<憑依>女王様と働きアリ① ~お前は女王~

とある大学生カップルは、
大学を卒業して、そのまま結婚した。

二人は幸せだった。

心優しく穏やかな新妻と、
頼り甲斐のある夫。

幸せな家庭だった。

そう、あの日まではー。

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とある家庭では、
今日も、穏やかな時間が流れていた。

「そろそろ行かなきゃな」
男、戸崎優斗(とさきゆうと)が言う。

「うん、今日も頑張ってね」
可愛らしく微笑むのは妻の
戸崎 葵(とさき あおい)

二人は大学時代に出会い、意気投合。
そのまま付き合いを続けて大学卒業後に結婚したのだった。

新社会人として優斗は、
忙しい日々を送っていた。

そして数か月がたち、
大分仕事にも、新婚生活にも慣れてきたころだった。

「あ、やばっ!思ったより時間がなくなってきた!」
優斗が慌てて朝食に使っていた食器を片づけようとする。

そんな様子を見て、葵は優しく微笑む

「大丈夫。私がやっておくから。」

その言葉を聞き、
優斗は申し訳なさそうにしながら
「ありがとう」と伝え、そのまま会社に行く準備を始めた。

二人は、本当に仲睦まじい新婚夫婦だった。

葵は穏やかで心優しく、
優斗も気配りのできる青年だ。

10年、20年と今後も二人は
愛を育んでいくのだろうー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

会社についた優斗は同期の巨漢・大門正晴(だいもん まさはる)に
声をかけられた

「今日も奥さんとイチャイチャしてきたのか~?」
同期の大門は、話はおもしろいのだが、
いかんせん太りすぎていて、しかも
結構エロいので、モテナイ。

新婚夫婦である優斗のことをねたみからか
よく茶化していた。

「いやいや、朝からイチャついたりしないよ」
優斗が愛想笑いを浮かべて言うと、
大門はニヤッと笑みを浮かべた

「ふっふ~じゃあ、夜はするんだな。
 やべっ興奮してきたぞ!

 お前の奥さん、美人さんだもんな~」

優斗の妻、葵は
大学時代もミスコンテストに入賞するぐらい、
美人ではあった。

「--ふほっ!想像しただけで
 たまんねぇな」

気持ち悪い笑みを浮かべながら一人
顔を赤らめる大門。

そんな様子を見て部長が口を開いた

「大門ー
 朝からなんて会話をしてるんだ?」

部長にとがめられ、
他の女子社員が含み笑いをするなか、
大門は顔を赤らめて静かになった。

「---ま、新婚の新鮮さもそのうち
 懐かしくなるから、今のうちに楽しんでおけよ」

部長が年配者らしいアドバイスを優斗にした。

優斗は「はい」と答えて、
いつものように仕事を始めるのだった。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

自宅

「今日はカレーかなぁ…
 優斗、カレー好きだし!」

葵が晩御飯を考えて、
試行錯誤している。

最初は共働きの道を選ぼうと思ったが、
優斗の強い希望によって
葵は自宅でちょっとした内職をする以外は
専業主婦として毎日を過ごしている。

「カレー♪」

ニコニコしながら冷蔵庫をあさり、
カレーの素材を出していく葵。

その時だったー

突然、頭に鋭い傷みが走る。

「いたっ!」
思わずしゃがみこむ葵。

「な…なんなの…」
頭の痛みがさらに激しくなる。

「うっ…あっ………」
思わず苦しみの声をあげて
その場にうずくまる葵。

しかし、痛みは次第に消えて行った。

「はぁ…なんだったんだろ?」
葵は疑問に思いながら再びカレーの準備を始める。

”葵ちゃんだっけ?”

突然頭の中に声が響く

「へーー?」
葵が不思議そうな顔をして振り返る。
しかし、そこには誰もいない。

”へへっ…無駄無駄。
 俺さ、君の”脳”にたった今、
 憑依したんだよね。”

「な…何を言ってるの?」
葵が恐怖を表情に浮かべる。

脳に憑依したとはどういうことか?

”フフッ
 これからは俺が君の脳ってことさ。

 全てを支配することもできるけれど…
 脳を俺がコントロールして、君を少しずつ
 変えていくのも面白い”

「---な、、、なに?
 で、出てって!」

葵が叫ぶと脳の声は笑った

”イヤだね。
 それより君、ずいぶん優斗君に
 尽くしてるそうじゃないか。

 そんなに可愛いのにもったいない”

「……わ、私は
 優斗の笑顔が見れればそれでいいの!
 それが私の幸せだから!」

葵はためらいもなくそう叫んだ。
優斗への愛は本物。

しかし、脳の声は葵に告げた

”そうだな-。
 心優しい若き妻が、
 夫を虐げる”女王”に変わっていく様を
 見せてもらうとするかな。

 ”優斗のやつ”がどんな顔をするか楽しみだ”

「えーー?」
葵はその言葉に疑問を感じる

”優斗のやつー?”

