娘が”憑依”されているー…?
蘇生してから様子のおかしい娘の様子を探っていた父は
そんなことに気が付くー。
そしてー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー…父は、最近判断力が鈍っていて、
免許を返納するように伝えていたんです」
娘・麻美を瀕死の状態に追いやった
交通事故を起こした70代の男・喜山 善一の家を訪れていた輝夫は、
その息子から話を聞いていたー。
心底申し訳なさそうにしている息子ー。
そんな様子に、輝夫はこちらまで申し訳ない気持ちになりながら
「なるほどー」と、そう言葉を口にするー。
「ーけれど、事故に巻き込んでしまった娘さんが
無事で本当に良かったですー。
父は、いつも”他人を傷つけてはいけない”ってー、
言ってましてー。
僕も、小さい頃からずっとそう言われて育ちましたー。」
事故を起こした善一の息子はそう言いながら、
遺影を見つめるー。
「ーーーーー」
輝夫は、そんな善一の遺影を見つめるー。
「ーーー…父はーーー事故を起こしてから
ずっとずっと、”他人を傷つけてしまった”ことを悔やんでましたー
毎日、毎日ー」
悲しそうに言う、善一の息子ー。
輝夫は、少し気の毒に思いながらも、話を聞くと、
事故を起こした喜山 善一が自ら命を絶ったのは
事故から3日後のことであることが分かったー。
具体的な日付はこれまで聞かされていなかったため、
少し意外に思う輝夫ー。
「ーーその3日間はー……」
輝夫が、その3日間の善一の行動を聞くと、
警察の取り調べなどを受けていたと、そう言葉を口にしたー。
”ーーー…麻美が蘇生したのはーー………”
輝夫は考えるー。
”「ーー事故で死にかけた身体に憑依すればー
抵抗されることなく、完全に身体を支配することができるー」”
憑依された麻美は、そう言っていたー。
がー、3日後の時点では既に容体がある程度回復していて、
そのタイミング喜山 善一が麻美に憑依したのだとすれば
少し、話が食い違う気がするー。
それにーーー
”他人を傷つけてはいけない”
そんなことを口酸っぱく言い続けていたという
この男が、わざと事故を起こして他人に憑依など
するだろうかー。
「ーーーー…分かりましたー。色々すみません」
輝夫はそう言うと、喜山 善一に線香をあげて、
そのままその場を立ち去ったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーあ、お父さんおかえり~」
仕事から帰宅した輝夫を、娘の麻美が
笑顔で出迎えるー。
「ーーー…」
輝夫は、そんな麻美を見て、内心で怒りを覚えるー。
麻美にではないー
麻美の身体を”使っている”者に対してだー。
しかしー、”まだ”今の時点で騒ぐのは上策ではないー。
相手を決定的に追い詰めることができる確証を得てからだー。
中途半端な状況で動けば、とぼけられるかもしれないし、
気付いていると悟られてしまえば、何をされるか分からないー。
麻美に憑依しているということはー、
麻美が人質に取られているのと同じようなものなのだからー。
いや、”人質”よりも厄介かもしれないー。
相手は”人質”状態の麻美に何をさせることだってできるのだからー。
「ーー…お父さん?」
麻美が不思議そうにしながら微笑むー。
「あぁ、いやー。ただいまー」
輝夫がそう言いながら家の中に入っていくと、
妻である真理恵とも会話を交わすー。
妻の真理恵にも”この前見た光景”は、伝えていないー。
あまりにもショッキングな光景ー
娘が何者かに憑依されているという、恐ろしい事実ー。
そんなことを伝えれば、真理恵はきっとパニックになってしまうー。
「ーー麻美ー…俺が必ず助けるからなー」
スマホをいじっている麻美の方を見つめながら、
輝夫は小声でそんな風に呟くー。
最近は”ツインテール”にしていることが多くなった麻美ー
今まで、麻美のツインテールは見たことがないー。
そんな光景にも、
娘が、”おもちゃにされている”ような感じで腹が立つー。
けれど、今はどうすることもできないー。
早く”確証”を掴むー。
まずは、それが先決だー。
輝夫はそんなことを心の中で思いながら、
静かにため息を吐き出したー。
”やはり、喜山 善一が一番怪しいー…
事故のタイミングを狙って、憑依できる人間で
かつ、”自分の身体”を失うか、動けない状態でも
疑われない者はー、喜山ぐらいしかー…
いやー、だが、麻美の事故現場に偶然居合わせた人間の中に
いた可能性もあるかー…?”
