<憑依>木漏れ日~こもれび~② ”後悔”

妹、千鶴として生きることを決意した兄の隆介。

今まで自分が”羨ましくて仕方が無かった”
千鶴の人生を奪った彼は、千鶴としての人生を謳歌しようとする。

しかしー・・・。

-------------------------—-

あれから数週間。
千鶴は退院して、無事に家へと帰ることができた。

まだ、傷は痛むけれど、
これから始まる夢のような人生を考えれば、
そんなことは大したことではない

「くふふ・・・っ♡」
千鶴は早速、退院後、服屋に足を運んで、
千鶴が普段はかなかった、ミニスカートや、
派手な服装など、隆介好みの服を買い漁った。

千鶴はミニスカートをはいて、
自分の太ももを見つめてだらしなく
笑みを浮かべている。

「最高だ…♡」
千鶴が幸せいっぱいの表情でほほ笑む。

これから、毎日のように、千鶴の…
いや”わたし”の体で、ファッションショーを楽しめるなんて…
本当に、夢のようだった。

「-----」
千鶴は表情から笑みを消して考えるー。

自分が入院している間に、
兄の隆介、つまり自分の体の葬式は終わり、
自分の体は”この世から失われた”

不思議な感覚だ。

けれどー、
不思議と、悲しいとは思わなかった。

本当に死んだのは、千鶴の方なのだから。

クラスの中心的人物で、明るく、人気者の千鶴。
成績も優秀で家庭内でも、大事にされている千鶴。
いつも笑顔で、楽しそうな千鶴。

それが、自分のものになった。
それだけで、隆介は跳ね上がりたいほどの喜びを感じていた。

「---もう俺は、隆介じゃない」
鏡に向かって千鶴は呟いた。

「私はーー有森 千鶴 ふふっ♡」
女っぽく自分の名前を呟くと、
千鶴は満面の笑みを鏡に向けて振りまいた…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日。

学校に登校した。
記憶は一部分だけ読み取れるものの、かなり不自由だ。

クラスメイト達をよく観察しながら、
千鶴のLINEのやり取りの履歴なども確認しながら、
なるべく不自然じゃないようにふるまう。

千鶴の退院には、多くのクラスメイトが祝福してくれた。
やはり、自分などとは全然違う。

「…に、しても…」
千鶴は顔を赤らめて下を見る

「女子高生のスカートって…うへへ…
 なんか変な気分!

 こんなスースーした感じだと
 落ち着かないなぁ…」

千鶴が廊下を歩きながら
イヤらしい笑みを浮かべている。

教室につくと、
クラスのイケメン生徒、依元 裕彦(よりもと ひろひこ)が
話しかけてきた。

「千鶴…本当に良かったな」
”千鶴”と下の名前で呼ぶこの男は、
妹とどんな関係だったのだろうか。

そんな風に思いながらも、
笑顔で返事をする。

「本当に良かった…
 本当に…
 俺、、お前に何かあったら……」

裕彦が目に涙を浮かべる。

「そ、、そんなに心配してくれて、ありがと!」
千鶴が言うと、
裕彦は笑みを浮かべて、自分の座席へと戻っていった。

楽しい学校生活。

思い描いたー、
理想の学校生活ー。

しかし、それは…
”兄である彼が知っている部分ー”

昼休み。

「--ねぇ、有森さん」
クラスの陰険そうな女子生徒、曲野 蘭子(まがの らんこ)に声を
かけられて、千鶴は振り向いた。

「えーーー?」

振り向いた直後、蘭子は千鶴を突然乱暴につかみ、
壁に叩きつけた。

「ひっ、、な、、なに…?」
千鶴がいきなりの事に驚いた声を出す。
蘭子が千鶴を睨みつけて言う。

「--アンタ、調子に乗らないでっていつも言ってるよね?」

蘭子が激しい口調で続けた。

「依元くんに、良く思われているからって
 調子に乗らないで!
 アンタ、いい気になってるんでしょ?」

蘭子に抑えられながら
千鶴は必死に反論する

「え、、そ、そんなことないよ…
 私、、いい気になんか・・・」

千鶴は反論しながら思う。
”女って面倒くさいなぁ…”と。

「--”また”トイレで水かけられたくなかったら、
 これ以上、調子に乗らないことね!いい?」

蘭子の言葉にわけもわからず頷く千鶴。

蘭子は千鶴を睨みつけると、そのまま立ち去って行った。

”またーーー?”

