<憑依>狂っちゃえ!③~生放送編~(完)

狂っちゃえ!狂っちゃえ!

狂っちゃえ!狂っちゃえ!
狂っちゃえ!狂っちゃえ!

狂 狂 狂  狂 狂 狂 狂 狂 狂



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「では、続いてのニュースをお伝えします」

とある朝のニュース番組。

新人アナウンサーの中井 朝香(なかい あさか)が
真剣な表情でニュースを読み上げている。

彼女は美人アナウンサーとして注目を集めた子だ。

24歳の彼女には、
将来的に局の看板アナウンサーとしての活躍が期待されていた。

勿論、朝香自身もその期待に応えようと躍起になっていた。

だがー、
今日、この日 悲劇が起きることをまだ誰も知らなかった。

朝香自身も”狂ってしまう”ことを知らなかった。

「続いては、スポーツです」
朝香がカメラに向かってほほ笑む。

スポーツ担当が、スポーツのニュースを流し始め、
映像を見ながら色々と、昨日のサッカーの試合に
ついて話しているようだ。

コメンテータ-の
猿川 家康(さるかわ いえやす)が何か厳しい意見を言っている。

チームの監督を変えるべきだ、とか
あの選手には、スタメンから外すべきだ、とかなんとか。

家康はいつも厳しい意見を言うことで知られている。

「---猿川さんありがとうございました」
朝香が内心で
”このおじさん、もうちょっと控えめな意見言えないのかしら”と
毒づきながら、ほほ笑んで次のニュースに進もうとする。

次のニュースは
海外ニュースのコーナーだ。

メインキャスターの
峰山(みねやま)が海外ニュース担当の男と談笑している
峰山と海外ニュース担当のジョナサンは犬猿の仲と言われているが
こうして見ると、仲が良さそうにも見える。

その時だったー。

ーーーー!?

朝香は突然、自分の体に違和感を感じた。

”え??な、、なに この何かが入ってくるような感触?”

朝香が戸惑う。

だが、生放送中だ。
変なことを言うわけにはいかない。

朝香は必死に気持ち悪い感触を無視しようとした。

しかしー

「あっ…」
思わず声が出てしまい、体がビクンとなる。

メインキャスターの峰山が心配そうに朝香の方を
見つめる。

だが、朝香は笑みを浮かべてそのままニュースを続けた。

ーーこの時点で、既に”カウント”は始まっていた。
”30分でどれだけ人を狂わせることができるか”

そう、彼が朝香への憑依を終えたのだ。

「続いてのニュースは…」
朝香がいつもより甘い声を出す。

峰山が違和感を感じて隣にいる朝香を見つめる。

「----?」

「・・・女の神秘 をお送りします うふっ♡」

朝香の突然の言葉に凍りついた。

「へーー?
 ワタシノ海外ニュースジャナイノ?」

海外ニュース担当の外人が
叫ぶ。

峰山が場をなだめようと、
海外ニュース担当に手で”待て”の合図をした。

「ーテレビをご覧のみなさん」

いつも大人しい感じで話す朝香が
その声に色気をにじませて言う。

「こんな普通のニュース番組見ていて、
 面白いですか?

 シケた外人の海外ニュース、
 下手な進行のメインキャスター。

 笑えちゃいますよね。
 その上、スタッフも無能ときたら…
 
 あはは、おかしくって反吐が出そう!」

朝香の言葉にスタジオが凍りつく。

「--だから、わたしが…
 朝香が、番組を面白くしてあげる♡」

カメラに向かって挑発的なポーズをとり、
朝香は羽織っていたカーディガンを色っぽく
体をくねらせながら脱ぎ始めた。

「ちょ、、」
メインキャスターの峰山が戸惑い、止めようとする。

だが、朝香は止まらなかった。

「くすっ…
 テレビの前のみなさん~
 今、ドキドキしてるでしょ?

