”自分の顔がどうしても無理”ー
そんな男子高校生が彼女と入れ替わったことで、
”自分の顔”を見なければいけない日々が続くー。
元に戻ることもできない日々が続きー、
やがて彼はー…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「このまま”元に戻れなかったら”別れてほしいー」
瑠奈(正彦)が心底悲しそうな表情を浮かべながらそう言葉を口にするー。
「ーーーえ……わ、別れー…???
えっ…」
正彦(瑠奈)は露骨に動揺を見せるー。
瑠奈(正彦)は「俺だってー、瑠奈の口でこんなこと言いたくないよー。
瑠奈から”別れよう”と言われたような気がしちゃってー
今も泣きそうなぐらいだしー」と、そう言葉を口にするー。
がー、「でもー」と、言葉を続けると、
「でも、無理なんだー。どうしてもー」と、
”俺の顔”がどうしてもどうしても無理で、受け入れられないと
瑠奈(正彦)は悲痛な言葉を口にするー。
「ーー…正彦ー」
正彦(瑠奈)は、悲しそうにそう言葉を口にするー。
「このまま戻れなかったらー、
俺は”その顔”をずっと見なくちゃいけないー。
ずっと目を逸らしてるかー
ずっと地獄のような顔を見続けるかー
そんなのーーー…キツすぎるー」
瑠奈(正彦)は吐き出すようにしてそう言葉を口にすると、
頭を抱えてしまうー。
「ーー瑠奈のことは大好きだし、
瑠奈のことは”見た目”だけで好きになったんじゃないー。
俺の身体じゃなければ、瑠奈がどんな姿になったってー、
俺は、瑠奈のことずっと好きでいられると思うーーー
でもーーー…”俺”になってしまうなんてー
俺のーー俺の顔だけは、無理なんだー」
瑠奈(正彦)は震えながらそう言葉を口にすると、
チラッち正彦(瑠奈)のほうを見て、
正彦(瑠奈)が悲しそうな表情を浮かべているのを確認するー。
が、すぐに「うっ…オエッ」と、瑠奈の身体でその場に
吐いてしまいそうなほどに、苦しそうな仕草をするー。
それは、演技などではなく、
心の底から拒絶反応を起こしている様子だったー。
「ーーはぁ…はぁー
ごめん…瑠奈の身体で吐きそうになってしまうなんてー」
瑠奈(正彦)は真っ青になりながらそう言葉を口にすると、
正彦(瑠奈)は、”わたしが拒絶されているような”気持ちに
少しだけなってしまいながらも、小さく息を吐き出すー。
「ーーーわかったー…元に戻れなかったらー……
わたしも、正彦を苦しめたりしたくないからー……
ーーーそうしようー」
悲しそうにそう言葉を口にする正彦(瑠奈)ー
がー、正彦(瑠奈)は、どうしてもそれだけでは納得できずに
言葉を口にしたー。
「ーねぇ、教えてー。
どうしてそんなに”この顔”を嫌うのー?」
とー。
「ーーーーー」
瑠奈(正彦)は、まだ苦しそうにしながら
少しの間、息を吐き出すと、
「それはー」と、そう言葉を口にするー。
「ー正彦と入れ替わって、何日も正彦の顔で
過ごしてるけど、
どうしてもわたしには、悪い顔には思えないし、
そんな風に吐きそうになるなんて、絶対に思えないー。
もちろんー…顔の好みは人それぞれだし、
自分の顔が嫌いって人もたくさんいるから、
それは分かるんだけどー、
でも、そんな風になっちゃうほど嫌いってことはー
なにかー…なにかあるんでしょ?」
とー。
”瑠奈”は今まで、ここまで強く”答え”を求めたことはないー。
けれど、”このまま元に戻れなかったら別れよう”とまで
言われてしまったのだー。
そのぐらい、聞く権利は自分にもあるはずー。
そう思いながら、正彦(瑠奈)は、瑠奈(正彦)の答えを待つー。
「ーーー………小さい頃ー…」
瑠奈(正彦)は、ようやく口を開くと、
「小さい頃に、言われたんだー」
と、それだけ呟くー。
そして、息を吸ってから、言葉を口にしたー。
「ーー好きだった子にー、”その顔で、好きとか勘弁してよー”ってー」
とー。
正彦(瑠奈)は悲しそうにその言葉を聞くー。
瑠奈(正彦)も、当時のことを思い出しながら、そのまま言葉を続けるー。
「ーーー小3の頃だったかなー。人生で初めて好きになった子がいたんだー」
瑠奈(正彦)はそう言葉を口にすると、
「あー、浮気とかじゃないからなー?
