<憑依>リアルデュエリストVol4 転落した生徒会長

近頃、その世界では
カードが”現実化”する力に突然目覚める人間が続出していた。

その力に目覚めた人間を
人々は”リアル・デュエリスト”と呼ぶ。

そして、ここにもリアル化の力に目覚めた人物が、ひとり。。

-------------------------—

「狭霧さんはいつも凄いよなぁ…」
一人の男子が言う。

生徒会長・狭霧 葵(さぎり あおい)は、
その言葉に微笑んだ

「え~そんなことないよ」

葵が言うと、その男子・三沢 海斗(みさわ かいと)が首を振った。

「生徒会に、部活、そしてバイト。
 クラスで困っている人が居たら手を差し伸べる。
 …超優等生じゃん!」

三沢が笑いながら言うと、
葵は「またまた~、おだてても何も出ないからね!」と笑う。

彼女ー、
狭霧 葵は、
先生たちからも信頼される生徒会長だ。

心優しく、
いつも笑みを絶やさないー。

困っている人が要れば、自ら手を差し伸べるー。

そんな彼女は、
カードゲームにも精通していて、
地元の高校生大会で準優勝するほどの
実力者だった。

真面目で、ユーモアもあり、人望もある。
全てが”理想的”だったー。

「じゃ、私、そろそろ帰るね!」
葵が立ち上がると、
海斗は「あ、もうこんな時間か。じゃあ、僕も帰ろうかな」

いつものような、穏やかな日常だったー。

けれどー

葵は、一つ不思議に思っていた。

今朝、葵は目を覚ましたとき、不思議な声を聞いた。
”リアルに目覚めよー”

声はそう言った。

そして、目覚めたあと、彼女がふと机の上に置きっぱなしに
していたカード、
”アロマージージャスミン”という、美少女系カードを手に持つと、

なんと、、
自分の姿がそのモンスターに変わったのだった。

驚いた彼女が、そのカードを机に戻すと、
自分の姿も元に戻った。

そして、別のカード、
”モウヤンのカレー”というカードを手に持つと、
今度はカレーが目の前に出現したのだ。

彼女は信じられないものを目の当たりにしながら確信したー。

”カードが、現実化するー”と。

知り合いが、言っていた気がするー
”最近、一部のデュエリストがカードを現実化させる力に
 目覚めている”  

と。

そう、自分もその力に目覚めたのだーと。

葵は、その力について、色々と考えを張り巡らせていた。

”この力を使えば、もっとみんなの力になれるかもしれないー”

しかしー
この彼女の”善意”は次第にその力に溺れていくことになるー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

とある男が、モニターの並ぶ部屋で、
数名の人間の様子を見ている。

”私の力の一部を憑依させたー”

その男は口元を歪ませたー。

彼は生まれつき”特別”な力を持っていた。
そして、彼はその力を人に分け与えることができたー。

そう、自分の力を他人に憑依させるのだ。

”リアルに目覚めよー”  と。

人間とは愚かなものだ。

力に溺れた”リアル・デュエリスト”たちはどうなったかー?

とある学生は、力に溺れて対戦相手の女子を洗脳し、
あげくの果てに自らの家を燃やし、滅んだ。

そして、とある男子は、エンタメと称して
クラスの人気者になったが、調子に乗りすぎて
クラスメイトの反感を買い、最後には”殺虫剤”により
その身を滅ぼした。

また、ある一家の大黒柱である父親、力に固執し、
家を守ろうとするあまり、家族全員が雷に打たれて
滅んでしまった。

そして、その向かいに住む高齢のおばあさんもまたー、
自分の分をわきまえず、滅び去った。

「人とは、愚かなものだー」

男がモニターを見る。

”リアルの力”に目覚めた人間たちが、
力に溺れていく様子が映し出されている。

「--…”この次元”の人間はこれが限界…か」

男はそう呟くと、そっと目を閉じた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

不良生徒が、気弱な生徒をいじめていた。

「ちょっと!何してるの!」
葵が叫ぶと、
その隙にいじめられていた生徒は逃げ出した。

「おぅ、生徒会長」
不良が低い声で葵を睨みつける。

「---ねぇ、いつも言ってるよね?
 いじめはやめて!」

葵が言うと、不良は笑った

「ははっ、ハナタレが。
 ”いじめられる方が”悪いんだぜー。
 いじめられたくなきゃ、強くなれってんだ!」

そう言うと、不良は笑いながら立ち去っていく。

「---はぁ…」
葵はため息をついた。

私は”学校の平和”を守りたいだけなのにー。
何で、分かってくれないんだろう。。。
どうして…

葵は思う。

”みんながもう少しだけ優しくなれたらいいのにー” と。

けれども、葵も分っている。
この世はそんな綺麗ごとじゃ、やっていけない。

この世は汚いことに満ちている。

「--大丈夫?」
ふと、背後から海斗が心配そうに声をかけてきた。

「え?あ、、うん。大丈夫よ」
葵がほほ笑むと、海斗は笑った。

「はぁ~良かった。何か怖い顔してたからさ」
海斗の言葉に葵は微笑んだ…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

