<入れ替わり>大丈夫 あなたは必要ないよ②~協力~

表では人気者として振る舞いつつも、
スタッフなど、自分の周囲には横暴な態度を見せる人気アイドルー。

そんな彼女と入れ替わってしまった男は、
彼女の身体でアイドルとして活動していくことにー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーど、ど、ど、どういうことー…
 な、なんでわたしがこんなおっさんにー…!?」

意識を取り戻した大悟(美音)は、
困惑しながら鏡を見つめていたー。

「ーーーしかもこいつー
 さっきの口うるさいやつー…」
大悟(美音)は、階段から転落する前のことを
思い出しながら、自分がその男の身体になってしまったことに気付くー。

「ーーー!」
ふと、時計を見つめると
美音が出演予定だった生放送の番組の時間に
突入していることに気付き、
大悟(美音)は慌てた表情を浮かべるー。

「ーー…ど、ど、どうしようー?
 で、でも、こんなおっさんの身体じゃー…」

大悟(美音)は、不安に思いながらも、
スタジオ内の医務室的な役割を果たすこの部屋に
置かれているテレビが目に入りー、
それをつけたー。

すると、そこにはー…

「ーーえっ…」
大悟(美音)は呆然とするー。

”テレビ”に、”美音”が出演しているのだー。
楽しそうに笑いながら、他の出演者と、
今度出演する予定の番組の宣伝も交えて
トークをしているー。

「ーは……?ど、どういうことー…?
 なんでわたしが”そこ”にいるのよ!?」

怒りの形相を浮かべて、テレビに向かって文句を言う
大悟(美音)ー。

”生放送”であるはずの番組に
”自分”が出演しているのだー。
驚かないはずがないー。

しかもー、
テレビに映っている美音(大悟)は、
”美音”としてしっかりと振る舞いー、
何の問題もなく、出演を終えたー

「ど、ど、ど、ど、どうなってるのー!?」
大悟(美音)は困惑の表情を浮かべるー。

すると、しばらくして、
美音(大悟)が、部屋の中にやってきたー。

「ーあ」
生放送の出演を何とか乗り切った美音(大悟)は、

”自分の身体がどうなっているか”心配して、
すぐに様子を見に来たのだー。

が、部屋の扉を開けたと同時に
”起き上がっている自分の身体”を見て、
美音(大悟)は一瞬驚いたような表情を浮かべると、
「あ、あのー……山崎 美音さんー…ですよねー?」
と、そう言葉を口にしたー。

”自分と美音の身体が入れ替わった”のか、
”自分だけが美音に入り込んだ”のかー。
つまり、憑依なのか入れ替わりなのか、大悟だけが美音の身体で
目を覚ました状態だったため、判断がつかないまま
やむを得ず、生放送に出演したものの、
”元・自分”の身体も意識を取り戻しているのを見て、
美音(大悟)は確信したー

”私と、この子の身体が入れ替わったってことかー”
とー。

「ーー…だ、だ、だ、誰よアンタ!?
 わたしの身体で何してるの!?」
大悟(美音)が、そう声を荒げるー。

40代のおじさんの身体で、美音のいつも通りの振る舞いを
しているために、とても変な雰囲気だー。

「私はー…あなたと一緒に階段から転落した清掃員のー…」
美音(大悟)がそう自己紹介しようとすると、
「ーへ、変態!」と、大悟(美音)はそう叫んだー。

「わ、わ、わたしのフリして勝手に生放送に出てたよね!?
 あり得ないんだけどー!
 いったい、どういうつもりー!?」
大悟(美音)の言葉に、美音(大悟)は「え、いや、そのー」と、
困惑した様子で言葉を口にすると、
「ーー生放送の仕事、急にキャンセルしたりすれば
 山咲さんに迷惑がかかると思いましてー」と、
とりあえず美音になりきって、美音のために番組に出演したことを
説明したー。

「ーーそれとも、キャンセルした方が良かったですかー?」
美音(大悟)が言うと、大悟(美音)は「え…そ、それはー…そのー」と、
少し表情を曇らせるー。

「ーーーー」
大悟(美音)はテレビの方を見つめるー。

生放送の番組に出演していた”美音(大悟)”は
特に何の問題もなかったー。
無難に番組に出演して、無難に仕事を終えているー。
美音自体の評判が悪くなってしまうようなこともないだろうー。

「ーーー…で、でも、人の身体で勝手にー!」
大悟(美音)がそう言葉を口にすると、
美音(大悟)は「私だって、好きでこうなってるんじゃありませんよー」と、
そう言葉を口にするー。

