そういう状況だとは気づかずに、
”誘拐されている最中の子”に
憑依してしまった男ー。
何とか脱出を試みるも、失敗してしまいー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーー!!!」
美鈴に憑依している大輔は
ハッとした様子で周囲を見渡すー。
「ーこ、ここはー…?」
そこはー、
まるで”お姫様”が住むような可愛らしい部屋ー。
一瞬、何が何だか分からなくなったものの、
すぐに「あ、あぁーそうかー、俺は憑依したんだったー」と、
自分の状況を思い出した美鈴に憑依している大輔。
それと同時に「って、ここはどこだ!?」と、
改めて美鈴を誘拐しようとしていた男のことを思い出した大輔は、
美鈴の身体で飛び跳ねるようにして起き上がったー。
がー、周囲に男の姿はないー。
お姫様のような部屋の中で
美鈴は一人、困惑の表情を浮かべると、
続けて自分の身体を見下ろしたー。
「ー!?!?!?!?」
自分が、お姫様のようなドレスを着せられているー。
そんな状況に「お、おいおいおいー」と、
そう言葉を口にしながらも、
少しだけドキドキしてしまう美鈴に憑依した大輔ー。
大輔自身、美鈴の身体で色々なコスプレを着こなして見たいとは
思っていたし、
それが思わぬ形で実現してしまったことにドキドキするー
それと同時に、いかにもお姫様のようなこの部屋が、
大輔自身が乗っ取ったこの身体ー…”美鈴”の家ではないと、
そう悟るー。
”あいつは、この女のことを確か”姫”とか言ってたよなー…
たぶん、ここはー…”
美鈴はゾッとする思いをしながら
今一度、部屋の中を見渡すー。
部屋には、窓は見当たらない。
出入口となる扉だけー。
「ーー…」
そして、部屋の天井にはよく見ると
監視カメラが取り付けられているー。
やはり、あのおかしな男の仕業に違いないー
「ーくそっ…憑依して早々、誘拐されるとか冗談じゃねぇぞ」
美鈴に憑依している大輔は、
心底不満そうにそう言葉を口にするー。
このまま大人しくしていれば、
美鈴の両親が助けに来てくれるのだろうか?
一瞬、そんな期待も抱くー。
しかし、大輔は”美鈴の両親”がどんな人間なのかを知らないー。
美鈴が家に帰って来なかったからと言って
すぐに心配してくれる両親なのだろうかー。
「ーーそういやー…
この女が両親から虐待されてるような女だったらー
最悪だなー…
そこまで考えてなかったー」
美鈴は少しだけ険しい表情を浮かべながら
爪をガリッと齧り始めるー。
”憑依対象の家族”まで事前に調べるー、ということは
大輔はしていなかった。
「もしもこの女の親が、ヤベェ奴らだったらー」
美鈴はそんなことも思いつつ、
”そんなこともよりも、まずはここから脱出しないと始まらねぇよなー”と、
とにかく、誘拐犯の家と思われるこの場所からの脱出を
目指そうと、周囲を見渡すー。
そしてー…
”唯一の出口”である扉のほうを見つめると、
ゆっくりとその扉に手を掛けたー。
幸い、扉はロックされているような状態ではなくー、
扉に手を掛けると、扉はあっさりと開いてくれたー。
「ーーーー」
その先に続く廊下をゆっくりと歩き出す美鈴ー。
「ってか、高そうなドレスだなー」
自分が着せられているドレスを見て、
また少しドキドキしながら
”これを着せられてるってことは、あの誘拐野郎が
俺が気絶してる間に着替えさせたってことかー?