優斗の事を知っている人なのだろうか。

”お前は今日から女王になる。
 お前だって疲れるだろ?
 毎日夫に尽くすのは”

「な、何言ってるの!?
 私は、優斗君が笑ってくれれば
 それで幸せなの!」

葵が怒りっぽく言うと、
脳内の声は笑った

”ハハハ!怒ったところも可愛いな!
 
 さて、これからは俺が脳だ。
 君はいつまで耐えられるかな?”

そこまで言うと、脳内の声が
暗示をかけるかのように呟き始めた

”お前は、女王だー”

”お前は、女王だー”

”優斗を、しもべとして従えるー”

”女王だー、女王だー”

「う…うるさいなぁ!出てって!」

そう叫ぶと、葵は顔をしかめたまま
カレーの準備を再開した。。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

会社。

優斗は勤務時間を終えて帰る準備をしていた。

「そーいや、今日、大門のヤツ、昼からずっと
 いなかったな」

巨漢の同期・大門が昼から見当たらない。

そう思っていると大門がトイレから出てきた

「ふ~、今日ずっと腹痛くてさ~」
大門が笑う。

優斗は呆れ顔で
「お前・・・昼からずっとトイレに?」と尋ねると
大門が「悪いか?」と悪びれる様子も無く言った。

「--いや」
優斗は関わるのが面倒だと判断して
そのまま会社を後にした。

帰宅。

帰宅すると良いニオイが漂ってきた。

「あ、おかえり優斗!」
葵が笑顔で優斗を出迎える。

優斗の着ていたスーツを葵が片づけてくれる。
優斗は申し訳ないな、と思いつつそれに甘えていた。

「今日は優斗の大好きなカレーだよ♡」
葵が嬉しそうに言う。

優斗も疲れが吹き飛ぶような感覚を覚えて
笑みを浮かべた。

「美味しそうだな…疲れも吹き飛ぶよ。

 大学時代の学食のカレーなんかより
 全然、葵のカレーの方がおいしいよ」

優斗が褒めると、
葵が顔を赤らめて「嬉しい~」と笑う

「---」

そんな葵の頭には声が響いていた。

”もっと褒めろー”

”もっと褒めさせろー”

”奴はお前のしもべ”

”お前は女王なんだ もっと褒められて当然”

葵は少し笑みを浮かべると口を開いた

「でもー、もっと褒めて欲しいな」
葵がそう口走った。
その声には不満そうな感情が込められていた。

「えー?」
優斗が不思議そうに葵を見つめると
葵はすぐに

「え?あ、ううん、なんでもないよ!」
と笑った。

それからはいつも通り。
二人で美味しくカレーを食べながら
二人で楽しく話をした。

いつもの日常だった。

「---あのさ…優斗…」
葵が言う。

葵は…
昼間から脳内に響く声で、
かなり疲労が蓄積されていた。

”脳に憑依した”とは何なのか。

病気か何かだろうか。
優斗に相談した方が良い…

葵はそう思った

「優斗、私ね…」
葵が言うと、優斗は真剣な表情で葵を見た。

しかしー-

”このことは誰にも言うな!”

”下僕に教える必要なんてない!

”お前は女王なんだ!女王としての自覚を持て!

”アリに物事を教える人間がいるのか?”

脳内の声が葵を怒鳴りつけた。

「そうーーーそうね」
葵がうつろな目でそう呟くと口を閉ざした。

「---話って?」
優斗が、口を閉ざした葵を不審に思い、
続きを促す。

しかし、葵は笑いながら
「ううん、私だけの秘密!」と
可愛らしく微笑んだ…。

「あ、そうだ…ちょっと私、疲れちゃったから
 後片付けお願いできる?」

葵が言った。

優斗は一瞬「?」と思う。
いつも、晩御飯の片づけは葵が進んでしてくれる。
手伝うことはあるけれども…

頼まれたのは初めてだった。

「うん?あぁ、いいよ!
 たまにはゆっくり休みなよ」

優斗がそう言うと、
葵は微笑んだ。

「さすが、私の”アリさん”」

そして、葵は微笑みながら
2階へと上がっていった。

「---アリ?なんだそれ?」
優斗は笑いながら食器を洗い始めた…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

部屋に戻った葵は、
動揺していた

「わ…私・・・今…」
その表情には恐怖が浮かんでいる

”へへっ、いい調子だ。
 お前は女王様なんだからな”

「--わ、、、わたしが女王様…?」

葵がうつろな目でそう呟く

”そうだよ!
 昼からもう何百回もいっただろ!
 お前は女王なんだよ!

 全ての男はお前のしもべだ!
 優斗もな!”

脳の思考がさえぎられる。
脳が”女王になりたい”と叫んでいる。

脳が憑依されたからー
考えがおかしくなっている…?

葵は頭を押さえながら苦しむ。

”お前は女王だー。
 お前には生まれ持った美貌があるんだからよ
 それをもっと使えよ”

「--い、、イヤ!
 もう出てって!
 私をどうするつもりなの!?

