<入れ替わり>みんなにバレたらダメですよ①~出会い~

辺境の森林を冒険中だった勇者ー。

しかし、ある日、
森の中で暮らす独特な風習を持つ部族の少女と
入れ替わってしまうー。

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勇者・マッティは、魔王との戦いを終えて
平和を取り戻したあとは、各地を旅しながら、
魔物たちとの戦いで傷ついた村を訪れては
その復興を手伝ったり、
魔物の残党を討伐したりー、
そんな生活をしながら、冒険を続けていたー。

魔王と共に戦った仲間たちも、
今はそれぞれ、各地で平和になった世界の中、
それぞれの居場所を見つけて、
平和な世を謳歌しているー。

「ーこの辺りは、王国の地図でもあまり詳しく描かれていない場所だなー」
勇者・マッティはそう呟きながら周囲を見渡すー。

王国の東側に位置する”大森林”ー。
魔物が数多く潜んでいたこともあってか、
ほぼ未開の地で、王宮の調査員たちが各地を調査して作り上げた
王国の地図にも、詳しくはこのあたりの地方のことは
記されていなかったー。

「ーーーー!!」
勇者・マッティが一休みをしようとして、腰かけようとしたその時ー、
マッティは背後に気配を感じ取ったー。

咄嗟に”回避”の行動を取るマッティ。

マッティが今まで立っていた場所に弓矢のようなものが
通過していくのを確認すると、マッティはすぐに
その弓矢の軌道から”敵”がいる場所を判断ー。

そこに向かってあっという間にたどり着きー、
マッティに向かって弓を放った相手の腕を掴んでいたー。

「ーーー…人間ー?」
ふと、マッティは驚きの声を上げるー。

魔物にも、弓を使う魔物はいるため、
てっきり魔物の残党かと、そう思っていたのだー。

が、相手は魔物どころか、華奢な雰囲気の少女だったー。

「き、君はー…!?」
マッティがそう声を上げると、その少女は
「は、離してください!」と、そう声をあげながら
マッティを振り払おうとするー。

しかし、高台からマッティを弓で狙ったその少女は、
高台の端っこの方に立っていたためー、
マッティを振り払おうとしたことで、
そのままーー

「あっー」
「えっー…?」

腕を掴んでいたマッティ共々ー、高台から
その下の茂みへと落下してしまうのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーーー!!」
茂みに転落した少女は目を覚ますと同時に、
「ーわ、わたしはまだ負けてーーー」と、
そう声をあげるー。

がー、
少女が発した言葉は”男”の声で自分の口から発されたー。

「えっー」
一人、戸惑いの表情を浮かべるー。

そして、自分の身体を見下ろすと、
「な、な、な、なにこれえええええええええええええ!!!???」と、
森の中で一人、大声で叫ぶのだったー。

「ーーーーーーーーーーーー」
数分後ー…
勇者マッティも意識を取り戻したー。

ただしーー…
自分の身体ではなく、少女の身体でー。

そして、少女は勇者マッティの身体になってしまっていて、
二人は”入れ替わって”しまっていたー。

「ーーー…ーーーわたしの身体、早く返してくださいよー
 変態ー」

ボソッと呟く、マッティになった少女ー。

少女になってしまったマッティは戸惑いの表情を浮かべながら
「ーお、俺は別に君の身体を奪う気じゃなかったし、
 ここに来たのも、何か悪いことをしに来たわけじゃないんだ」と、
そう言葉を口にするー。

自分の口から少女の声が出ることに違和感を感じてー、
ちゃんと声は出ているのに、意味もなく何度か咳ばらいをしてしまう
マッティ。

”不審者じゃない”と言っても疑いの目で見られていることを感じた
少女になってしまったマッティは、
「ーー俺は、魔王と戦っていたマッテーー…」と、
そう言いかけると、
突然、マッティになってしまった少女の態度が”急変”したー

「ーえっ!?えっ!?!?
 ま、まさかマッティさま!?」

とー。

「ーーーえ…?さま???」
少女になってしまったマッティは戸惑うー。

マッティになった少女は目を輝かせながら
「あ、あの魔王フォーズを倒した、マッティ様ですよね!?!?」と、
そう言葉を口にすると、
「わ、わたし、この先の村に住むエルサと言いますー」
と、その少女、エルサが、マッティの身体で自己紹介したー。

