事故に遭い、病院に運び込まれた娘ー。
一度は心停止に陥るも、
娘は奇跡的な復活を遂げたー。
しかし、蘇生してから娘の様子がおかしくなりー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「そんな……」
会社で仕事中だったサラリーマン、
松宮 輝夫(まつみや てるお)は、呆然とした表情を浮かべていたー。
「ーーこっちのことはいいからー、
早く行ってあげなさい」
上司の川山(かわやま)が、そう言葉を口にすると、
輝夫は「すみませんー。ありがとうございますー」と、
頭を下げて、すぐさま仕事を引き継ぐと、
そのまま会社から飛び出したー。
輝夫の元にかかってきた電話ー。
それは、高校生の娘・麻美(あさみ)が、交通事故に巻き込まれて
病院に運び込まれ、危険な状態ー…という連絡だったー。
”そんなー…麻美ー…”
今朝のことを思い出す輝夫ー。
「ーーそういえば、今度、お父さんの誕生日だったよね~
何か欲しいものある~?」
麻美がそんなことを聞いてきたー。
「ーん~~?欲しいもの~?」
輝夫はそう答えながら考えるー。
娘の麻美は、難しい年頃ながら、父である輝夫とも、
母である真理恵(まりえ)とも、良好な関係を保っていて、
世間でよく聞くような、”仲の悪い親子”にはなっていないー。
「ーそうそう!お父さん、何が欲しいのかよく分からないし、
直接聞いた方が早いかな~って!」
麻美がそう言いながら笑うー。
高校生になってからは、お菓子屋でバイトをしていて、
バイトで貯めたお金でプレゼントを買ってくれるようだー。
「ーーははは、これとかー?」
輝夫は笑いながら、スマホに表示した、数十万円する腕時計を見せるー
「わぁ~~~~…」
口をぽかんと開けたまま、高額な表示を見て
麻美はその先の言葉を失うー。
「はははー、冗談だよ冗談ー」
ちょっと揶揄ってみた輝夫がそう言うと、
麻美は「も~!びっくりした~!」と、そう言いながら
「ね~ね~!ちゃんと教えてよ!」と、少し頬を膨らませながら言うー。
「ごめんごめんー。
そうだなぁ」
輝夫はそう言葉を口にすると、
「夜までに考えておくってことでいいか?」と、そう呟くー。
急に聞かれてもパッと浮かばなかったー。
それに、娘の麻美に”無理をさせない程度”のものにしてあげたいし、
せっかく聞いてくれたのだから、
ちゃんと真剣に考えたかったー。
「ーーうん!いいよ!じゃあー、また夜に聞くね!」
麻美はそれだけ言うと、
「あ、今日、文化祭の準備があるから少し早めに行かなくちゃ」と、
そう言葉を口にして玄関の方に向かうー。
「ーはは、そっかー。今日も頑張れよー」
父・輝夫がそう言うと、麻美は「お父さんも頑張ってー」と、
それだけ言葉を口にして、
いつものように家を出て、学校へと向かって行ったー。
何も変わらぬ朝だったはずなのに、
それが、まさかこんなことになるなんてー。
輝夫は、只々、麻美の無事を祈りながら、
ようやく、麻美が緊急搬送されたという病院にたどり着いたー。
「ーーー…麻美は!?」
輝夫が病院に駆け付けると、妻の真理恵が目に涙を浮かべながら
「ーー頭を強く打っててー、血がいっぱいでー」と、
半分パニックになった様子でそう言葉を口にしたー。
「ー大丈夫ー。大丈夫ー麻美なら大丈夫だー」
輝夫は、そんな妻・真理恵を落ち着かせようと、
”大丈夫”を連呼したー。
自分自身も不安でいっぱいだったし、
何が大丈夫なのか、自分でもよく分からなかったけれど、
自分に言い聞かせるように、何度もそう言葉を口にしたー。
何とか少し落ち着きを取り戻した真理恵から事情を聞く輝夫ー。
どうやら、娘の麻美は
帰りにコンビニに立ち寄った後、
ブレーキとアクセルを踏み間違えて突っ込んできた車に
巻き込まれてしまったらしいー。
その際に頭を強く打ち付けてしまったらしくー、
担当の先生によれば”かなり危険な状態”なのだと言うー。
既に車の運転手であった70代の高齢男性は逮捕されていて、
ひたすら”申し訳ないことをした”と謝っているとのことだったもののー、
輝夫からすれば、穏やかではいられなかったー。
只々、娘の無事を祈る輝夫ー。