とんだ変態だなー”と、
そんなことを思いつつ、さらに廊下を進んでいくー。
「ーまぁ、でも、そこは俺も同じかー」
美鈴に憑依している大輔は、思わず自虐的に笑うー。
自分だって美鈴の身体を乗っ取って
これから好きなだけ着替えたり、
好きなだけ好きな服を着たりするつもりだったのだー。
誘拐男が美鈴が気絶している間に着替えさせたのだとしても、
そのことに関しては”俺も同類だな”と、大輔は
思わざるを得なかったー。
「ーーー」
その先には、階段が見えるー
登り階段だー。
ここは1階なのか。
それとも地下なのかー。
先程から、一つも窓がないところを見ると
地下に閉じ込められているようにも見える。
が、いずれにしても進む場所はここしかない。
「ーくそっ…行くしかねぇー。
俺はこの身体で新しい人生を始めるんだー…
邪魔されてたまるかー」
大輔の使った憑依薬は”一方通行”ー。
美鈴の身体から抜け出すことはできないー。
もう一度、同じ憑依薬を買えば
美鈴として霊体になって、また別の身体に
憑依することはできるかもしれないー。
けれど、かなり高額だった憑依薬をすぐに買うことはできないし、
そもそも今はこの状況をまず何とかしないと、
何も始まらないー。
そう思いつつ、意を決して階段を上り始めるー。
「ーチッー…この身体じゃなきゃ、あんな弱そうな男ぐらい
どうにでもなるんだけどなー」
美鈴に憑依した大輔は
”美少女の身体”になっている現状を少しだけ嘆くー。
こういう状態になってしまうと、
その怖さが身に染みるー。
”女ならではの怖さ”をイヤでも感じてしまうー。
「ま、女でも格闘家みたいな強い女なら
全然そんなことねぇんだろうけどー…」
美鈴に憑依している大輔は、
自分自身の緊張を和らげるためだろうかー。
一人でブツブツとそんなことを口にしながら
ようやく、階段を上り終えた。
がー…
そこに広がっていたのはー…
「ーーー!!」
壁中に貼り付けられた”美鈴”の写真ー
制服を着せられたマネキンの顔の部分に
美鈴の写真が貼られたような
奇妙な物体も置かれているー。
「ー~~~~な、なんだよこれー…」
美鈴はあまりの奇妙な光景にそう言葉を口にするー
すると、背後から
「おぉ、美鈴ちゃんー。目を覚ましたか」と、
そんな男の声が聞こえたー。
「ーっーー」
美鈴が振り返ると、
そこには誘拐犯の男がいたー。
「ーーお、お前ー…」
美鈴は表情を歪めながらそう言葉を口にすると、
「こんなことしてー…お前、捕まるぞ!」と、
そう声を荒げるー
”美鈴のフリ”をするほど、大輔には余裕がなかったー。
が、男は笑みを浮かべると、
「ーー僕はねー。美鈴ちゃんー…君を、”姫”をお迎えするために
この城を建てたんだー」と、
この家のことを”城”と称しながらそう言葉を口にするー。
「ーふ、ふざけるなー…なんでこんなこと…!」
美鈴がそう声を上げると、
男は笑みを浮かべたー
「ー君の笑顔を見て、僕は思ったんだー
君は姫だと」
とー。
「ーー…な、何を言ってるー…?」
美鈴に憑依している大輔は心底困惑した様子でそう言葉を振り絞ると、
男は続けたー
「君のバイト先の本屋に行った時、
君の笑顔を見て、僕は虜になったー。
そして、気付いたんだー。
前世で僕は騎士で、君は姫だった。
そして、来世でも結ばれようとそう約束したことを」
そんな言葉を、笑みを浮かべながら言うー。
しかしー、それは彼の”妄想”に過ぎないー。
よく、ファンタジー世界モノの小説を読んでいる彼は
何故か、書店でバイトしていた美鈴の笑顔を見て、
自分の前世は騎士で、美鈴の前世は姫ー、
前世では結ばれていたと、そう妄想するようになった。
彼ー、脇谷 啓(わきや けい)は、
完全に狂っていたー。
「ーーーふ、ふ、ふざけるな!!!
お前はー…お前は、もうすぐ逮捕される!」
美鈴の身体で、大輔はそう叫ぶー
正直、美鈴の両親や、美鈴の周囲の人が異変に
気付いて通報してくれるのかは分からなかったし、
この男がどこまで”そういう対策”をしているのかも分からないー。
けれど、ハッタリの意味も込めて
”お前は逮捕される”と、ハッキリとそう断言してやったー。
がー…
誘拐犯の男・啓は何度か頷くと、
「美鈴ちゃんー…そんなことは分かってるよ。僕だって馬鹿じゃない」
と、そう言葉を口にするー。
「ーーー!」
美鈴に憑依している大輔は表情を歪めるー。
この男は、自ら捕まることも覚悟した上で
こんなことをしたと言うのかー。
が、その言葉を聞いた大輔はニヤッと笑みを浮かべるー。
”捕まることまで覚悟してるってんならー…
「取引」できるかもしれねぇなー…”
とー。
そう思いつつ、
美鈴は少しだけ笑うと、
「ーねぇ、だったら、”取引”しない?」
と、そう言葉を口にするー。
「取引?」
誘拐犯の男・啓は少しだけ表情を歪めるー。
その様子を見て、美鈴は言ったー。
「ー今、おー…いや、わたしを解放してくれたら
このことはわたしの心の中にしまっておくー。
どうせもう、わたしが意識を失ってる間に
わたしを着替えさせたりして、いい思いはしたんでしょ?