トイレで水を…?

「・・・・」
千鶴は思う。
”妹”はいじめでも受けていたのか…??と。。

放課後。

「---なぁ、千鶴、今日、どこに行く?」
イケメンの裕彦が、机にやってきて尋ねた。

「え?今日はちょっと…」
千鶴はまた家で、”お楽しみ”の時間を楽しむつもりだった。

笑顔で裕彦の誘いを断ったーーー

その時だった。

「あ?」

裕彦が”豹変”した。

「--え、、、あ、、ご、、ごめんね。今日は
 死んだお兄ちゃんの……」

バン!

裕彦が机を力強くたたいて、
突然、千鶴にキスをした。

「うっせぇよ…
 お前は俺のものだろ?なぁ…。
 いつになったらヤラセてくれるんだよ? あ?」

裕彦が、さっきまで見せていたさわやかな好青年イメージを
殴り捨てて本性を現した。

「---ふ、、ふざけないで!」
千鶴が叫ぶ。

裕彦は千鶴を睨んでいる。

「--あ、、アンタ、いもう…いや、、私に何をするつもりなの!?」

そこまで言うと、
裕彦が千鶴を抱きしめて、呟く

「お前は俺のモノだ…ふふふ……
 離さないっていつも言ってるだろ!?」

不気味に囁く裕彦。
千鶴はたまらず裕彦を突き飛ばした。

机にぶつかり、倒れる裕彦。

「ご、、ごめん!」
千鶴がそう叫んで教室から飛び出すと、背後で声がした

「千鶴ぅぅぅぅぅぅぅ~~~
 お前は俺のものだ!逃がさないよぉぉぉぉぉ!」

千鶴は無我夢中で走った。

「何だよアイツ!
 千鶴、、、あんなヤツのこと一度も!」

千鶴…いや、憑依している兄の隆介は恐怖しながら走った。

アイツは…
依元裕彦は…、、、ストーカー?それともDV男?
よく分からないが、いずれにせよ”危険人物”なのは間違えない。

「千鶴ーーー!
 クソ野郎が!また、ぶん殴ってやろうか?あ?
 あんまり俺を怒らせるなよ!」

裕彦が叫ぶ。

「---ひっ…」
千鶴が慌てるあまりつまずく。。
女の子の体は、、走りにくい。。

気が付けば千鶴は2年の教室の前に来ていたー。
自分が、、ついこの間まで居た教室…

既に放課後、時間が経過している校舎には人気がない。

2-B。。
自分が居た教室を、、立ち上がりながら見つめる。

「----もう、、ここには…居場所なんてない」

ーーその時だった。

「みぃつけたぁ!」
裕彦が、不気味な笑みを浮かべている。

「千鶴ぅ!俺を怒らせんじゃねぇぞ?
 さ、今日はどこにデートに行こうか?
 ねぇ?どこがいい?」

笑う裕彦…
恐怖する千鶴…

そしてーー

「ーーー離れなさい」

2-Bの教室からポニーテールの女子生徒が出てきた。

「---!?」
裕彦が目を丸くする

「---聞こえなかった?女の子に何してるの?
 離れなさい」

2年の女子生徒に言われ、裕彦は
「はひっ…し、失礼しました」と頭を下げて慌てて立ち去って行った。

「---」
千鶴はその女子生徒を見つめる―。

厚谷 操(あつや みさお)
隆介のクラスメイトだった子で、
何かと口げんかの絶えなかった子だ。

中学時代からの同級生でもある。

「---みさ…、、いえ、、、厚谷先輩
 ありがとうございます」

千鶴が頭を下げると、
操は微笑んだ。

隆介には決して見せなかった優しい笑み。

「---ああいうのは、大人しくしてると
 つけ上がるから、もっとガツンといってあげなきゃ!

