妹は天使のような存在だった。
そんな純白な存在に、漆黒が混ざったらーー?
ジョーは狂気に顔をゆがめ、実の妹に”悪の魂”を
投げ込んだ。
そしてこれがーー悪夢の始まりだった。
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ジョーは高級なバーで
ワインーーー
いや、ぶどうジュースをグラスについで飲んでいた。
隣にいる久方ぶりに飲みに来た親友が言う。
「---ジョー、あんたまだ”アレ”やってるのか?」
”アレ”とは”悪の魂”の事だ。
彼、ジョーには死体から人間の悪の部分だけを引き抜くことができる。
抜いたその物体を彼は”悪の魂”と呼んでいる。
そして、ある時、生きている人間に、その悪の魂を吹き込むことができることを
知ったジョーは、
無関係の人間に死体から抜き出した悪の魂を投げ入れて観察するようになった。
その数、今までに99人。
悪の魂を入れられた人々は、みな悪の道へと堕ちた。
もちろん、死者の魂だから、そこに意識はない。
だが、悪の要素が次第に宿主を浸食していき、
”自分の意思”で悪の道へと堕ちてしまう。
最初は、誰でも良かったーーー
単に、人間が悪の誘惑に勝てるのかどうか
試したかったー。
そして、悪を克服できる人を見てみたかったー。
だが次第に、女性に限定して悪の魂を放り込むようになった。
優しくー清らかなー。
そんな女性が悪の道に堕ちていくのが彼には楽しくなってしまっていた。
そして、ついにーー
「なぁーー
アンタは”天使”は”悪魔”になると思うかいー?」
ジョーはグラスを口に運びながら言った。
となりに座る親友の男は、
”ジョーと同じ能力を持つ”人間だった。
職業は同じ検死官。
何故なのだろう。
超常現象が自分たちにこのような力を与えたのだろうか。
「--……あぁ……
どんなに清らかな人間でも道を踏み外すことはある」
高級ワインを口に運びながら親友は言った。
すると、ジョーは笑みを浮かべた。
「--イヤ、、例外もあるー。」
ジョーがマスターに水を頼み、
それを手に持って言う
「---透き通るぐらいまでの綺麗な水」
「この世にいるんだよーー
一人だけなーー。
まるで天使のようでーー
水のようでーー。
彼女の心は透き通っているーー。
どこまでも美しくーー」
親友はゴクリとつばを飲み込んだ。
目の前にいるジョーの目つきが
正気とは思えなかったからだ。
「私の妹ー奥本麻理。
彼女は私にとって、天使でありー
この水のような透き通った存在だったー。
だが、見てみたくはないか?
このピュアな水に…”悪の魂”が混ざったらどうなるかー?」
ジョーはそう言うと、邪悪な笑みを浮かべた。
数々の人間に悪の魂を放り込むうち、
彼自身もまた”悪”に浸食されているのかもしれない
「まさかジョー、妹さんに!」
親友が動揺して立ち上がるとジョーは言った。
「妹はーー麻理は悪の魂なんかに負けないよ。
”純白”は”漆黒”には染まらない」
ジョーは、そう呟いた
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麻理はどんな時でも優しかった。
優しい笑みを浮かべ、
弱きものを助け、動物にも慈悲の笑みを浮かべる。
両親が居なく、すさんでいた兄、つまり俺の事も
見捨てることなく、優しさと愛を持って接してくれた。
そんな麻理は、俺にとっての宝だー。
5歳年下の彼女は今、大学生で、
福祉方面に進もうとしているみたいだ。
優しい彼女らしい道だー。
今日の彼女はセーターにロングスカートという
おしとやかな雰囲気だった。
髪は少し前にあった時よりも長くなったようだ。
「--久しぶりに会って安心した」
麻理が言う。
麻理の笑顔はいつみても眩しいーー。
俺にとっては
まさに”天使”だ。
「…俺もだよ。元気そうで良かった」
・・・。
ジョーは少年のような表情でそう麻理に行った。
孤高に生きる彼も妹の前では一人の少年のような
表情で楽しそうに話す
「私ね、介護施設で働こうと思ってて、
そのために今も色々勉強してるの」
麻理が言うと、
ジョーはうれしそうにうなずいた
「麻理らしいな。。
俺も応援するよ」
そう兄から言われた麻理はうれしそうに
ほほ笑んだ
「じゃ、そろそろ行くね。
またね、お兄ちゃん」
そう言う麻理に「じゃ」と手を振りながら、
ジョーはポケットから取り出した。
”悪の魂”をーーー
これは確かーーー
極悪非道の凶悪犯罪者から取り出した悪の魂ー。
ジョーの手が震えている
額に汗をかくーー
”もし、今までの99人のように麻理が壊れてしまったらー?”