 わたしの魅力、たっぷり教えてあげるから…
 チャンネルはそ・の・ま・ま!」

朝香が言うと、
カメラマンが顔を赤らめた。

「バカ野郎!」
ディレクターの声が響く。

「カメラ止めろ!大問題だぞ!
 生放送を一旦とめー」

「----止めるんじゃねぇ!」
朝香が大声で怒鳴りつけた。

「ヒッ!」
ディレクターが驚いて飛び上がる。

笑顔が似合う、
いつも下手な朝香とは思えない恐ろしい声に、
ディレクターの震えは止まらなかった。

「人間ってさ…
 どうして服で全てを隠すのかな?」

朝香がカメラに向かって諭すように言う。

メインキャスターの峰山や
もう一人のアナウンサー、
海外ニュース担当のジョナサン、
コメンテーターの猿川 家康は
どうしていいか分からず、困惑している。

「--ホラ、わたしの綺麗な体だって、
 今こうして服で隠れてるでしょ?

 服なんか着ずに全てをさらけ出すことが大事だと
 思うの…うふふ・・・」

朝香の語りは続く。
その両手では自分の胸をうっとりとした表情で触っている。

「---あっ…あん!
 あぁん…

 どう、、、私の声…
 朝から刺激的すぎたかしら…」

ーー局にクレームの電話が鳴り響き始めた。

プロデューサーがスタジオに乱入する。

「中井君。
 君、自分が何をしてるか分かってるのか?」

プロデューサーの三ツ谷(みつや)が言う。

「君のアナウンサーとしての輝かしい人生、
 全てを台無しにしようとしてるんだぞ?」

落ち着いた様子で言う三ツ谷プロデューサー。

しかし、朝香は笑って、
見下すような目で三ツ谷を見ながら
両手で胸を揉み続けている。

「---自分が何をしているか、分かっているのか!
突然、声を荒げた三ツ谷プロデューサーに、
ディレクターはビクっと体を震わせる。

「---わかってますよぉ!
 だって、人間っておかしいじゃないですか!
 全てをさらけ出す必要があるんですよ!」

朝香が力説する。

”全てをさらけ出す”
何を言っているのかー?

「おい、カメラ止めろ!」
三ツ谷プロデューサーが言うと、
朝香が叫んだ

「止めるんじゃねぇ!」

そう言う朝香の手には、いつの間にかナイフが輝いていた。

ナイフを自分の首筋に当てて微笑む朝香。

「---カメラ止めたら、わたし、死んじゃうよ?」
低い声で言う朝香。

電話が鳴りやまない。
抗議の電話だ。

「おい、お前、対応に回れ」
三ツ谷プロデューサーがディレクターに言うと、
ディレクターは足早にスタジオから離れた。

「--わたしがここで自殺したら、
 問題になりますよ?うふふふふふ…

 ま、今でももう大問題ですよね…?」

朝香は刃物を持ったまま、続きを語り出した。

「で、私が言いたいのは
 人間”全てを脱ぎ捨てる”必要があるってことです」

カメラに向かって朝香がほほ笑む。

「クダラナイー!クダラナイよ!
 ワタシのコーナーの邪魔をスルナ!」

海外ニュース担当のジョナサンが叫ぶ。

直後、体に痛みが走った。

「あ・・・」
ジョナサンが信じられないという顔で自分の胸部を見る。

「すとらーーいく!」
朝香が大笑いする。
手に持っていたナイフを朝香がジョナサンめがけて投げたのだ。

「いやああああ!」
もう一人のアナウンサーが叫ぶ。

ジョナサンがその場で倒れる。

「……お、、おい…」
犬猿の仲であるジョナサンに向かって
メインキャスターの峰山が唖然として言う。

「あっははははは!
 わたし、カメラの前で人殺しちゃった!
 狂っちゃった!朝香、狂っちゃった!
 ひぃーははははははぁっ!」

体を
折り曲げ、手を広げて大爆笑する朝香。

とても正気とは思えない。

「---泣くまで待とうホトトギス
 泣くまで待とうホトトギス・・・」

コメンテーターの猿川家康がスタジオの端で
しゃがみこんで、怯えて、うわごとのように
何かを呟いている。

ジョナサンの体を踏みつけて、ナイフを抜いた
朝香は自分の舌でナイフについた血を舐めた。

「ホラ!人間、全部を脱ぎ捨てなきゃ!」

そう言うと朝香はカメラの前で上着を脱ぎ捨てた。

「うおおおおおお!」
カメラマンが顔を真っ赤にして叫ぶ。

”最高だ”
彼は心の中でそう思った。

メインキャスターの峰山がぎこちない動きで、
朝香を止めようとしたが、殴り飛ばされて床に倒れる。

「うっ…」
峰山が苦しそうにうめき声をあげる。

フサッ…とスカートが床に落ちる音がした。

「どう?みなさんも全てを脱ぎ捨ててみませんか?
 これが人類の進化! 
 ”服”という牢獄から抜け出すんですよ!

