男の名はジョー。
彼には不思議な能力があった。
それは遺体から”人の悪い部分のみ”を取り出せる能力。
彼は、取り出したソレを
”悪の魂”と呼んでいたー。
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俺の名はジョー。
仮名だ。
検死官として働いている。
本名?
そんなことはどうでもいい。
大事なのは俺がこれから話すことだ。
俺はある能力を持っている。
それは、死んだ人間から”悪の魂”を取り出すことのできる能力だ。
人間の悪い部分のみを取り出すことのできるこの能力。
最初は「意味のねー能力だな」そんな風に思っていた。
特に意味もなく、検死のついでに悪の魂を取り出し、
自宅でかざっていた。
だが、俺は死者から悪の魂を取り出しているうちに気付いた。
”取り出す”こともできれば”入れる”こともできるのだと。
それ以降、俺には密かな楽しみができた。
真面目な人間に、悪の魂を入れ込んだらどうなるのか?
俺は今までに100人近くの人間に死んだ人間から取り出した
悪の魂をねじ込んできた。
人の悪い心の部分だけを、他の人間に憑依させるのだ。
もちろん、死人の魂だから、そこに意思はない。
ただ、思念として残った”悪意”が入れられた人間を
蝕んでいくのだ。
反応は様々だった
控えめだった性格がねじ曲がり、暴力的になった女。
清楚なアイドルから体を売るアイドルに変貌した女。
優しい夫からDV夫に変化した男。
良い子で評判だった子に入れた時は突然ヤンキーになったりもした。
俺にはたまらなく楽しかった。
悪の魂が同化し、変わっていくサマが…。
人間とはこんなにも愚かなのだと。
今まで、俺が悪の魂をねじ込んだ人間は
誰一人として自分を保てなかった。
全員が、悪の道へと堕ちた。
「さてさて、今回はどうかなーー?」
俺は”98人目の獲物”を既に定めていた。
今回のターゲットは俺の近所の高校に通う子。
西原 愛華(にしはら あいか)。
彼女は、学年一の優等生で、
小さいころに父を亡くしているから、苦労したらしい。
それゆえ、真面目で、優しい性格に育ったのだとか。
そんな子に”悪の魂”をいれたら、どうなるんだろうな?
楽しみだぜ。
今回こそ、悪の魂を乗り越えられるのかーーー?
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「……またいじめられたの?」
私は幼馴染の黒滝くんに話しかけた。
「うん…
栗本さんたちが…」
”栗本さん”
この高校の陰険な女子グループのトップに立つ子で
かなり陰険な性格をしている。
「…そう、、大丈夫?」
黒滝くんは小学生時代からの幼馴染。
元々気弱な子だったものの、
最近は栗本さんらのターゲットにされて、
さらに元気をなくしてしまっている。
「…何かあったら私も力になるから…
がんばろ?」
私がほほ笑むと、黒滝くんも少しは元気を出してくれたみたいだった。
人の笑顔を見ると、何となく心が安らぐ。
よく、お人よしと言われるけれど、
私もうれしい気持ちになるし…
放課後、私は親友の紗枝ちゃんと帰る約束をしていた。
紗枝ちゃんを待つ間、教室で私は一人待機していた。
「紗枝ちゃん、まだかな~」
紗枝ちゃんは部活で少し遅れると言っていた。
その時だった。
突然、窓の方から人の気配がした。
そして、何かが私の体にぶつかってきた気がした
「えーーーー?」
私は慌てて振り返ったけれど、
そこには誰もいなかった。
「いまのはーーー?
…気のせいかな。」
私は何事も無かったことに安心して、一息ついた。
「あ、ごめんごめん 愛華」
「あ、紗枝ちゃん」
紗枝ちゃんは私と同じく、大人しめの方だと思う。
けれども、しっかりモノで、一緒に居て安心できる存在だった。
「じゃ、行こう」
教室から紗枝ちゃんが先に出て行こうとする。
その時だった、
紗枝ちゃんのカバンから財布が零れ落ちた
紗枝ちゃんは気づいていない
教えてあげなくちゃーー。
私は手を伸ばして財布を拾う。
財布を見ていた私に、ある考えが浮かんできた
”1枚ぐらいお札を抜いても、ばれないかな…”
!???!?
「えーーー」
私は今、自分の頭の中に浮かんだ考えに驚き、
声をあげてしまった
「--どうしたの?」
紗枝ちゃんが不審げに振り向く
「あ、私の財布、拾ってくれたんだー!
ありがと愛華!」
そう言うと、笑顔で私から財布を受け取った。
「----…うん、良かった、
私が気付けて」
私は紗枝ちゃんに微笑んだ
でもーーー
今のはーーーー
私 今 一瞬、変な事を…?
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その様子を俺は遠くから眺めていた。
「いまのところ…変化なし…か。」
”悪の魂”は徐々に入れられた人間の精神と同化していく。
俺は、その人間の精神力が強ければ、悪の魂に呑まれることなく、
”自分”を保ったままでいられると思っている。
だが、今のところ、俺が実験した全員が悪の道へ進んでしまった。
「彼女は、どうなんだろうな…」
そう呟くと、ジョーは意味深な笑みを浮かべた。
②へ続く
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