<皮>心の準備ができてない!①~訪問者~

人を皮にする力を手に入れて、
アパートの近隣住民を乗っ取った男ー。

しかし、その近隣住民の家にはちょうど、
実家から両親が来ることになっていて、
身体を乗っ取った30秒後ー、両親が到着してしまうー…。

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杉野 秀樹(すぎの ひでき)は
ここ数日で”終活”を進めていたー。

”終活”とは、自分の人生が終わった時のための準備を
事前にしておくことで、
中高年に差し掛かった人々がすることもある、
そんな活動だー。

が、秀樹はまだ20代後半ー。
随分と早い終活だー。

しかし、彼は
まだまだ遠い未来であろう自分の人生の終わりを
見越して終活しているわけではなく、
ましてや、このあと自ら命を絶とうとしているわけでもなかったー。

彼が終活をしている理由ー
それはーー

「ーーこれでよしー」
秀樹は、笑みを浮かべながらそう呟いたー。

”杉野 秀樹”の人生を終わらせるための準備は
整ったー。

親しかった友人と最後の会話を交わし、
両親に対しては、自分がこれまで貯金して貯めていた
有り金を全て送金したー。

「ーーま、息子の方が先に”いなくなっちまって”悪いけどー、
 これがせめてもの親孝行だー。
 だから、許してくれよなー」

秀樹はそう言葉を口にすると、
ニヤリと笑みを浮かべながら、
最後に”終活”の仕上げを行ったー。

”旅に出ます 探さないでください”

そう、ノートの切れ端に書き、
それを自分の机の上に置くー。

家の中はすっかりと片付いていて、
家電も、趣味に関係するようなものも全て処分し、
金に換えられるものは、全て金に換えたー。

その金も、全て両親に送金しており、
既に彼の手元にはないー。

けれどー、
彼は別に死ぬわけではないー。
このあと、どこかに行って飛び降りるつもりはないし、
駅のホームから飛び込むつもりもなければ、
ロープをひっかけて首を吊るつもりもないー。

彼が終活をしていた理由はー、
彼の手元に残された”唯一”のものが理由ー。

その、彼の手元に残されたのは、”1本の小さな針”ー。

紫色に光り輝く、不気味な針ー。
それはー、”人を皮にする”力を持つ不思議な針だったー。

秀樹はその”針”を使って、
隣人の女子大生・冬川 雅美(ふゆかわ まさみ)を
乗っ取り、自分自身が冬川 雅美になろうとしていたのだー。

隣人の女子大生・雅美とは、
別に特別親しいわけではないー。

自転車がパンクして困っていたのを偶然見かけて
それを直してあげたことが
一度、半年前ぐらいにあるだけだー。

当然、秀樹もそれまでは”可愛いな”と思いつつも
”何か変なことをするつもり”はなかったー。

変なことをすれば当然、逮捕されるー
それが、この世の中のルールであり、当たり前の常識だー。

ルールは、人の暴走を食い止めるためにも存在しているー。
秀樹のように”ルール”があるおかげで、
悪事に手を染めず、普通に生活している人間は
この世にたくさん存在するだろうー。

”ルール”がなければ、人間は思った以上に
無法者であり、世界は荒れ果てた世界になってしまうはずだー。

がーーー
秀樹は出会ってしまった

己の理性と言う名のブレーキを壊す存在にー。

それが”人を皮にする針”だったー。
ネットで偶然見つけて、彼なりに入念に調べた上で購入ー

既に”テスト”をして、その力が本物であることも
秀樹は確信しているー。

これを使って、冬川 雅美になるー。
そのために彼は終活をしていたのだー。

”人を皮にして着る”ー
そのため、皮にして乗っ取った雅美を脱げば
”秀樹”に戻ることはできるー。

しかし、あまり着たり脱いだりしていれば
”バレる”可能性も高まるし、
彼にとってはリスクでしかないー。

また、秀樹は小さい頃から”俺の一番嫌いなものは、俺だ”と、
そう断言できてしまうぐらいに、自分のことが
昔から嫌いであったために、
一度、雅美を乗っ取ったらもう、後戻りはしないつもりだったー。

「ーへへー…さてとーー
 じゃあなークソ野郎ー」

秀樹は鏡に写る自分自身を見つめながら
何よりも大嫌いな”自分”に対し、そんな決別の言葉を口にするー。

そして、ゆっくりと立ち上がると
秀樹は自分の部屋から外に出て、
隣人の”冬川”と書かれた扉の前に立ったー。

”勝負は一瞬”ー。
この針をスッと突き刺した瞬間に、
雅美は”皮”となり、空気が抜けるようにして
あっという間にペラペラになるー。

抵抗される心配はほとんどないー。

”~~~~~~”
”~~~~~~~~”