 あははははははっ!あはははははははは!」

やかましく笑い声をあげる朝香。

そして朝香はさらに下着にまで手をかけた。

全ての服を脱ぎ捨ててしまった朝香。

何も着飾らない姿でカメラの前に立ち、
朝香は美しいポーズをとりはじめた。

「---馬鹿野郎!
 こんなことして!こんなことして!
 ただで済むと思うなよ!」

三ツ谷プロデューサーが警察を呼ぶように、
スタジオのスタッフに指示をしようとする。

しかしー
朝香は刃物を喉に突き付けて笑う。

「----」
三ツ谷プロデューサーは思う。

こうなった以上、朝香のことはもうどうでもいいが、
ここで死なれては困るーと。

最近の若い者は良く分からない!
三ツ谷プロデューサーは心の中で憤慨した。

「---もっと、もっと、もっと脱がなきゃ!」

朝香が笑いながらそう言い始めると、
スタジオにあったハサミを手に、自分の髪の毛を切断し始めた。

女の命ともいえる髪をーー
乱暴にばっさばっさと切り捨てていく。

「あははははははは!
 全部脱いじゃえ!脱いじゃえ脱いじゃえ!脱いじゃえーーーーー!」
朝香が大声で叫びながら笑う。

カメラマンは目の前の光景を”夢”だと思った。

あの朝香がこんなことするはずーー。

「そうだ、、これは夢だ、、夢なんだ、、、
 ははははは、はははっ…」

カメラマンの精神が壊れた。

髪を振り乱し、切り刻む朝香を
もう一人の女性アナウンサーが抑えた。

「やめて朝香ちゃん!もうやめなさい!
 アンタ、立派なアナウンサーになるって…」

だがーーー。

「えーーーっ…」
アナウンサーが驚きの声をあげる。

自分の腹部に…
ナイフが刺しこまれていた。

「え…どうして…朝香・・・ちゃ・・・ん」
アナウンサーもその場に倒れる。

朝香はアナウンサーからナイフを抜き、
唾をアナウンサーに吐き掛け、アナウンサーの顔を踏みつけて
踏みにじった。

ボロボロになって、
ところどころ、坊主頭のような状態になった朝香が笑う。

「---狂っちゃった!狂っちゃった!えへへへへへへへ!」
嬉しそうにその場で足をバタバタバタバタとさせている朝香。

もはや、異常だ。

「おわったーーー」
三ツ谷プロデューサーがうわごとのように呟く。

もう、おわりだ。
このテレビ局自体が。

彼はそう思った。

”あと2分”

朝香は笑う、

「もっと狂わなきゃ…」

そう言うと、コメンテーターの猿川家康の方に向かって行き、
家康を蹴り飛ばした。

「ひっ…やめてくれ、やめてくれ…」

「脱げ 全部脱げ」
猿川に、冷たい目線で言う朝香。

だが、猿川はそれを拒否した。

朝香は蔑むような目で猿川に刃物を突き立てると
猿川はその場に崩れ落ちた。

「---ひっ…」
メインキャスターの峰山がうろたえている。

もう一人のアナウンサーも
コメンテーターの家康も、
海外ニュースのジョナサンも血を流して倒れている。

「----貴様ぁ!わしの会社を!」
社長の蟹山(かにやま)が乱入した。

「カメラ止めろ!」
カメラマンをぶん殴って、カメラを止めた蟹山。

その時だった。

「あーあ、止めちゃった!
 わたし、死んじゃう!えへっ!」

そう言うと、朝香は自分の首をナイフで切りつけた。

血が噴き出て、その場に倒れる朝香。
「あはははははっ…あはははははははっ…
 ひょういすぽーつさいこう…
 さいこう…さいこう…!」

体から力が抜けていく。。

そしてーーー

”0分”