今はもうどうしてるのかも知らないし、振られたあと、
口も利いてもらえなかったし、もう好きなんて気持ちは全くないからー」と、
そう補足を口にするー。
正彦(瑠奈)は少しだけ笑うと、
「そんな昔の話で、浮気を疑ったりするわけないでしょ」と、
そう言葉を口にするー。
瑠奈(正彦)は「ははーそうだなー」と、言うと、
辛そうな表情で言葉を続けたー。
「ーその子はー…すごく真面目で、誰にでも優しい子だったんだー。
先生からも褒められて、みんなにも優しかったー。
クラスの”お手本”のような子だよー」
瑠奈(正彦)は、その子ー…北原 優香(きたはら ゆうか)のことを
思い出しながら言葉を口にするー。
「まだ俺もガキだったからさー…
あ、いや、今もガキっちゃガキだけどー、
当時は、”その子は全て正しい”ってそんな風に思ってたー。
小さい頃はさー、親とか先生とか、
真面目な子とか”間違ったことは絶対に言わない”みたいに
思っちゃうこと、あるだろー?
俺はその子に、そんな風に思ってたー。
”この子は全部正しい”ってー。」
瑠奈(正彦)はそう言うと、
少し目に涙を浮かべながら言ったー。
「その子のことが好きでー、告白したんだー。
そしたら、言われたんだよー
”その顔で、好きとか勘弁してよー”ってー。
化け物みたいって言われたりー、
自分の顔、鏡で見てるって言われたりー、
でー、その子は最後に言ったんだー。
”その顔見たらマジで吐きそう”ってー。」
瑠奈(正彦)はそこまで言うと、
震えながら目から涙を流すー。
「トラウマになったよーー
ーー”この子が言うんだから”
俺は自分の顔が化け物だと思ったし、
それ以来、見るたびに吐きそうになったんだー」
”幼い頃に刻まれたトラウマ”はー
そう簡単には消えないー。
もちろん、今では分かっているー。
あの子がー、北原 優香が全て正しい人間などではなかったことぐらいー。
自分の顔が客観的に見て”そこまで酷い顔ではない”ことぐらいはー。
でも、あの日のトラウマがどうしても蘇ってしまうー。
「ーー辛いこと思い出させて、ごめんー」
正彦(瑠奈)がそう言うと、
瑠奈(正彦)は目に涙を浮かべながら
「いいんだー。ちょうど話をするいい機会だったしー
それに、瑠奈は何も悪くないー」と、
そう言葉を口にするー。
「でも、そんなに泣くほどつらいことー…ごめんねー」
正彦(瑠奈)がそう言葉を口にすると、
瑠奈(正彦)は「ーーこ、これはー」と、少し恥ずかしそうに顔を赤らめてから、
目を逸らしたまま、照れ臭そうに言葉を口にしたー。
「る、瑠奈の身体、俺の身体より涙腺が脆くてー」
とー。
「ーーー…え~~?わたしの身体のせいなの~?」
正彦(瑠奈)はそう言葉を口にすると、
「ーー別れなくて済むように、元に戻る方法、絶対に見つけ出そ!」と、
意を決して言い放つー。
入れ替わった状況から、今までを二人で整理するー。
瑠奈(正彦)は相変らず目を逸らしながらも、
「俺も、瑠奈みたいに可愛い顔に生まれてればなぁ」と、そう言葉を口にするー。
「ーーえぇ~…?わたしだって、小さい頃ブスとか言われたことあるよ~」
正彦(瑠奈)はそう言い放つー。
可愛くてもブスという男子もいるし、
今は、正彦から見ればとても美少女ではあるものの
昔はどうだったのか分からないー。
もちろん、周囲からブスと言われてようと何であろうと、
正彦が瑠奈を好きなのは変わらないけれどー。
「ーーーそうだなー…
ーーちゃんと、元に戻る方法を見つけようー」
瑠奈(正彦)はそう言葉を口にするとー、
冗談めいた口調で「瑠奈の身体のままなら、鏡を見ても自分の顔じゃないのは
最高なんだけどなー」と、そう言葉を続けたー
”ーーーーーーーー”
そしてー、
偶然、空き教室の前を通りがかった正彦の親友・浩平は二人のそんな話を
途中から全部聞いてしまっていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数日後ー
元に戻る方法を探しながら、
瑠奈(正彦)と正彦(瑠奈)は、色々なことを試していたー。
”相変わらず”瑠奈になった正彦は
正彦になった瑠奈と顔を合わせようとはしないーー
長年のトラウマは、全てを打ち明けても
簡単には癒えない、ということなのだろうー。
瑠奈(正彦)の提案で、”3カ月”元に戻れなかったら
諦めて別れるー、ということになっていて、
その提案をした瑠奈(正彦)自身も、
”その間に絶対元に戻るんだー”と、そう息巻いていたー。
「ーそういや、今日は浩平のやつ、休みだったなー」
瑠奈(正彦)が正彦(瑠奈)と下校しながら、
そう言葉を口にするー。
「野澤くんが休みなんて珍しいよねー」
正彦(瑠奈)も、そう言葉を返すー。
今日は正彦の親友・浩平が学校を欠席したのだー。
”馬鹿は風邪引かないからなー”などと、
以前、揶揄ったこともあるぐらいに、浩平は体調を崩すことがなかったー。
その浩平がこうして休むことは”とても珍しい”ことだったー。
そんな風に思いながら二人が道を歩いているとーー
その浩平が、二人が通っている道の近くの路地から、二人の姿を見つめていたー。
そしてーーー
去年バイクの免許を取得した際に、
バイトで稼いだお金で買ったバイクに跨って
二人の方に向かっていくー。
「ーーー!」
バイクの音に気付いて正彦(瑠奈)がハッとするー。
瑠奈(正彦)もその直後にバイクに気付いて、驚くー。
それと同時にー、”あの時”のように、
正彦(瑠奈)が、瑠奈(正彦)に飛び掛かったー
”今度は、わたしが守る番”だと、それだけを考えて
ただ、二人とも怪我をせずに済むようにと、
それだけを願ってー
「ーーっ…ーーー!」
二人がギリギリでバイクを回避したのを確認してー
浩平が少し先でブレーキを踏むー
そしてー、
振り返るー。
「ーーー!!!