がー、無情にも娘の麻美は”心停止”に陥ったー。
担当の医師が、必死に麻美を助けようとするー。
慌ただしく動き回る病院のスタッフたちー。
その様子に、手術室の前で娘の無事を祈る輝夫と妻・真理恵も
”何かが起きている”ことを察して、
不安そうな表情を浮かべるー。
「ーーー…」
医師たちは懸命に処置を続けたー。
だがーー
麻美は戻って来ることはなくー、
担当医の厚谷(あつや)が、手術室から出て来るとー、
「ーー残念ですがー」と、そう言葉を口にしたー。
「ーそ、そんなー…」
呆然とする父・輝夫ー。
泣き崩れる母・真理恵ー。
麻美は、心停止の状態から蘇生することなくー、
そのままーーーー
がーーー
その時だったー
「ーー先生!!!!」
背後から、助手の一人が叫ぶー。
「ー!?」
Dr厚谷が驚いて振り返ると、
「ーーし、心拍が、さ、再開しましたー」
と、信じられない、という様子で助手がそう叫ぶー。
「な…なに!?」
Dr厚谷は、すぐに輝夫に頭を下げると、
そのまま麻美の状態を確認するー。
止まっていたはずの麻美の心臓が再び動き出しているー。
「ーーど、どういうことだー…?」
驚くDr厚谷ー。
決して、見落としがあったわけではないー。
Dr厚谷は、長年の医療経験から適切に、
”死亡”の判断を下したー。
その判断に何の落ち度もないー。
麻美の身体は確かに”死”へと向かっていたし、
もう助からないはずだったー。
普通であれば、そのまま心拍が再開することもなく、
麻美の人生は終わるはずだったー。
がーー
「ーーー…これはいったいー…?」
Dr厚谷は戸惑いながらも、心拍が再開した麻美の処置を始めるー。
そして、麻美は信じられないことに
普通ならば絶対に助からない状態からの生還を果たしたのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーー…」
麻美が目を覚ますー。
「ーーー…」
周囲を見渡す麻美ー。
麻美は自分の手を見つめると、
それを、興味深そうに見つめるー。
手を動かして、
少しだけ笑みを浮かべる麻美ー。
そこにー、女性看護師が入ってきて、
麻美が意識を取り戻したことに気付くと、
「ーー…先生!意識がー!」と、
外に向かってそう言葉を口にしたー。
「ーーー…」
ニヤッと笑みを浮かべる麻美ー。
「ーーククー……
ーーーこれでこの身体はーーー…」
普通なら、もう心拍が再開することのない状況だった麻美が
”蘇生”したのには理由があったー。
それはーー
”憑依”されたからー。
憑依されたことにより、電気ショック以上の強い衝撃が身体を襲い、
そのはずみで、心拍が再開したのだー。
通常の医療では不可能な衝撃ー。
それによる、身体の蘇生ー。
”俺は賭けに勝ったー”
麻美に憑依した彼は、そう思ったー。
”開発中の憑依薬”を手に入れた男ー。
しかし、”憑依”することはできても、
元々の身体の持ち主に精神が取り込まれてしまい
”憑依した側が消えてしまう”ということで、
その憑依薬は開発段階で、計画中止の状況に追いやられていたー。
が、彼はあることを思いついたー。
それは、”元の身体の持ち主が極限まで弱っている状態”であれば
その身体を乗っ取ることができるのではないかー、とー。
そして、彼は”死にかけの身体”に憑依することにしたーー。
”憑依した側が、元の身体の持ち主に取り込まれて消えてしまう”のであれば、
”元の身体の持ち主”が消えかかっているタイミングで憑依すれば
乗っ取ることができると考えたのだー。
結果ー、彼は賭けに勝ったー。
目論見通り、”今、まさに死のうとしている麻美”に憑依したことで、
麻美の精神の反撃を受けることなく、
そのまま、麻美の心を奥底に封じ込めて、身体を乗っ取ることに成功したのだー。
「ーーこの身体は、俺のものー…」
改めて、ちゃんと全身を動かすことができることを確認するー。
完全に、この身体を支配することができたー。
「ーくくくっ…ふふふふふふふふ…」
自分の”新しい手”を見つめながら笑みを浮かべる麻美ー。
「ーー俺の新しい人生の始まりだー」
麻美は嬉しそうにそんな言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーー未だに、信じられませんー。