輝夫は困惑の表情を浮かべながら
そう言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーふふふっ♡」
バニーガールの格好をしながら、自分の胸元を
鏡で見つめて、下品な笑みを浮かべる麻美ー。
「最っ高ー…♡」
興奮した様子で、そう呟くと、
網タイツの上から自分の足をべたべたと触りながら
ニヤニヤと笑みを浮かべるー。
「おっとっとー…こんな笑い方しちゃ、
可愛い顔が台無しだー」
麻美は慌てて自分の口元を触ると、
穏やかに微笑んで見せるー。
「ーーでもーー
こんなにエロイんじゃー、我慢できないよねー」
麻美はニヤッと笑うと、再び自分の足を嬉しそうに触り始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーー松宮君、今日は残業お願いできるかなー?」
新たに着任した上司の、湯本(ゆもと)部長に
そんなお願いをされた輝夫は「あ、はいー」と、頷くー。
前任の川山部長とは違い、
湯本部長は事務的なタイプの人間で、
残業も増えているー。
部署内でも、”湯本部長になってからやりにくいなぁ~”なんて
そんな声を聞くぐらいだー。
「ーーはぁ、また残業かー。お疲れー」
同期の男の言葉に、輝夫は苦笑いをしながら、
「まぁ、仕方ないさー」と、そう呟くー。
病気で休職した川山部長が、復帰すれば
また元に戻るかもしれないもののー、
当面の間は、”湯本部長”の体制に
慣れていくしかないのも事実ー。
輝夫は、仕事に、麻美の件に、
色々なことで頭を悩ませていたー。
なんとか仕事を終えると、
Dr・厚谷の元に向かい、意を決して
”憑依”のことを相談したー。
驚くDr厚谷ー。
「ーーーそういうー…”妄想”のようなことを
してしまうー、
そんな可能性はありますかー?」
輝夫が聞くー。
頭を強く打った後遺症で、
”自分のことを他人のように言う”なんてことがあるのかどうか、
それを確認しに来たのだー。
”憑依”の線も色々考えてはいたものの、
そうではない可能性もあるのではないかー、とー。
が、Dr厚谷は困惑した様子で言うー。
「ーーーあまり、そういう話は聞きませんねー…
性格が変わったり、記憶喪失になったり、そういうことはありますがー
自分のことを他人のように言うなんてことはー…」
Dr厚谷の言葉に、輝夫も困惑するー。
「ーーー…そうですかー…」
ようやく、言葉をそう振り絞った輝夫ー。
Dr厚谷は「ただ、事故のトラウマはそう簡単に消えるものではありませんからー」
と、そう言葉を口にすると、
”気長に焦らず、娘さんの様子を観察してあげて下さい”と、
それだけ言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
同時刻ー。
「ーーはぁぁぁ……♡ やっぱ…いいーー
この女の身体 最高だ…♡
前に”写真”見た時からーー、へへーー…イイと思ってたんだよなぁ」
ニヤニヤしながら、そう呟く麻美ー。
が、その時だったー
「ーー!?」
パートの仕事が”予定より早く”終わって帰宅した
母・真理恵がそれを聞いてしまったー
「麻美ーー…?」
驚く真理恵ー
”見られた”
そう察した麻美は、表情を歪めると、
「ーーお母さん、今の聞いちゃった?」と、
それだけ言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
何も知らずに帰宅した輝夫ー
がーー
家に入ると同時に”異変”に気付くー。
家の中が妙に散らかっているーーー
慌てて奥に行くと、
そこにはーー
娘の麻美にキスをされている妻・真理恵の姿があったー。
真理恵は拘束されて、麻美が一方的にキスをしているー。
「ーーあ…麻美ーー…?真理恵ーー…?」
輝夫が言うと、
麻美は笑いながら振り返ったー。
「あ~~~…お父さんー…
お母さんねー…”わたしの秘密”に気付いちゃったのー
黙っててって、お願いしたのに言うこと聞かないからー
お仕置きしちゃった」
クスっと笑う麻美ー。
「ーーま、真理恵!」
慌てて真理恵に駆け寄ると、真理恵は泣きながら
「麻美がー…麻美がー…」と、そう言葉を口にするー。
輝夫は「俺がなんとかするー大丈夫だー」と、
それだけ言うと、
麻美に向かって言ったー。
「ーーお前は、誰だー」
とー。
「ーーー」
麻美は少しだけ表情を歪めるー。
輝夫は、全てを伝えたー。
”憑依”のことを、この前、隠れて聞いていたとー。