「ーーと、とにかく早く元に戻して!
 あんたみたいなキモいおっさんの身体から
 1秒でも早く出たいの!」
大悟(美音)が叫ぶー。

その言葉に、美音(大悟)は露骨に不快そうな表情を浮かべるー。

大悟は真面目な性格で、仕事ぶりも優秀ー
何でもすぐに理解し、しっかりこなすタイプだー。

”美音”のこともテレビに出ているのは知っていたため
”普段見ている美音”の姿から、どんな風に生出演すればいいかを
自分の中で考え、完璧に美音としてこなして見せたー。

彼が今、清掃のパートに甘んじているのは
再就職が難しい40代という年代で、勤務していた会社が倒産してしまったという
不運によるもので、彼自身の能力は決して低くないー。

がー、そんな大悟に対して、
美音の辛辣な言葉は続くー。

「ー早く元に戻さないと、あんたを変態としてつまみ出してもらうから!」
大悟(美音)がそう叫ぶー。

その言葉に、美音(大悟)は内心でムッとしながら
言葉を口にしたー。

「ーー…今、この状況で騒いだら、変態としてつまみ出されるのは、
 あなたの方ですよー」
とー。

「ーーは?」
大悟(美音)が不満そうに叫ぶー。

「ーあなたの言葉を借りるなら、私はー、そう、”キモいおっさん”ですー。
 そのキモいおっさんが、あなたみたいな若いアイドルと
 ”入れ替わっちゃいました”なんて言って、周りは信じると思いますかー?

 自分をアイドルだと思い込んだ”ヤバいおっさん”扱いされるのがオチですよ」

美音(大悟)が言うと、
大悟(美音)は「うっー…で、でも、あんたも入れ替わったって言ってくれればー!」
と、そう反論するー。

が、「もし信じてくれたとしても、世間は大騒ぎになるでしょうー。
そうなったら、戻ったとしてもお互い困ることになると思いますがー」と、
美音(大悟)は諭すようにそう言葉を口にしたー。

「~~~~~…っ」
大悟(美音)が悔しそうに表情を歪めるー。

「ーまぁ、私は別にあなたを傷つけるつもりはないんですー。
 ただー、元に戻る方法を探しながら
 元に戻ることができるまでは、お互いに相手のフリをしながら
 過ごしていくしかないー。

 そう思うのですがー、どうでしょう?」

美音(大悟)の言葉に、
”敬語で喋るわたしもなんか、不快ー!”と、
大悟(美音)は心の中で改めて不満を露わにすると、
「ーあんたにわたしの代わりなんかできないでしょ!」と、
そう声を発するー。

しかし、美音(大悟)は言ったー。

「ーいえ…仕事中の振る舞いとか、仕事の流れとか
 そういうことを教えて貰えれば、
 山咲さんのフリはできますよー」

とー。

その言葉に、大悟(美音)は表情を歪めるー。

「ーー本当に、ちゃんとできるの?
 それに、わたしの身体で変なことしたら絶対に許さないからー」

大悟(美音)はそう言葉を口にすると、
美音(大悟)は「もちろんー。変なことは絶対にしないとお約束しますー。
それに、元に戻る間までですからー。
ただ、そのかわりにー…」と、そう言葉を口にするー。

「そのかわりにー…?」
大悟(美音)が不満そうに聞き返すと、
美音(大悟)は言ったー。

「山咲さんも、私の身体で、清掃のパートだけはお願いできますかー?
 家ではのんびりしてていいですし、パート以外は何もしなくていいのでー」

とー。

「ーーはぁ。面倒くさー」
大悟(美音)は面倒臭そうに言うー。

がー、自分のアイドルとしての立場は失いたくなかったし、
”アイドルとして代わりに振る舞っていてくれる”なら、
元に戻る間は利用してやろう、と、大悟(美音)は
「面倒だけど仕方ないからやってあげるー」と、そう頷くと
「でも、わたしの身体で少しでも変なことしたら、ぶっ飛ばすからね」と、
そう言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーー」
美音(大悟)は、”美音”として完璧に振る舞えるように、
大悟(美音)から、言われたことをしっかりとこなし、
資料を確認していたー。

「ーー~~~~…」
胡坐をかきながら、”美音”が出演している過去のテレビ番組を
見つめるー。

さらには、美音の”曲”のPVを確認して
その歌詞も暗記ー、
今度出演する予定のドラマの台本も読み漁るー。

「ーなるほどなるほどー」
そう言葉を口にしながら、胡坐をかいている自分の足が見えて
ドキッとしてしまうと、
首をぶんぶんと横に振りながら、
”いやいや、私はもうそういう歳じゃないしー”
と、自分でツッコミを入れるー。