 ま、私が先生にも言っておいてあげるね」

操はそう言うと、千鶴の方を見て
悲しそうな表情をした。

「---お兄さん…残念だったね…」

その言葉に、千鶴は操を顔を見て、
「うん…」とだけ答えた。

正直、自分ではそうは思わないのだが…。

「--アイツ、、馬鹿だったけど…
 いなくなると、やっぱり寂しいな」

操の意外な言葉に、千鶴は驚く。

「---そ、、そうですか……」

千鶴がそう言うと、
操がほほ笑む。

「千鶴ちゃんは、悲しくないの?」

操の言葉に、千鶴は慌てて言葉をつけ加えた。

「あ、いえ、、その、、、
 お兄ちゃんから厚谷先輩から嫌われてる、
 いつも小言言われる!みたいな話聞いてたので…」

そう言うと、操は微笑んだ。

「あいつ、そんなことも言ってたんだ…。
 ふふ・・・あいつらしいね」

操はそこまで言うと、壁に背をつけて
続けた。

「私はーーー、、
 アイツのこと”嫌いじゃなかった”

 --ううん…
 この言い方は嘘になるかな…」

操が悲しそうな瞳を千鶴に向けた。

「私ーー、
 あいつが居なくなるまで気づけなかった。

 ーー馬鹿だよね。。
 私、、あいつのこと…」

操が目から涙をこぼした…。

「---ーーーみさ……、、厚谷、先輩…?」

名前を呼ばれた操は、涙を拭いてほほ笑んだ。

「ううん、何でもない。ごめんね。
 一番悲しいのは千鶴ちゃんだもんね」

操は千鶴の肩を持つと、
力強く言った。

「お兄さんの分まで、頑張って。
 負けちゃだめよ。

 何かあったら力になるから」

そう言うと、操は微笑んで、
そのまま、立ち去って行った。

「---うそ…」
千鶴は茫然とする。

今、操はなんて言おうとしたのだろうか…
もしかして操は…

「---ごめん」
千鶴はそう呟いて、操の立ち去って行った方を
悲しそうに見つめた。

”ここに居るー”

そう言いたかった。
でもーー
自分は千鶴として生きていくと決めたんだ。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それからも、高校生活は
”決して楽しいモノじゃなかった”

蘭子たち、陰険女子に嫌がらせを受けたり、
裕彦からストーカー行為を受けたり…

家族の前ではいつも笑顔だった
千鶴の”隠された苦しみ”を知った。。。

「--千鶴…お前も苦労してたんだなーーー」

そう呟きながら、千鶴は自分の胸を触ろうとして
手を止めた。

「はぁ…もう飽きたよ…」

千鶴は、、、最初は女の体を楽しんでいたが、
次第に、当たり前になってきて、それも飽き飽きしてきた。

何回か、2年生の元・クラスメイト達と話す機会もあったが、
みんな、案外「隆介の死」を悲しんでいた。

特に、操は深く悲しんでいた。
いつも、口げんかばかりで気づくことができなかった。

数日前、
放課後に、校舎裏で一人、操が泣いているのを見かけてしまった。

声をかけたかった。

けれどー
自分はもう隆介じゃない。
千鶴だからーーー。

「---……もとに…戻りたい・・・」
千鶴は吐き出すようにそう呟いた。。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それから数日が経ち、
とある休みの日。

部屋で一人、暗い表情をしていたその時だったー。

”------あれ…”

ーー!?

頭の中に声が響く。

”・・・わたし…??”

千鶴の声だった。

「ち…千鶴???」
千鶴は、自分の中の声に、そう問いかけた。

”えーー、、な、、なに???
 な、、なんなの…わたしの体が勝手に??”

「--千鶴??千鶴なのか?」

”な、、もしかしてお兄ちゃん???
 わ、、私の体で何やってるの!?!?”

