彼女と妹。
助け出せるのはどちらか一人だけ。
選ばなかった方は、体を永遠に奪われる。
そしてー5分以内に決断できなければ、
”両方”が奪われるー。
追い詰められた彼の決断はー?
-------------------------—
「今日は、楽しかったね…」
付き合い始めて1か月ちょっとの彼女、
響 千穂。
クリスマスの日に
イルミネーションを見に来ていた二人は
幸せな時間の終わりに名残惜しさを感じていた。
「あぁ、、本当に楽しかった」
彼氏の堂島 博康は言う。
本当に、
こんな時間が永遠に続けばいいのにー。
そうも思った。
千穂が優しく博康の方を見て言う。
「私ねー。
彼氏が出来たの、生まれて初めてなの」
千穂は笑う。
「--博康君みたいな人で本当に良かった。
毎日が嘘みたいに楽しい!」
メガネがトレードマークの千穂の笑顔は
魅力的だった。
”いつまでも守りたい”
そう思えた。
「--だから、いつまでも一緒に居ようね」
千穂が言う。
博康は千穂を抱き寄せ、
囁いた
「あぁ、約束するー。
来年もまた、一緒にここに来よう。」
イルミネーションが幻想的に光り輝く
その空間で、
二人は誓った。
”来年もまた一緒に来よう” とーー。
二人は、博康の幼馴染、璃乃にいつもよく
からかわれていたー。
それほどまでに仲良しだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「千穂…」
秋特有の虫が鳴き出している。
千穂は、笑みを浮かべながらこちらを見ている。
ただしー
あの時のような優しい笑顔では無いー。
博康を心底馬鹿にしたような笑みで
千穂はこちらを見ているー。
”千穂―。
必ず、、必ず助けてやるからー。
お前を、、、好き勝手にはさせないからー”
「はぁ…あと3分よ。博康君。
いい加減に決めたら?」
千穂が呆れた様子で言う。
そして、柱に縛り付けた博康の妹、春奈の方を見た
「う~ん、やっぱり春奈ちゃんって
可愛いよねぇ!
まだ、中学生だもんね」
千穂が嫌らしい笑みを浮かべて春奈を見る。
「ねぇ…もう、、、やめて…
響さん、、お願いだから、目を覚まして!」
春奈が言う。
しかし千穂はだらしなく口元をゆがめながら笑う。
制服姿の女子高生が決して、
浮かべるはずのないイヤらしい表情…。
そして、千穂は春奈の頬を舌で舐めはじめた
「んふっ…
春奈ちゃん、かわいすぎるよ…
お姉ちゃん、興奮しちゃった♡」
甘い声を出しながら春奈を舌で舐める千穂。
「うふっ・・・
たまんねぇなこりゃ…
…春奈ちゃんの体をくれるんでも
全然いいや、、
最初は千穂、、ううん、私の体で
遊びたいって思ってたけど」
千穂の唾液が春奈の頬につき、
それが下に滴り落ちていく。
「---もうやめろ!」
博康が叫んだ。
「--ーーあら?
もう、決断した?あと2分よ」
千穂が春奈から手を離して振り返る。
「--千穂、聞いてくれ」
博康はまっすぐ千穂を見つめながら言う。
「---」
千穂は黙って博康の方を見る。
「俺、、、千穂に告白してOKを貰った時
本当にうれしかった。
心臓が飛び出そうなぐらい…。」
博康は千穂の反応を見ながら続ける
「俺さー、千穂にウソついてた。
前に彼女が居たって言ったけどさ、
実は俺も千穂が初めての彼女だった。
…つい、見栄はっちゃってさ…
千穂を前の彼女と比べる様な
意地悪な発言もしちゃったけど…
本当は千穂が初めての彼女だった」
博康の語りに、千穂は失笑する
「あっそ、だから?
早く選んだら?」
だが、博康は無視して続けた。
「---千穂、俺はお前が本当に好きだ。
心からー。
お前のいない生活なんて考えられない!
お願いだ千穂!目を覚ましてくれ!」
嘆願するような叫び。
だがー。
「い・や・だ!」
千穂はそう言うと、制服のスカートを笑いながら
脱ぎ捨てた。
「あっはははは♡
超興奮するんだけど!
大好きな彼氏が、嬉しいこと言ってんのに、
わたしったら、こ~んなところでスカート
脱ぎ捨てて、完全にヘンタイね!
