<入れ替わり>大丈夫 あなたは必要ないよ③~末路~(完)

入れ替わってお互いのフリをすることになってしまった二人ー。

持ち前の真面目で努力家な性格で、人気アイドルとしての日々を
乗り越えていく彼ー。

しかし、”人気アイドル”のあまりにもワガママな態度を前に、彼はー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーありがとうございます~」
美音(大悟)は、ドラマの撮影を終えると、
ぺこりと頭を下げながら、
嬉しそうに微笑むー。

「それに美音ちゃんー、
 前よりも演技に真剣な気がするしー、
 周りに気遣いもできるようになったしー、
 成長したよー」

監督の男がそう言うと、
美音(大悟)は「あ、あははー…」と、苦笑いするー。

それは”中身が入れ替わった”からだー。

しかし、それを周囲に言うことはできないー。
あくまでも自分は”元に戻る”までの間、
美音のフリをするだけー。

とは言え、既に入れ替わって数週間が経過してしまっていて、
なかなか元に戻る方法は見つからないー。

「ーお疲れ様」
マネージャーの女性・久米田 梨沙が、
そう言葉を口にしながら近寄って来るー。

このあと、イベントに出席する予定があるために
移動しながらスケジュールの確認を行うー。

「ーあ、お疲れ様ですー」

「ーありがとうございましたー」

「ーーこの前は、お手数おかけしましたー」

梨沙と打ち合わせをしつつ歩きながらも
すれ違う関係者に、丁寧なあいさつも欠かさない美音(大悟)ー

「ーーー」
そんな美音(大悟)を見つめながら
「美音ー」と、マネージャーの梨沙はそう口を開くー。

「ーー最近、礼儀正しくなったよねー。
 関係者のみんなにもそうだし、
 自分の身の回りのスタッフさんにもそうだしー。

 ちょっと前まで気に入らないとすぐに怒鳴り散らしたり、
 酷い時はクビにしてたのにー」

梨沙のその言葉に、
美音(大悟)はギクッとしながらも、
「ーそ、それはー…その~…わたしも大人にならないとってー」と、
そう言葉を返すー。

この梨沙は美音がデビューした当時から
ずっと美音の側にいるらしいー。
だからこそ、違いにも気付くのかもしれないー。

美音(大悟)は”見破られたらどうする…?”と、不安を
感じながらも、さらに言葉を口にしようとすると、
その前に、梨沙が先に言葉を発したー。

「ーーうんーいいと思うー
 その調子で、頑張ってー」

と、嬉しそうに微笑むマネージャーの梨沙ー。

「ーーあ、ありがとうー」
美音(大悟)はそう言葉を口にすると、
周囲のスタッフの様子を見つめたー。

入れ替わる前ー、
清掃業者のパートでスタジオに出入りしていた際には、
周囲はもっと暗い感じだった気がするー。

それもそのはずー。
美音は滅茶苦茶自分勝手だし、
気に入らないことがあれば、すぐに怒鳴り出したりするー。
酷い時は、その場でクビだー。

あんな状況では委縮するなという方が無理があるー。

「ーーーーー」
美音(大悟)はそんな様子を見つめながら
”みんな、苦労してたんだなー”と、そう言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”あんた、わたしになりきっていい気になってるでしょー?”
大悟(美音)が、電話で不満そうにそう言葉を口にしたー。

「ーえっ…えぇっ…?
 私はただ、元に戻った時にあなたが苦労しないようにとー」
美音(大悟)が戸惑いながらそう言うー。

が、大悟(美音)は言ったー。

”ううんー。違う。あんたはわたしの全てを奪う気なんでしょー?
 わたしみたいな若い女の身体を手に入れて、
 何もかも手に入れようとしてるー。

 ーーあんたみたいな底辺のおっさんだったら、
 そういうこと、平気で思いつくだろうし、
 現にあんたはわたしになりきって、チヤホヤされて喜んでるじゃない?”

大悟(美音)のその言葉に、
美音(大悟)は反論するー。

「ち、違いますよー。
 元に戻った時のために、私はー」

とー。

しかし、それでも大悟(美音)は信じないー。

”こんな汚い身体ー、早くそっちに戻りたいのにー。
 元に戻る方法もまだ見つからないなんて、おかしいでしょ?
 元に戻る方法なんか調べてないくせに!
 っていうか、入れ替わりもあんたの仕業でしょ?

 元に戻ったらあんたのこと訴えて破滅させてやるから”

大悟(美音)の言葉による攻撃はさらに続くー。

暗い表情を浮かべる美音(大悟)ー

美音(大悟)は忙しい芸能活動の合間に
”元に戻る方法”も必死で調べてきたー。

だが、大悟(美音)は何もせずに大悟の家に引き籠り、
しかも、大悟のパートにもいかずにクビになり、
家もゴミ屋敷のようになってしまっているー。
当然、”元に戻る方法”も自分では一切調べていないー。

その大悟(美音)から”元に戻ったら破滅させてやる”と言われた
美音(大悟)は
「ーーなんで、こんなに頑張ってるのに、そんなこと
 言われなくちゃならないんですかー」と、怒りに震えながら呟くー。

”はぁ?逆ギレ?怒りたいのはこっちなんだけど!
 わたしの身体をとっとと返しなさいよ!この変態ジジイ!”

