<憑依>禁忌の村①~村の掟~

その村には掟があった。
それは、毎年1人、
”神”に女子高生をささげるという掟。

捧げられた少女は、1年間”神”に憑依される。

その異様な風習から人々はその村をこう呼ぶ。
”禁忌の村”と。

とある村。

今日は週に1度の
「集会」が行われている。

矢村 泰三(やむら たいぞう)は、集会場である
豪華な屋敷で、その中心に立つ人物を見据えた。

可愛らしい少女がその場に立っている。
女優が着る様な豪華な赤いドレスを身にまとい、
高飛車な様子で足を組んで、椅子に座っている彼女に、
村人たちは順番に、何やら「献上」している。

「…お父さん…今日は私が…」
泰三の隣にいた矢村 天音(やむら あまね)が父に声をかける。

高校2年の一人娘、天音。
クラスでも人気者の明るく元気な少女だ。

天音が、封筒を手に、前に向かう。

集会場の壇上に上がり、天音は高飛車な少女に
ふかぶかと頭を下げる。

そして、前に立つ。

「今週の献上品です…」
天音が言うと、高飛車な少女はそれを手に取った。

「ふぅん…今週はこれだけなのね
 ま、期待はしてないけど」

高飛車な少女は言う。
封筒には”1万円”が入っていた。

「---麗(うらら)」
天音が高飛車な少女を見て言った。

麗と呼ばれた少女は不愉快そうな顔を浮かべる。

「もうすぐだから…
 あと1週間だから…
 そしたら、、また遊ぼうね…」

天音が涙ぐんで言う。

麗は睨むように天音を見つめているー。
顔立ちは、大人しそうな少女ー。
高飛車な様子や、高級なドレスが似合いそうな少女ではない。

彼女の名はー
村松 麗(むらまつ うらら)

ちょうど1年前までは
天音と同じ”女子高生”だった少女だー。

ーーこの村には昔からの伝承がある。
この村には”神の化身”が住んでいた。

そして、いつの日からか、神は村人たちに
”憑代”となる肉体を求め始めたのだ。

神の要求は”女子高生”だった。
肉体を持たない神が憑代として、少女の体を
捧げるように村人たちに要求するのだ。

そして、神にささげられた少女は、神に憑依され、
肉体も、精神も全てを奪われる。
1年間の間―。

毎年、2月に、神は”肉体の乗り換え”を行う。

だが、
神に自ら肉体をささげる女性などいない。

だから、この村の村長が、
くじ引きで、村の高校に通う女子高生の中から一人、
”生贄”を選ぶのだ。

去年の2月、生贄に選ばれたのが
今、高飛車な様子で村人たちからお金や献上品を
受け取っている村松 麗だった。

麗は大人しい性格で、去年まで生徒会書記を務めていた
天音の親友だ。

しかし、麗はくじ引きで”神への生贄”に選ばれてしまった。

麗は、大粒の涙を流した。

だが、村の掟に…
神の意志に逆らうことは許されない。

あれから1年ー。
麗は、来週、そう、1月31日に解放されるのだ。

「----天音ちゃん!無礼じゃぞ!」
壇上の横にいた村長が言う。

「あ、、、すみません」
天音が頭を下げて、
神に憑依されている麗の方を見る。

あんなに大人しかった麗の表情は、
この1年で大分変ってしまったように思える。

「--麗…」
悲しそうにつぶやいて、天音は檀上から降りる。

逆らえばいい―。
そう考える村人は当然いた。

元々、村に代々、神が住んでいるという話はあった。

だが、神が憑依を始めたのは、数十年前。

最初に、村長の娘が犠牲になった。
そして、その時、兄である、村長の息子が
神に対しての不満を叫び、
妹を助けようとしたー。

しかしー
ある日、村長の息子は突然”発狂”し、
笑いながら自分の体を刃物で突き刺し、
死んでしまったのだ。

村人たちは
”神のたたり”だと恐れた。

ならば村から引っ越せば良い…
そう考える人もいた。

だが、村から引っ越した人間は…
1週間以内に、全員変死した。
これも、神のたたり だと村人たちは恐れた。

いつしか、
村人で神に逆らうものは居なくなり、
そして村から引っ越すものも居なくなった。

今では、神は村で一番豪華な屋敷に一人で済み、
週に1度、村人たちを集めて、献上品を受け取っているのだ。

「---天音…あと1週間だ…長かったな」
父親の泰三が言う。

「うん…麗ちゃん…元気かな?」
壇上の麗を見ながら天音は涙ぐむ。

もうすぐー。

もうすぐ、
大切な親友の麗が
”憑依から解放される”