はっははははは!」
博康の想いはーー
千穂には届かなかった。
今の千穂はーー
「さ、あと1分よ」
千穂が上の服も脱ぎ捨てて、
下着姿になって挑発的なポーズをとる
「--んふふ…
こわされちゃうのはわたしかな?
それとも、春奈ちゃんかな~?」
ーーくそっ!どうすれば…
「---お兄ちゃん!」
妹の春奈が叫ぶ。
「もういいよ…お兄ちゃん…」
春奈が悲しそうに言う。
「---え?」
博康が不思議そうに聞き返す。
「---私、お兄ちゃんのことが昔から
ずっと大好きだった。
あ、変な意味じゃなくてお兄ちゃんとしてね?
でも…今のお兄ちゃんの言葉を聞いてたら……」
春奈が涙を流す
「お兄ちゃんーー
響さんを助けてあげてー。
わたしの事はいいからー」
春奈は言った。
彼女の千穂を助けてあげてーと。
今の博康の千穂への言葉を聞いた春奈の・・・、
”大好きなお兄ちゃん”にできる精一杯のこと。。
それが、兄の背中を後押しすることだった。
「--は、、、春奈!
ダメだ!それじゃあお前は!」
博康は叫ぶ。
博康にとって、春奈は大切な妹だった。
いつも一緒で、
時には喧嘩もするけれどもー
千穂とはまた違う、大切な存在。
「---お兄ちゃん…
わたし、お兄ちゃんのこと、いつまでも大好きだからー」
春奈がほほ笑む。
「私がどんなになっても、
大好きだからー。
お母さんの事も、大好きだからー」
春奈が涙を流す。
「--春奈ーーーー」
”父”は数年前に病気で世を去っている。
博康はその時の事を思い出す。
病室に力なく横たわる父。
危篤だと聞かされ、中学校を早退して駆け付けた病室。
父は、最後の最後で目を覚ました。
ベットの横で涙ぐむ博康と春奈を見て
弱り切った父は優しく微笑んだ。
「ーーー博康…
春奈を、、、春奈を頼んだぞーーー」
それが、父の最後の言葉だった。
ーーそうだ、、、
自分は、兄として春奈を守らなくちゃいけない。
「あと20秒~~~~!」
千穂の叫び声で我に返った。
!!!!!!!!!
「ホラ、早くしなさいよ!
0秒になったら、千穂の体で、春奈を殺す。
そして、わたしはめっちゃくちゃに
人生壊されちゃうのよ~
あはははははっ!」
「---や、、やめてくれ!千穂!」
だが、もはや言葉は意味をなさない。
「お兄ちゃん!早く!響さんを助けてあげて!」
春奈が泣き叫ぶ。
”いつまでも、一緒にいようね”
ーーーー千穂。
俺は、、俺はいつまでもお前を守りたいーー
”---お兄ちゃん…
わたし、お兄ちゃんのこと、いつまでも大好きだからー”
ーーーー春奈。…父さん…
俺は、、、、どうすればいいんだ。
選べないーーー
選べないーーーー
選べるわけがないーーー
「あと10秒~~~!」
千穂が叫ぶ。
「アンタばっかじゃないの!
二人とも、失うのよ!
それでもいいの!?
あっはははははは!
超ウケる~~~!」
やめろやめろやめろ!
博康の脳裏をさまざまな記憶が過る。
千穂に告白した時のこと。
父から妹を託された時のこと。
千穂とイルミネーションを見に行ったときのこと。
妹と喧嘩したけれど、互いに落ち着いて謝ったときのことー。
全てが大切な思い出。
選べないーーー
「あと5秒ー!」
選べない でも選ばなくちゃ
千穂を?春奈を?
どっちを???
選べるわけがない
でも俺が叫ばなきゃ
二人とも
どうしたらいい?
