<憑依>女王様と働きアリ② ~私は女王~

自分の”脳”が何者かに憑依された葵は、
次第に変わって行く。

脳からの指令に従い、自分は女王だと思い込み、
次第に愛しているハズの夫に、
辛辣な態度を取るようになる。

そう、私は女王なのだからー。

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「・・・・・わたし…」
戸惑いながら出かけて行った夫の優斗を
見送った後、妻の葵は一人、リビングの机で考えていた。

「優斗…すごく悲しそうだった」
夫の優斗の悲しそうな表情を見て、我に返った葵は、
自分の行動を悔いた。

どうして、あんなことしてしまったのだろうか。

自分の足を優斗に見せつけて、自分は何をしたかったのだろうー。
確かに、”わたしは綺麗だし、美人だ”

”この美貌は誰にも負けない”

けれどー。
優斗はいつも私にやさしくしてくれる。

今更、私のことをそんなに褒めさせなくたって
別に良いはずなのに…。

「ちょっと!何よ!
 もっと褒めなさいよ!」

カッとなって、食器を放り投げたりしてー、
自分は一体どうしてしまったのかー。

葵は、自分の行動に違和感を感じて
頭を抱えた。

”よかったぜー”

脳から声が響く

「・・・・・」
葵は、脳の声に対して反論することを忘れていた。

昨日はとても違和感を感じたけれど、
今は、この声が自分の声のように聞こえる。

”何 浮かない顔してるんだ!
 働きアリのアイツが悲しそうな顔してたって
 どうでもいいことじゃねぇか”

”女王であるお前を立てないアイツが悪いんだ”

”自分の姿を良く見てみな ”女王様” ”

脳内の声に言われて、
葵は自分の姿を鏡で見る。

彼女はまだ22歳。

今が一番きれいな時だ。

「きれい・・・」
鏡を見て、自分の姿に葵は顔を赤らめた。

彼女は本来、自分の容姿を推すような
人間ではない。

しかし、脳に憑依した男に、
思考が徐々に浸食されたいた。

ショートパンチから見える足を見ながら
葵はうっとりとした表情を浮かべる

”そうだ!お前は女王なんだ!
 その美貌、誰よりも優れた存在だ!”

脳内の声が言う。

”その美しいお前に、男は跪いて当然なんだ!
 わかるな?
 お前は女王だ、お前は女王だ!”

「……そうよ、、、そうよ!何よ!
 優斗のヤツ!もっと私を褒めなさいよ!
 何よ!あの唖然とした表情は!」

葵が脳からの指令に従って
さらに高飛車な女へと変わって行く

「何よ!私のこの足を見て、あんなことしか言えないの!?
 サイアク!」

葵はそう叫ぶと、乱暴に朝食の後片付けを始めた…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「はぁ…」
優斗が会社で溜息をついていると同期の大門が
近づいていた。

「おっ!今日は元気ないんだなぁ~
 奥さんと喧嘩でもしたのかぁ~?

 あ~羨ましいな~
 あのエロい奥さんと好き放題だなんて」

大門の言葉に優斗は腹を立てた。

だが、そんな気力も無かった。

「今日さー
 葵のヤツ、、、なんか機嫌悪くてさ」

優斗が不安そうに呟くと
大門は笑った

「ははっ!どうしたんだよ
 心優しい妻が
 豹変でもしたのか~?」

大門はさらに続けた

「奥さん、”女王様”にでもなっちゃったのか~?」

笑い続ける大門。

優斗は”この肉団子!”と心の中で毒づいた。

「---大門君。
 そのぐらいにしておきなさい」

猪上部長が、大門を諭す。

大門は「はいは~い」と返事をして仕事に戻る。

コイツ…
新入社員(自分もだが)のクセに
調子こいてやがる…

と優斗は心の中で毒づいた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ただいま」

優斗が帰ると、
肩を見せたトップスとミニスカート姿の葵がソファーに
座って足を組んでいた。

「---」
優斗は食卓を見るが何も用意されていない

「た…ただいま」
優斗が言うと、葵は乱暴にリモコンをソファーに放り投げた

「遅い!いつまで私を待たせるのよ」

ソファーから立ち上がり葵が近づいてくる。

「へ……?
 いつも通りじゃないか?」

優斗が戸惑いながら言うと葵は鋭い視線を優斗に投げつけた

「なに?その口のきき方?
 私に向かってなんなの?」

葵が怒りを露わにしている
腕を組み、睨みようにして優斗を見ている

「な、、、何なのって…???
 そっちこそ何なんだよ…

 俺、何かしたか?
 何かしたなら謝るよ」

優斗が言うと、
葵は突然、優斗の頬を思いっきりビンタした。

「いたっ」
優斗が驚いて葵を見る。

「何よ その口のきき方は!
 私をバカにしてるの!?
 あ~~~~もう、腹立つ!