えっーー…」
するとー、”瑠奈”がそんな声を上げていたー
「ーーえ……ーーる、瑠奈ー?」
”正彦”も、戸惑いの表情を浮かべながらそう言葉を口にするー。
「ーーお、お、俺の顔が目の前にないー!!」
正彦は嬉しそうにそう言葉を口にするー。
”大嫌いな自分の顔”が目の前にないということはー、
それはつまりー、”元通りになった”ということを意味するー。
瑠奈は目に涙を浮かべながら「やったー…!正彦!元に戻れたよ!」と、
そう言葉を口にするー。
元に戻ることができた喜びー、
そして、元に戻ることができたということはー
”別れなくて済む”と、いうことを意味しているー。
そんな二人の様子を見つめながら、バイクであえて
二人に向かって突っ込んでいた浩平がヘルメットを
外しながら近づいていくー。
「ーーこ、浩平ー?」
元に戻った正彦がそう言葉を口にすると、
「ーーお、俺たちを殺す気か!」と、困惑した様子で
言葉を口にするー。
が、浩平は首を横に振ると、
「この前、お前たちの話を聞いちゃってさー
入れ替わってるーって話ー」
と、そう言葉を口にするー。
「えっ、き、聞かれてたのー?」
瑠奈がそう反応すると、
浩平は「ご、ごめんーたまたま通りがかってさー」と、
申し訳なさそうに言うー。
「その時に入れ替わった原因、話してたから
”同じ状況”作れば元に戻れるかな、ってそう思って
バイクでお前たちに突っ込んだんだー」
浩平は事情を説明すると、
正彦は「そ、そのまま轢かれてたらどうするんだよ!」と、
ツッコミを入れるー。
そんな言葉に
「そしたら俺は殺人未遂だっただろうなぁ…」
と、そう言葉を口にしながら、
「ーお前たちが避けてくれるって信じてたしー、
危険を冒してでも元に戻してやりたいって思ったんだよー」
と、そう付け加えたー。
「ーー浩平ー」
正彦がそう言葉を口にすると、
瑠奈は少しだけ微笑んでから言葉を口にしたー。
「ーーーでも、こうして元に戻れたんだし、
良かったんじゃないー?」
とー。
正彦は瑠奈のほうを見て笑うと、
浩平のほうに視線を向けて「そうだなー」と頷くー。
「ーありがとなー」
正彦は、親友の浩平に対してそんな言葉を口にするのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数日後ー
「ーーおはよ~!」
瑠奈が、彼氏の正彦に声をかけると、
正彦も嬉しそうに「あ、瑠奈ーおはよう」と、
そう返事を返すー。
一緒に教室に向かって歩いていく二人ー。
「ーそういえばさー、昨日、うっかり鏡見ちゃって、オエッ、ってなっちゃってー」
正彦が苦笑いしながら言うと、
瑠奈は「も~~また~?」と、笑うー。
そんな会話をしながら、瑠奈は思うー。
いつの日かーー
彼のトラウマを少しでも和らげることができたならー、とー。
そのためにもー、もっともっと一緒にいて、
たくさんの思い出を作っていきたいと、瑠奈はそう思いながら、
正彦に向かって微笑むー。
そのうち、二人の思い出の写真を正彦がちゃんと見ることができるようにー
そんな日が来ることを願って、
瑠奈は今日も正彦との楽しいひと時を過ごし始めるのだったー
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
無事に元に戻ることができました~!★
正彦くんのトラウマもいつか
消えていくといいですネ~!
お読み下さり、ありがとうございました~!!
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