とある場所に住む貧しい中年の夫婦ー
ある日、二人は
裕福な百合のカップルと入れ替わってしまってー…?
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ある所に住む貧しい中年の夫婦がいたー。
学生時代からの付き合いで、大学を卒業後に
結婚したものの、
社会人になって数年で、夫・俊之(としゆき)が
勤務していた会社は倒産、そのまま解雇されてしまったー。
妻の天音(あまね)自身の働いていた会社も、
大企業に買収されたことによって、
そのまま働くためには、天音が海外に転勤しなければ
いけない状況になってしまい、
俊之と相談ー、悩んだ末に天音も退職していたー。
それから20年ほどが経過したー。
木村 俊之と木村 天音ー
二人は、今でも夫婦として、強い絆で結ばれてはいたものの、
常に貧しい状態が続いていたー。
「ーーはぁー」
天音がため息を吐き出すー。
大学時代には、とても可愛らしい風貌だった天音も、
今は疲れからだろうか。
かなり、やつれたような表情を浮かべていて、
まだ40代なのに、もうすぐ60になると言われても
納得してしまうような、そんな風貌だったー。
「ーどうかしたかー?」
妻のため息に気付いて俊之が心配そうに言葉を口にするー。
俊之も、既に髪の毛は全て”白髪”になってしまっていて、
相当苦労してきたであろうことが伺えるー。
「ーーいつも買ってる調味料が、また値上げされちゃってねぇ」
大きくため息を吐き出す天音ー。
「ーーどれどれ? あ~…」
天音が見ていたスマホのネットショップの画面を見つめると、
夫の俊之も大きくため息を吐き出すー。
俊之も、仕事はしているー。
が、月給は安く、給料も上がらず、正直十分に稼げているとは言えないー。
天音のパートの給料でも、やはり足りず、
二人の生活はとにかく苦しかったー。
「ーーごめんなー。俺がいっぱい稼いで来れないから、こんなことにー」
俊之は、少し悲しそうにそう言葉を口にすると、
天音は首を横に振ってから「ー大丈夫ーもうすっかり慣れたからー」と、
そんな言葉を口にしたー。
”ギリギリの生活”を続ける二人ー。
そんなある日、二人の休みが重なったタイミングで、
二人はバスに乗って、少し離れた場所のスーパーを目指していたー。
今日はそのスーパーで、年に一度の大規模な特大セールが行われるために、
まとめて色々買っておこう、とそう考えたのだー。
二人はー、車を持っていないために、
この日はバスに乗って、スーパーへと向かっていたー。
もちろん、普段は節約のために徒歩か自転車で行ける範囲内でしか
買い物はしておらず、バスに乗るのは久しぶりだー。
のんびりとバスに揺られながら、
スーパーを目指す二人ー。
そんな車内で、
二人のとても可愛らしい子が、仲良さそうに
話をしているのが見えたー。
「ーーーえ~ホントに~?みせてみせてー」
ツインテールの子がそんな言葉を口にすると、
もう一人の綺麗な黒髪の子が、
「ーーも~、この前も見せたでしょ~?」と、
苦笑いしながらそう言葉を口にするー。
二人とも、とても近い距離で嬉しそうに
微笑みながら会話を続けているー。
「ーーふふー」
そんな二人を見つめながら、
俊之の隣にいた天音は思わず笑うー。
「ああいうの、いいわねー」
とー。
「ーーえ?ー
あぁ~…天音は昔から好きだったよなー。
なんて言うんだっけー…?」
俊之が、少し苦笑いしながらそう言葉を口にするー
学生時代、妻の天音はよく
女子同士の恋愛のような、そんな展開が含まれる
漫画を楽しそうに読んでいたー
「百合」
天音がそう答えると、俊之は
「あぁ、そうそうーそれだ」と、小声でそう言葉を口にするー。
流石に、同じバスの車内で話している子たちに
この会話が聞かれてしまっては良くないー。
そう思いつつ、小声で話をする二人ー。
「ーーも~~~!美桜(みお)ってばー」
ストレートの黒髪の子が、顔を赤らめながら
ツインテールの子のほうを見つめるー。
ツインテールの子の方は、”美桜”という名前のようだー。
美桜と、黒髪の子は顔を見合わせながら
恥ずかしそうに微笑んでいるー。
「ー二人とも付き合ってるのかもー」
天音はニコニコしながら小声でそう言葉を口にするー。
「そ、そうかなぁーただ、大の仲良しの親友って感じもするけどー」
俊之は苦笑いしつつ、
そう言葉を口にするー
が、その時だったー。
突然、バスの動きが乱れたー
「ーーーえっ!?!?」
天音が驚いて前方を見つめるー。
前の方の座席に座っていた
妙に仲良しな雰囲気の女子高生二人も、
驚いたような表情を浮かべているー。
その直後ーー
激しい衝撃に襲われてー、
天音も、夫の俊之も、バスの中で身体がふわっと浮かび上がるような
感触を覚えてー、
そのまま意識が途絶えたー。
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「ーーーーぅー…」
バスの”事故”に巻き込まれた俊之が目を覚ますー。
「ーーよ、よかったー…」
すると、そこにはバスの中で見た”ツインテールの子”が、
心底、安堵したかのような表情を浮かべて立っていたー。
「ーー?????」
俊之は戻ったばかりの朦朧とした意識の中、
その少女に気付くと「え…?」と、
かすれた声で言葉を口にするー。
「ーー俊之ー…?俊之なんでしょ?