 私の生き方は私が決めるの!!!」

葵は涙ぐみながら叫ぶ。

だがー。

”そう、生き方はお前が決めるんだよ。
 でもな、人間の思考は脳が決める。

 どういう意味か分かるよな?”

葵は目に涙を浮かべる。

”お前は女王ー

 いや、
 ”私”は女王
 私は女王ー
 私は女王ー”

葵が頭を抱えるようにしてうずくまる。

「わーー私は、優斗がーーー。

 優斗の幸せがー」

だが、何を言っても脳からの声は止まない。

”わたしは女王ー”

”わたしは女王ー”

「---わ、、、私はーーー
 優斗をーーーし……
 しもべに…したい」

頭を抱えていた葵がそう呟いた

”そうだ!いいぞ!
 お前は女王だ!

 ホラ、いい加減 くだらない理性なんか捨てちまえ!
 その美貌を惜しみなく披露しろ!
 ヤツをしもべにしろ!

 オマハジョオウダ”

脳に憑依している男が、
憑依レベルを強めた。

そして葵の脳の中の
アドレナリンを爆発させた

「うっああああああっ!

 わ、、、私は…
 そうよ、、私はこんなに可愛いんだもの…」

葵が鏡を見て微笑む。

そしてー

「そうよ!何で私が優斗に尽くさなきゃいけないの!
 尽くすのは優斗のほう!

 妻である私を、いいえ、
 女王である私に優斗は仕えるべきよ!」

 うふふふふふふっ–

脳からの甘い指令に、打ち負けた葵はーー
その日、豹変した。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日朝。

優斗は葵の姿を見て違和感を感じた。

短いショートパンツをはき、
どことなく露出度の高い恰好をしていた。

葵は比較的控えめな格好を好み、
派手な服も持っていたがしまいこんでしまうような
子だった。

「あれ?今日は随分きれいだね」
優斗が言う。

すると葵が笑った。

「ふふっ…私、綺麗だからね…。
 もっともっと、誘惑してやらなくちゃ」

そう言い、足をわざと色っぽく組む葵。

「---ははっ…」
優斗は違和感を感じながら苦笑いする。

すると、葵が突然立ち上がった。

「ちょっと!何よ!
 もっと褒めなさいよ!」

葵が机の食器を優斗に投げつけて激怒したー

「えーー?
 ど、、どうしたんだよ葵」

驚く優斗。

そんな優斗を余所に、葵は優斗の目の前に
自分の足を突き出した。

「ホラ、よく見なさい。
 こういうの、何て言うの?」

足を見せて優斗に問う葵。

「----き、、綺麗だよ 葵」
そう言うと、葵は一瞬不満そうな
表情を浮かべたが、

「ふぅん、ま、合格」とつぶやいて
キッチンの方に歩いて行った。

葵の後姿を見ながら優斗は混乱していた。

「---どうしたんだ…?葵…」

そしてそれが
”女王様”による地獄の家庭の始まりだった。。

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

優斗災難…。
どうなるのでしょうね(笑)

明日は続きを書きますよ^^

コメント

  1. 柊菜緒 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    これはこれで……いいな

  2. K より:

    SECRET: 0
    PASS: c3b99856b55fa5c0200e2fdfd199f518
    個人的に少しずつ変えていくのが大好きなのでこれも本当にいいですね!

  3. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > これはこれで……いいな

    どうせ毎日書くのであれば
    色々なシチュエーション書いたほうが楽しいので
    こんな感じになりました(笑)

  4. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > 個人的に少しずつ変えていくのが大好きなのでこれも本当にいいですね!

    ありがとうございます^^
    毎日書いているので、できるだけ色々なバリエーションを…!

  5. なぬ より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    リクですー
    街で不定期で突発的に発生する憑依空間。幸運か不運かその空間にいた人は自らの肉体から魂が分離されてしまう。その後、早い者勝ちで空っぽの肉体に憑依していき、最後の一人が余った肉体に吸収された瞬間に空間は消滅してしまうというものです。(空間は四、五人程度しか内在できないうえ、外からは認識できない)
    一応いっておきますと、集団入れ替わりに見えるかもしれませんが、集団入れ替わりはランダムなのに対してこれは自発的な相互憑依なので立派な憑依だと思います。
    ここのサイト名をみてたら思いついたので書いてもらえたら嬉しいです!

  6. 無名 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    > リクですー
    > 街で不定期で突発的に発生する憑依空間。幸運か不運かその空間にいた人は自らの肉体から魂が分離されてしまう。その後、早い者勝ちで空っぽの肉体に憑依していき、最後の一人が余った肉体に吸収された瞬間に空間は消滅してしまうというものです。(空間は四、五人程度しか内在できないうえ、外からは認識できない)
    > 一応いっておきますと、集団入れ替わりに見えるかもしれませんが、集団入れ替わりはランダムなのに対してこれは自発的な相互憑依なので立派な憑依だと思います。
    > ここのサイト名をみてたら思いついたので書いてもらえたら嬉しいです!

    ありがとうございます^^
    憑依空間ストックに入れておきます!
    内容が頭で固まった頃に書いてみますね!