雅美の家の前に立つと、雅美が会話をしている声が
うっすらと聞こえて来たー。

一瞬”誰かほかにも家の中にいるのか?”と、
思ったものの、
ほんの少しだけ聞こえた会話を聞き取る限り、
どうやら”電話”をしている様子だったー。

「ー電話中にインターホンを鳴らすと、
 何か悟られる可能性もあるからなー
 少し待つかー」

秀樹はそれだけ言葉を口にして、数分待つと、
”うん じゃあ切るね!”という声が中から聞えたー

”よしー”
秀樹はニヤニヤしながら、
紫色に輝くその針を手に持つー。

心臓がバクバクと高鳴るー。

”俺が、女子大生になるんだからー
 ま、緊張するのは当然と言えば当然だよなー”
秀樹は内心でそんなことを思いつつ、
インターホンを鳴らすー。

”はいー”
雅美の声が中から聞えて、
秀樹はすぐに言葉を口にしたー。

”あ、隣の杉野ですー。”
秀樹は何食わぬ顔でそう言葉を口にすると、
”今度、”引っ越し”することになったのでご挨拶をと思いまして”と、
そう言いながら、”タオルのギフト”が入った紙袋を
インターホン越しに見えるように掲げたー。

”引っ越し”というのは嘘だー。

が、玄関の扉を開けてもらうために嘘をつきー、
さらにはわざわざ”引っ越しのご挨拶”のための手土産も
用意したー。

無駄な出費ではあるものの、”確実に乗っ取りを成功させるため”には、
必要な準備だったー。

”え?引っ越しされるんですかー?ちょっと待ってくださいねー”
雅美は何の疑いもなく、玄関の扉を開けて、
秀樹の前に姿を現したー

”引っ越しは嘘”ー
がー、間もなく、雅美は秀樹に身体を乗っ取られて
その”嘘”は雅美以外の誰にも伝わることはないー。

「ーーこんにちはー。
 実は今度、引っ越しすることになったのでー
 皆さんにご挨拶をー」

秀樹はそれだけ言うと、
タオルセットが入った箱を雅美に差し出すー。

「あ、ご丁寧にありがとうございますー。」
雅美がぺこりと頭を下げるー。

がーー
その時だったー。

タオルセットの受け渡しをするために、
お互いが手を伸ばしたその瞬間にー、
秀樹は手にこっそり持っていた”針”を
雅美の手に突き立てたー。

「ーーーえ」
雅美が驚いたような表情を浮かべると同時に、
悲鳴を上げる間もー、
何をされたのかを理解する間もなく、
雅美の身体から空気が抜けるようにして、
その場にしぼんでいくー。

「ーーー」
秀樹は周囲を見渡すと、そのまま雅美の家に押し入りー、
雅美から”空気”が抜けていくようなーー…
そんな”風船”のような状態を見つめながら
笑みを浮かべるー。

驚いた表情を浮かべている雅美ー。
が、既に”皮”となっていた雅美の表情は
そこから微動だにせず、ついにそのまま完全に”皮”になってしまったー。」

脱ぎ捨てられた着ぐるみのように、
床に横たわる雅美ー。

秀樹は「へへーついにやったぞー」と、それだけ言葉を口にすると、
雅美の”皮”を手にして、
興奮した様子でそれを着こんでいくー。

まるで、新しいおもちゃを手に入れた子供のようにー。

そして、”雅美”になると、
秀樹は手を何度か動かしてからー
「ーー今日から俺が冬川 雅美ー」と、雅美の声で言葉を口にすると、
ニヤッと邪悪な笑みを浮かべたー。

「ーーへ…へへへへー」
そして、お待ちかねと言わんばかりに
雅美の胸を服の上から見つめて、
雅美の顔で、下品な笑みを浮かべるー

「ーへ…へへーこの日をどれだけ待ったことかー」
雅美の口でそう言葉を口にすると、
雅美の胸に手を触れて、「うっ…うぉぉぉぉぉお…すげぇ…」と、
感動したような感じの声を出すー。

がー…
その時だったー。

♪~~~

「ーーーあ…?」
これから、胸をたっぷりと揉んで楽しもうと思っていた雅美は
”興が削がれた”と言わんばかりに不満そうな表情を浮かべると、
「誰だよ…いいところだったのにー」と、そう言葉を口にするー。