選べないー
選べないよー
誰か、誰か、誰か
助けてくれー。
選べない選べない選べない選べない
でもでもでも
選ばないと二人とも…
博康は錯乱状態で名を叫ぼうとした。
「ーーーーーーーち」
「お兄ちゃん!!!!」
春奈の叫び声が聞こえた。
そして、博康は無意識で叫んだ
「春奈ーーーーーーーーーーーーー!」と。
場が静寂に包まれた。
「----え…お、、、お兄ちゃん…?」
妹の春奈が唖然とした表情で言う。
千穂は服を着ながら笑った。
「---それが、あなたの答えね。
じゃ、千穂の体は貰っていくから」
博康は涙を流してうずくまっていた。
「違うーーー
違うーーーー。
俺は、二人とも、二人ともーー」
最初、博康は錯乱状態で「千穂」と叫ぼうとしていた。
だが、春奈の声が聞こえて「春奈」と叫んだ。
春奈より千穂の方を優先しようとしていた。
その事実も、博康には大きな罪悪感として
のしかかっていた
「---最後に」
そう言うと、千穂がふっと、体のバランスを崩した。
「----あれ…わたし…」
千穂が正気を取り戻した
「ち、、千穂!」
博康が叫ぶ。
「--なに、、、なにここ・・・???
どういうことなの???」
メガネの下の瞳が優しく輝いている。
いつもの千穂だ。
しかし、、すぐに千穂は邪悪な笑みを浮かべた。
「15秒ー。
15秒後に私は千穂の体を完全に乗っ取る。
最後にお別れの挨拶、させてあげる」
憑依している人物が、千穂の口で言う。
「---や、、、やめてくれ!」
博康が叫ぶ
千穂は混乱した状態でパニックになっている
「えーー、、ね、、ねぇ!どういうこと!?
え、、、か、、体が思うように動かない!
た、、助けて!助けて博康君!」
泣き叫ぶようにして言う千穂ー。
「-千穂ーーー、、、
千穂、、、ごめん、、、俺を、、俺を許してくれ!」
助けられないー
そう悟った博康は泣きながら謝罪の言葉を口にした
「---ひ、、、博康くん…?」
千穂が訳の分からないまま、絶望の表情を浮かべる
そしてーー
意識が無くなる直前、状況を理解できないまま、
千穂は優しく叫んだー。
「博康君ーーー
わたし、、あなたのこと、、、
いつまでも”大好き”だからーーーーー」
千穂の目から涙が零れ落ちたーーー
そして…
「はい、終了~
千穂ちゃんの意識は、、完全に封印しちゃいました!
えへっ♡」
博康は地面に手をつき、
泣き叫んでいる。
「ーーー最後の最後まで、泣かせてくれたね!あははっ!
え~っと、じゃあ、これからわたし、千穂として
生きていくから、ばいばい!」
博康に手を振り、
縛り付けてある春奈の近くに歩み寄っていく。
「良かったね~春奈ちゃん!
でも、春奈ちゃんのせいで、千穂の人生、奪われちゃった!
あなたは千穂ちゃんを殺したのと同じことよ。」
千穂が泣きじゃくる春奈に顔を近づけて言う。
「わたしは、あなたを許さないー」
そして千穂は笑みを浮かべると
そのまま立ち去って行ってしまった。
「許してくれー。
…どちらか選ばなきゃ、、、二人とも」
博康はいつまでも、いつまでも
その場で泣き続けた。
”彼”は選べなかった。
けれどもー
彼は叫んだー。
一人を助けるためにーーー。
彼は、泣き続けた。
いつまでも、、、いつまでも…
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あれから1か月が経った。
妹の春奈は酷く落ち込んでしまい、
今でもほとんど博康とは口を利かない。
”何で、私を選んだの?”
責める様なことまで言われた。
妹も、どうにもならない状況は理解していると思う。
けれども、心の整理がつかないのだろう。
そして、
博康は、あれから2週間、死んだ目をして
高校に通っていた。
不登校になるわけにはいかない。
けれどー。
授業中にも、急に涙が出てくることもあった。
ーーーあの日以降、
千穂は登校しなかった。
体を乗っ取られて、そのまま退学届を提出し、
退学してしまった。今は行方知れずだ。
そして、クラスメイトの音村 太郎という男が
あの日、急死した。
博康は理解した。
太郎が、千穂に憑依した犯人である…と。
そして、絶望のふちに居た博康を立ち直らせて
くれた存在がいたー
幼馴染でクラスメイトの長尾 璃乃。
いつも憎まれ口をたたき合う間柄の彼女は、
最初は
「なに?千穂ちゃんと喧嘩でもしたの?