大悟は既に40代ー
穏やかでどこか頼りになりそうなおじさん、という雰囲気の彼はー、
その見た目通り、穏やかで真面目だったー。
既に40代ということもあって、欲のようなものも
彼の場合はあまりなくなりー、
このまま独身で生きることも、自分の中で既に受け入れていたー。

「ーー今の私がするべきことは、元に戻ることができるまで、
 この子のフリをちゃんとしてあげることだからなー」
美音(大悟)はそう言葉を口にすると立ち上がって、
静かに、”振る舞い”の練習を始めるー。

”若い子の芽を奪ってはいけない”
美音(大悟)はそう思いつつ、一生懸命”美音”として
振る舞えるように、家の中でひたすら”美音”を勉強したー。

その人になりきるための勉強ー
今までの人生で色々な勉強をしてきたものの、
こんな勉強をした経験は、初めてだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「♪~~~~」
美音として完璧に歌番組に出演して
それをこなす美音(大悟)ー

歌う前のトークも完璧ー。

「ーーおつかれ~美音ちゃんー」
マネージャーの女性ー、入れ替わって目を覚ました直後にも
声を掛けてきた、久米田 梨沙(くめだ りさ)が、
美音(大悟)を出迎えるー。

「あ、久米田さんーありがとうございますー」
美音(大悟)は、梨沙だけではなく、
他のスタッフたちにも優しく接していくー。

「最近、美音ちゃん丸くなったよなー」
「やっと大人になってくれたのかなー?」
「でも、今の山咲さんの方がいいよなー」

スタッフのそんな声も聞こえたー。

歌番組が放送される日には、
それを確認しー、
”美音”としてちゃんと振る舞えていることを確認するー

「これが私かー…」
”自分自身”であるのに、テレビでそれを見ると
何だかドキドキしてしまうー。

自分が先日、出演して歌った姿なのにー、
アイドルをテレビで見ているような、不思議な気分になってしまうー。

「~~~~」
がー、その振る舞いは完璧だったー

「これなら、元に戻ったとき、あの子も問題なく、
 元通りの生活ができるよなー」
美音(大悟)はそう言葉を口にすると、
静かに微笑んだー。

しかしーーーー

”え~?パート?何でわたしが汚い場所の掃除とかしないといけないわけ?
 ってか、元に戻ったあと、また仕事探せばいいじゃん”

数日後ー
大悟(美音)と電話で現状の報告をしあった際に、
大悟(美音)はそう言ったー

「ーーえ……や、約束が違うじゃないですかー?
 お互い、相手のフリをしながらってー」
美音(大悟)が戸惑いながら言うー。

「私は、山咲さんのフリをしてアイドルをしながら、
 あなたは私のフリをして、いつも通り生活を続けてくれるー
 そういう約束だったはずですがー?」
美音(大悟)の困惑した言葉ー。

しかしー、大悟(美音)は言うー。

”あははーおじさんみたいな”どうでもいい人生”なんて、
 知らないしー。
 でも、わたしはおじさんと違って人気アイドルなわけー。
 だから、わたしのフリはしてもらう必要はあるけど、
 わたしがおじさんのフリして汚い場所の掃除とか
 する必要なくない?”

とー。
そして、さらに言葉を続ける大悟(美音)ー

”あ、そうそうー
 おじさんのお金、ちょっと使っちゃったー
 でも、いいよねー?
 中年のおっさんの身体でいるだけで死にたくなるぐらいきついんだから、
 慰謝料的なやつってことで”

大悟(美音)のとんでもない言い草に、
美音(大悟)は、スマホをギシッと握るー。

がー、怒りを堪えて
「ははー…まぁ、分かりましたー」と、そう言葉を口にすると、
電話を終えたー。

「ーーーーーー」
美音(大悟)は、スマホを床に置くと、
怒りの形相を浮かべながら「なんて勝手な子なんだー」と、そう吐き捨てるー。

きっと、彼女の周りのスタッフもいつもいつも振り回されているに違いないー。

それに、ファンとのトラブルも、”美音”を勉強している時に
それなりに確認できたー
元々、そういう子なのだろうー。

大きくため息を吐き出す美音(大悟)ー。

が、それでも美音(大悟)は大悟になった美音のように
適当にするつもりにはなれなかったー。

「ーーー…」
美音(大悟)は不満そうな表情を浮かべながらも、
今日もこのあと、収録の仕事があることを思い出すと、
そのまま出かける準備をするのだったー。

③へ続く

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コメント

次回が最終回デス~!☆

タイトルの伏線回収は…
あえて今回はまだなのデス笑

今日もありがとうございました~!

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