狂っちゃえ!狂っちゃえ!
狂っちゃえ!狂っちゃえ!
狂っちゃえ!狂っちゃえ!
狂 狂 狂 狂 狂 狂 狂 狂 狂
狂
------------------------------
「では、続いてのニュースをお伝えします」
とある朝のニュース番組。
新人アナウンサーの中井 朝香(なかい あさか)が
真剣な表情でニュースを読み上げている。
彼女は美人アナウンサーとして注目を集めた子だ。
24歳の彼女には、
将来的に局の看板アナウンサーとしての活躍が期待されていた。
勿論、朝香自身もその期待に応えようと躍起になっていた。
だがー、
今日、この日 悲劇が起きることをまだ誰も知らなかった。
朝香自身も”狂ってしまう”ことを知らなかった。
「続いては、スポーツです」
朝香がカメラに向かってほほ笑む。
スポーツ担当が、スポーツのニュースを流し始め、
映像を見ながら色々と、昨日のサッカーの試合に
ついて話しているようだ。
コメンテータ-の
猿川 家康(さるかわ いえやす)が何か厳しい意見を言っている。
チームの監督を変えるべきだ、とか
あの選手には、スタメンから外すべきだ、とかなんとか。
家康はいつも厳しい意見を言うことで知られている。
「---猿川さんありがとうございました」
朝香が内心で
”このおじさん、もうちょっと控えめな意見言えないのかしら”と
毒づきながら、ほほ笑んで次のニュースに進もうとする。
次のニュースは
海外ニュースのコーナーだ。
メインキャスターの
峰山(みねやま)が海外ニュース担当の男と談笑している
峰山と海外ニュース担当のジョナサンは犬猿の仲と言われているが
こうして見ると、仲が良さそうにも見える。
その時だったー。
ーーーー!?
朝香は突然、自分の体に違和感を感じた。
”え??な、、なに この何かが入ってくるような感触?”
朝香が戸惑う。
だが、生放送中だ。
変なことを言うわけにはいかない。
朝香は必死に気持ち悪い感触を無視しようとした。
しかしー
「あっ…」
思わず声が出てしまい、体がビクンとなる。
メインキャスターの峰山が心配そうに朝香の方を
見つめる。
だが、朝香は笑みを浮かべてそのままニュースを続けた。
ーーこの時点で、既に”カウント”は始まっていた。
”30分でどれだけ人を狂わせることができるか”
そう、彼が朝香への憑依を終えたのだ。
「続いてのニュースは…」
朝香がいつもより甘い声を出す。
峰山が違和感を感じて隣にいる朝香を見つめる。
「----?」
「・・・女の神秘 をお送りします うふっ♡」
朝香の突然の言葉に凍りついた。
「へーー?
ワタシノ海外ニュースジャナイノ?」
海外ニュース担当の外人が
叫ぶ。
峰山が場をなだめようと、
海外ニュース担当に手で”待て”の合図をした。
「ーテレビをご覧のみなさん」
いつも大人しい感じで話す朝香が
その声に色気をにじませて言う。
「こんな普通のニュース番組見ていて、
面白いですか?
シケた外人の海外ニュース、
下手な進行のメインキャスター。
笑えちゃいますよね。
その上、スタッフも無能ときたら…
あはは、おかしくって反吐が出そう!」
朝香の言葉にスタジオが凍りつく。
「--だから、わたしが…
朝香が、番組を面白くしてあげる♡」
カメラに向かって挑発的なポーズをとり、
朝香は羽織っていたカーディガンを色っぽく
体をくねらせながら脱ぎ始めた。
「ちょ、、」
メインキャスターの峰山が戸惑い、止めようとする。
だが、朝香は止まらなかった。
「くすっ…
テレビの前のみなさん~
今、ドキドキしてるでしょ?
わたしの魅力、たっぷり教えてあげるから…
チャンネルはそ・の・ま・ま!」
朝香が言うと、
カメラマンが顔を赤らめた。
「バカ野郎!」
ディレクターの声が響く。
「カメラ止めろ!大問題だぞ!
