬(すま たくま)が声をかけてきた。

とにかくエロいので女子からは嫌われている。

だがー、そんな須磨にも、結加里は微笑みを返した。
「おはよう、須磨くん」

須磨は笑う
「あぁ~あ!福井さんみたいな可愛い子に
 憑依して、好き放題してぇな~!」

その言葉に、苦笑いを浮かべて、結加里は
座席へとつく。

スカートが乱れないように、整えながら机に座り、
授業道具を鞄から出して、机の中に入れる。

何もかもが、いつも通り。

「おっはよ!結加里!」
背後から、クラスメイトで親友の、坂森 藤香(さかもり ふじか)に
声をかけられた。

「あ、藤香、おはよ!」
結加里が嬉しそうに返事をするー。

「--そういえば、結加里さ~
 ”今日の予定”思い出せたの~?」

藤香が言う。

藤香はストレートヘアーの正統派美少女という
感じの子だ。

結加里とは1年の時から仲良くしているー。

「---ううん、結局、思い出せなかった」

”12月7日”

カレンダーに赤マルがついている日。

しかし、結加里に〇をつけた記憶はなく、
何か用事があったかも思い出せない。

「そっかー」
藤香が笑う。

12.07---
”始まりの日ー”

ふと、結加里の中に謎の言葉が浮かんだ。

「----えっ…」
結加里が思わず不思議そうなカオをする。

ー藤香がその様子を察して、心配そうに結加里の方を見る。

「--大丈夫、結加里ー?」

12月7日ー

12 7

いちにぃなな…

私・・・この日になにか…

「-----」
結加里が頭を押さえて、苦悶の表情を浮かべる。

「どうしたのー?結加里ちゃん?」
藤香が慌てて結加里の身を案じる。

ーーーー
言葉には言い表せない”不安”

結加里の心は不安に支配されていた。

いつもと同じ1日だ。
何もない。何も…。何も起きっこない…

そう、いつもと同じ一日だー。

結加里は、そう自分に言い聞かせて、
微笑んだ。

「---大丈夫・・・ごめんね。」

そう言うと、
藤香が心配した様子で、結加里を見つめたーーー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