大悟(美音)は不満そうに叫ぶとそのまま電話を切ってしまったー。

美音(大悟)はギリギリと歯軋りをすると、
「ーー私は”こんな女”のためにーー
 何のために一生懸命やってきたんだー」と、
不満を口にするー。

元に戻った時のためにと、
美音として必死に仕事をしー
元に戻る方法も探してきたー。

それなのに、美音は何も大悟の身体でしてくれないし、
挙句の果てに泥棒、変態呼ばわりー。
しかも、もしも無事に元に戻れた時の”お礼”はー、
”訴えて破滅させる”という、とんでもない”ご挨拶”だー

「ーーくそっー…私を何だと思ってるんだー」
そう呟きながら、美音(大悟)は、
明日、生放送に出演する予定があるのを思い出すー。

そして、ふと、
”生放送中にとんでもないことをして、こいつを破滅させてやろうかー?”と、
そんなことを思ってしまうー。

が、美音のスタッフやマネージャーの梨沙、
ファンたちの顔を浮かべてそれは思いとどまったー。

「はぁ…」
大きくため息を吐き出しながら、美音(大悟)は
静かにイスに座り込んだー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日以降も、美音(大悟)は、
”アイドル”としての仕事を続けたー。

”中身が大悟の美音”は、
ますます周囲での評判も上がりー、
”元の美音”よりもさらにその人気は上昇ー、
周囲からの評判も嘘のようによくなり始めていたー。

そんな情報を大悟(美音)は手に入れて、
怒りの形相で、美音(大悟)のスタジオに乗り込んできたー。

「ーどういうつもりー!? 
 早く、元に戻す方法見つけなさいよ!」
大悟(美音)がそう叫ぶー。

が、美音(大悟)は「これから、サイン会がありますのでー」と、
それだけ言うと、大悟(美音)の横を通り過ぎて
立ち去ろうとするー。

「ー待ちなさいよ!」
大悟(美音)が不満そうな表情で言葉を口にするー。

「ーーー何ですか?」
美音(大悟)がそう返すと、
大悟(美音)は言ったー。

「ーわたしも、ちょっとは悪かったからー…
 だから、一緒に元に戻す方法を探してあげるー。
 助言ぐらいはしてあげるから、
 とっとと元に戻す方法を探しなさい」

とー。

「ーーどうして?」
美音(大悟)が言うー。

大悟(美音)は、不満そうに
「はぁ?元に戻れなきゃお互い困るでしょ!
 あんただって、いつまでもアイドルやってられないだろうし、
 わたしがいなきゃーーーー」
と、そう言葉を口にするー。

しかしー、
美音(大悟)はそれを鼻で笑ったー。

”大丈夫”
とー。

「ーーえ?」
大悟(美音)が表情を歪めるー。

「ーー考えてみて下さいー。
 入れ替わったあとーー
 ”美音”の人気はさらに上がったはずですー。

 あなたに散々、酷い扱いを受けていたスタッフさんも、
 安心して、笑顔が戻ってますし、
 業界の皆さんも、今の私の方が仕事がやりやすいと
 言ってくれてますー。

 あなたの友達も、”最近の美音は安心して見てられる”ってー
 先日、そう言ってくれましたー。

 ファンの皆さんも、”今の私”を求めてる」

美音(大悟)はそこまで言うと、
大悟(美音)は「ふざけないで!」と、そう叫ぶー。

「ーわたしがいなきゃ、周りのやつらなんて馬鹿ばっかりだし、
 事務所の子も、わたしがいるから”ついで”に仕事が貰えるの!
 わたしがいなかったらーーー

「ーー大丈夫ー。
 入れ替わってから、”美音”の評判も良くなったし、
 ”事務所の子”も、今までより楽しそうにしてるし、
 仕事も今までより回って来るようになりましたよー。