 私を何だと思ってんのよ!」

葵が怒鳴り声を上げる。

優斗は、普段怒らない葵の突然の怒りに
戸惑い、ひざをついた。

「ご、、ごめん。
 分からないけど…
 何かしたなら、本当にごめん。
 葵、だから機嫌を戻してくれ」

優斗が言うと、
葵は笑った。

「…ねぇ、早くご飯、用意してよね」

不機嫌そうにソファーに戻り、
葵が再び足を組む。

自分の髪の毛を鏡を見ながらいじっている。

「---あ、、、葵??」

優斗は戸惑う。

食事を、、、俺が作るのかーー?と。

勿論、言われれば手伝ったりはする。
けれどー。
何かがおかしい。

優斗は慌てて食材を探し、
とりあえずチャーハンを作った

「あ、、葵、またせてごめん。ホラ、できたよ」
優斗が言うと、
葵はいじっていたスマホを乱暴に放り投げて、
不機嫌そうに食卓の席についた。

「---」
優斗は葵の表情を見る。

いつものような笑顔はない。

”生理前かー?”

優斗はそんな事を考える。
だが、違う気がする。

チャーハンを一口 口に含んだ
葵はチャーハンを床に吐き捨てた

「まっず」
葵が言う。

「えー?」
優斗はショックを受けた。。。

このチャーハンは前にも作ったことがある。

葵が体調を崩したときに…。

「美味しく無くてごめんなー」
当時、優斗はそう言った。

その時、葵は

「ううん、優斗君が作ってくれただけで嬉しいよ…
 本当に、ありがとう」

ととても嬉しそうにしてくれたー

けれど…

「こんなもん、私に食べさせるなんて
 アンタ、おかしいんじゃないの!」

そう言うと、皿をチャーハンごと葵は床に叩きつけた。

「おい!何するんだよ!」
優斗もついに、ありえない態度に
怒りを爆発させてしまう。

「葵!今日のお前変だぞ!
 どうかしたのかよ!?

 何かあったなら言ってくれよ!
 言ってくれなきゃ分からないだろ!?なぁ!」

優斗が言うと、
葵が優斗の前に近づく。

「---」
優斗は沈黙する。
何を言っていいか分からなかった。

「ねぇ…アンタ、こんなに綺麗な私を目の前にして
 何にもいう事無いの?」

葵が言う。

「へーー?」
優斗はあっけにとられた。

「どこまで、バカにするの!?
 ふざけないで!」

葵が優斗をビンタして、
そのまま押し倒した。

そして倒れた優斗を足で踏みつけた。

ミニスカートからはその美脚が惜しげもなく
披露されている

「ねぇ、アンタ何様!?
 もっと私を立てなさいよ!」

そう言いながら何度も優斗を踏みつける葵。

「ねぇ!調子に乗るのもいい加減にしなさいよ!
 私は女王なのよ!?

 女王に対しての礼儀をわきまえろ!」

葵が乱暴に言って、
優斗を踏みにじる。

そして自分の胸を触りながら笑う

「うふっ…♡
 いつ見ても、私の体、綺麗!
 とってもかわいい!

 どうしてこんなに可愛いのかしら♡」

葵が自分の姿を鏡で見ながらうっとりしている。

「---葵…」
優斗は葵の様子が”普通じゃない”ことに気づく。

どう考えてもおかしい、と。

「あっ…、、、自分で興奮しちゃうなんて…」
葵の足にイヤらしい液体が垂れてきている。

「葵…どうしたんだよ!葵!葵!
 しっかりしろ!」

優斗は葵の足を振りほどいて
葵の方をゆすった。

しかし、葵は、優斗をグーで殴りつけた

「アリの分際で私と対等のつもりなの?
 ふざけないで!!!

