<憑依>僕の新しい身体は 大嫌いなあの子の身体③~未来~(完)

いじめっ子の身体に憑依して
生きることになってしまった彼ー。

けれど、不満や怒りから彼は、
新しい自分の身体を自ら傷つけてしまうー。

そんな様子を見かねたあの世の案内人は…?

・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーここはー…?」

春奈の身体で、恭太がそう言葉を口にすると
あの世の案内人ー…死神・リクが
「さっき説明しただろ?お前の葬式が行われてる式場だー」と、
いつも通り面倒臭そうにそう言葉を口にしたー。

恭太が死んで、春奈の身体で生き返るまでには、
半月近くの時間がかかっていると、以前、リクから説明されているー

”その間”に、恭太の葬式は行われたー。

「ーーー今は俺の力で、過去に起きた出来事を
 再現してるー。
 まぁーー…お前たち風に分かりやすく言うならー
 ”仮想空間”みたいなもんだな」

リクがそう呟く中、
”丸山 恭太”と書かれた式場の案内を見つめるー。

「ーーー…僕、本当に死んだんだー…」
改めてそう実感すると、春奈はそう呟くー。

「ーーまぁな。本当は死ぬ予定じゃなかったんだが、
 それを管理するやつらがミスったからなー」
リクは悪びれる様子もなく、そう呟くー。

「ーーーーー」
ぐっと、怒りを堪える春奈に憑依した恭太ー。

「ーあくまでこれは”再現映像”だー。
 ここにいるほかのやつらは、お前を認識しないー。
 好きなように見て回るといい」

リクのその言葉に、
春奈に憑依している恭太は「ー僕に、僕の葬式を見せて、
何がしたいんだよー」と、不満そうに頬を膨らませるー。

「ーーいいから見ろ」
リクのその言葉に、春奈に憑依している恭太は
不満そうな表情を浮かべながらも言われた通りにするー。

恭太には”友達”は、それほど多くはないー。
葬式の会場にも、それほど人は来ておらず、
どこか寂し気な雰囲気が漂っていたー。

がー
そんな中でも、
恭太の両親は、死んだ”恭太”を前に
涙を流していたー。

「ーー母さんー…父さんー」
春奈の身体で、そう呟く恭太ー。

「ーーー」
子供が、親よりも先に死んでしまうー。
やっぱり、それは親にとってはとてもつらいことなのだろうと、
恭太は改めて思うー。

「ーーごめんー」
あくまでも死神・リクによる”再現映像”でしかないし、
両親にその言葉は伝わらないー。

しかも、今の自分はいじめっ子の”春奈”ー

それでも、恭太はその言葉を吐き出さずにはいられなかったー。

「ーーーーー」
自分の遺体を”春奈”として見つめるー。

「ーーーーー………」
何も、”言葉”は出て来なかったー。
不思議な気持ちだったー。

人間、自分の”遺体”を見る機会は普通はないだろうし、
自分の死後の世界を見ることも、葬式を見ることは普通はないのかもしれないー。

”あの世”があるなんて、思わなかったけれどー、
たぶん、普通に死んだ人は、あのまま”次”のステップへと案内されて、
少なくともこんな風に、自分の葬式や遺体を見る機会はないのだと思うー。

「ーーーーー」
春奈は、”恭太”の遺体を見つめながら、
悲しそうな表情を浮かべながらも、
同時に”春奈”に対する怒りをさらに強めていくー。

「ーーどうして、僕がこんなやつの身体でー」
自分の手を、もう片方の手で怒りのままに力強く握りしめるー。

がーー
その時だったー。

聞き覚えのある声が聞こえたー。

「ーー!?」
春奈に憑依している恭太が振り返ると、
そこには、”春奈”の姿があったー。

「ーーえ…」
困惑する春奈に憑依している恭太ー。

”自分”は今、ここにいるー。
そこに、もう一人春奈が現れたということはー、
恭太が死んでから、恭太に憑依される前の春奈が、
”ここ”に来たということなのだろうかー。