すると、麻美は笑いだしたー。
「ーーへぇ~聞かれてたのかー
なら仕方ないー。」
そう呟く麻美ー。
そして、言葉を続けるー。
「ーー”新しい部長”の元での仕事はどうかな?ー」
とー
「ーーー!!」
輝夫は、表情を歪めたー。
”麻美”が事故で負傷したことを知っていて、
かつ、”自分の身体”が抜け殻になっているか、死んでいるような状態でも
疑われない状況の人物ー
いたー…
「ーーまさかー」
輝夫は”犯人”の正体に気付くー。
「ーーか、川山部長ー!」
そう叫ぶと、麻美は「へへへーそうだよー」と、笑みを浮かべたー。
麻美が事故に遭ったと電話がかかって来たあと、
「ーーこっちのことはいいからー、早く行ってあげなさい」と、そう言ってくれた上司ー。
彼はそのあと、すぐに憑依薬を使い、
”麻美”に憑依したのだー。
重症の麻美なら、抵抗されることなく、身体を奪えるのではないかとー。
麻美のことは、以前、輝夫が娘の写真を同僚たちに見せていた時に知ったー。
とても、可愛い子だったー。
その後、海外の商社との取引の際に、偶然開発中の憑依薬を手に入れ、
使おうか迷っていたところ、麻美の事故を聞き、
輝夫を麻美のところに向かわせた直後ー、
体調不良を理由に早退ー、
そのまま自宅で憑依薬を使って麻美に憑依したー。
「ーー本当はー、もうちょっと”娘でいたかったけどー、
バレてしまったなら、仕方ないなー」
麻美はそう言うと、ゆっくりと歩き出すー。
「ーー…な、何で…?何故こんなことをー!」
輝夫が怒りの形相で叫ぶー。
すると、麻美は笑みを浮かべながら振り返ったー。
「ー生きる意味を見失ってねー。
俺も、もう50だー。
けれど、俺には守るものは何もないー。
自分の人生がセピア色に見えて来たんだー。
このまま働き続けて死ぬだけの人生ー。
このまま俺は終わるのかと思っていたとき、
開発中の憑依薬を手に入れたー。
”身体の持ち主”の抵抗に遭って、
憑依した側が消えてしまうケースが多いと
聞かされていたから、使わずにいたんだがー、
君の娘が事故に遭ったと聞いて、咄嗟に思いついたんだー。
弱っている人間なら、乗っ取れるんじゃないかってー
結果は、この通りだーククー」
麻美は嬉しそうに自分の身体を自慢するような様子で
手を動かすー。
「ーー…ふ、ふざけるなー…!む、娘から出て行け!」
泣きじゃくる妻・真理恵を気にしながら、
輝夫がそう言うと、
麻美は笑ったー
「ーってことで、”わたし”家出するからー
あ、捜索願とか出しちゃダメだよ?
わたし、ショックで悪いことしたり、
自殺しちゃうかもしれないからね?」
邪悪な笑みを浮かべる麻美ー。
「ーーふ…ふざけーー…」
輝夫がそう言いかけると、麻美は笑ったーー
「ーこの子の止まった心臓が動き出したのは
俺が憑依したおかげだー。
そうじゃなきゃ、この子はそのまま死んでたー。
分かるなー?
つまり、俺は”命の恩人”なんだよー」
そう囁く麻美ー。
麻美の心臓は、あの時止まったー。
現代の医術ではもはや蘇生できない状態だったー。
それが、”憑依されたこと”によって、
医療機器では与えることのできない刺激が伝わり、
麻美の身体は蘇生したー。
「俺が憑依してなきゃ、この子は死んでたー。」
麻美は今一度言うー。
上司の川山が憑依してなければ、どのみち麻美は死んでいてー、
”娘が憑依されるか” ”あのまま死ぬか”ー
それしか、選択肢はなかったのだー。
「ーーーー」
怒りの形相で麻美を見つめる輝夫ー。
「お父さんー怖いよーその顔ー」
馬鹿にしたように笑う麻美ー。
麻美はそのまま
「ーーま、たまには顔だすからー」と、
それだけ言うと立ち去っていくー。
泣きじゃくる真理恵ー
呆然とする輝夫ー。
娘は、二度、殺されたー。
アクセルとブレーキを踏み間違えた喜山 善一にー。
そして、娘の身体を奪った上司の川山にー。
輝夫は、娘が去って行った玄関の方を見つめながら
しばらく身動き一つ取ることもできなかったー…。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
バッドエンドデス…!
ちなみに、
車を運転していた善一は、
特に憑依とは関係なく事故を起こした人でした~!
このあとのお父さんの行動次第では、
もしかしたら…逆転もあるのかもしれませんネ~!
お読み下さりありがとうございました~!
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