千穂ちゃんも急に退学しちゃうし…
まさかアンタが千穂ちゃんを傷つけたの?」
とかいつもの調子だったが、
博康が涙ぐみながら真実を打ち明けると、
璃乃は涙を浮かべながら、
憑依などという非現実的な話にも関わらず、
真剣に話を聞いてくれて、理解してくれた。
そして、璃乃はそれからも、博康の心の傷が
癒えるようにと、いつも博康のそばにいて、
博康を支え続けた。
その流れで、二人は付き合うことになった。
博康の心の傷は、
幼馴染の璃乃の懸命な支えによって、
ちょっとだけ癒えたのだった…。
「---千穂…」
昼休み。千穂が座っていた机を見て呟く博康。
「---博康……
本当につらいよね…。。。」
璃乃も悲しそうに千穂がいた机を見る。
涙を流す博康。
1か月たっても、傷が消えることはない。
そんな博康の手を璃乃は握った
「泣かないのー
男でしょ!
私は、、、どこにも行かないから」
璃乃が悲しそうに自分の手を握るのを見て、
博康は涙を拭き「ごめんごめん」とほほ笑みかけた。
窓の外を見つめる博康。
「---千穂ーーー本当にごめんーーー」
これで何度目だろうか。
千穂に向けて謝るのはー。
博康は決して癒えない心の傷を背負って、
これからの人生を生きていかなくてはならない…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夜。
暗い夜道を長尾 璃乃は一人歩いていた
反対側から、ミニスカート姿の女性がやってくる。
その気配を察して璃乃は足を止めた。
「---久しぶりね」
反対側から現れたのは、乗っ取られた彼女・千穂だった。
その表情は邪悪にゆがんでいる
「あら、太郎君ーー
いえ、千穂ちゃん…
何の用?」
璃乃が愛想なく言う。l
「-いや、長尾さんにお礼してなかったから
一言お礼しておこうと思って」
千穂がそう言うと、
璃乃は笑った。
「別にあんたのためじゃない。
私が持ってた憑依薬をあんたにあげたのはーー
”その女”と博康を別れさせるためー」
璃乃は憎しみの言葉を口にした。
「はは、まぁ、何でもいいんだけどね」
千穂が言う。
「--わたし、ずっと博康が好きだった。
小学生のころからね。
でも、博康は千穂を選んだ。
私は、ずっとずっとずっと、千穂ちゃんが
憎かったの!
博康は、私のものなのに!」
璃乃が言う。
璃乃はー、
幼馴染の博康に好意を抱いていた。
しかし、千穂に先を越されてしまった。
それからは千穂を憎んだ。
そんな時だった。
ネットで璃乃は憑依薬というものを見つけて
半信半疑で購入した。
”どんな副作用があるか分からない”
そこで、クラスの太郎に、憑依薬を提供して、
千穂を乗っ取ってもらい、
千穂と博康の仲を裂き、
失意の博康に優しく近づいて、
自分が博康の彼女になろうとしたのだった。
「ははっ、怖い女だな」
千穂が色っぽい服装でほほ笑む
「ふふっ…」
璃乃は笑った
「ーー彼女にしたいぐらいだよ」
千穂が言うと、
璃乃は首を振った。
「ごめんねー
私、女の子には興味ないから」
璃乃にあっさり振られると千穂は首を振った。
「じゃー、
今日もこの体でひと稼ぎするから
うふふっ…じゃあね」
千穂が笑いながら言う。
璃乃は愛想なく、「そう」とだけ答えた。
去り際、千穂が言う
「そういえばー、
あの時、博康のヤツが、妹を選んでたら、
どうするつもりだったんだ?
別に私はどっちでも良かったけど」
千穂がそう言うと、璃乃は笑った。
「--アイツは、妹を選ぶ。
小学生の頃からずっと一緒だったんだからー。
私には分かるのー。」
璃乃はそう呟いた。
それに、あのときーーー。
「--そっか。じゃ、博康君との楽しい時間、
楽しんでね」
千穂はそう言うと、闇の中へと姿を消した。
璃乃は笑う。
「博康は、私のものー」 と。
そして彼女もまた、暗闇の中に姿を消したー。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
幼馴染の璃乃が、
博康を奪いたくて仕組んだ憑依でした…。
恐ろしい事ですね。。
彼は最後に咄嗟に妹の名を叫びましたが
皆様が彼の立場ならどうしますか?
それでは、
ご覧いただきありがとうございました~!
コメント
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
幼馴染の腹が黒そうと思ったけどやっぱり……
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
> 幼馴染の腹が黒そうと思ったけどやっぱり……
散々に振り回された博康君・千穂カップルが
可愛そうですね。。