彼は離脱した。

「-------・・・わ・・・わたし・・・?」
朝香が意識を取り戻した。

「--えっ…???え…」

メインキャスターの峰山が驚く

「お、、おお??」

「---ひっ・・・な、、、なに・・・なに・・・
 なんでわたし・・・なんで・・・裸なの・・・・」

蟹山社長が救急車を呼ぶように指示をする。

「ひ・・・な、、、いやあああ、、、血・・・いやだ・・・
 いや・・・死にたくない・・・

 いやだ・・・たすけて・・・たすけて・・・」

朝香が弱弱しく泣き出す。
しかし、顔色は青くなっていて、
もう助からないのは明らかだった。

「----」
峰山が恐怖に満ちた目で朝香を見ている。

「みね・・・やまさん・・・たすけ・・・」
そこまで言うと朝香は力尽きた。

「---お、、おい、、、どうすんだこの状況!」
蟹山社長が叫ぶ。

「---ひっ・・」
峰山は放心状態でその場に立ち尽くした

・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日。

”彼”は自宅で笑っていた。

4人は死亡。
会社はまもなく倒産するだろう。

凄まじい影響。

彼女の暴走は動画サイトに出回り、
世の中は混乱している。

「だが…点数は90だな」

”彼”は呟いたー。

そして笑うー

”92”

最高得点を超えることはできなかったー と。

彼は笑うー

”彼”は自分の魂を分裂させて、女性に憑依をしている。
自分の体から完全に抜けてしまうのは不安だからだ。
誰かに憑依している間に自分の体に何かがあったら大変だ。

”昨日”は”初めて”生でやってみたー。

”真横”で朝香として狂いながら

”真横”で本来の自分を演じるー。

彼は笑ったー。

”彼”、----
メインキャスターの峰山は、
真横に立っていた朝香に自分の魂の一部を憑依させ、
自分と朝香の二人を、操っていたのだ。

そうー
憑依スポーツに勤しむ危険人物はーーー
メインキャスターの峰山だった。

犬猿の仲のジョナサンをどさくさに紛れて殺し、
待遇に不満のあった会社を潰し、
可愛い子ぶっている朝香を仕留めた。

彼が、スタジオでぎこちない動きをしていたのは
憑依した”朝香”を操ることに夢中になっていたからー

そして、彼が最後に「ひっ…」と言ったのは
恐怖していたわけではない

笑いをこらえていたのだった。

「----目指せハイスコア」
峰山はそう呟くと、
今日のキャスターの仕事と、今日の憑依スケジュールを見つめながら
不気味にほほ笑んだ・・・

今日もどこかで少女が、狂う…

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

あえて第1話から”狂っちゃえ”の憑依人の正体は
伏せていました。
ただの脇役風の人物が、憑依当事者だった、、ということですね(汗)

でも、彼、仕事探さなきゃいけないような…
(フリーキャスターなら大丈夫でしょうけれど)

ご覧いただきありがとうございました!

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憑依<狂っちゃえ!>

コメント

  1. 柊菜緒 より:

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    でも多分縁起が悪すぎてどこも雇ってくれ無さそう

  2. 無名 より:

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    > でも多分縁起が悪すぎてどこも雇ってくれ無さそう

    彼には憑依能力があるので、そのあたりはどうとでも…

  3. 匿名 より:

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    三ツ谷プロデューサーって元ネタはLIFEのあの人ですか?

  4. 無名 より:

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    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > 三ツ谷プロデューサーって元ネタはLIFEのあの人ですか?

    コメントありがとうございます!
    三ツ谷プロデューサーはただ単にその場の思い付きです!(笑)

  5. 匿名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    ここまで滅茶苦茶にしても90点なんて厳しいですね。100点になるためにはどこまでやらなきゃいけないんでしょうね。

    このシリーズ、ここの数ある作品の中で、暴走して滅茶苦茶やるタイプの話の中でぶっちぎりに面白いです。

    続編とかはやらないんですかね?

  6. 無名 より:

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    コメントありがとうございます~!

    暴走滅茶苦茶系(?)のお話は何度か書いていますが、
    これもいつか続編や番外編が書ける…かもしれません~!

    ぶっちぎりに楽しんで頂けてありがとうございます!!笑