よかったー…本当によかったー」
ツインテールの少女・美桜から
下の名前で呼ばれて、俊之は困惑するー。
「ーーえ、えっとー…あのー…」
俊之は、どうしてこの”美桜”という子が
自分のことを心配して、
しかも意識を取り戻した自分に対して、
涙ぐんで喜んでいるのか、理解できずに混乱するー。
がー、それと同時に
「あれ…?俺、なんか声がーー変ー…?」と、
そんな言葉を口にするー。
起きたばかりの時には声がかすれていて気付かなかったものの、
なんだか、妙に可愛らしいー、”自分の声ではない声”が出ているのだー。
すると、ツインテールの少女・美桜は「落ち着いて聞いてね」と
前置きした上で、病室にあった鏡を手に、
それを見せて来たー
鏡にはー、知らない少女…
いや、あのバスの中で、今目の前にいるツインテールの少女・美桜と
楽しそうに話していた黒髪の子の姿があったー
何が起きているのか分からず、何度か瞬きを繰り返す俊之ー。
鏡に映る黒髪の少女も、同じように瞬きを繰り返しているー。
そんな様子を見てツインテールの少女・美桜は
「信じられないと思うけどー」と前置きした上で、
「ーーわたし、天音なのー」と、
目の前にいる美桜が、俊之の妻である”天音”だと名乗ったー
「え…き、君が、天音ー…
え…お、俺は一体ー?」
自分の手を見つめる俊之ー
そこにあるのは、自分の手とはまるで違う、
綺麗な色白の手ー。
「ーーわたしはこの子の身体にー
あなたは、その子ー…尾崎 由梨(おざき ゆり)ちゃんにー」
美桜(天音)はそう言葉を口にすると、
ツインテールの子・美桜と楽しそうにバスの中で会話していた
黒髪の子・由梨のほうを指さすー。
「ーえ…え…?お、俺がこの子の身体にー?」
心底戸惑ったような表情を浮かべる由梨(俊之)ー。
「ーーじ、じゃあ、俺たちの身体はー
そ、それにこの子たちはー?」
困惑した様子で由梨(俊之)が美桜(天音)にそう確認すると、
「ーあのバスの事故でー
わたしたちと、この子たちの身体が入れ替わってしまったのー」と、
それだけ言葉を口にするー。
「ーそ、そんなー…
え…?じ、じゃあ、この子が俺たちにー?」
由梨(俊之)が混乱しながらそう言い放つと、
美桜(天音)は静かに頷くー
「ーーーー~~~~」
呆然としながら鏡を見つめる由梨(俊之)ー
この”由梨”という子はとても可愛いー
けれどーー
ドキッとすると同時に、
”こんな未来ある子の身体を奪ってしまったこと”
そして、”自分の身体はどうなってしまったのか”ー
そんな、色々な心配事が頭の中に浮かび上がって来てしまうー。
「ーーーーこの子たちも今、隣の病室にいるわー」
そんな心配を察したかのように、美桜(天音)が言うー。
さっき、バスの中で見かけたときの”美桜”とはまるで違うー、
ツインテールの明るい雰囲気の子なのに、
どこかおばさんのような、そんな落ち着きと仕草を
感じさせる、アンバランスな雰囲気になっていたー。
「ーーい、意識はあるのかー?」
由梨(俊之)が言うと、「わたしたちより先に目を覚ましてたからー」と、
そう言葉を口にしつつ、美桜(天音)は、
「ー今は、大分落ち着いているみたいだけどー」と、
そんな言葉を口にしたー。
どうやら、”天音”と、この子たち二人は意思疎通が出来ていて
お互いに入れ替わってしまったことを理解している様子だー。
担当医も”入れ替わってしまったこと”は、把握してはいるものの、
美桜・由梨の二人の両親にはまだ伝えていない状態のようだー。
「ーーー……じ、じゃあー、俺が意識を取り戻したことも、
伝えにいった方がいいよなー?」
由梨(俊之)がそう言うと、落ち着かない様子を見せながら
深呼吸をするー。
「ーー…大丈夫ー?」
美桜(天音)が心配そうに言葉を口にすると、
由梨(俊之)は「あ、いやー…そのー」と、少し恥ずかしそうに言葉を
口にしながら、戸惑いの表情を浮かべると、
「ーーあの……なんというか、目のやり場に困るっていうかー
この身体だと、どうしたらいいか分からないっていうかー…」と、
由梨(俊之)はそう言葉を口にしたー。
すると、美桜(天音)は「ーえぇ…?なに?
