妹、千鶴として生きることを決意した兄の隆介。
今まで自分が”羨ましくて仕方が無かった”
千鶴の人生を奪った彼は、千鶴としての人生を謳歌しようとする。
しかしー・・・。
-------------------------—-
あれから数週間。
千鶴は退院して、無事に家へと帰ることができた。
まだ、傷は痛むけれど、
これから始まる夢のような人生を考えれば、
そんなことは大したことではない
「くふふ・・・っ♡」
千鶴は早速、退院後、服屋に足を運んで、
千鶴が普段はかなかった、ミニスカートや、
派手な服装など、隆介好みの服を買い漁った。
千鶴はミニスカートをはいて、
自分の太ももを見つめてだらしなく
笑みを浮かべている。
「最高だ…♡」
千鶴が幸せいっぱいの表情でほほ笑む。
これから、毎日のように、千鶴の…
いや”わたし”の体で、ファッションショーを楽しめるなんて…
本当に、夢のようだった。
「-----」
千鶴は表情から笑みを消して考えるー。
自分が入院している間に、
兄の隆介、つまり自分の体の葬式は終わり、
自分の体は”この世から失われた”
不思議な感覚だ。
けれどー、
不思議と、悲しいとは思わなかった。
本当に死んだのは、千鶴の方なのだから。
クラスの中心的人物で、明るく、人気者の千鶴。
成績も優秀で家庭内でも、大事にされている千鶴。
いつも笑顔で、楽しそうな千鶴。
それが、自分のものになった。
それだけで、隆介は跳ね上がりたいほどの喜びを感じていた。
「---もう俺は、隆介じゃない」
鏡に向かって千鶴は呟いた。
「私はーー有森 千鶴 ふふっ♡」
女っぽく自分の名前を呟くと、
千鶴は満面の笑みを鏡に向けて振りまいた…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日。
学校に登校した。
記憶は一部分だけ読み取れるものの、かなり不自由だ。
クラスメイト達をよく観察しながら、
千鶴のLINEのやり取りの履歴なども確認しながら、
なるべく不自然じゃないようにふるまう。
千鶴の退院には、多くのクラスメイトが祝福してくれた。
やはり、自分などとは全然違う。
「…に、しても…」
千鶴は顔を赤らめて下を見る
「女子高生のスカートって…うへへ…
なんか変な気分!
こんなスースーした感じだと
落ち着かないなぁ…」
千鶴が廊下を歩きながら
イヤらしい笑みを浮かべている。
教室につくと、
クラスのイケメン生徒、依元 裕彦(よりもと ひろひこ)が
話しかけてきた。
「千鶴…本当に良かったな」
”千鶴”と下の名前で呼ぶこの男は、
妹とどんな関係だったのだろうか。
そんな風に思いながらも、
笑顔で返事をする。
「本当に良かった…
本当に…
俺、、お前に何かあったら……」
裕彦が目に涙を浮かべる。
「そ、、そんなに心配してくれて、ありがと!」
千鶴が言うと、
裕彦は笑みを浮かべて、自分の座席へと戻っていった。
楽しい学校生活。
思い描いたー、
理想の学校生活ー。
しかし、それは…
”兄である彼が知っている部分ー”
昼休み。
「--ねぇ、有森さん」
クラスの陰険そうな女子生徒、曲野 蘭子(まがの らんこ)に声を
かけられて、千鶴は振り向いた。
「えーーー?」
振り向いた直後、蘭子は千鶴を突然乱暴につかみ、
壁に叩きつけた。
「ひっ、、な、、なに…?」
千鶴がいきなりの事に驚いた声を出す。
蘭子が千鶴を睨みつけて言う。
「--アンタ、調子に乗らないでっていつも言ってるよね?」
蘭子が激しい口調で続けた。
「依元くんに、良く思われているからって
調子に乗らないで!
アンタ、いい気になってるんでしょ?」
蘭子に抑えられながら
千鶴は必死に反論する
「え、、そ、そんなことないよ…
私、、いい気になんか・・・」
千鶴は反論しながら思う。
”女って面倒くさいなぁ…”と。
「--”また”トイレで水かけられたくなかったら、
これ以上、調子に乗らないことね!いい?」
蘭子の言葉にわけもわからず頷く千鶴。
蘭子は千鶴を睨みつけると、そのまま立ち去って行った。
”またーーー?”