通常では、決して助からない状況だったのにー」
数日後ー。
Dr厚谷はそう言葉を口にするー。
心停止して、あの状況にまで陥った人間が
助かったケースは、少なくともDr厚谷は
見たことはないー。
完全に心停止していたし、蘇生も叶わなかったー。
だが、何のきっかけか突然心臓が動き出しー、
麻美は無事に助かったのだー。
もちろんー、通常では麻美の身体は
そのまま冷たくなって、それでおわりのはずだったー。
現代の医学ではあの状況で、麻美の心臓を再び動かすことはできなかったー。
けれど、”憑依”された衝撃で、完全に停止し、
もう動かなかったはずの麻美の心臓が動き出し、
麻美は助かったのだー。
助かったのは”身体”だけで、その意識は心の奥底に
封じ込められたままではあるもののー…。
「ーー奇跡としか、いいようがありませんー」
しかし、”憑依”などあまりに非現実的で、
Dr厚谷も、両親もそのことには気づいておらず、
Dr厚谷は、麻美の蘇生を”奇跡”とそう表現したー。
「ーいえ、本当にありがとうございますー。
病院の皆さんが、娘のことを必死に助けようとして下さったからこそ、
起きた奇跡だと思ってますー」
麻美の父・輝夫がそう言うと、
Dr厚谷は穏やかな表情で頷くー。
「ーー今日の検査で何も問題がなければ
明日には退院できるかと思いますのでー
いや、しかし、本当に良かったですー」
Dr厚谷は”奇跡”を噛みしめながらそう言葉を口にすると、
父・輝夫は「このあと、少し本人に会っても良いですかー?」と、
そう言葉を口にしたー。
「えぇ、もちろんです」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
輝夫はゆっくりと、病院内を歩くー。
一時は、”娘の死”に直面したー。
が、奇跡は起きたー。
絶望からの希望ー。
麻美の心臓が再び動き出したと聞いた時には、
”娘の死”というあまりのショックに現実を受け入れられず、
自分が幻覚や妄想の類を見ているのではないかと
不安になってしまったぐらいだー。
けれど、これは現実だったー。
「ーーーーー」
ただ、一つだけ複雑だったのは、
娘の麻美を事故に巻き込んだ車の高齢ドライバー…
70代男性の彼が、先日、”自ら命を絶った”と
聞かされたことだったー。
事件直後から、ブレーキとアクセルを踏み間違えたとして
ひたすら申し訳なさそうに謝罪をしていた彼は、
先日、自ら命を絶ってしまったのだー。
もちろん、娘の麻美を殺しかけたその人物を
許すことはできない。
例え、ブレーキとアクセルの踏み間違えであっても
穏やかに笑いながら「それじゃ、仕方ないですねー」とは言えない。
”奪われた側”からすれば、当然だー。
けれどーー…
罪の意識に囚われて自ら命を絶ってしまうー、
などという結末までは、輝夫は望んでいなかったー。
「ーーーーー」
病室に行くと、麻美は窓の方を見つめながらー、
”不気味な笑み”を浮かべていたー。
”ーーはぁ…なんて可愛いんだー…
これが、俺の顔ーー”
麻美はうっとりとした表情で自分の顔に手を触れるー。
「ーーー麻美ー」
そんな麻美に父・輝夫は声を掛けるー。
麻美は少しハッとした様子で、
「あーまつー…」と、父のことを名字で呼びそうになってしまい、
すぐに「お父さんー」と、そう言葉を口にするー。
「ーーははー、今日の調子はー?
どこか調子悪いところはないか?」
輝夫がそんな風に言葉を口にすると、
麻美は「うんー絶好調だよー」と、穏やかに笑うー。
そんな麻美を前に、安堵の表情を浮かべる輝夫ー。
だがーー
”蘇生してから、娘の様子がおかしい”と、
この先悩むことになるとは、
この時の輝夫はまだ、夢にも思っていないのだったー。
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
これから、家族にとってはつらい日常が
始まっていきそうですネ~…!
続きはまた明日デス~!
今日もありがとうございました~!☆!
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