「--、、、はは!生きてたのか!!良かったーー」

隆介はそう呟いた。

最初は千鶴が憎かった。

けれど、千鶴も学校で苦労していた。
それを知った隆介は、千鶴にもう一度会いたい、、
そう思い始めていた。

会って、謝りたい、と。

隆介は今までの経緯を千鶴に説明した。

”--そうなんだ……”

千鶴の低い声。

自分の体をとられているんだから当然だ…。

「--ごめんな千鶴…
 俺が悪かった…
 俺、、、お前の事…一方的に敵視して…」

千鶴の声で隆介が言う。

千鶴は怒っているのだろう。

「--俺、、どうにかして体から出てくから…千鶴…」

そう言うと、
返ってきた返事は意外なものだった。

”ありがとうー
 お兄ちゃん。

 わたし、嬉しかったよ…
 あの時、助けてくれたもんね…
 トラックに轢かれそうな私を…”

千鶴の言葉に、首を振る。

「でも…俺…」

脳内の千鶴の声が笑った。

”お互い様だよ!ふふっ…
 でも、、体は1個になっちゃったんだね…

 ならお兄ちゃん、1日毎に交代…
 人生、半分こしよっ!ねっ?”

千鶴の意外な言葉に隆介は驚く

「い、、、でも、、千鶴の体だし…」

”いいの!私がイイって言ってるんだから!

 それに、前から言ってるでしょ?
 お兄ちゃんのこと、大好きだって”

その言葉に、隆介は微笑んだ。。

「ありがとうーーー」

こうして、兄妹は千鶴の体で、
1日おきに交代して生きていくことにしたー。

だが、二人は話し合い、両親を混乱させないようにと
このことは黙っておくことにしたのだった。

人生は半分になってしまったけれど、
何だかんだ、楽しい日々。

しかしーーー

ーーー2か月後。。

ビクッ!

突然、右腕が痙攣した。

「-----?」
千鶴(隆介)は首をかしげる。

そしてーー
その日から、徐々に体調が悪くなっていった。

「---なんだろう…最近、、、
 力が出ない…」

表に出ている千鶴が言う。

”………なんだろうな”

隆介が言う。

だがーー
彼には分かっていた。

”2つの心が、一つの体にあるからー”

その副次的作用だと…。

そしてーー
このままだと千鶴の体はー。

日に日に、みるみる弱っているのが自分でも分かる。

”・・・・・・・・・・・・・・”

隆介は、心に決めた。

”消えるのはーー俺だ”

千鶴に聞こえないようにそう、呟いた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

次の日曜日に…
隆介は消える”決意”をしていた。

”例の湖”を見に行きたい、と千鶴に許可をとり、
日曜日の早朝に湖に行くことになっている。

あの思い出の木漏れ日の下でーー
最後の瞬間を過ごしたい。。

今日は金曜日…。
自分が学校に来るのは、今日で、”最後”

「---厚谷先輩」

夕日差し込む廊下で、
千鶴(隆介)は、厚谷 操を呼び止めた。

「ん?千鶴ちゃん、どうしたの?」

隆介の死を誰よりも悲しんでくれた同級生。

操と会うのは、これで最後になるー。

自分は”日曜日に消えるから”

「--厚谷先輩…」
千鶴は意を決して言った。

「お兄ちゃんもーー、、
 厚谷先輩のこと、好きだっていつも言ってました」

そう言うと、操は一瞬驚いたが、すぐにほほ笑む。

「--ふふ、、ありがと。
 私を慰めようとしてくれてるのね?

 でも、もう大丈夫。
 1か月も経てば…」

操はふと千鶴の顔を見た。

「----」
その表情は、、とても悲しそうな表情だった。

そしてーー
その瞳はーーー兄の隆介によく似てーーー
いやーー、

「------隆介…??」

操が瞳を震わせて言う。

「------ありがとう……さようなら」
”ここまでが限界”
千鶴には未来がある。あまりおかしな行動をするわけにはいかない。

隆介は千鶴の体で、
中学時代から苦楽を共にした操に別れを告げた。

そして、千鶴は操の返事を待たずに、そのまま走り去った。

「--待って!」
操が叫んだが、千鶴は振り返らなかった。

「----」
操が廊下の窓の外を見つめる。

「今のはーーーもしかして…」
操は、目に涙を少しだけ浮かべながらそう呟いた。

そして、、”彼”にとって
”最後の日”がやってきたー。

③へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

頭の中で考えていた脚本(?)が思ったよりも長く、
これでも少し短くしたつもりです(汗)
④まで構成にすればよかったかも知れません。

PR
憑依<木漏れ日>

コメント