その子にドキドキしてるのー?」と、そう言葉を口にするー。
「ち、ちがっ…その、浮気とかじゃなくてー
俺はずっと天音一筋だけど、
ーーそのー…」
由梨(俊之)は戸惑いの表情を浮かべながら、
「ーーー天音は”同性”相手の入れ替わりだからいいけど、
俺はそうじゃないから、なんかこうー色々戸惑っててー」と、
そんな素直な気持ちを吐露するー。
「あ~~~……そ、そうよねー」
美桜(天音)は頷くー。
美桜になった天音でさえ、自分よりもかなり年下の
若い子の身体になって、最初はドキドキしたのだー。
俊之にとって”それ以上の衝撃”であることは
当然、天音にも理解はできたー。
「ーーー分からないことがあったら、わたしに何でも聞いてー
身体は違うけど、”女”のことはわたしの方が詳しいからねー」
美桜(天音)はそれだけ言うと、
「ーーあ、そうそうーそれとねー」と、
天音・俊之の夫婦と入れ替わってしまった
美桜・由梨の二人のことについて、
美桜(天音)が言葉を口にしたー
「この子たち、お金持ちの家のお嬢様みたいなのよー」
とー。
「ーえっ」
由梨(俊之)が少し戸惑いながら言うと、
美桜(天音)は、自分の髪を少し嬉しそうに触りながら
言葉を続けたー
「この子たちのねー、通っている学校が名門の女子高でー
お金持ちのお嬢様がたくさん通ってるところなのー
で、わたしと入れ替わったこの”美桜ちゃん”って子の
お父さんも、会社の経営者でお金持ちなのよ」
美桜(天音)は心底嬉しそうに言うー。
「ーー親がお金持ちっていいわねぇ~」
高校生の美桜には似合わぬような口調で、
そう言い放つ美桜(天音)ー。
その言葉に、「ご、ごめんなー、俺が十分に稼げないせいで」と、
由梨(俊之)は気まずくなってそんな言葉を口にするー
「ーあら、ごめんなさいー
そういうつもりじゃー」
悪気はなかったのは美桜(天音)が少し戸惑う様子を見せながら
そんな言葉を口にするー。
「いや、すまんー。それは俺も分かってるんだけど、ついー」
由梨(俊之)は、男のような振る舞いを隠そうともせずに、
雑にベッドに座ると、
「ーそんな座り方しちゃ、その子が可哀想よ?」と、
美桜(天音)に指摘されるー。
「ーおぉ、そうだなーすまんすまんー」
由梨(俊之)はそう言葉を口にすると、
「ーとにかく、この子たちに挨拶に行くかー」と、
病室のベットから立ち上がるー。
意識を失っていたせいか、一瞬よろめく由梨(俊之)ー
そんな由梨(俊之)を咄嗟に支えた美桜(天音)は
目の前に”由梨の顔”が近付いてきたことに少しドキッとしてしまうー。
思わず顔を赤める美桜(天音)ー
”い、いくら百合のお話が好きだからって、こんなのいけないわー”
勝手に人の身体でそれはダメー、と、そう思いつつ
気を取り直すと、「さ、行きましょ」と、
二人で、”俊之になった由梨”と、”天音になった美桜”が待つ病室へと
向かうのだったー
<中編>へ続く
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コメント
貧しい夫婦と、百合な二人が入れ替わってしまうお話デス~!!!
火曜日のみ、予約投稿で投稿している都合上、
続きは来週になってしまいますが、楽しみにしていて下さいネ~!
お読み下さり、ありがとうございました~!!
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