生放送を一旦とめー」
「----止めるんじゃねぇ!」
朝香が大声で怒鳴りつけた。
「ヒッ!」
ディレクターが驚いて飛び上がる。
笑顔が似合う、
いつも下手な朝香とは思えない恐ろしい声に、
ディレクターの震えは止まらなかった。
「人間ってさ…
どうして服で全てを隠すのかな?」
朝香がカメラに向かって諭すように言う。
メインキャスターの峰山や
もう一人のアナウンサー、
海外ニュース担当のジョナサン、
コメンテーターの猿川 家康は
どうしていいか分からず、困惑している。
「--ホラ、わたしの綺麗な体だって、
今こうして服で隠れてるでしょ?
服なんか着ずに全てをさらけ出すことが大事だと
思うの…うふふ・・・」
朝香の語りは続く。
その両手では自分の胸をうっとりとした表情で触っている。
「---あっ…あん!
あぁん…
どう、、、私の声…
朝から刺激的すぎたかしら…」
ーー局にクレームの電話が鳴り響き始めた。
プロデューサーがスタジオに乱入する。
「中井君。
君、自分が何をしてるか分かってるのか?」
プロデューサーの三ツ谷(みつや)が言う。
「君のアナウンサーとしての輝かしい人生、
全てを台無しにしようとしてるんだぞ?」
落ち着いた様子で言う三ツ谷プロデューサー。
しかし、朝香は笑って、
見下すような目で三ツ谷を見ながら
両手で胸を揉み続けている。
「---自分が何をしているか、分かっているのか!」
突然、声を荒げた三ツ谷プロデューサーに、
ディレクターはビクっと体を震わせる。
「---わかってますよぉ!
だって、人間っておかしいじゃないですか!
全てをさらけ出す必要があるんですよ!」
朝香が力説する。
”全てをさらけ出す”
何を言っているのかー?
「おい、カメラ止めろ!」
三ツ谷プロデューサーが言うと、
朝香が叫んだ
「止めるんじゃねぇ!」
そう言う朝香の手には、いつの間にかナイフが輝いていた。
ナイフを自分の首筋に当てて微笑む朝香。
「---カメラ止めたら、わたし、死んじゃうよ?」
低い声で言う朝香。
電話が鳴りやまない。
抗議の電話だ。
「おい、お前、対応に回れ」
三ツ谷プロデューサーがディレクターに言うと、
ディレクターは足早にスタジオから離れた。
「--わたしがここで自殺したら、
問題になりますよ?うふふふふふ…
ま、今でももう大問題ですよね…?」
朝香は刃物を持ったまま、続きを語り出した。
「で、私が言いたいのは
人間”全てを脱ぎ捨てる”必要があるってことです」
カメラに向かって朝香がほほ笑む。
「クダラナイー!クダラナイよ!
ワタシのコーナーの邪魔をスルナ!」
海外ニュース担当のジョナサンが叫ぶ。
直後、体に痛みが走った。
「あ・・・」
ジョナサンが信じられないという顔で自分の胸部を見る。
「すとらーーいく!」
朝香が大笑いする。
手に持っていたナイフを朝香がジョナサンめがけて投げたのだ。
「いやああああ!」
もう一人のアナウンサーが叫ぶ。
ジョナサンがその場で倒れる。
「……お、、おい…」
犬猿の仲であるジョナサンに向かって
メインキャスターの峰山が唖然として言う。
「あっははははは!
わたし、カメラの前で人殺しちゃった!
狂っちゃった!朝香、狂っちゃった!
ひぃーははははははぁっ!」
体を
折り曲げ、手を広げて大爆笑する朝香。
とても正気とは思えない。
「---泣くまで待とうホトトギス
泣くまで待とうホトトギス・・・」
コメンテーターの猿川家康がスタジオの端で
しゃがみこんで、怯えて、うわごとのように
何かを呟いている。
ジョナサンの体を踏みつけて、ナイフを抜いた
朝香は自分の舌でナイフについた血を舐めた。
「ホラ!人間、全部を脱ぎ捨てなきゃ!」
そう言うと朝香はカメラの前で上着を脱ぎ捨てた。
「うおおおおおお!」
カメラマンが顔を真っ赤にして叫ぶ。
”最高だ”
彼は心の中でそう思った。
メインキャスターの峰山がぎこちない動きで、
朝香を止めようとしたが、殴り飛ばされて床に倒れる。
「うっ…」
峰山が苦しそうにうめき声をあげる。
フサッ…とスカートが床に落ちる音がした。
「どう?みなさんも全てを脱ぎ捨ててみませんか?