昼休み。

すれ違った先生から、
「福井!この前の成績、良かったな!
 この調子で頑張れよ!」と褒められたー

結加里は嬉しそうに微笑んで会釈した。

結加里はーー
クラスの中でも優等生の部類に入る子で、
誰にでも優しく、容姿も可愛らしいことから、
クラスの人気者だった。

図書委員の委員長でもあり、
多くの同級生の癒し的な存在になっている。

昼休みの図書当番のため、結加里は、
今日も図書室に向かう。

図書室の独特な香りー。
結加里はこれが好きだった。

優しく微笑んで、カウンターで今日もお気に入りの本を読み始める。

昔からー
結加里は本が好きだった。

本は、自分を”旅”に連れて行ってくれるー。

いつも、何の変哲もない人生を送る自分が、
決して知ることのできない世界を、本は教えてくれる。

小学生の時に、祖父からもらった一冊の本。

最初は”文字なんて”と思っていたがー
いざ読みだしてみると夢中になった。

あのときは確かー
夏休みだった。

セミの声をバックに、小説をもの凄い勢いで読んだものだ。

「---」

結加里はふと”あること”を思い出した。

結加里には”ここ1年 よく見る夢”がある。

毎日見るわけではないのだが、
1~2週間に一回は見る夢だ。

自分が見知らぬ男になっていて、
自分を傷めつけるという夢だ。

夢の中で、自分は男になっていて、
とても楽しそうにしている。

そしてー
夢の中の自分は、とても悲しそうに涙を流している。

さらに不思議なことに、
涙を流している自分を夢の中で見て、男になっている結加里はいつも、
満面の笑みを浮かべるのだーーー。

「---福井さん」
ふと男の声がして、結加里は我に返る。

その笑顔は、今日も眩しかったー

隣のクラスの男子生徒、
光津 武史(こうつ たけし)。
あまり目立たない生徒なのだが、心優しい性格だった。

「あ、光津君ー」
結加里がほほ笑むと、
武史は顔を赤らめたー。

武史は、結加里の事が好きだったーーー。

しばらくして、チャイムが鳴る。
武史にとって、楽しい時間の終わり。

結加里は、図書室の戸締りを終えると、
微笑みながら、教室へと戻ろうとしたー。

「----あの…福井さん」
武史が結加里を呼び止める。

「えー?何?」
結加里がほほ笑みながら振り返ると、
武史がつばをゴクリと飲み込んで、
顔を赤らめながら言った。

「あ、、あのさ……
 ク…クリスマス…予定、、空いてるかな?」

武史が言うーー。

予想外の言葉に結加里は、心の中で驚いた。

「--、、ど、、どういうこと?」
結加里が突然のことに半分パニックになりながら言う。

「---お、、、俺…
 福井さんの事がーーー」
武史が言葉を詰まらせながら言う。

なんだ、、、そうだったんだー。

結加里は心の中で嬉しそうにつぶやいた。

「----わたしも」
結加里が満面の笑みで答えた。

「えーーー?」
武史が不思議そうな顔で言う。

そしてー
結加里は優しく微笑みながら言った。

「わたしもーー
 光津君のこと、好きだよー」

と。

結加里のポニーテールが優しく風に揺られたーーーー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

帰宅した結加里は、1階で、母親と会話を交わす。

結加里宛てに小包が届いているから、
部屋の前に置いておいたー と母は言った。

お礼を口にして、階段を上る結加里―。

そう、いつもの日常ー

結加里がこの十数年間、
過ごしてきたいつものーーーー

今の自分は、大切な過去を積み重ねてできたものーーー。

自分の部屋に戻った結加里は
身に覚えのない小包に違和感を覚えながらそれをあける。

そこにはーーー
”重要”と書かれたDVD-ROMが入っていた。

「---なんだろう?」
結加里は気味悪そうにソレを見つめる。

だがーー
何故だろう。

不思議とそれを
”みなきゃいけない” 

気がしたーーーー。

カレンダーの赤いマルを見つめて
結加里は、不安を覚えた。

だがーー意を決して、
部屋にあった少し古めのDVDプレイヤーで
そのディスクを再生したーーーー

”…フフ…再生してくれてよかった”

映像が再生されるー。
結加里は驚いて目を見開いた。

映像の中にはーー
自分の姿があったーー。

その表情はーー
自信に満ち溢れていた。

「何これ・・・わたし…?」
結加里が唇を震わせながら言う。

”1年間ー?
 どうだった…?”

映像の中の自分が言う。

”ちゃんと、”女の子”としての
 人生、楽しんだー?”

結加里が険しい表情で映像を見つめるー。

この映像は一体…?
”1年間”とはー?
一体、何を言っているのか…

”はは…、なーんて言っても混乱してるよね?
 当たり前か…

 ”記憶”全部消したんだから・・・”

映像の中の結加里が笑う。

「ど…どういうこと…?」

映像に問いかけても意味はない。
けれど、問いかけずには居られなかった。

”驚かずに聞いてねーー。
 あなたはーーーー
 ”福井 結加里”じゃないのー。”

「えーーー?」

突然の言葉に動揺する結加里。
体の震えが止まらない。

「--な、、、何言ってるの…
 わ、、私は福井結加里よ!!」

結加里はたまらず映像に向かって叫んだ。

”ふふ・・・
 私は結加里― とでも叫んでるのかな?

 ”1年後の私”

 いえーーー、
 ”1年後の俺”----”

映像の中の結加里がそう呟いた。

「1年後の…俺…
 どういうことなの?」

結加里は恐怖した。

これは悪戯に違いない。
けれどー。
映像の中で笑っている自分は何なのか…。

”よく聞きな…”

映像の中の結加里が挑発的に言う。

”お前は、1年後の俺なんだよー
 結加里なんかじゃないーー。

 お前は…
 その福井結加里の体を乗っ取って
 好き放題している、 俺自身ーーー

 増園 慶介(ますぞの けいすけ)なんだよ!”

結加里は耳を疑ったー

自分が結加里じゃないーーー?
そんな馬鹿な…

ずっと、ずっと、小さいころからーーー。
わたしはーーわたしだったーー。

トドメを刺すかのように映像の中の結加里が言う。

”俺は、憑依薬と言う薬を使って、
 この女ーつまり福井結加里の体を乗っ取った。

 お前は、その”乗っ取った側の男”だ。
 福井結加里じゃない。

 結加里の心は、奥底に封じられているー”

「---うそっ!うそよ!」
結加里が映像に向かって叫ぶ。

「私は私よ!なんなのよ!
 何の悪戯なの!」

結加里が叫ぶ。

”どうせ、パニックになってるんだろ?
 1年後の俺よ…。

 俺には分かる…”

映像の中の結加里が男言葉で笑う。

「--うるさい!
 私は私よっ!

