<憑依>女王様と働きアリ③ ~俺は王~ (完)

憑依された脳からの指令で
完全に女王と化してしまった葵。

一方、夫の優斗は、
葵の豹変に関わる男を特定したー。

女王様と働きアリ、最終回です!

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「わたしは女王ー
 わたしは女王

 あぁっ…どうして、わたし、こんなに可愛いの♡」

自分の体をギュッと抱きしめる葵。

その顔には興奮の感情がにじみ出ている。

家の中は滅茶苦茶だった。
今の葵には、夫・優斗の態度が許せなかった。

「こんなに可愛い私に…
 女王の私に、なんなのあの態度!」

乱暴に椅子を蹴り飛ばす葵。

優斗が家から出て行ったあと、
葵は家の中を滅茶苦茶にした。

女王である自分のプライドを傷つけられた葵は、
暴れずには居られなかった。

昨日までの葵であれば、
迷いが生じたかもしれないー。

けれどー。
もう、葵は、完全に女王になってしまった。

昨夜、”お前は女王だ”と聞かされ続けた葵は
完全に壊れてしまった。

脳からの指令に従うまま、
何の疑問を感じることもなく、自分は女王であると思いこんだ。
そして、自分の美貌にひたすら興奮する体になってしまった。。

”見事だ。”

脳内に声が響く。

”流石は女王様。
 だが、なぜアイツが従ってくれないと思う?”

脳の男は言う。

「なによ!もったいぶってないで教えなさいよ!」

葵が叫ぶ。

”それはー
 ”王”がいないからだ。

 女王一人ではすべてを支配できない。
 全てを支配するには国王が必要だ。
 分かるか?”

脳の声に葵は不思議そうなカオをすえう

「王ー?」

”そう、そして、
 俺が王だ。

 どうだ?女王様よ。
 王である俺に身をゆだねろ。
 そうすれば、優斗のヤツは、お前にひれ伏す!”

脳からの声に葵が笑った

「あはははは!
 あんたの力を貸してくれるってことね!

 そうよ…
 私は女王!
 舐められたままじゃ、許せないわ!」

葵が叫んだ。

脳内に憑依した男はほくそ笑んだ。

”十分楽しませてもらった。
 優しい君が、徐々に変わっていく姿。

 さて、そろそろ”本格的”に憑依させてもらうよ。

 俺に身をゆだねろ!女王様!”

脳内の声がそう叫んだ瞬間、
葵は、自分の体の自由が奪われていくことに
気付いた

「えっ…なに!
 ちょっと!何よコレ!」

葵がわめく。
体の自由が、”憑依の影響”を脳だけでなく
体にまで広げ始めた男に奪われていく

その危機的状況に葵はパニックになった。

「いや!わ、、私 消えたくない!
 ねぇ、やめて!!!やめ……」

しかし、葵の声はかき消され、葵はその場にうなだれた。

少しして、葵が顔をあげるー。

「うふっ…ついに
 俺がこの女に……
 いえ、私が葵になっちゃった♡」

ドレスから覗く足を見て顔を赤らめる葵。

「さて…そろそろ約束の時間だから、
 行かなくちゃね」

脳だけでなく、体まで奪われた葵は
邪悪にほほ笑んだ…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

夫の優斗は、会社ビルの脇で、
同期の大門を捕まえていた。

「ふほっ!」
怒る優斗を見て笑う大門。

「てめぇ!何がおかしい!
 俺の葵に何をした!」

優斗が叫ぶと、大門が笑う

「ふひひひっ
 ひっひっひっ!
 ひ~ひひひひひっ!」

優斗は怒りにまかせて大門の顔面を
思いきりぶん殴ってやろうかと思った。

だが、すんでのところでそれを抑えた。

「--テメェ!
 葵に、、、葵に何をしたんだ!」

大門が笑い終えると言った

「な~んにもしてねーよ!
 いや、戸崎、お前があんまりにも怒ってるから
 笑えちまってよ!

 どうしたんだよ?奥さんと喧嘩でもしたのか?
 八つ当たりか?お?」

大門が優斗に胸倉をつかまれながら笑う。

フー、フー、と荒い息をしている

「ふざけんな!葵のヤツに
 誰かが何かをしている!

 葵のヤツ、ここ数日、自分は女王だの
 なんだの言い始めて、
 しまいには”私から出て言って”なんて叫んでるんだ!