放課後。

他の生徒を威嚇しながら、先ほどの不良生徒、
財前 哲(ざいぜん てつ)が歩いていた。
横暴な歩き方だ。

「どうして…」

葵は前々から、度々この財前には注意を続けてきた。

それなのに、
財前はいじめをやめようとしない。
しかも、授業も真面目に受けないのだ。

だが、悔しい事に財前は優秀だった。

とても頭の回転が速く、
クラス2位の成績を誇る、テストに関しては優等生なのだ。
それ故、先生たちも口を出せずにいた。

「どうしてあんな奴がー」
葵はそう呟いた。

そして、ふと思い出す。

「---」
葵は手に持ったカードを見つめる。

”拷問車輪”

このカードを財前につかったらどうなるのだろうか?
アロマージージャスミンや、モウヤンのカレーとはわけが違う。

「・・・・・・・まさかね」
葵はそう思いながら、前を歩く財前に向けて
”拷問車輪”のカードをかざした。

すると…

「ぐおおおおおおおっ!」

「えっーー?」
葵は驚いて目を見開いた。

財前の体が禍々しい機器に貼り付けになっていて、
財前はあまりの苦しみに悲鳴をあげていた。

「ひっーー」

「ぎゃあああ!」

「なんだこれ!!!」

財前の近くを歩いていた生徒達が悲鳴を上げる

「----!!!!」
葵は慌ててカードを排除しようとした。
恐らく、カードを破り捨てるか、何かすれば
効力は消えるはずだ。

しかしー

”天罰”

葵の頭の中に、そんな言葉が浮かんだ。

財前は、今まで散々好き勝手やってきたではないか。

少しぐらい、こらしめてやってもいいのではないか。

葵の表情から恐怖が消えたー。
葵は、知らずのうちに、笑みを浮かべていたー。

「クスッ・・・・・・そうよ…これは正しいことじゃない」

葵は、拷問車輪のカードをそのままにして、
笑いながら、財前の悲鳴を背に、
下校した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日。

登校すると、クラスメイト達が
ざわついている。

「どうしたの…?」
葵がクラスメイトの海斗にたずねると、
海斗がおどおどしながら言う。

「き…昨日、財前くんが、変なものに
 巻きつけられてたの見た?」

海斗が言う。
”拷問車輪”のことだろう。

「ううん。それで、どうかしたの?」
葵がとぼける。
”拷問車輪”を発動した当人だというのに…。

「--先生達も必死に財前くんを助けようとしたんだけど・・・
 財前君を助け出せなくて・・・

 その、、財前君・・・そのまま苦しみぬいて…
 発作を起こして死んじゃったよ…」

海斗が悲しそうに言う。
不良生徒とは言え、クラスメイトである財前の死は、
海斗の心にも大きな傷を与えたようだ。

「え…死んだ…?」
葵は唖然とした。

軽い気持ちで、
”ちょっと懲らしめてやろうー”
そんな気持ちで発動した拷問車輪ー。

まさか、命まで奪ってしまうなんて…

放課後。

葵は夕日を見つめながら一人思う。
”自分が人を殺したー”と。

何故、自分がカードを現実化できる力を手に入れたのだろう…

そして、この力は一体何なのだろう…

葵は思うー。
”この力なら、誰にも気づかれないー”と。

葵は笑みを浮かべた。

「ふふふ…悪いのは財前君じゃないー。
 私じゃない…

 そうよ!この力があれば、
 ”もっと良い学校生活をみんな送れる”

 そうよ!何も気にすることなんかないじゃない!」

葵の中の”何かが切れた”