「---よし、天音は先に帰っててくれ」

泰三が言うと、天音は微笑んだ。

…天音や他の村人が帰ったあと、泰三は村長の家を訪れた。

「--おぅ、矢村くん」
村長が笑う。
村長は80歳だが、まだまだ元気だ。

「---また、今年も誰かが犠牲になるんですよね?」
泰三が訪ねると、村長は悲しそうにうなずいた。

村長の家の戸棚の上には
可愛らしい少女と、イケメン風の男が写っている。

神に最初に憑依されて犠牲になった娘と、
神に意見を申し出て、笑いながら発狂して死んだ息子だ。

「---仕方がないんだよ…矢村くん…」
村長が泣きそうな声で言う。

「……」
泰三は思う。

もしも次の生贄に
”自分の娘”が選ばれたらー。

その時、自分は、
”正気でいられるだろうかー” と。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日。

高校の教室内では
女子生徒たちが落ち着かない様子で話している。

「生贄になんて選ばれたくないよね…」

「怖い…怖いよ…」

「大丈夫!これだけいるんだから選ばれるわけないよ!」

口々に恐怖や、希望的観測を口にする生徒たち。

神に選ばれれば、
麗のようになってしまうのだ。

「---ってか、神様なんてうさんくさいよね!」
クラスの広報部長 渡部 真琴(わたべ まこと)が笑う

「ちょっと、、そんなこと言わない方がいいよ!」
天音が慌てて止める。

大昔の村長の息子以外にも
”発狂”して死んだ人は何人もいる。

「---そんなの迷信だって!
 決めた!わたし、神様の正体を突き止めて
 大スクープにする!」

真琴が笑いながら言う。

周囲のクラスメイトが笑いながらそれを煽る。

「じゃ、明日からの2連休で、
 神様の正体を暴いちゃうからねっ!」

真琴がふざけた様子で言う。

「来週の月曜日をお楽しみに~!」
真琴が芝居がかった声で言うと、
周囲はふざけて拍手をしていた。

「…だいじょうぶかなぁ?」
天音は心配そうにその様子を見つめていた・・・

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

土曜日の夜。

いよいよ、来週、
”神の新しい生贄”がくじ引きで選ばれる。

「--はぁ・・・・・私が選ばれちゃったらどうしよう・・・」

天音は思う。

天音の母親はーーー
”もう、この世に居ない”

「---私がもしも選ばれちゃったら・・・
 お父さん・・・・・・どうなっちゃうんだろう・・・」

天音は父の性格をよく理解している。

だからこそー。
自分が”選ばれるわけにはいかない”

「---あはははははははっ!
 あはははははっ!」

ふいに笑い声が聞こえてきた。

村の子供達でにぎわう広場からだ。

こんな夜に誰が・・・?

天音が駆け付けると
そこにはーーー
クラスの広報部部長、真琴の姿があった。

服をびりびりに破り捨てた姿で狂ったように笑っている

「ま・・・真琴ちゃん!」
天音が叫ぶ。

周囲にも何人か村人がいる。

「--あはははははっ!
 わたし、、、神様に逆らっちゃいましたぁ!

 だから・・・わたし・・・天罰を受けるの!」

真琴が嬉しそうに言う。
手には刃物を持っている。

「・・・・・・!!!」
天音は思う。

これはーーー
”神の崇り”----

「真琴ちゃん!やめて!目を覚まして!真琴ちゃん!」
天音は真琴の手を止めようとしたが、真琴は乱暴にそれを振り払った。

「あはははははは!」
真琴は躊躇なく、自分の体を刃物で切り刻み始めた。

真琴の体が、力なく崩れ落ちる。
倒れてもなお、真琴は笑っている。

「ま、、、真琴ちゃん・・・
 いやあああああ!」

天音は泣き叫んだ。

そしてーー
真琴は最後に天音を方を見て、
”不気味な笑み”を浮かべ、そのままこと切れた。

村人たちは
”事務的”に真琴の亡骸を片づけた。

悲しむものはいない。
何故なら―、神の意志に反した真琴の死を悲しめば、
今度は自分が真琴のようになるかもしれないからー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数日後。