しかし、これからは冬川 雅美として生きていくつもりの
秀樹は、あまり雑に対応することもできず、
大きくため息をつきながら、インターホンの方に向かって歩き出すー。

一瞬、躓きそうになってしまい、
「ーえ…?」と、雅美は少しだけ表情を歪めるも、
「そっかー…歩幅とかバランス感覚も違うからなー」と、
すぐに納得するー。

人間、”身体”によって歩幅も、バランス感覚も違うー。
そのため、ヒールを履いていたり、履きなれないものを
履いていたりしなくても、他人の身体を乗っ取った直後…というものは
バランス感覚が狂うことがあるようだー。

脚の形も、長さも、歩幅も、バランスの感覚も
”全てが違う身体”にいきなりなるわけだから、
当然と言えば当然かもしれないー。

”で、誰が来たんだよー?”
少し慣れない様子でよろよろしながら、
インターホンのところにたどり着くと、
にこにこしながらこちらを見ている男と女がいたー。

「ーはいー」
雅美はやってきた相手が”どんな関係性”の相手でも
大丈夫なようにするために、
そんな短い言葉を口にするー。

”チッー、この女を乗っ取ったら、
 それから、人間関係とかも漁ろうと思ってたのにー”

そんな不満を心の中で感じる雅美を乗っ取った秀樹ー。
まず、雅美を乗っ取りー、
その後に雅美のスマホなどを確認し、
のんびりと”雅美の人間関係や普段の振る舞い、
日頃から接点のある人物の名前”などを学んでいこうと思っていたー。

が、いきなりこんな風に知り合いらしき人間が
やってくるとは思わなかったー。

”ーあ、雅美~、ごめんね~、
 お父さんが時間を勘違いしてて、早めについちゃったー”

家の前にやってきていた男女のうち、
女の方がそんな言葉を口にしたー

「ーーえっ」
雅美は思わず変な声を出してしまうー。

そうー、家の前にやってきていたのはー、
雅美の両親だったのだー

雅美を乗っ取って約30秒ー
あろうことか、雅美の両親が
一人暮らしをしている娘の家にやってきてしまったのだー。

”お、お、お父さんが勘違いしてて早めについちゃったー…だと!?
 ってことは冬川さんー、親が来る約束をしてたってことかー…?”

雅美を乗っ取った秀樹は、表情を歪めるー。

両親が急に家にやってきたっぽい雰囲気であれば
”わたし、これから用事があって”みたいな感じで
逃げることもできるー。

がー、約束していたとなれば
変な反応をすれば逆に怪しまれることにもなってしまうー。

”く、くそっー”
そう思いながらスマホを見つめると、
”あと30分って電話で言ったけど、もうちょっと早く着いちゃうかも”
などという連絡が届いているのが見えたー。

「チッ…!さっき電話してたのー…親と電話してたのか…!」
雅美は、雅美本人とは思えないような
鬼のような形相を浮かべるー。

秀樹が雅美の家のインターホンを鳴らす前に
雅美本人が”誰かとしていた電話”は、両親との電話だったようだー。

困惑しながら、雅美を乗っ取った秀樹が
どうするか考えていると、
”ま、雅美~?どうしたの?”と、母親が
玄関の外からインターホン越しにそう言葉を口にしたー。

”追い払う”という選択肢はないー。
”居留守”という選択肢はないー。

しかし、乗っ取った後にスマホでのやり取りや、
家にあるものから、両親をはじめ、”雅美の周囲の人間との接し方”を
独自に勉強しようとしていた秀樹は、
まだ、何も出来ていないー。

普段、雅美が両親と”どのように”会話を交わしているのかー、
そういうことすら、何も分からない状況だー。

「ーーくそくそくそくそくそくそっ!」
雅美は悔しそうに足をバタバタとさせながら、
「まだ心の準備ができてねぇぞ!」と、
そう呟くー。

がー、
これ以上、雅美の親を待たせれば不審に思われてしまうー。

そう思った雅美を乗っ取っている秀樹は
うんざりした様子で深呼吸をすると「よし」と、意を決した様子で、
そのまま玄関の方に向かうのだったー。

②へ続く

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乗っ取った直後に両親がやってきちゃった…!
そんなお話デス~!

違和感を抱かれずに振る舞うことはできるのかどうか、
明日のお楽しみデス~!!

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