 大体、私には私の記憶がちゃんとーー」

”暗示ー”

映像の中の結加里がつぶやく。

”俺さーーー
 ”正真正銘の女の子”として
 1年間過ごしてみようー
 そう思ったんだよ。

 だが、俺には増園 慶介としての記憶がある。
 それじゃあ、女の子の本当の人生は味わえないー”

結加里が目から涙をこぼしながら映像を見つめる

自分は、、結加里じゃないのー?
うそっ… 嘘よ…

と内心で叫びながらーーー。

”そこで俺は、
 自分に特殊な暗示をかけた。
 ある装置を使って、
 増園 慶介としての記憶を全て封じ込め、
 自分を福井結加里だと思い込む暗示をな。

 今から俺はそれを自分にかける。
 だがーーー、ずっとそれで生きる気はない。

 1年ー。
 純粋に福井結加里として、女の子として
 生きてみたい。

 そして1年後、女の子の自然の生活を知った上で
 好き勝手してみたい”

映像の中の結加里が不気味に笑う。

結加里はどうしていいか分からず
泣き叫んでいる

「違う、違うー 私は結加里よ!」 とーー。

”1年後ーーー
 自分の暗示を解くために、俺はこの映像を録画して、
 1年後のこの家に届くようにしておいたんだー
 
 ま、お前は覚えちゃいないだろうが”

結加里が部屋の床に手をつく。

「嘘…嘘…
 私は…結加里……
 あんたなんかじゃない…」

結加里が泣きながら呟く。

映像の中の結加里が言うー

”暗示を解く瞬間が来たー

 あぁ、、、1年後が楽しみだぜーー

 じゃ、行くぜ”

暗示を解く「キーワード」を映像の中の結加里がつぶやく

” ユ メ ノ オ ワ リ ”

ーーーーーーーと。

結加里の脳裏にーーーー
爆発するかのようにーーー
”封印されていた記憶がよみがえる”

「あああああああああああああっ!」
結加里が体を震わせながら
悲鳴をあげて
頭を押さえ、その場に蹲った。

そしてーーー

”さぁ、1年後の俺!
 楽しい時間の始まりだぜ!

 1年間、女子として生きた上で、
 女の子を知り尽くしたうえで!
 男として女の体を弄ぶ至福の時間の始まりだぁ!”

映像の中の結加里がそう叫ぶとーー
映像は途切れたーー

結加里はうずくまったままだ。

やがてーーーー
結加里は口を開いた

「くふふふ・・・♡」

その声に…
もう先ほどまでの恐怖はなかったーー

「そうよ… そうだよ…
 わたしは結加里じゃない・・・

 結加里の体を1年前に憑依薬でのっとったんだ…
 ぜんぶ…ぜんぶ思い出したよ…

 うふふふふふふふ♡」

結加里が俯きながら立ち上がる。

左手は自分の胸を狂ったように触っている。

「---1年間…
 本当に純粋無垢な女の子として…
 楽しかったなぁ~くひひひひひっ♡」

本当の結加里はーーー
”1年前”に増園に憑依されてーー
封印されているーーー

この1年間、結加里として生活してきたのはーー
結加里を乗っ取り、自らの記憶を封印した増園ーー

目にまだ涙を浮かべながら、
結加里はーー狂気の笑みを浮かべた

「ふふふふ・・・
 結加里、、、ようやく本当のこと思い出したっ♡

 カレンダーに〇したのは一年前のわたし。
 そしてーー
 よく私が見ていた夢はーー、
 わたしが結加里を乗っ取った時の夢――」

結加里はスカートの中から自分の下着を乱暴に取り出すと、
それを舌で舐めて、不気味にほほ笑んだ

「くふふふふふ・・・
 楽しい毎日の始まりよ・・・♡

 うふふふふっ
 ははははははははははは!」

”自分は結加里じゃなかったー”

真実思い出した結加里ーー、
いや、結加里に憑依している増園はーーー

今、”闇”の道を歩み出そうとしていたーー

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

あえて前置きを長くしました。

自分の記憶をあえて1年間消し、
結加里として1年間を生きた男ー増園。

記憶を取り戻したいまー、
一体彼は何を始めるつもりなのでしょうか!?

PR
憑依<黒き過去>

コメント

  1. 匿名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    これは続きがめっちゃ楽しみ!

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > これは続きがめっちゃ楽しみ!

    ありがとうございます^^
    続きも頑張ります!

  3. 柊菜緒 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    これは何とも複雑な……

  4. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > これは何とも複雑な……

    今回は少し変わった展開にしてみました!