彼女は、憑依されている間に
多くの罪を冒してしまっていたー。
しかし、負けず嫌いの彼女は諦めるつもりなどなかったー。
”憑依されていた証明”をして、
さらには、”わたしに憑依していたやつ”に罪を償わせようと、
無罪を勝ち取るための戦いを始めるー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
意識を取り戻した時、
彼女は、”犯罪者”になっていたー。
社会人2年目のOLー…
野崎 茜(のざき あかね)ー。
彼女は、帰宅中に”男”に憑依されて、
それから約1年、勝手に身体を使われ続けてきたー。
憑依された茜は、真面目な勤務態度で勝ち得ていた信頼を悪用して
会社から金銭を着服して逃亡ー、
その後は繁華街で、自分の身体を使って存分に欲望の日々を送りー、
豪遊したー。
会社から盗んだ金が尽きた頃に、
金持ちの独身男性に目をつけて、
憑依されている茜は自らの美貌を使って誘惑ー、
今度はその男から、金を巻き上げようと目論んだー。
しかし、その男に茜の目的がバレてしまい、
口論になった末にその男を殺害ー、
さらには、逃亡中に無関係の家に忍び込んで
金を盗もうとして、その家の長女である
高校生に見つかり、その子を階段から突き落として殺害ー、
極悪非道の悪事を繰り返した末に、
最後は潜伏先の廃工場で警察に追い詰められて”逮捕”されたー。
「ーーへへっ…”夢の時間”もここまでかー」
逮捕された茜は邪悪な笑みを浮かべたー。
がー、”この身体は自分のものではない”男にとって、
これは”捕まるまでのゲーム”ー、
彼自身にとっては、どうでも良いことだったー
「くくくっ…ははははははっ!あははははははっ!」
笑いながら連行されていく茜ー。
世間は、茜のあまりにも残酷な犯行の数々にー、
そして、笑いながらパトカーに乗せられる茜の様子を前にー、
誰もが、茜のことを”狂った女”だと思っていたー。
がー…実際には、茜も”被害者”に過ぎないー。
男に憑依されて、”罪を犯されせられていた”
そんな、被害者ー。
「ーーーーー…」
正気を取り戻した時には、牢屋の中だった茜は、
「えっ…!?わたし、どうなってるんですかー!?」と、
困惑しながら、周囲の人々に聞いたー。
がー、周囲から注がれたのは冷たい目線ー。
意味も分からないまま、茜は
”もしかしたら死刑判決が下るかもしれない”
そんな状況の中、戸惑いと怯えの日々を送っていたー。
しかし、そんな茜に”転機”が訪れたー。
ある日、面会に訪れた茜の学生時代の親友・美咲(みさき)から、
信じられない言葉を聞かされたのだー。
「ーー憑依ー…?」
呆然とする茜ー。
「ーうんー確かにそう言ってたー」
美咲は、そう言葉を口にするー。
茜に憑依していた”男”は、茜の勤務先だった会社から
金を盗んで豪遊している頃ー、
茜の親友だった美咲を何度か誘って、一緒に食事をしたり、
飲みに行ったことがあったー。
茜に憑依した男が、卒業アルバムや、茜のスマホの記録などから
”美咲”に一目惚れして、
”この身体なら、美咲ちゃんと遊べるかもなー”と、
美咲を誘ったのだー。
もちろん、茜が憑依されているなどとは夢にも思わなかった美咲は
何度か、茜と会い、食事をしたり、飲んだりしていたー。
がーー
「ーー茜、お酒苦手だったはずなのに
滅茶苦茶飲んでてねー。
で、その日、酔っ払った茜が言ってたのー。
”俺、実はコイツの身体に憑依して乗っ取ってるんだよねぇ”
ってー」
美咲はその日、茜がおかしな言動をしたことを、
茜に告げるー。
「当時は、ただ酔ってるだけとしか思わなかったんだけどー…
茜がこんなことになってー。
一応、伝えておこうかなって」
美咲のその言葉に、茜は震えながら「憑依ー…わたしが確かにそう言ったの?」と、
そう言葉を口にするー。
美咲は静かに頷くー。
茜は、その日以降ー、”憑依”について
徹底的に調べたー。
そして、憑依薬の存在と、
憑依された人々が実際にいることを突き止めた。
怒りに震える茜ー。
「わたしの身体で、勝手に悪さをしたってことー?