トイレで水を…?
「・・・・」
千鶴は思う。
”妹”はいじめでも受けていたのか…??と。。
放課後。
「---なぁ、千鶴、今日、どこに行く?」
イケメンの裕彦が、机にやってきて尋ねた。
「え?今日はちょっと…」
千鶴はまた家で、”お楽しみ”の時間を楽しむつもりだった。
笑顔で裕彦の誘いを断ったーーー
その時だった。
「あ?」
裕彦が”豹変”した。
「--え、、、あ、、ご、、ごめんね。今日は
死んだお兄ちゃんの……」
バン!
裕彦が机を力強くたたいて、
突然、千鶴にキスをした。
「うっせぇよ…
お前は俺のものだろ?なぁ…。
いつになったらヤラセてくれるんだよ? あ?」
裕彦が、さっきまで見せていたさわやかな好青年イメージを
殴り捨てて本性を現した。
「---ふ、、ふざけないで!」
千鶴が叫ぶ。
裕彦は千鶴を睨んでいる。
「--あ、、アンタ、いもう…いや、、私に何をするつもりなの!?」
そこまで言うと、
裕彦が千鶴を抱きしめて、呟く
「お前は俺のモノだ…ふふふ……
離さないっていつも言ってるだろ!?」
不気味に囁く裕彦。
千鶴はたまらず裕彦を突き飛ばした。
机にぶつかり、倒れる裕彦。
「ご、、ごめん!」
千鶴がそう叫んで教室から飛び出すと、背後で声がした
「千鶴ぅぅぅぅぅぅぅ~~~
お前は俺のものだ!逃がさないよぉぉぉぉぉ!」
千鶴は無我夢中で走った。
「何だよアイツ!
千鶴、、、あんなヤツのこと一度も!」
千鶴…いや、憑依している兄の隆介は恐怖しながら走った。
アイツは…
依元裕彦は…、、、ストーカー?それともDV男?
よく分からないが、いずれにせよ”危険人物”なのは間違えない。
「千鶴ーーー!
クソ野郎が!また、ぶん殴ってやろうか?あ?
あんまり俺を怒らせるなよ!」
裕彦が叫ぶ。
「---ひっ…」
千鶴が慌てるあまりつまずく。。
女の子の体は、、走りにくい。。
気が付けば千鶴は2年の教室の前に来ていたー。
自分が、、ついこの間まで居た教室…
既に放課後、時間が経過している校舎には人気がない。
2-B。。
自分が居た教室を、、立ち上がりながら見つめる。
「----もう、、ここには…居場所なんてない」
ーーその時だった。
「みぃつけたぁ!」
裕彦が、不気味な笑みを浮かべている。
「千鶴ぅ!俺を怒らせんじゃねぇぞ?
さ、今日はどこにデートに行こうか?
ねぇ?どこがいい?」
笑う裕彦…
恐怖する千鶴…
そしてーー
「ーーー離れなさい」
2-Bの教室からポニーテールの女子生徒が出てきた。
「---!?」
裕彦が目を丸くする
「---聞こえなかった?女の子に何してるの?
離れなさい」
2年の女子生徒に言われ、裕彦は
「はひっ…し、失礼しました」と頭を下げて慌てて立ち去って行った。
「---」
千鶴はその女子生徒を見つめる―。
厚谷 操(あつや みさお)
隆介のクラスメイトだった子で、
何かと口げんかの絶えなかった子だ。
中学時代からの同級生でもある。
「---みさ…、、いえ、、、厚谷先輩
ありがとうございます」
千鶴が頭を下げると、
操は微笑んだ。
隆介には決して見せなかった優しい笑み。
「---ああいうのは、大人しくしてると
つけ上がるから、もっとガツンといってあげなきゃ!
