「亜優美、お前を助けられないなら、
俺は、、死ぬよ」
それは、父の最後の望みー。
自らの命を懸けて、
娘の亜優美の心に呼びかける父ー。
果たして、その結末はーー?
”ムスメの身代金”完結!
——————————————————
「「あぁーーーー
亜優美、お前を助けられないなら、
俺は、、死ぬよ」
俺は、包丁を自分に向けた。
そうだーー。
死ぬのは怖くない。
”死”よりも怖いのはー
亜優美がーーー
亜優美がこのまま、戻ってこないことーー。
それ以上に怖い事なんて、何もない。
「あはは!バッカじゃないの!
死にたければ勝手に死ねば~?」
亜優美は白髪男の腰かけているソファーまで
歩いて行き、そこに座って足を組んだ。
その表情は、俺をあざ笑うかのような表情だった。
「---ホラ、亜優美。
足を組むときはこうしなさい。
その方が色っぽく見える」
白髪男が笑みを浮かべる。
「え~本当に?
ありがと、お父さん♡」
亜優美が白髪男の言うがままに
足を組み直した。
「----亜優美、聞いてくれ。
俺はお前を失うぐらいなら、命なんて惜しくない。
俺は、自分で自分が情けない。
お前の事を何一つわかってやれなかった。
そして、助けてやることもできなかった。
---だから!」
俺はそこまで言うと、自分の腕に包丁を刺した。
血が飛び散る。
痛み…
そう、激痛が俺を襲った。
だがーー
亜優美が今、味わっている痛みに比べたら、こんな痛みー。
「は、、、アタマおかしいんじゃないの!
うふふふふ…」
亜優美が面白いものを見るかのような目で
俺を見つめる。
「…放っておきなさい亜優美。
人の家に勝手に乗り込んできた男が
勝手に自殺した。
それだけのことだ」
白髪男が言う。
「うん、そうだね♡」
そう言うと、亜優美は嬉しそうに、横に居る、
白髪男にもたれかかった。
その表情は、とても幸せそうだった。
「亜優美ーー
目を覚ませ!俺は死んでもいい!
だから、目を覚ましてくれ!」
俺は必死に呼びかけた。
自分の体を傷つけるのはーー
亜優美に”お前は命より大事なんだ”という
メッセージを伝えるための
命がけの”呼びかけ”
俺は自分の足に包丁を突き刺した。
血が流れる。
息が荒くなるーー
「はぁ…っ はぁっ…亜優美…」
ーーーこのまま、、俺は死ぬのだろうか…
亜優美はもうーーー
変わり果ててしまったのだろうかーー
「-----馬鹿じゃないの」
そう呟く亜優美は、俺の方を凝視していたー。
複雑な表情で。
「---亜優美、、気にすることは無い。
アイツは勝手に」
白髪男がそこまで言って、言葉を止めたーー
俺は激痛に耐えながら亜優美を見たーー。
その表情には動揺が浮かび上がっているーーー
「---何なのよ…もうやめなさいよ!」
亜優美が叫ぶーーー。
「亜優美ーー。
俺はお前の為ならーーー何でもする。
俺の命よりもーーー
お前の事が大事なんだーーー」
俺は声を振り絞るようにして言い放った。
「--いいからやめなさいよ!」
亜優美が感情をあらわにして叫んだ。
先ほどまでとはーー様子が違う。
だがーー
「亜優美!放っておきなさい!」
白髪男が叫んだ。
「-----でも」
亜優美がうろたえた表情で言う。
「---お父さんの言うことが聞けないのか!
放っておきなさい!!!」
白髪男が叫んだ。
俺はーー力を振り絞って立ち上がった。
「---父親は俺だ!
お前は黙ってろ!」
精一杯怒鳴りつけると、白髪男は驚きの表情を浮かべたー。
「亜優美!
これが俺の答えだ!
俺は、自分の命よりも、お前の事が大事だーー
俺にとってお前は宝だ!」
そう叫んで、俺は自分の腹部に包丁を突き立てた。
激痛が走る。
俺は、その場に崩れ落ちたーーー。
これでーーー
これでーーー
亜優美の心に、俺の言葉が届かなければもうーーー。
床にうずくまった俺の前に、
”誰かが”近づいてきたーーー
俺は苦しみながら顔をあげたーーー。
そこにはーー
亜優美の姿があった。
その顔からは、、涙がこぼれていた。
「---もう、、、やめて…」
そう言うと、亜優美は俺の前で座り込んだ。
ふと見ると、
亜優美の目から流れる涙がーー
少し”緑色”に染まっていたーー。
緑色…
「おとうさ~ん、これなんだか分かる?」
最初の日に、憑依された亜優美から見せられた
憑依薬の色を思い出すーー。
緑色ー。
亜優美の思考を塗りつぶしていた悪しきものがーー
亜優美の体内から出て行ったのだろうかーーー。
”汚れ”はすぐなら落ちるーーー。
「ごめんね…ごめんね…
私、どうかしてた…
お父さんは、、、お父さんしか居ないのに…」
亜優美が俺に触れて
涙を流すーーー。
俺はうつろな表情で亜優美を見たーー
そこにはーー
正真正銘のーー
優しさに溢れた亜優美の表情があったー。
「--どうして…私・・・」
泣きじゃくる亜優美の頬に俺は触れた
「いいんだよ…
お前が戻ってきてくれただけで……
それだけで…俺は・・・」
体の痛みが一段と強くなる。。
その様子を見ていた白髪男は
机の上に置いてあった緑色の液体を口にした。
「ふざけるな!