絶対に許せないー」
元々負けず嫌いだった茜は
”絶対に無罪を勝ち取る”と、そう心に決めたー。
”わたしの身体”が罪を犯したのだとしても、
償うべきは、わたしの身体を勝手に動かした人間ー。
被害者のためにも、わたしは戦うと、茜は
自分が無罪を勝ち取ると同時に、”真犯人”を必ずあぶり出すと
そう決意したー。
当然、茜の無罪の主張に、
階段から突き飛ばされて死んだ子の遺族や、
憑依されている茜が金を奪おうと誘惑した挙句、最後には命を奪った独身の男の遺族は
怒り狂ったー。
茜にもその気持ちは分かるー。
彼らからすれば、茜は”大事な人の命を奪った憎き犯人”なのだからー。
けれど、それでも、
茜は「ー犯人は本当にわたしじゃないんですー。恐ろしい方法で、
罪を犯した本当の犯人がいるんですー」と、茜はそう繰り返したー。
必ず、無罪を勝ち取るー
必ず、わたしに憑依した極悪人を捕まえるー。
そんな茜の言葉を聞いて、
親友の美咲も、面会に来た際に「わたしにできることがあれば何でも」と、
そう約束してくれたー。
そして、美咲にも協力して貰って、
茜は凄腕の弁護士に弁護を依頼することに成功したー。
倉野 梨沙(くらの りさ)弁護士ー。
多くの事件で無罪を勝ち取った弁護士で、
”冤罪”に対する対応にも強いー、実力派の女性弁護士だー。
「ーーーー憑依ーーー…」
そんな、梨沙も、最初は”さすがにそれはー”と、
乗り気ではなかったものの、茜は必死に梨沙に状況を説明したー。
「ーわたしは、わたしは絶対にそんなことしません!!
嘘をついて罪を軽くしようとしている人間が
”憑依されていた”なんて、あまりにも嘘っぽいこと言うと思いますか!?」
茜がそう叫ぶー。
仮にわたしが本当に犯人で、
”罪を少しでも軽くしよう”と悪あがきをしているのであれば
”憑依”なんて、みんなからいかにも嘘だと思われそうなことは言わない、とー。
「ーーー」
弁護士の梨沙は、そんな茜の方を見つめながら
表情を曇らせるー。
がー、やがて、少しだけ笑うと、
「ーあなたのこと、信じて見たくなったわー」と、
それだけ言葉を口にすると、
「いいでしょうー。その弁護、お受けしますー」と、
そんな言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
茜は、獄中で過ごしながら、
弁護士の梨沙や親友の美咲を通じて
”わたしが憑依されていた証拠”を探すと共に
”わたしに憑依していた犯人”を捜すべく動き出した。
無罪を証明するには憑依の存在を明らかにし、
憑依されたという証明をし、
さらには、茜に憑依していた人間を確実に
突き止めなくてはならないー。
「ーあまり、無理はしないでねー」
面会に訪れた美咲がそう言葉を口にするー。
「ーーうんーでも、頑張らなくちゃー
何もしてないのにずっとここにいるわけにはいかないしー、
憑依されてたわたしが傷つけちゃった人たちのためにも
早く本当の犯人を見つけ出して捕まえなくちゃー」
茜の言葉に、美咲は少しだけ微笑むー。
弁護士の梨沙は今、”茜が憑依された瞬間”の映像がないかどうかを
確認しているらしいー。
茜本人が”最後に覚えている記憶”から、
茜は仕事帰りに憑依された可能性が高く、
その場所もある程度特定できているー。
日付も特定できているため、弁護士の梨沙は
その日、その周辺地域の映像を重点的に
調査を進めていたー。
そしてー…
梨沙は”茜が憑依された瞬間の映像”を入手したー。
「ーーーこれだと思うのー」
梨沙のその言葉に、茜は面会をしながら
その映像を確認するー。
仕事帰りの茜が突然ビクッと震えて
不気味な笑みを浮かべてから
自分の胸を触る映像ー。
「ーーー…ーーー」
茜は、そんな”自分が憑依された瞬間”の映像を
ショックを受けるー。
自分が憑依されていた…ということは既に美咲から
聞かされて、意識が約1年間飛んでいることからも、
自分でも納得し、覚悟はしていたけれど、
いざ、こうして始めて映像を見せられると
ショックが大きかったー。
胸を揉み終えた茜はニヤニヤしながら、
その場から立ち去っているのが見えるー。
「ーーー大丈夫?」
弁護士の梨沙が心配そうに茜の方を見つめるー
茜は表情を曇らせながら、
しばらくの間、”憑依された自分”の映像を見つめつつ
ショックを受けていたものの、