ま、私が先生にも言っておいてあげるね」
操はそう言うと、千鶴の方を見て
悲しそうな表情をした。
「---お兄さん…残念だったね…」
その言葉に、千鶴は操を顔を見て、
「うん…」とだけ答えた。
正直、自分ではそうは思わないのだが…。
「--アイツ、、馬鹿だったけど…
いなくなると、やっぱり寂しいな」
操の意外な言葉に、千鶴は驚く。
「---そ、、そうですか……」
千鶴がそう言うと、
操がほほ笑む。
「千鶴ちゃんは、悲しくないの?」
操の言葉に、千鶴は慌てて言葉をつけ加えた。
「あ、いえ、、その、、、
お兄ちゃんから厚谷先輩から嫌われてる、
いつも小言言われる!みたいな話聞いてたので…」
そう言うと、操は微笑んだ。
「あいつ、そんなことも言ってたんだ…。
ふふ・・・あいつらしいね」
操はそこまで言うと、壁に背をつけて
続けた。
「私はーーー、、
アイツのこと”嫌いじゃなかった”
--ううん…
この言い方は嘘になるかな…」
操が悲しそうな瞳を千鶴に向けた。
「私ーー、
あいつが居なくなるまで気づけなかった。
ーー馬鹿だよね。。
私、、あいつのこと…」
操が目から涙をこぼした…。
「---ーーーみさ……、、厚谷、先輩…?」
名前を呼ばれた操は、涙を拭いてほほ笑んだ。
「ううん、何でもない。ごめんね。
一番悲しいのは千鶴ちゃんだもんね」
操は千鶴の肩を持つと、
力強く言った。
「お兄さんの分まで、頑張って。
負けちゃだめよ。
何かあったら力になるから」
そう言うと、操は微笑んで、
そのまま、立ち去って行った。
「---うそ…」
千鶴は茫然とする。
今、操はなんて言おうとしたのだろうか…
もしかして操は…
「---ごめん」
千鶴はそう呟いて、操の立ち去って行った方を
悲しそうに見つめた。
”ここに居るー”
そう言いたかった。
でもーー
自分は千鶴として生きていくと決めたんだ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それからも、高校生活は
”決して楽しいモノじゃなかった”
蘭子たち、陰険女子に嫌がらせを受けたり、
裕彦からストーカー行為を受けたり…
家族の前ではいつも笑顔だった
千鶴の”隠された苦しみ”を知った。。。
「--千鶴…お前も苦労してたんだなーーー」
そう呟きながら、千鶴は自分の胸を触ろうとして
手を止めた。
「はぁ…もう飽きたよ…」
千鶴は、、、最初は女の体を楽しんでいたが、
次第に、当たり前になってきて、それも飽き飽きしてきた。
何回か、2年生の元・クラスメイト達と話す機会もあったが、
みんな、案外「隆介の死」を悲しんでいた。
特に、操は深く悲しんでいた。
いつも、口げんかばかりで気づくことができなかった。
数日前、
放課後に、校舎裏で一人、操が泣いているのを見かけてしまった。
声をかけたかった。
けれどー
自分はもう隆介じゃない。
千鶴だからーーー。
「---……もとに…戻りたい・・・」
千鶴は吐き出すようにそう呟いた。。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それから数日が経ち、
とある休みの日。
部屋で一人、暗い表情をしていたその時だったー。
”------あれ…”
ーー!?
頭の中に声が響く。
”・・・わたし…??”
千鶴の声だった。
「ち…千鶴???」
千鶴は、自分の中の声に、そう問いかけた。
”えーー、、な、、なに???
な、、なんなの…わたしの体が勝手に??”
「--千鶴??千鶴なのか?」
”な、、もしかしてお兄ちゃん???
わ、、私の体で何やってるの!?!?”