どうして!!!
亜優美の脳の思考は、憑依している間に塗り替えたはずなのにー」
彼には”誤算”があったー。
それは、
短期間で作り出された”偽りの思考”はー
所詮、上から布を被せた状態ー。
父と娘の”強い絆”を前にー
その布はー吹き飛ばされてしまっていた。
「---亜優美ィ!」
白髪男が叫んだ。
俺はうつろな目でそれを見る。
次の瞬間、亜優美が「うっ…!」と声を上げた。
そしてーー
亜優美は笑ったーーー。
あの5日間と同じように。
「おとうさ~ん…
亜優美、もう怒ったよ…」
亜優美が俺を睨みつける。。
また、白髪男が亜優美に憑依したのか…
もう、、体に力が入らない。。
亜優美をたすけてやりたいのに…
亜優美が乱暴に俺を振り払うと、
立ち上がった。
「うふふふふ…
もう、いいや…
アンタを殺して、じっくり時間をかけて
私、生まれ変わるから…。
私は可愛いーー。
私のお父さんはーーあの人」
満面の笑みで、亜優美は白髪男の倒れている体を
指さした。
「あっ…もっと、、もっと、、
エッチな子になるの♡」
うっとりとした表情で亜優美が自分の胸を揉み始めた
「はぁぁ・・♡
目の前で元おとうさんが死にそうなのに、
こんなことさせられちゃってる!
うふふふふふ!興奮する~!」
亜優美が喘ぎながら叫んだ。
「----亜優美を…
亜優美を返してくれ」
俺が、弱った口調でそう言うと、
亜優美は不愉快そうに振り返り、
床に落ちていた 俺が持ってきた包丁を拾った。
そして、その血のついた包丁を舌で舐めた
「うふふ…
そうだ、亜優美がお父さんを殺してあげる。
娘に殺されるおとうさん。
うふふふふ…」
亜優美が包丁を手に俺の方に近づいてきた。
もう…終わりだ…。
もう……
だが…。
いつまでたっても…。
何も起こらなかった。
そしてーー
「わ…たしは…
そんなこと………
したくないの!」
亜優美がそう叫ぶと、包丁を俺とは反対側の方に投げ捨てた。
そして
「私はーーーーーー
お父さんと一緒に居たいのーーー!」
亜優美がそう叫ぶと、
亜優美の口から緑色の液体が飛び出し、
液体は意思を持つかのように、白髪男の方に戻っていった。
「お父さんーーー
死なないで!」
正気を取り戻した亜優美がーー
俺の方に駆け寄った。
もうーーダメかもしれない。
体に力がーー入らない。。
「嫌だ!ねぇ!まだ、親孝行できてないのに、
死んだらイヤ!」
亜優美が泣き叫ぶ。
その声にこたえてやりたいーーー
やっと、やっと、
亜優美と会えたのにーーー
目を覚ました白髪男が机の上に置いてあった
もう一つの容器を手にした。
どんな薬にも人は、抵抗力を身に着ける。
あの”緑色の憑依薬”ではもうダメだ…。
容器の中には「紫色の液体」
それを手に持ち叫んだ。
「しょうがない…
これを使うよ。ウヒヒ…。
憑依定着薬。
この薬で憑依すれば、私は亜優美、お前になれる。
お前の存在は消えて、私が亜優美として
ずっと生きていくんだよ!
私は、娘と一つになる!」
白髪男が叫んだ。
彼の持つ薬はー。
憑依した相手の体を”完全に奪う”もの。
一度憑依されたら最後。
もう、その本人はもとには戻らない。
「----もう、やめてーーー!」
振り向いた亜優美の、
涙を見てーー
その言葉を聞いてーーー
白髪男は手を留めたーー
「もう、、、やめてーーー!」
ーーー亜優美がーーーー
自分の娘に見えたーーー。
よく似た雰囲気の亜優美がーー
白髪男自身の娘にーーー。
娘が、、自分に
「もう、やめてーーー」
そう言っているように感じたーーー。
白髪男は紫の薬を手から落とした。
そして、涙を流したーーー
「-----すまなかった。。許してくれーーーー」
白髪男はーー
亜優美に自分の娘を重ね合わせてーーー
その場にうずくまったーーー。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
薄れていく…
意識が遠のいていく…
「お父さん!お父さん!
救急車呼んだからーー頑張って!!」
その声を最後にーーーーーー
俺の意識は
途切れた。
・・・。
・・・・・・。
・・・・・・・・。
電子音が聞こえる。
ここが地獄か?