神の屋敷に村人が集められた。
壇上には麗の姿がある。

今日の麗は胸を強調し、
スタイルの良さを強調するかのような
ライダースーツを着ていた。

麗本人は、こんな格好、ゼッタイにしない子だった。

神は何故だか、いつも色々な格好を楽しんでいる。

「うふふ・・・この体ともお別れ♡」

麗は自分の胸を触りながら表情をゆがめる。

そして、ライダースーツの上から、太ももをベタベタ触りながら
涎を垂らしている。

「---やめて!もう麗ちゃんを弄ばないで!」
天音が叫んだ。

周囲の村人が驚いた表情で天音を見る。

みな、天罰を恐れていた。

「---天音、、落ち着きなさい」
父の泰三が天音をたしなめる。

麗はその様子を見て、馬鹿にしたように笑った。

「村長ー。
 私への”今年の生贄”を選びなさい」

麗が高圧的に言うと、
村長は頭を下げた。

「はっ・・・」

村長が箱に手を突っ込む。

この箱の中にー。
”村の女子高生”の名が書かれたボールが入っている。

引かれてしまった子はーーー
これから1年間・・・

「-----」
女子高生たちが祈るようにして目をつぶっている。

そしてーーー

「矢村ーーーーー天音ーーーー」
村長が、ボールを引いてかざした。

「え・・・わ、、、、わたし・・・」
天音は唖然とした。

「----あ、、、、天音!・・・」
父の泰三が唖然とする。

「---さぁ、壇上に上がりなさい。
 ”引っ越し”を行うわ」

麗が笑いながら言う。

「-----」
天音は目から涙をこぼす。

”今から1年間”

自分はどうなってしまうのだろうかー

そして父は、、、

「---嘘だ!嘘だ!ダメだダメだダメだ!」
父の泰三が取り乱して叫ぶ。

「---決まったことじゃ」
村長が悲しそうに言う。

泰三は握りこぶしを作り、
今にも”神”にとびかかりそうだった。

「---お父さん・・・」
天音は父の暴走を止めた。

そして、涙を浮かべながら微笑んだ。

「---お父さん・・・・・・
 わたし、大丈夫・・・」

天音の強い言葉に、泰三も涙を浮かべる。

「1年後ーーわたしが帰ってきたとき、
 またおとうさんに遭いたいから・・・
 変なことしないで・・・」

天音がそう言って父の手を握る。

泰三は涙を流しながら頷いた。
「あぁ、、、父さん・・・待ってるからな・・・」

そんな父を見て、天音は微笑んだ。

「お父さんーー
 1年間、おやすみなさい」

寂しそうにそう呟くと、天音は壇上に上がった。

麗がバカにしたように笑っている。

「---麗ちゃん・・・・・・
 今度はわたしが代わりになるから・・・」

天音が悲しそうにつぶやく。

そしてー

「・・・・・・私の新しい体・・・・・・。
 早速、”引っ越し”させてもらうわ・・・」

麗はそう言って、天音に”キス”をした・・・。

天音がビクン!と体を震わせてその場に倒れる。

「おと・・・う・・・さん・・・」
天音は最後にそう呟いた・・・

そして・・・
村長によって奥へと連れられていく。

”引っ越し”の際に神が意識を取り戻すまで、
半日ほどかかるのだ。

「・・・くそっ・・・天音!!天音ーーーー!」
奥に連れられていく娘の名を叫ぶ泰三。

しかし・・・
もうその言葉は届かないー

そしてーー
ライダースーツを着た麗の体が激しく痙攣している。

白目を剥いて、泡を吹いている。

「---病院!病院だ!」
村人たちが慌てて麗を病院に運び出す。

ーー神から解放された少女はーーー、
”1年間”も封印されていた副作用か・・・
”体が激しい拒否反応を起こす”

社会復帰できた子もいる。

けれど、何人かはそのまま死んで・・・
何人かは植物状態・・
そしてまた何人かは、廃人同然になってしまっている。

運ばれている麗を見つめながら泰三は
”1年後、天音は帰ってこれるだろうか”と不安に思い、
頭を抱えたーーー

そして、翌日

”新しい体を得た”神の
”披露集会”が行われる。

毎年恒例の集会だ。

泰三は、、そこで
”神”となった娘・天音と再会することになるー。

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

今回はプロローグでした!
明日から本番(?)ですネー

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コメント

  1. 柊菜緒 より:

    SECRET: 0
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    これからどうなってしまうのか……

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > これからどうなってしまうのか……

    禁忌に近づいていきます(?)