 アンタは私に尽くせばいいの!
 私は女王なのよ!
 そう、私は女王!」

狂った葵の様子に、優斗の目からは
涙が流れ出たー。

「あおいーーー」

その様子を見た葵の表情が曇る

「---優斗……」

動揺した様子の葵がさらに続けた

「………ご、、、、ごめん。。。
 ちょっとやりすぎちゃった……

 わ、、、私は女王だけど…
 でも、、、私、優斗のこと…」

目が泳いでいる

その様子に優斗は混乱する

「ご…ごめん…
 も、、、もう休むから!」

そう言うと、葵は自分の部屋に閉じこもってしまった。。

「葵ーー?」
優斗が痛む体を抑えながらその名を呟き、立ち上がった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

自分の手にできた打撲を見つめる葵。

優斗を殴った時にできた打撲だ。

「---わたし、どうかしてる…」

”してないさ”

脳内の声が再び響いた。

”女王に従わないアイツが悪い”

”わたしは女王ー”
”わたしは女王ー”
”わたしは女王ー”

囁くように脳内の声が言う

「---いやっ!!!!!
 わ、、私は可愛くて、美人で、、、
 ……優斗は、、私に従うべきだけど!!

 でも、、優斗が悲しんでるのだけは…
 優斗の悲しむ顔だけは!」

葵が叫ぶと、
脳内の声が怒鳴り声を上げた。

”つべこべ うっせぇんだよ!”

「----ヒッ」
葵が弱気な表情を浮かべる

”お前は女王 お前は女王 お前は女王 お前は女王
 お前は女王 お前は女王 お前は女王 お前は女王
 お前は女王 お前は女王 お前は女王 お前は女王
 お前は女王 お前は女王 お前は女王 お前は女王
 お前は女王 お前は女王 お前は女王 お前は女王
 お前は女王 お前は女王 お前は女王 お前は女王
 お前は女王 お前は女王 お前は女王 お前は女王”

脳内の声が呪文のように早口で唱え始めた

「いやぁ…やめて…」

”じょおうじょおうじょおうじょおうじょおう
 したがわないやつはころしてでもしたがうべきだ”

脳内に早回しの如く、再生される謎の声。

「いやああああああっ!
 私から 出ていってぇ!」

葵は叫び声を上げてその場に蹲った。

そしてーーー
彼女は一晩、脳内からの声に苦しみ続けた…

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌朝。

優斗は聞いてしまった。
昨日夜、自分で葵が悲鳴をあげていたのを。

”私から出て言って”と。

葵に何かが起きている。

ガチャ

部屋から出てきた葵は、昨日よりもさらに派手な服装をしていた。
パーティ用のドレスを身にまとい、微笑んでいる

「ーーーどうしたの?
 私にいう事は?」

葵が笑う。
だが、優斗は首を振った

「---葵、、俺がお前を助けるから」
優斗には思い当たる節があった。

昨日の朝ー

「奥さん、”女王様”にでもなっちゃったのか~?」

同期の肉だるま、大門がやたらとその話をしていたー。

大門のあの発言はどう考えても、オカシイ。
アイツがー
葵に何かしたんだ! と。

「助ける!?
 分をわきまえなさいよ!
 何様なのアンタ!」

机を乱暴になぎ倒しながらキッチンから包丁を取り出す葵。

「アンタ、絶対に許せない!
 私に屈服させてやる!」

ヒステリーに喚く葵。

優斗は身の危険を感じて
そのまま家から飛び出して
会社に向かって走って行った。

会社についた優斗は、入り口で大門を待ち伏せした。

そしてーー。
ニヤついた顔で大門がやってきた。

「テメェ…」
優斗が大門を睨むと、大門は慌てて逃げ出した。

しかし、大門は体格上、足が遅い。

会社の建物の脇で、大門を捕まえると、
優斗は壁に大門を叩きつけた。

「テメェ!葵に何をした!」

優斗が叫ぶと、大門はにやりと笑みを浮かべた。

③へ続く

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コメント

次回が最終回です!
最終回では……いえ、明日のお楽しみにしましょう!

コメント

  1. 柊菜緒 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    これからどうなってしまうのか……

  2. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > これからどうなってしまうのか……

    ああなってしまうのです(笑)
    ムフフ…(?)