「ーー勇者さま!わたし、大ファンなんですー!」
と、嬉しそうにマッティの身体のまま、
エルサになったマッティに握手を求めて来たー

「そ、そ、それはどうもー」
エルサ(マッティ)は、そのまま”自分”と握手をすると、
戸惑いの表情を浮かべながら「こんなところで何をー?」と、
そう確認するー。

すると、マッティ(エルサ)は
「勇者さまはご存じないかもしれませんけど、
 実はこの先にわたしたちの暮らす村があるんですー」と、
そう言葉を口にしたー。

「ーへ~…村がー…」
エルサ(マッティ)は少し意外そうな顔をするー。

この大森林の中に人が暮らす村があるとは、
王国側も把握していないのだー。

「ーーこんなところに人が来ることは滅多になくてー、
 ーー怪しい山賊か何かかと思ってついー
 申し訳ありませんでしたー」

マッティ(エルサ)はそう言いながら頭を下げると、
エルサ(マッティ)は「俺の身体で謝られてもー」と
苦笑いしながら「別に構わないよ」と、そう言葉を口にすると、
「とりあえず、元に戻る方法はないかどうか、色々試してみようか」と、
優しい口調でそんな言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

色々試したものの、元に戻れなかった二人ー。

そんな間に、エルサは色々なことを話してくれたー。

エルサの暮らす村は”外部との交流”を一切断っている村で、
余所者を敵視しているのだと言うー。
しかし、部族の村であるその村は結束力は強く、
魔王が討伐されるまでの間の魔物の襲撃も
全て、自分たちの力で退けてきたのだというー。

エルサはそんな村に疑問を抱いて、
外の世界に憧れ、村の仲間には内緒で、
時々森の外に出ては、”外の世界”を自分の目で見て
回っていたー。

そんな中で”勇者マッティ”の存在を知って、
個人的に”ファン”になったというのだー。
が、顔までは知らなかったらしく、マッティを”山賊か何か”だと思って
弓で襲ってしまったようだー。

「ーーーそろそろ、帰らないとみんなが心配しちゃいますー」
マッティ(エルサ)が不安そうにそう呟くー。

「ーーじ、じゃあ、今日はひとまずー」
エルサ(マッティ)が、”村に案内してほしい”と、そう言うと、
「ーーあ、村にはマッティ様ひとりで帰って下さいー」と、
そう言葉を口にしたー。

「ーえ?でも君はー?こんな森の中じゃ危ないだろう?」
エルサ(マッティ)が言うと、
「わたしは小さい頃から、森で過ごしてるので大丈夫ですー
 それに、勇者様の身体なら尚更ー」と、嬉しそうに
マッティ(エルサ)が言うー。

そんな言葉を前に、少しだけ笑うと、
「今のわたしは、勇者様の身体なので”よそ者”ですー
 みんなは、森から出ないので勇者様のことも知らないですし
 わたしがこの身体で村に帰れば大変なことになりますー」と、
そう説明するー。

「事情を説明しても、ダメかー?」
エルサ(マッティ)が言うと、マッティ(エルサ)は「ダメですねーたぶん」と、
首を横に振りながら呟いたー。

「ーじゃあ、俺も一緒にここでー」
と、安全上の理由で一緒に一晩過ごすことを提案するも、
マッティ(エルサ)は”わたしが帰らないと、みんなが心配して、森中を探し回り
始めちゃうのでー”と、苦笑いしながらそう説明したー。

仕方がなく、エルサになったマッティは
その状態のまま”エルサ”として村に戻り、
一晩を過ごすことにするー。

村の人間のことや、エルサの普段の過ごし方、
村にある独特な風習などなど、
それらを確認するエルサ(マッティ)ー。

「ー夜は、自分の部屋で過ごしていただければ大丈夫だと思いますからー」
マッティ(エルサ)の言葉に、
エルサ(マッティ)は「わ、分かったー」と、そう言葉を口にするー。

一通り、必要な情報を確認したエルサ(マッティ)は、
エルサとして一晩をエルサの村で過ごすべく移動し始めるー。

「あそこに、小さな灯りが見えますよねー?」
マッティ(エルサ)が茂みに隠れながら言うー。

「ほ、ほんとだー。あんなところに村があったとはー」
エルサ(マッティ)がそう言うと、
「あそこがわたしの村ですー」と、
マッティ(エルサ)は呟くー。

「ーただ、さっきも言った通り、余所者は排除されますー
 ですから、わたしはこれ以上近付くことができません」

申し訳なさそうに言うマッティ(エルサ)ー

「分かった。道案内ありがとうー
 それで、明日、朝、明るくなったらどこで合流をー?
 君は、俺の身体じゃ村に近付けないんだろうー?」

エルサ(マッティ)がそう尋ねるー。

「あーーー…そうですねー
 じゃあー」
マッティ(エルサ)は周囲を見渡すー。

”マッティの身体”では村まで迎えに来ることができないー。
エルサの言う通りなら、”余所者”は排除されてしまう。

そしてー、近くの木を指差すと、
「この大木ー。明日、ここまで戻ってきますから、
 そしたらまた、元に戻る方法を見つけましょう」と、
マッティ(エルサ)は、そう提案したー。