これが人類の進化!
”服”という牢獄から抜け出すんですよ!
あははははははっ!あはははははははは!」
やかましく笑い声をあげる朝香。
そして朝香はさらに下着にまで手をかけた。
全ての服を脱ぎ捨ててしまった朝香。
何も着飾らない姿でカメラの前に立ち、
朝香は美しいポーズをとりはじめた。
「---馬鹿野郎!
こんなことして!こんなことして!
ただで済むと思うなよ!」
三ツ谷プロデューサーが警察を呼ぶように、
スタジオのスタッフに指示をしようとする。
しかしー
朝香は刃物を喉に突き付けて笑う。
「----」
三ツ谷プロデューサーは思う。
こうなった以上、朝香のことはもうどうでもいいが、
ここで死なれては困るーと。
最近の若い者は良く分からない!
三ツ谷プロデューサーは心の中で憤慨した。
「---もっと、もっと、もっと脱がなきゃ!」
朝香が笑いながらそう言い始めると、
スタジオにあったハサミを手に、自分の髪の毛を切断し始めた。
女の命ともいえる髪をーー
乱暴にばっさばっさと切り捨てていく。
「あははははははは!
全部脱いじゃえ!脱いじゃえ脱いじゃえ!脱いじゃえーーーーー!」
朝香が大声で叫びながら笑う。
カメラマンは目の前の光景を”夢”だと思った。
あの朝香がこんなことするはずーー。
「そうだ、、これは夢だ、、夢なんだ、、、
ははははは、はははっ…」
カメラマンの精神が壊れた。
髪を振り乱し、切り刻む朝香を
もう一人の女性アナウンサーが抑えた。
「やめて朝香ちゃん!もうやめなさい!
アンタ、立派なアナウンサーになるって…」
だがーーー。
「えーーーっ…」
アナウンサーが驚きの声をあげる。
自分の腹部に…
ナイフが刺しこまれていた。
「え…どうして…朝香・・・ちゃ・・・ん」
アナウンサーもその場に倒れる。
朝香はアナウンサーからナイフを抜き、
唾をアナウンサーに吐き掛け、アナウンサーの顔を踏みつけて
踏みにじった。
ボロボロになって、
ところどころ、坊主頭のような状態になった朝香が笑う。
「---狂っちゃった!狂っちゃった!えへへへへへへへ!」
嬉しそうにその場で足をバタバタバタバタとさせている朝香。
もはや、異常だ。
「おわったーーー」
三ツ谷プロデューサーがうわごとのように呟く。
もう、おわりだ。
このテレビ局自体が。
彼はそう思った。
”あと2分”
朝香は笑う、
「もっと狂わなきゃ…」
そう言うと、コメンテーターの猿川家康の方に向かって行き、
家康を蹴り飛ばした。
「ひっ…やめてくれ、やめてくれ…」
「脱げ 全部脱げ」
猿川に、冷たい目線で言う朝香。
だが、猿川はそれを拒否した。
朝香は蔑むような目で猿川に刃物を突き立てると
猿川はその場に崩れ落ちた。
「---ひっ…」
メインキャスターの峰山がうろたえている。
もう一人のアナウンサーも
コメンテーターの家康も、
海外ニュースのジョナサンも血を流して倒れている。
「----貴様ぁ!わしの会社を!」
社長の蟹山(かにやま)が乱入した。
「カメラ止めろ!」
カメラマンをぶん殴って、カメラを止めた蟹山。
その時だった。
「あーあ、止めちゃった!