…いや、それはない。
麻理は純白だ…。
純白は闇に染まらない。
「---何より俺は、、、
どうなるのかーーー見たい!」
ジョーは邪悪な笑みを浮かべて妹の麻理に
悪の魂を投げ込んだ
「ひっ…?」
麻理が声をあげて振り返る。
「ん?」
ジョーはとぼけた表情で答えた
「いま、何か 居なかった?」
麻理が不思議そうに聞く
「---いや、何も居ないと思うが」
ジョーが言うと、麻理が
なんだぁ、勘違いか!と笑う。
「--お兄ちゃんが私に熱い視線
送り過ぎなんじゃないの?
…なんてね!」
意地悪そうな笑みを浮かべて麻理は笑う。
そしてー
「じゃあねお兄ちゃん」
「ああーーー
また。」
ジョーは手を振り
去っていく、妹の姿を見つめたーー。
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翌日。
「う~ん 変だなぁ…」
一人暮らしの家で麻理がつぶやく。
「生理かな…」
自分の中で何か違和感を感じる
常に興奮状態にあるかのようなーー
気が立っているかのようなーー
「……はぁ…がんばろ!」
麻理は一人笑い、大学へと向かった。
その日は”いつも通り”だった。
色々な講義を受けたり、
友人と学食を食べたり、
サークル活動に参加したり、
大学内で介護の勉強をしたり。
麻理は”いつもの1日”を終えて帰宅した
「ふぅ~疲れた」
麻理は1日の疲れからか、自宅のソファーに座った。
ーーその時だった。
壁にクモが居るのが見えた。
「---あ、」
麻理がクモを見て、見つけたよ~ と悪戯っぽくつぶやきながら言う。
そして、近くのティッシュを手に取り、
クモを”潰した”
「---あっ… あれ?」
麻理が違和感を覚える
彼女はいつも、クモを室内で見つけると
外へと”逃がして”いた。
麻理は虫もできる限り殺したくないー
そう考える、とても心優しい性格の持ち主だった。
だが、今はーーー?
当たり前のように、蜘蛛を潰した。
それも、壁にしみが残るぐらい力強く。
麻理は、その壁を見ながら首をかしげる。
「いつも逃がすのに、私、今なんで…?」
そう呟くと、首を振り、手を顔の前に合わせて
友達に謝るかのような口調で言った
「クモさんーーごめんなさいっ!
許して!」
そう言うと、壁を綺麗に拭き取り、
彼女は”いつもの生活”へと戻っていった。
その様子を姿を消して、見つめていたジョーは
無言でその様子を見守っていた。
ーーー妹は、必ず悪の魂の影響を受けず、
それを”克服”する-。
何故なら彼女は
天使であり、水のような透き通った存在なのだからーーー。
だがーーー
ジョーの想いとは裏腹に麻理は少しずつ
”浸食”されていた…。
⑨へ続く
コメント
ジョーさ、最初に言ったこと忘れたのかな。
「コーヒーにミルクを混ぜるように水に黒いミルクを混ぜるようなこと」的なことを。
ジョーさん…笑
ジョーさんはよく適当なことを言っていますネ~笑