白髪男の気持ちは分かる。
自分の娘が、バイト先で酷使され、
そのあげく自殺したとなれば
憎むのも当然だろう。
俺はおごり高ぶっていた。
会社を大きくするためなら多少の犠牲は…と。
娘の亜優美や妻の為、
会社を大きくすることだけを考えてきたーーー
だがーー
俺は、間違っていたーーー。
視界が開けてきたーーー。
そこは、、、病院だった。
「----お父さん」
傍らに、亜優美の姿があった。
高校の制服に身を包み、
心優しい笑みを浮かべた
亜優美の姿がーーー。
「……良かった……」
それだけ言うと、亜優美は涙ぐんで俺の手を握りしめた。
「---……亜優美、、ごめんな…
俺のせいで辛い思いをさせて…」
俺のせいだ。
白髪男の行動も、俺がもっと下の社員やバイトに
気を使っていれば…
だが、亜優美は首を振った
「ううん……大丈夫。
私は大丈夫だよーー。」
亜優美はそう言うと、静かにほほ笑んだ。
「俺ーー間違ってた…。
会社を大きくすることだけを考えてた」
俺がそう呟くと、
亜優美が優しくうなずいた
「うん………
そうだね…。
でも、、私はお父さんの娘だから…
これから一緒に、間違ったところは直して、
傷つけた人たちに謝っていこうよ…
私も頑張って手伝うから!」
---亜優美は優しい。
どこまでもーーー
俺にとって、大切な宝だーー。
あの白髪男には
謝っても、謝りきれない…。
既に、彼の娘はこの世に居ないのだからー。
だが、できる限りのことはしていきたい。
それで、許されることではないけれども…
亜優美と俺は、
久しぶりに心からの会話を楽しんだ。
亜優美はー自分が何をされていたか、
理解し、とても傷ついていたー。
けれども、それでも気丈に振る舞っていた。
亜優美はーーとても強い子だ。
「---じゃあ、おとうさん、また明日も来るからね!」
亜優美が去り際に言う
「あぁ、あんまり無理するなよ!」
俺が言うと、
亜優美は「会いたいから来るの!」とほほ笑んで
病室から立ち去って行った。
「-----ありがとう。。戻ってきてくれてーーー」
俺は、涙を流しながらそう、呟いた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
病室から出た亜優美は、鏡を見ながら微笑んだ。
「----良かった」と呟きながら…。
—————————————–
「今日は嬉しそうね」
登校した亜優美に、親友の美月が言う。
彼女は、亜優美が憑依されている際に
カラオケボックスで酷い目に遭わされた子だー。
「うん。。
色々あったけど…
ごめんね、美月にも迷惑かけたよね…」
亜優美が申し訳なさそうに言うと、
美月も「ううん、親友でしょ」と笑った。
亜優美も微笑み、
ありがと、美月! と笑うー。
「あーーー、
私、先生に提出物出しに行かなきゃ!」
亜優美はそう言って、慌てた様子で
提出書類を持って、教室から飛び出したー。
憑依されていた間、
色々とやることが貯まってしまっていたのだーー。
教室を出た亜優美は
窓の外を見つめてー。
”優しく”微笑んだー。
「……亜優美ったら…なんかもとに戻った感じ…!」
美月が笑う。
憑依から解放された後の亜優美も、どこかおかしいと
美月は感じていた。
当たり前だー。
亜優美の脳はー白髪男によって
上塗りされていたのだからー。
そして、本当の意味で解放された今日、
やっと”いつもの亜優美”が戻ってきたのだった。
美月はーーー
微笑んだーーー。
「----”これからも”よろしくねーー”亜優美”ーー」と。。
・・・・・・・・。
とあるマンションの一室。
床に、、白髪男が倒れていたーー。
その目はーー既に瞳孔が開ききっている。
そしてその手には、
”紫色の液体” 憑依定着薬がわずかに残っている
容器が握られていたーー。
彼は亜優美らが病院に向かった後にーー
その薬を飲んだー。
”彼”はいまーー。
どこにいるのか。
それはーーー
誰にもわからないーーーー
おわり
———————————————————
コメント
ムスメの身代金、完結です!
最後、どうしようか迷いましたがこのようなカタチになりました
話を収束させないといけなかったので憑依シーンは
少し少な目になってしまいましたが…。
最後のシーンは~…
白髪男は、憑依した相手の体を永遠に自分のものにする
”憑依定着薬”を飲んでしまったようです。
その真意は分かりません。
そしてーー彼が今どこにいるのかも…。
”亜優美”に憑依したのかー
それとも”美月”に憑依したのかー。
それともーーーー。
その答えはーーー。
ご覧いただきありがとうございました
コメント
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ハッピーエンドと見せかけて含みのある終わり方最高です!
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> ハッピーエンドと見せかけて含みのある終わり方最高です!
ありがとうございます!
恐らくどちらかが憑依されている…ハズ(汗