憑依小説 ”悪の魂” ②

悪の魂を他人に放り込む。

検死官・ジョーは
”戯れ”としてそれを楽しんでいた。

今回のターゲット、西原愛華は果たして、
悪の魂を克服できるのかー。

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死んだ人間から”悪の部分だけ”を取り出すことができる能力。
最初は何の意味も無いと思っていた。

取り出した魂を彼は”悪の魂”と呼んだ。

ある日、その魂を生きている人間にねじ込むことができると
知った彼は、それからあらゆる人間に悪の魂をねじ込んだ。

するとどうだろう。

人々はみんな、悪の魂に浸食されていき、
悪の道へと堕ちて行った。

悪の魂を憑依させられた人間はみな、悪の道へと堕ちてゆくのだ。

だが、あくまでも魂だけだ。
意識を乗っ取られているわけではない。

悪の魂の持ち主、ジョーは待っていた。

悪の魂に侵されることなく、
自分の意思で悪の魂を打ち消すことのできる人間が現れるのをーー。

人は、そこまで弱いモノではないとーーー

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西原 愛華に今のところ変わった様子はない。

ジョーはそう思いながら彼女の様子を”観察”していた。

ジョーには自分の姿を消すことができる能力も備わっていた。
自分が何者かは分からない。
もはや、人間ではないのかもしれない。

だが、そんなことはどうでもいい。

あれから3日。
愛華はいつも通り、優しい笑みを浮かべ、
クラスメイトたちとのかかわりも、授業中も変わった様子が無い。

この娘はーー
ずっと自分が探し求めていた、
悪の魂に浸食されない人間なのかも知れない。

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「また明日~!」

「バイバイ!」

紗枝ちゃんと別れた私はため息をついた

”今日も、何もしでかさなくて良かった”

「・・・どうしたんだろ、、私・・・」

学校ではいつも通り振る舞うようにしている。

でも、何だろう。。
日に日に、衝動が強くなる。

”無防備な財布など盗んでしまえ!”

”いじめられている幼馴染の黒滝くんなんて
 面倒なヤツ、見捨ててしまえ!”

”黒滝くんをいじめている栗本さんのグループ
 なんて脅して黙らせればいい”

そんな心の声が聴こえて来る。

「・・・・・・私、、今までそんな事考えたことも
 無かったのに・・・」

心の叫びが日に日に大きくなる。

今日の昼間も危なかった。
いじめの相談をしてくる黒滝くんと話していると
凄くイライラしてきた。

でも、、黒滝くんは何も悪くない。

私はいつも通りの笑顔を作って、
いつも通り、優しく微笑んで
彼の話を

”聞いてやった”

「----え?
 今、わたし・・・」

思わず口に出してしまう。

いつから”聞いてやった”などと偉そうなことを思える
人間になってしまったのかーーー

自分はーーー

私は家に帰ると、部屋に駆け込んだ

「・・・・・・何なの、、もう。。
 盗んだりとか、暴力とか、、、
 そんなの私は絶対にしないでしょ・・・」

自分で呟いた。

”盗め” ”殴れ” ”見捨てろ”

欲求が爆発しそうだ。

ふと、私なら何をしても疑われない・・・
そんな考えが頭を過った

しかし一瞬で我に返った。

違うでしょ!
ばれるばれないの問題じゃない!

私ったら何考えてるの!

”盗め”

「あーー!!うるさい!!」

私は大声で怒鳴った。

こんな声、、自分でも初めて聞いた・・・。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「むっ・・・」

愛華が一人、自分の部屋で怒鳴ったのを見て
ジョーは何かを感じ取った。

「・・・やはり彼女も・・・。

 彼女の経歴は完璧だった。 
 小学校、中学校、高校。
 どこでも優等生として通っている。
 プライベートにも問題なし。

 その彼女でも、悪の魂には勝てないのか?」

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翌日。

「・・・僕、どうしたらいいのかな?」

昼休み。
黒滝くんがいつものように私に相談してきた。

「・・・・・・・・・」

「・・・?西原さん?どうしたの?」

黒滝くんが私の異変に気付いたのか
悩みの話を切り上げて、私のコトを訪ねてきた。

「・・・・・・え、な、何でもないの。
 気にしないで」

私は・・・
どうしたら・・・。

昨日よりもひどくなってる。
真面目にやってるのがバカらしく思えてきた。。

どうしてーーー?

「でも、西原さん、なんか今日顔色が・・・」

「-----うっさいわね!」

咄嗟に私はカチンときて怒鳴ってしまった。

「えっーーー」

黒滝くんがおびえた表情で後ろに1歩下がる。

私は今ーーー?

急速に私の中で罪悪感が芽生えてきた。

「--ーー・・・ご、、ごめん、、」

私は咄嗟に謝った。
でも、、黒滝くんは怯えている

「・・・ちょ、ちょっと疲れてるのかな私・・・
 ごめんね・・・・・・」

私は無理やり作り笑いを浮かべて足早に立ち去った。

「・・・何なの・・・私は・・・」

わけがわからないーーー
どうしてしまったのーーー?

ーーーーー。。

真面目にやってるのがバカみたい!
なんで私だけいつもいつも、
ニコニコしてなきゃいけないのよ!

今だってそう・・・。

愛華の心は確実に「悪」に浸食されていた。。

その様子を見てジョーはため息をつく。

「彼女もーーーダメだな・・・
 もう見込みはないだろう。

 次のターゲットに移るか・・・」

そう呟き、ジョーは99人目のターゲットに定めた

藤森 彩乃(ふじもり あやの)の写真を見た。

新婚の24歳。
良妻として近所からの評判も良い

「---だが、」

ジョーは今一度 落ち込んだ様子の愛華を見た。

彼は 人を悪の魂で狂わせることに罪悪感を感じてはいない。
だが、その行く末を最後まで見届けること。
これは、礼儀だと考えていた。

「西原愛華ー。
 まだ浸食され尽くしてはいない。

 もう少しだけ、見届けなくてはな」

③へ続く

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憑依<”悪の魂”>

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