 お前が何かしたんだろうが!」

優斗が怒鳴ると大門がさらに笑う。

「違うよ~むほほほほ!
 俺は何もしてないって」

「嘘つくんじゃねぇ!」

優斗が大門をつかむ手の力を強めた。

「だったら何故さっき逃げた!?

 何故昨日、女王がどうこう言っていた!?

 なぜあの日、トイレにずっとこもってた!?」

優斗が言うと、大門は首を振った

「トイレはマジだし、
 女王は前日AVでS系のヤツみたからだし、
 逃げたのはお前が鬼みたいなカオしてたからだよ」

大門の言葉に優斗は
”とぼけやがって”と思い、拳に力を込めた。

その時だったー。

「---そのぐらいにしておきなさい」

聞き覚えのある声がして、優斗は振り返った。
そこにはーーー
部長、、猪上部長が立っていた。

「--部長、どうしてここに?」
優斗が言うと、大門がわめいた

「ぶ、部長!コイツ酷いんすよ!
 聞いてくださいよ!
 何らかの処分してくれないとーゆるせな…」

そこまで大門が言うと
部長がポケットから5人の福沢諭吉を取り出し、
大門に握らせた。

「---今の事は忘れろ。いいな」
猪上部長がそういうと、
大門が喜びながら

「フッフォ~!
 今日は帰りに榛名ちゃんフィギュア買いに行くぞ~
 フッフォ~!」

と奇声をあげながらビルの中へと入っていった。

優斗には理解できなかった。

「---さて、戸崎君」
部長が優斗の方を見る。

「これを見たまえ」
部長が液体の入った試験管をかざし、
優斗を見る。

「”分裂憑依薬”
 私がネットで手に入れた薬だ。
 これを使って私は自分の魂の一部を分裂させ、
 分裂した私の魂が
 君の妻、葵の脳に憑依した」

ーー!?

優斗は耳を疑った。
葵の異変は、部長が…?

「-君の妻の脳の中で、私の分身は囁き続けた。
 ”お前は女王だ”
 ”お前の美貌は誰にも負けない” と。

 そしてその結果、葵は女王になった
 フフフ」

部長が表情をゆがめた。

「な…ふざけるな!
 どうしてそんなことを!」

優斗が叫ぶと部長は笑った。

「何故?いつも教えているよな。
 ”上司を立てろ”と。

 私は今年で49だが独身だ。
 その私の前で新婚生活の幸せアピールを君はした。

 大門と毎日、新婚トークをしていた。

 ”君は上司である私を立てなかった”

 だから私はこの薬を使って
 分身を君の妻に憑依させ、
 ”妻を奪うことにした”」

部長が笑った

「葵を、、、奪うー?」
優斗が唖然としていると部長は続けた。

「そう。今頃、君の妻、葵は脳だけでなく
 体も全部、支配されていることだろう。

 身も心も、私の分身に奪われたのだよ。

 そしてーーー」

その時、タクシーが到着して、
タクシーからミニスカート姿の葵が降り立った。

葵は、妖艶にほほ笑んでいる。

「葵!」
優斗は叫ぶが、葵は優斗に見向きもしない。

「--私はな」
部長が口を開いた

「自分の分身を憑依させた君の妻と
 結婚することにしたよー。

 ムフフ…
 葵は君と離婚し、私と結婚する。

 年の差結婚だ…。
 ま、中身は”自分自身”だが、
 世間はそうは思うまい」

部長のズボンが変な形に膨らんでいる。

「このヘンタイが!」
優斗は叫び、葵の方を見た

「おい!葵!葵!
 しっかりしろ!!!」

優斗は叫ぶ。
だが、葵は笑いながら優斗の方を見て言った。

「ごめんね~優斗。
 あ・お・い、体 奪われちゃった♡

 でも安心して、もう女王様ごっこはお終い!」

さっきまでとは様子が違うー。

優斗は”葵が身も心も全部乗っ取られたのだと”悟った。

「よくやった。私の分身よ」
部長が言う。

葵は顔を赤らめて笑う

「--うふふっ♡
 本当に、この体、最高よ!
 
 朝までは脳から指令してるだけで退屈だったけど、
 自分で憑依してみて分かる!