わたし、死んじゃう!えへっ!」
そう言うと、朝香は自分の首をナイフで切りつけた。
血が噴き出て、その場に倒れる朝香。
「あはははははっ…あはははははははっ…
ひょういすぽーつさいこう…
さいこう…さいこう…!」
体から力が抜けていく。。
そしてーーー
”0分”
彼は離脱した。
「-------・・・わ・・・わたし・・・?」
朝香が意識を取り戻した。
「--えっ…???え…」
メインキャスターの峰山が驚く
「お、、おお??」
「---ひっ・・・な、、、なに・・・なに・・・
なんでわたし・・・なんで・・・裸なの・・・・」
蟹山社長が救急車を呼ぶように指示をする。
「ひ・・・な、、、いやあああ、、、血・・・いやだ・・・
いや・・・死にたくない・・・
いやだ・・・たすけて・・・たすけて・・・」
朝香が弱弱しく泣き出す。
しかし、顔色は青くなっていて、
もう助からないのは明らかだった。
「----」
峰山が恐怖に満ちた目で朝香を見ている。
「みね・・・やまさん・・・たすけ・・・」
そこまで言うと朝香は力尽きた。
「---お、、おい、、、どうすんだこの状況!」
蟹山社長が叫ぶ。
「---ひっ・・」
峰山は放心状態でその場に立ち尽くした
・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日。
”彼”は自宅で笑っていた。
4人は死亡。
会社はまもなく倒産するだろう。
凄まじい影響。
彼女の暴走は動画サイトに出回り、
世の中は混乱している。
「だが…点数は90だな」
”彼”は呟いたー。
そして笑うー
”92”
最高得点を超えることはできなかったー と。
彼は笑うー
”彼”は自分の魂を分裂させて、女性に憑依をしている。
自分の体から完全に抜けてしまうのは不安だからだ。
誰かに憑依している間に自分の体に何かがあったら大変だ。
”昨日”は”初めて”生でやってみたー。
”真横”で朝香として狂いながら
”真横”で本来の自分を演じるー。
彼は笑ったー。
”彼”、----
メインキャスターの峰山は、
真横に立っていた朝香に自分の魂の一部を憑依させ、
自分と朝香の二人を、操っていたのだ。
そうー
憑依スポーツに勤しむ危険人物はーーー
メインキャスターの峰山だった。
犬猿の仲のジョナサンをどさくさに紛れて殺し、
待遇に不満のあった会社を潰し、
可愛い子ぶっている朝香を仕留めた。
彼が、スタジオでぎこちない動きをしていたのは
憑依した”朝香”を操ることに夢中になっていたからー
そして、彼が最後に「ひっ…」と言ったのは
恐怖していたわけではない
笑いをこらえていたのだった。
「----目指せハイスコア」
峰山はそう呟くと、
今日のキャスターの仕事と、今日の憑依スケジュールを見つめながら
不気味にほほ笑んだ・・・
今日もどこかで少女が、狂う…
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
あえて第1話から”狂っちゃえ”の憑依人の正体は
伏せていました。
ただの脇役風の人物が、憑依当事者だった、、ということですね(汗)
でも、彼、仕事探さなきゃいけないような…
(フリーキャスターなら大丈夫でしょうけれど)
ご覧いただきありがとうございました!
コメント
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
でも多分縁起が悪すぎてどこも雇ってくれ無さそう
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
> でも多分縁起が悪すぎてどこも雇ってくれ無さそう
彼には憑依能力があるので、そのあたりはどうとでも…
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
三ツ谷プロデューサーって元ネタはLIFEのあの人ですか?
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
> 三ツ谷プロデューサーって元ネタはLIFEのあの人ですか?
コメントありがとうございます!
三ツ谷プロデューサーはただ単にその場の思い付きです!(笑)
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
ここまで滅茶苦茶にしても90点なんて厳しいですね。100点になるためにはどこまでやらなきゃいけないんでしょうね。
このシリーズ、ここの数ある作品の中で、暴走して滅茶苦茶やるタイプの話の中でぶっちぎりに面白いです。
続編とかはやらないんですかね?
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
コメントありがとうございます~!
暴走滅茶苦茶系(?)のお話は何度か書いていますが、
これもいつか続編や番外編が書ける…かもしれません~!
ぶっちぎりに楽しんで頂けてありがとうございます!!笑