「--、、、はは!生きてたのか!!良かったーー」
隆介はそう呟いた。
最初は千鶴が憎かった。
けれど、千鶴も学校で苦労していた。
それを知った隆介は、千鶴にもう一度会いたい、、
そう思い始めていた。
会って、謝りたい、と。
隆介は今までの経緯を千鶴に説明した。
”--そうなんだ……”
千鶴の低い声。
自分の体をとられているんだから当然だ…。
「--ごめんな千鶴…
俺が悪かった…
俺、、、お前の事…一方的に敵視して…」
千鶴の声で隆介が言う。
千鶴は怒っているのだろう。
「--俺、、どうにかして体から出てくから…千鶴…」
そう言うと、
返ってきた返事は意外なものだった。
”ありがとうー
お兄ちゃん。
わたし、嬉しかったよ…
あの時、助けてくれたもんね…
トラックに轢かれそうな私を…”
千鶴の言葉に、首を振る。
「でも…俺…」
脳内の千鶴の声が笑った。
”お互い様だよ!ふふっ…
でも、、体は1個になっちゃったんだね…
ならお兄ちゃん、1日毎に交代…
人生、半分こしよっ!ねっ?”
千鶴の意外な言葉に隆介は驚く
「い、、、でも、、千鶴の体だし…」
”いいの!私がイイって言ってるんだから!
それに、前から言ってるでしょ?
お兄ちゃんのこと、大好きだって”
その言葉に、隆介は微笑んだ。。
「ありがとうーーー」
こうして、兄妹は千鶴の体で、
1日おきに交代して生きていくことにしたー。
だが、二人は話し合い、両親を混乱させないようにと
このことは黙っておくことにしたのだった。
人生は半分になってしまったけれど、
何だかんだ、楽しい日々。
しかしーーー
ーーー2か月後。。
ビクッ!
突然、右腕が痙攣した。
「-----?」
千鶴(隆介)は首をかしげる。
そしてーー
その日から、徐々に体調が悪くなっていった。
「---なんだろう…最近、、、
力が出ない…」
表に出ている千鶴が言う。
”………なんだろうな”
隆介が言う。
だがーー
彼には分かっていた。
”2つの心が、一つの体にあるからー”
その副次的作用だと…。
そしてーー
このままだと千鶴の体はー。
日に日に、みるみる弱っているのが自分でも分かる。
”・・・・・・・・・・・・・・”
隆介は、心に決めた。
”消えるのはーー俺だ”
千鶴に聞こえないようにそう、呟いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
次の日曜日に…
隆介は消える”決意”をしていた。
”例の湖”を見に行きたい、と千鶴に許可をとり、
日曜日の早朝に湖に行くことになっている。
あの思い出の木漏れ日の下でーー
最後の瞬間を過ごしたい。。
今日は金曜日…。
自分が学校に来るのは、今日で、”最後”
「---厚谷先輩」
夕日差し込む廊下で、
千鶴(隆介)は、厚谷 操を呼び止めた。
「ん?千鶴ちゃん、どうしたの?」
隆介の死を誰よりも悲しんでくれた同級生。
操と会うのは、これで最後になるー。
自分は”日曜日に消えるから”
「--厚谷先輩…」
千鶴は意を決して言った。
「お兄ちゃんもーー、、
厚谷先輩のこと、好きだっていつも言ってました」
そう言うと、操は一瞬驚いたが、すぐにほほ笑む。
「--ふふ、、ありがと。
私を慰めようとしてくれてるのね?
でも、もう大丈夫。
1か月も経てば…」
操はふと千鶴の顔を見た。
「----」
その表情は、、とても悲しそうな表情だった。
そしてーー
その瞳はーーー兄の隆介によく似てーーー
いやーー、
「------隆介…??」
操が瞳を震わせて言う。
「------ありがとう……さようなら」
”ここまでが限界”
千鶴には未来がある。あまりおかしな行動をするわけにはいかない。
隆介は千鶴の体で、
中学時代から苦楽を共にした操に別れを告げた。
そして、千鶴は操の返事を待たずに、そのまま走り去った。
「--待って!」
操が叫んだが、千鶴は振り返らなかった。
「----」
操が廊下の窓の外を見つめる。
「今のはーーーもしかして…」
操は、目に涙を少しだけ浮かべながらそう呟いた。
そして、、”彼”にとって
”最後の日”がやってきたー。
③へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
頭の中で考えていた脚本(?)が思ったよりも長く、
これでも少し短くしたつもりです(汗)
④まで構成にすればよかったかも知れません。
コメント