「ーわかったーこの大木だなー」
エルサ(マッティ)はそう言葉を口にすると、
「ーーーーーーー夜にこんな森で一人で、本当に大丈夫かー?」と、
心配そうにそんな言葉を口にするー。

マッティ(エルサ)は少しだけ笑いながら
「わたしはこの森で育ちましたからー。森のことはよく分かってます」と、
そんな風に微笑むー。

その上で、「それにー勇者さまの身体と、勇者さまの剣がありますから」と、
自慢気に、一時的に自分のものになったマッティの身体を
ぶんぶんと振って微笑んで見せるー。

「ーははーなら大丈夫そうだなー」
エルサ(マッティ)は不安を感じながらも、
これ以上、ネガティブなことを言い続けるのも良くない、と、
そう思いながら笑うと、
そのまま”村”の方に向かって歩き出したー。

「ーーーーあ!」
そんなエルサ(マッティ)を、マッティ(エルサ)は
思い出したかのように呼び止めるー。

「ー?」
エルサ(マッティ)が立ち止まるー。

「ーみんなにバレたらダメですよー
 絶対にー」

マッティ(エルサ)がそう言い放つー。

「ーーーーわたしたちの村は”余所者”と”裏切者”に
 容赦しないのでーー
 バレたらー殺されちゃうかもしれませんー」

その言葉に、ゴクリと唾を飲み込むエルサ(マッティ)ー

「ーーわかったー気を付けるよ」
エルサ(マッティ)はそれだけ返事をすると、
「君も、気を付けてー」と、そう言葉を口にしてから、
マッティ(エルサ)と別れて、
そのまま村の方に向かうー。

「ーーーー」
このようなところに、村があったなんてー。

エルサ(マッティ)は改めてそんな風に思うー。
森のかなり奥ー
これでは、王宮の調査員たちが見つけられないのも無理はないー。

そしてー…極めて排他的だというこの村ー。

エルサ(マッティ)は、不慣れなエルサの身体に少しよろよろしながら
村の入口までたどり着くー。

ただでさえ、森の奥で足場が悪いのに、エルサの身体と入れ替わっているせいで、
いつもと歩幅や身体のバランスが違い、
とても歩きにくいのだー。

”ーーーバレたらダメーか”

ゴクリと唾を飲み込みながら、村の入口から中に入ると、
武器を持った男たちがウロウロしているのが見えて、
その物々しい雰囲気に、エルサ(マッティ)は緊張した表情を浮かべるー。

もちろん、普段のマッティなら仮にこの男たちと戦闘になったとしても
身を守ることはできるー。
しかし、今はエルサの身体ー。
マッティより華奢だし、武器も弓しかないー。

勇者マッティの得意とする武器は”剣”で、弓はそこまで得意ではないし、
何より、エルサにとっては大切な仲間であろうこの村の人々を
傷つけるわけにはいかないー。

「ーーお~~~!エルサ!!」

その時だったー。
背後からそんな声が聞こえて、エルサ(マッティ)が振り返るー。

そこにいたのはー、エルサの兄・ダリオだったー。

「ーーあ、え、ダリオ兄さんー」
エルサ(マッティ)は、エルサ本人から言われていた通りそう呼ぶと、
ダリオはエルサ(マッティ)をいきなり抱きしめてくるー。

「ぐぶっー」
”女”として男に抱きしめられることに、今まで感じたことのない感覚を
覚えながら、戸惑っていると、
ダリオは言ったー。

「グラートが熊を仕留めたんだー。今夜はごちそうだぞー」
とー。

「ーーく、熊ー?」
エルサ(マッティ)が戸惑っていると、
兄・ダリオは、エルサ(マッティ)を連れて
熊が吊るされている場所へと案内したー。

そこには、村の住人たちが集まっていてーー
突然ー、村の風習である謎の踊りのようなものを踊り出すー。

「ーー????????
 ?????」

吊るされた熊の周囲で踊り出す村人を前に、
エルサ(マッティ)はどうすれば良いのか分からずー、困惑するのだったー。

②へ続く

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

外部との交流がない村の少女と入れ替わってしまった勇者さま…!

どうなってしまうのかは、明日のお楽しみデス~!!

今日もありがとうございました~!★!

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