 全部、”今までより”上手く行ってますー
 誰も、困っている人なんていませんー」

美音(大悟)がそう言い放つー。

大悟(美音)は放心状態になりながら
「え…?なにそれ…?」と、言葉を発するー。

「言葉の通りですよ。あなたは必要ないー。
 私の方があなたよりも、完璧に”山咲 美音”になることができるー。

 だから、あなたはもう必要ないんですよー」

美音(大悟)はそう言い放ったー。

「ーーーぇ…?」
大悟(美音)は青ざめながら話を聞くー。

「ー最初は、身体を返すつもりでしたよ?
 若い子の未来を私のようなおじさんが奪うなんて
 とんでもないー。

 だから、一生懸命あなたのふりをしたし、
 元に戻す方法も調べたー

 でも、あなたは私の人生を平気で壊し、
 努力している私に対して「泥棒」「嘘つき」「変態」
 そんなレッテル貼りばかりしたー。

 挙句の果てに”元に戻ったら訴えて破滅させてやる”ってーー」

美音(大悟)は半ギレのような雰囲気で、
笑いながら頷くー。

「ーーそ……そ、それはーー」
大悟(美音)は反撃を受けると思っていなかったのか、
途端に弱気な表情を浮かべるー。

「ーー周囲の人にきつく当たって、
 スタッフさんたちも傷つけて、
 ファンともトラブルを起こしてー。」

美音(大悟)はそこまで言うと、
今までほとんどずっと敬語で、穏やかに話していた
オーラを一変させて言ったー

「何様だよー。おまえ」
とー。

「ーー~~~~!!!」
大悟(美音)は震えながら言葉を口にしようとするも、
言葉も出せずに、ただ震えるー。

「ーーーと、
 私はもう、あなたに愛想がつきましたー。

 大丈夫ですよー。
 私の方が完璧に”美音”になれますからー。

 あなたは必要ありませんからー」

美音(大悟)が笑みを浮かべながらそう言い放つー。

「ーーーーー」
大悟(美音)は、その言葉に震えながら、
やがて顔を上げるー。

「ね…ねぇ…待ってー、ご、ごめんなさいー
 今までのこと、全部謝るからー
 ーー少しぐらい、元に戻る方法探すの手伝ってあげるからー

 そ、それとー…も、元に戻ったら、
 あんたの人生には口出ししないし、
 破滅させたりはしないー
 見逃してあげるって約束するからー」

大悟(美音)は泣きそうになりながら
そう言葉を口にするー。

「ーー”手伝ってあげる”ー?
 ”見逃してあげる”ー?

 ーーこの後に及んで、上から目線ですかー」

美音(大悟)はそう言うと、
「よく分かりました」と、そう言葉を口にするー。

「これからは、私が山咲 美音として生きますー。
 
 このまま元に戻っても、あなたはやっぱり
 私のこと訴えたりするかもしれませんしー、
 そもそも、あなたのせいで私はもう仕事クビになってますしー
 感謝されるどころか何もいいことはありませんー。

 それに、元に戻ればまたあなたはきっと
 スタッフさんに横暴な態度を取って、周りを苦しめるー。

 だから、私が山咲 美音として生きます」

美音(大悟)の言葉に、
大悟(美音)は「ち、ちょっとー、何を言ってるのー?
わたしがいないとー…!」と、涙目で言うー。

しかしーー

「ーーあえて”あなた風”に言いましょうかー

 あなたは”クビ”ですー」

美音(大悟)はそう言い放つー。

「この身体があれば、誰だってあなたの代わりなんてできるから
 大丈夫ー。
 それも、あなたみたいに、周囲の人を傷つけたりもせずに、ねー」

美音(大悟)がそう続けると、
「そ、そんなことー!」と、大悟(美音)は真っ青な顔色で反論するー。

「ー大丈夫ー
 あなたはもう必要ないよー」

美音(大悟)がそう言葉を口にすると、
大悟(美音)は泣きながら、その場で頭を抱えて膝をつくー。

「ーー返せ…!わたしの…わたしの身体をー、返して!」
そう叫ぶ大悟(美音)ー

しかし、関係者や、マネージャーの梨沙が駆け付けると、
「何ですかあなたは!?」と、そう声を上げるー。

「ーき、急にこの人が、意味の分からないことを言ってー!」
美音(大悟)がそう言うと、
大悟(美音)は、マネージャーの梨沙たちに捕まって、
そのまま”人気アイドルと入れ替わったと思い込む怪しいおじさん”として
つまみ出されてしまったー。

「ーーこれからは、わたしが美音ー」
最初は、身体を返すつもりで、
元に戻れるまで、美音のために、美音のフリをしようと、
そう考えていた彼はー、
美音のあまりの横暴な態度を前に、自分が美音として生きていくことを
決めたのだったー。

そしてーーー

「ーーーーーー……”少し”計画は崩れちゃったけど、
 まー、いっかー」

物陰から、美音(大悟)の様子を見つめるマネージャーの梨沙は微笑むー。

梨沙は、美音の周囲に対するあまりにも横暴な態度を見かねて
”入れ替わり薬”を美音のお茶に盛ったー。
そして、自分自身が美音と入れ替わろうと画策し、
あの日、階段を下りたあと、美音が打ち合わせの部屋にやってきたら、
美音と扉で”わざと”ぶつかって入れ替わるつもりだったー。

がー、それよりも先に、大悟と階段で転落、
”お互いに衝撃を受けると入れ替わる”条件を満たして
大悟と入れ替わってしまったー。

けれどーー

結果的にはーー

「ーーあの人、ちゃんと美音になり切れてるしー、
 トラブルもなくなったから、
 結果オーライねー」

梨沙は、そう言葉を口にすると、
”元の美音は、入れ替わったと自称するおかしなおじさん扱いしておけば
 処理できるしー”と、
心の中でそう呟きながら、ゆっくりと廊下を歩き始めたー。

おわり

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コメント

最終回でした~!☆

入れ替わったおじさんがアイドルとして生きていくことに…★!

美音以外は、誰も不幸になっていない…
かもしれませんネ~!

お読み下さりありがとうございました~!☆!

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