葵の心は弱すぎたー。
心優しく、真面目な生徒である葵にとって、
”自分が人を殺してしまったー”
その事実を受け止めることはできなかったー。

無理やり自分を正当化させー、
そして、”力”に溺れるしか、
葵に残された道はなかった。

10分後。
葵は生徒会の話し合いのため、
生徒会室にやってきていた。

本来は、1ヵ月後に控えた、スキー教室の話し合いの予定だったが、
皆、昨日死亡した財前の話題を話している。

「ねぇ…スキー教室の話題話しましょう?」
葵が微笑みながら言う。

「---そんな場合じゃないよ、葵!」
副会長の早乙女 鮎(さおとめ あゆ)が言う

「---そんな場合じゃないって・・・
 みんな、財前くんのこと、嫌がってたじゃない…

 そんなことより、スキー教室の話し合いを進めないと」

そこまで言うと、鮎は机を叩いた

「ねぇ葵!人が一人死んでるんだよ!
 ”そんなこと”って何よー」

鮎はいつも、生徒会長である葵に意見してくることが多かった。
的確な意見もある。

けれど、葵にとって内心では不愉快だったー。

「---うっさいわね」
葵が呟いた。

普段優しい葵の突然の言葉に、みんな唖然とする。

「えーー?」
鮎も困った表情を浮かべる。

他の3人の男子と1人の女子に葵が言う。

「みんなはどう思ってるの?
 早く、話し合い進めたいよね?」

葵が言う。

すると一人の男子生徒がおどおどした様子で
言い始めた。

「僕はーー、
 鮎ちゃんに賛成かな…
 少しは財前くんのー」

そこまで言った男子生徒に彼女は
”ガガガシスター”という幼女系のカードをかざした。

その生徒がガガガシスターの姿に変わる

「えっ!えっ???うわっ!」

かわいらしい声。
かわいらしい容姿で叫ぶ元男子生徒。

「---あなた、小さい子スキって言ってたよね?
 その姿は私からのプレゼントー」

葵が言うと、
ガガガシスターとなった男子生徒は満面の笑みを浮かべた

「はぁぁ!幼女だ!幼女だぁ!あははははっ!」
可愛らしい、あどけない声で叫ぶ元男子生徒。

残りの4人が唖然としている。

「どう?私の意見に賛成?」
葵がそういうと、ガガガシスターはうなずいた。

「みんなはー?」
葵は、副会長の鮎を含む4人を見た。

「私はただ、この学校を皆のために
 もっと”良くしたい”だけなの。

 協力してくれる?」

葵が微笑むと、
一人の男子生徒が叫んだ

「ぼ、、僕は反対だ!
 財前君が死んだんだよ!
 それどころじゃない!」

反対意見を口にする生徒会メンバー。

”わたしはー
 学校を良くしようとしているだけなのにー
 皆のために役に立ちたいだけなのにー

 どうして、邪魔をするのー?”

葵の中の何かが切れた。

葵はカードをかざす。

”火あぶりの刑”

ゴォッ!

反対意見を口にした男子生徒が火につつまれた。

「いっ…ぎやああああ!、な、、、なにこれ!
 熱い!熱いヨぉ!」

火に包まれながら必死に叫ぶ男子生徒。

葵とガガガシスターは満足げにそれを見つめる。

残りの3人は震えている。

すぐに、男子生徒は黒焦げになった。

「ひっ…人殺し!」
残りの3人のうちの1人、生徒会書記の女子が叫んで
逃げ出そうとした。

「ち、、違うの!」
とっさに葵が叫ぶ。

違う!

自分はただ、より良い学校を作りたいだけ!

人殺しじゃないー!

葵は、ありあまる力を前に
使いどころを困惑していた。

「心変わりー!」
葵がカードをかざすと、女子生徒の目つきが代わり、
笑顔で微笑んだ

「ふふっ…ごめんなさい先輩。
 先輩の言うとおりでした」

葵のほうにやってきて、謝罪の言葉を口にする書記の女子。
文字通り”心変わり”してしまった。

副会長の鮎と、残り1人の男子は唖然としている

「な…なんでカードが現実化するんだ…??
 な、、なんで…?」

その男子生徒を見つめて葵は笑う。

「--私に、従う?
 それともー、消える?」

葵の表情は歪んでいたー。
力を手にし、暴走してしまった葵は、もう止められない。

「---生徒会長…僕、、会長があこがれだったのに…
 な、、何なんですかこれは!」

その男子生徒の叫びを聞いて
葵は”愛想がつきた”

「黄泉へ渡る船ー」
葵がカードをかざすと、不気味な船が出現した。

男子生徒の体が船に引き寄せられて、
男子生徒はその船に乗せられてしまう

「ちょ、、、会長!やめてください!助けて!」

しかし、その言葉にも葵は無反応だった。

「--私はより良い学校を作りたいの。
 みんなに笑って欲しいの!
 だから邪魔しないで!」

葵がそう叫ぶと、船は”この世から消えた”