 この体、いえ、、、わたしの体 超エロい!えへへ」

優斗はたまらず声をあげた

「葵!頼む!目を覚ましてくれ!葵!」

だが、葵は優斗を無視した。

「よし、それじゃあ、計画通り、
 結婚しよう。
 これで私も既婚者か…フフフ」

部長が葵に手を差し伸べる。

しかしー
葵はその手を払いのけた

「へー?」
部長が唖然とする

「あのさ…
 何て呼べばいいかな?”もう一人の俺”?
 
 あんた、自分のことなのに全然何も
 わかってないのね?」

葵がバカにしたような笑みを浮かべて部長を見る。

部長の使った憑依薬は、分裂憑依薬。
自分の魂を分離させて相手に憑依させる薬。

つまりは、葵に憑依しているのは部長自身であり、
部長もまた、部長自身なのだ。

しかし…

「どういうことだ?」
部長が言う。

葵は笑った。

「ねぇ!考えてみてよ!
 この顔、この体!この足!
 わたし、すっごい可愛いよね?

 本当に女王様みたいに!」

葵が自分の体をいじりながら言う。

そしてー

「アンタ、自分だったらどうする?
 葵の体を手に入れたのが自分だったら…。

 私だったら、”俺”と結婚するなんてごめんだね」

葵に言われて
部長は考えた。

もしも自分が葵に憑依して、
”自分自身と結婚しろ”と言われたら…

「……ま、まさか・・」

部長は青ざめた。
そうだ…
”俺は自分となんか結婚したくない”

葵は微笑む

「でしょ?自分となんか結婚したくないでしょ。

 私、こ~んなに可愛いんだから、
 アンタなんかじゃ釣り合わないのよ!」

そう言うと、葵が部長を邪魔者を扱うかのように
突き飛ばした。

「あははっ♡
 超最高!
 生まれ変わったみたい!

 ちょっと前まで49のオッサンだった俺が、
 こんなかわいい子になれるなんて

 えへへ~本当たまんないよね~」

葵が自分のスカートの中に手を突っ込みながら
笑う。

「---待て!葵!待ってくれ!
 正気を取り戻してくれ!」

優斗は叫ぶ

だがー。

「優斗!
 わたし、乗っ取られて
 おかしくされちゃった上に、最後には
 体も心もぜ~~~んぶ とられちゃった!

 うふっ!
 でも見て、わたし、今こんなに幸せそうに
 笑ってる!

 優斗言ったよね?
 私の幸せが全てだって!」

挑発的に言う葵に言葉を失って
優斗は膝をついた。

「あおい…」

もう、戦う気力が残っていなかった。
優斗の心は折れてその場にうずくまった

「じゃ、私はこれから、
 葵として生きていくから!
 あ~楽しみ!どんな男も選び放題よね!えへへ!

 若くしてバツイチになる優斗君、
 それに49独身の無様なおっさん…

 二人で傷のなめ合いでもしてなさい!
 あんたたちは、女王の私には釣り合わないから!

 あははは!あ~~ははははははは!」

笑いながら妖艶に歩き、
葵はそのまま姿を消してしまった…

「---……くっそぉぉぉぉぉ!」
優斗は悔しがって地面を叩いた。

「---今の事は、忘れてくれ
 私が間違っていた」

自分の分身を憑依させて葵と結婚する、という計画に
失敗した部長は事態をもみ消そうと、
13人の福沢諭吉を内ポケットから取り出して
優斗に渡した。

そして部長は会社内へと戻っていく。

優斗は13人の諭吉を握りながら
唇を噛みしめた。

ーーー許さない

幸せな新婚生活を奪った部長をーー

ーーオレハゼッタイニユルサナイーーー。

そして、
その1週間後、
猪上部長の刺殺体が路上で見つかったのだった…。

おわり

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コメント

分身に憑依させる…
危険ですよね。

例え自分の分身であっても
女性に憑依した側の方が
有頂天になって自分自身を裏切る・・・。

そう思って書きました(笑)

なお、大門君は無事にフィギュアを購入できたようです(笑)

コメント

  1. 柊菜緒 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    大門君の一人勝ちwww

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > 大門君の一人勝ちwww

    大門君www
    彼はラッキーでしたねw

  3. 匿名 より:

    うーん。もし仮に、部長の計画通りに自分の分身と結婚出来ていたとしても、優斗に恨まれて、結局、最終的には殺される事には違いなさそうですよね。