だったら、十分じゃない?」
美鈴は強気な表情、強気な口調でそこまで言葉を口にすると、
誘拐犯の男・啓は少しだけ笑ったー。
「ーいいや、まだだー。僕は君と結ばれる運命にあるんだー」
啓はそれだけ言うと、解放する素振りを見せずに、
今一度美鈴のほうを見つめるー。
”くそっ…ダメかー。だったらー”
美鈴に憑依している大輔はもう一つ、”奥の手”とも言える
取引材料を残していたー
「だったら、わたしが好きなだけそっちの好きな服を
着てあげるし、
何だったら1回、好き放題させてあげるー。
それが終わったら解放して、
わたしは今日のことは何も言わないー。
それならお前も、俺、いや、わたしも
Win-Winー。
お前はいい思いをできた上で捕まらず
わたしも解放されるー。
これでどう?」
美鈴は強気な口調でそう言い放つー。
啓は「なるほど」と頷きながら
納得しそうな動きを見せたー。
が、しかしー…
「ーーでもね、美鈴ちゃんー
いや、姫ー。
僕はそんなこと恐れちゃいないー」
啓はそう言うと、
「前世でも騎士だった僕は、姫であった君を助けて
命を落としたんだー。
僕は命など惜しくない」と、そう言葉を口にした。
もちろん全て啓の妄想だ。
「ーーな、何をー」
美鈴に憑依している大輔は、
さすがに”コイツやっぱやべぇな”と思いながら
啓のほうを見つめると、
啓は笑顔を浮かべながら言った。
「ーこの世界じゃ、僕と君が結ばれようとしても
”法律”の壁に阻まれる。
だからね、姫。
僕は君と”次の世界”に行くために、
ここに来たんだ」
とー。
「ーな、何だと!?」
美鈴に憑依している大輔は、意味が分からず困惑するー。
が、それと同時にもうこれ以上は手段を選んでいられないと
そう思いながら、美鈴の身体で大輔は、
力ずくの脱走を試みるー。
「ーー逃がさないよ」
啓はニヤニヤしながらそう言葉を口にして
美鈴の腕を掴むー。
”力”では敵わないー
がー
”俺は男だったからなー…弱点もよく知ってる”
そう思いながら、啓の急所を思いっきり蹴り飛ばすと
啓はうめき声を上げてその場に倒れるー。
その様子を確認しつつ、そのまま出口と思われるドアの方に向かうー。
しかし、ドアには複雑なチェーンが掛けられていて、
なかなか扉を開けることが出来ないー。
「チッークソが…面倒なことしやがってー」
そう言葉を口にしながら、
美鈴は何とかそれをこじ開けようとするー。
がー…
その時だったー
背後から迫っていた啓が、美鈴の首に注射器のようなものを
打ち込んだー…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー!!!」
次に、美鈴が意識を取り戻した時には、
美鈴は椅子に拘束されていた。
そして、その目の前には
姫にひれ伏すかのようなポーズを啓が取っていたー。
「ーー!」
それと同時に、部屋が炎に包まれていることに気付く美鈴。
啓はニヤッと笑うと、
「城に火をつけたよー。
これで僕は美鈴ちゃんー、いや、姫と共に来世に行けるー。
僕たちは来世で今度こそ結婚するんだー」
と、そう言葉を口にするー。
「ーーっっ!?」
美鈴は心底驚いたような表情を浮かべるー。
誘拐犯の啓は、最初からこれが目的だったのだー。
美鈴と共に死に、美鈴と来世で結ばれるー…
それが、目的。
ただ…それは啓の妄想でしかないー。
共に死んだところで、来世がある保証もなければ
来世があっても美鈴と結ばれることなどできないー。
「ーーやめろ!!おいっ!ふざけるな!!!
ーそ、そうだ!
俺は今、この女に憑依してる!
身体はこの女でも、中身は違う!」
美鈴に憑依している大輔はたまらず、全てを暴露し、
解放されようとするー。
しかしー…
「あぁ、姫ー。そんな計略を思いつくのも、君らしいねー」
啓はそう言うと、嬉しそうに笑うー。
「や、やめろ!!!やめろ!!!
俺を解放しろ!!くそっ…!くそおおおおおお!!!」
美鈴に憑依した大輔は、恐怖を感じながら
そう叫ぶー。
けれど、どうすることもできずに、
そのまま二人は炎に包まれてしまうのだったー…
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
憑依人さんは自業自得として、
美鈴ちゃんは災難でしたネ~…!
(憑依されてなくても、結局こうなるかもですケド…)
お読み下さり、ありがとうございました~!★
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