男子生徒を乗せて、黄泉へと渡ったのだ。

「---ひっ…」
副会長の鮎は目に涙を浮かべたー。

書記の女子は”心変わり”してしまい
男子一人は”ガガガシスター”へと姿を変えられた。

残りの2人は”火あぶりの刑”と”黄泉へ渡る船”により
もうこの世にいない。

「---や、、やめて!助けて!」
鮎が廊下に飛び出した。

「待ちなさい!」
葵がそう叫んであとを追う。

「憑依するブラッド・ソウル!」
葵がカードをかざすと、鮎の動きが止まった。

「--悪霊を憑依させた。
 これでもうあなたは動けない」

葵がそういうと、
鮎が涙を浮かべて葵のほうを見る。

「何よその顔ー」
葵が言う。

なんで、副会長の鮎は涙を眼に浮かべているのか。

私はただ、みんなに笑って欲しいだけなのに。

「何よ!笑えよ!ホラ!笑いなさいよ!」
葵が錯乱して叫ぶ。
鮎は動かないからだで、恐怖を目に浮かべている。

「--大体いつもアンタ、
 私の意見に反対ばかりして!うざいのよ!
 …消えちゃえ!」

葵がそう言ってカードをかざした。
”老化の呪い”

そのカードをかざすと、
鮎はたちまち悲鳴をあげながら老婆の姿となった。

「ひっ…いっ、、、いやあああああ!」

シワだらけの体で叫ぶ鮎を見て、
葵は満足げに笑った。

「----何してるの…?」

葵がその言葉に振り向くと、
クラスメイトの三沢 海斗の姿があった。

「海斗ー」
葵は目を見開いた。

幼馴染の海斗ー。
かけがえのない存在の海斗ー。

もしかして、見られた。

老婆になった鮎が、うずくまって泣いている

「----副会長に、何をしたの?」
海斗がたずねてきた。

「何もーー」
葵は目を逸らした。

「…え、、、葵ちゃん!でも今!」

”どうして みんな、わたしのじゃまをするのー?”

”わたしはよいがっこうをつくりたいだけー”

そう・・・。

あっそう。

そんなに邪魔したいならみんな…

「そんなに良い学校にしたくないなら!」
葵が叫んだ。
その目は錯乱状態だー。

「みんな!みんな消えちゃえ!」

葵がかざしたカード…

それは・・・

”ブラック・ホール”

「あ…葵ちゃ…」

黒い渦が現れ、学校中を包み込む。

そして、黒い渦が全てを飲み込んでいく。

ーー黒い渦の中、海斗は葵の姿を見つけて叫んだ。

「葵ちゃん!どうして!!!!」

その言葉に涙を浮かべた葵が微笑んだ。

「わたしーーー
 わたしはただーーーー、
 みんなの…力になりたかっただけなのに…」

涙をこぼした葵は…

いや…葵だけではない。
学校は校舎ごと、黒い渦に飲み込まれた…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

後日。

学校ごと消失したことで、世間は大騒ぎになっていた。

だが、その原因は分らずじまいだった。

そう、分るはずがないー。

その力は、常人には理解できない力なのだからー。

”男”が
”昨日まで高校のあった場所”訪れる。

そして、黙祷をささげた。

彼は、殺戮者ではない。
”ブラックホール”のカードにより、
消滅してしまったであろう、
何百人の人間に対して、黙祷をささげたのだ。

そして、彼は腕に取り付けた謎の装置を見て呟く。

「リアルの力を手に入れてー、
 欲望に飲み込まれた人間は、最後には身を滅ぼすー。」

男はどこか寂しげに呟いた。

そして、1枚のカードを手にする。

そこには、謎の女性の絵柄ー。

しかし、その絵柄は白黒になっており、
女性の一部分にだけ色がついていた。

「もうすぐだよ…”サラ”…」

男は呟いた。
”リアル”の欲望に飲み込まれた人間が
カードの力で最後に死ぬ瞬間、
人間は”後悔”するー。

その後悔がエネルギーを生み、
このカードに注ぎ込まれる。

そして、このカードにエネルギーがたまったとき…

彼は”そのとき”のことを思い浮かべて、
その場から立ち去っていった…

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

最後は
”遊〇王”っぽくよく分からないテイストで(笑)

リアル化の力とは何なのでしょう?

・・・と、いうよりあまり憑依ではないような気がしますが
変身や洗脳要素もあるので、TSFではあると思います(汗)

コメント

  1. 柊菜緒 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    圧倒的独裁感( ˘ω˘ )b

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > 圧倒的独裁感( ˘ω˘ )b

    力を持つと…こうなりますよね?きっと…

  3. 葉月 より:

    葵がアロマージージャスミンに変わったところに魔法少女っぽさを感じさせる

    こういう変身ヒロインっぽいネタいいよね
    外見年齢が若返るようなのも好きだけど

    • 無名 より:

      コメントありがとうございます~!

      こんな感じの作品もまた機会があれば書いてみようと思います~!