やがて気を取り直して少しだけ笑うと、
「覚悟はしていたつもりだったんですけどー…
でも、わたしのこういう姿を実際に見ると
少しショックが大きいですねー」と、そう言葉を口にするー。
「ーーそうねー」
梨沙は、そう呟きながら
「あとーこんな映像も」と、
茜が憑依されてから数か月後ー、
派手な風貌で男と一緒にホテルに入っていく姿も映し出されていたー。
男にべったりとくっついて誘惑するような”わたし”の姿を前に、
茜はさらに表情を曇らせるー。
”わたし”の姿なのに記憶にないことをー、
そして、普段自分が絶対にしそうにないことをしているー、
そんな映像はやはりショックだったし、
本人にとっては決して面白いものではなかったー。
「ーーーーーーー」
茜は言葉を失うと同時に
”わたしに憑依した犯人”を改めて、絶対に捕まえてみせるという
強い決意を固めるー。
「ーわたし、負けませんー
絶対に無罪を勝ち取って、わたしの身体で好き勝手したこの人を
絶対に捕まえてみせますー」
茜はそう言うと、弁護士の梨沙は
「ーーふふーその意気よ」と、安心した様子で笑いながら、
「でも、この最初の映像は証拠材料にもなるかもしれないから」と、
貴重な証拠になるかもしれないということを告げたー。
その上で梨沙は”憑依薬”の現物をもしも入手することができれば、
裁判でも有利になるかもしれない、と、そんな言葉を告げるー。
「ーー現物をー…?」
茜は少し不安そうにしながらも、梨沙は
「憑依された瞬間の映像だけじゃ、裁判には絶対に勝てないわー。
そもそも、憑依なんて世間じゃ”実際に存在する”とすら
思われていないんだから、
それを証明するためには、こちらもあらゆる手を尽くさないと」
と、そう言葉を口にするー。
「ーーー…そうですねー。」
茜はそう呟くと、
「ーわたしも、”憑依されたことにして、罪から逃れようとしてる”なんて、
言われてますしー」と、苦笑いすると、
梨沙は「まだまだ長い道のりになっちゃうかもだけど、頑張りましょう」と、
そう言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”茜”は、憑依されている間に、
複数の人間の命を奪ってしまっているー。
一人は、金持ちの独身男性と口論になった際に
その男を殺害ー、
もう一人は、金を奪おうと家に忍び込んだ際に、
その家の長女に発見され、階段から突き落とした際に
その子の命を奪っているー。
極めて悪質で、他にも罪を重ねている”茜”は
このままでは極刑が言い渡される可能性も十分にあったー。
「ーーーー…絶対にー…絶対にわたしは…負けないー」
茜はそう言葉を口にすると、
静かにため息を吐き出したー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー…」
連日、”絶対に無罪を勝ち取るから!”と、
戦いを続けていた茜はすっかり疲れ果てていたー。
「ー大丈夫ー?」
面会中にウトウトしていた茜はその子にハッとすると、
弁護士の梨沙が心配そうに茜を見つめていたー
「あ、はいー…大丈夫です」
茜はそう呟くと、梨沙の方を見つめるー。
「ーー憑依薬の現物ー…入手したわー。
これを使って法廷で実際に”憑依”を証明できればー…
あなたの無罪にグッと近づくし、
それに、あなたに憑依した犯人がいるってことを
世間に知らしめることができるー。
警察も動いてくれるかもしれないー」
梨沙のその言葉に、茜は「ほ、本当ですかー!?」と、
そう言葉を口にするー。
静かに頷く梨沙ー。
梨沙は”憑依薬”とされる液体が入った容器を手にすると、
「これがその憑依薬ー」と、そう説明するー。
「ーーーー」
茜はゴクリ、とその容器を見つめるー。
”わたしの人生を滅茶苦茶にした憑依薬ー”
そう思いつつも、憑依薬の実物を前に、
茜は改めて、無罪を勝ち取れるかもしれない、と
そんな希望を抱き始めるのだったー。
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
憑依されていた間の自分の罪を晴らすお話デス~!!!★
無事に無罪を勝ち取ることができるのかどうかは…
明日のお楽しみデス~!!
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