「ーーー皆口さんー、なんでここにー?」
春奈の姿のまま、恭太がそう確認するも、
春奈は無言で、その前を通り過ぎるー。

それは、当然だー。
”リク”による過去の再現映像を見ているだけなのだから、
映像に声をかけても、返事はないー。

「ーーー…」
やってきた、”憑依される前の春奈”は、
恭太に手を合わせると、
「ーごめんなさいー」と、小声でそう言葉を発したー。

「ーーえ…今、なんてー?」
春奈に憑依している恭太は、戸惑いながら聞き返すー。

いじめっ子の春奈が”謝罪”するなど、
夢にも思わなかったからだー。

「ーーーその女はー」
背後で、死神・リクが言葉を口にするー。

「その女は、お前が階段から落ちて死んだあとー、
 その場から逃げ去ったー」

リクが言うと、春奈に憑依している恭太は
「やっぱりー。皆口さんは、そういうやつだし、大っ嫌いだー」と
そう言葉を口にするー。

「ーあぁ。どうしようもない女だー。
 だが、逃げたあとは一人でずっとそのことを悩みー
 お前の葬式にもこうしてやってきたー」

リクはそれだけ言うと、
映像のー”憑依される前の春奈”の方を見つめたー。

「ーーー…本当に、ごめんなさいー…」
春奈は震えながら、目に涙を浮かべているー。

”ーーどうせ、自己保身のために決まってるー”
春奈に憑依している恭太は、憑依される前の春奈の横に立ちながら
そう呟くー。
ただー、そうは思いながらも、春奈が恭太の葬式に足を運び、
目に涙まで浮かべて謝罪している姿は、恭太にとっても”意外”だったー。

「ーーーーーーー」
涙を流しながら、今一度、謝罪の言葉を口にした
憑依される前の春奈は、涙を拭くと、
そのまま恭太の遺体から離れて、恭太の両親に頭を下げると、
立ち去って行ったー。

それと同時に、葬式会場が、光に包まれて消えていくーー

”再現映像”が終わったのだー。

周囲の風景が、元いた春奈の部屋に戻るー。

先程、自ら傷つけた頬を冷やしながら、
春奈に憑依している恭太が表情を歪めると、
あの世の案内人・リクは言葉を続けたー。

「ーー…さっき、そいつの友達から連絡が来ただろ?」
リクがスマホを指差しながら言うー。

”次は太田(おおた)くんがターゲットねー”

確かに、そんなメッセージが
春奈と共にいつもいた、ツインテールと眼鏡がトレードマークの
大人しそうな子・愛唯から届いていたのを思い出すー。

「ーー皆口 春奈は、
 その女から脅されてたー。

 皆口 春奈の父親、洋一郎にはあるスキャンダルがあってなー。
 まぁー…人間の法律的に言えば、犯罪ではないがー、
 表に出れば、経営者の父親にとっちゃ、致命傷になるものだー。

 それを知った皆口 春奈の友人の高沼 愛唯は、
 裏で皆口 春奈をゆすってたー。
 金銭も要求してたし、”いじめ”の指示もしていたー。

 お前をいじめるように皆口 春奈に命じたのは、
 高沼 愛唯だー。
 大人しそうな顔をして、あの女は”悪魔”だからなー

 少し気にいらないことがあると、そいつをターゲットに定めて
 皆口 春奈に命じていじめを実行させるー。
 自分はいじめられている子に寄り添うような素振りを少し見せながら
 恨みを買わないようにするという、保身もしながら、なー

 ”わたしに逆らえば、あなたのお父さんは破滅する”
 そいつは、そうして皆口 春奈にお前をいじめさせていたー。
 
 で、次は”太田”ってやつがターゲットになったみたいだなー」

リクはそこまで言うと、
春奈は、鏡を見つめながら、
「ーーーーーでも」と、そう言葉を口にするー。

「脅されてたからって、なんで僕がいじめられなくちゃいけないんだー
 それに、こいつだってー…!」

不満そうに鏡に映る春奈を指差す春奈ー。

「こいつだって、僕を楽しそうにいじめてたー!」
春奈の言葉に、
リクは「まぁ、それはそうだなー。どんな理由でも、
そいつがお前をいじめてたことには変わりないし、お前を殺したのもそいつだー」と、
そう言葉を口にしたー。

「ーーーー」
春奈は、複雑そうな表情を浮かべながらも、
恭太の葬式に足を運び、泣いていた春奈の姿を思い出すー。

「ーーーー」
さっき、”自分で殴って”腫れている春奈の顔を鏡で見つめると、
春奈に憑依している恭太は大きくため息を吐き出したー。

「でも、僕は皆口さんが嫌いだよー。好きになんて絶対になれない」
春奈がそう言うと、
リクは「好きになれとは言ってない 許せとも言ってない」と、
それだけ言ったー。

がーー
「お前はもう、その身体で生きていくしかないんだー。
 だから、憎しみに囚われるなー、と、そう伝えたかった」と、
リクはそう言葉を口にしたー。

「ーーーーーーー」
不満そうに顔を背ける春奈ー。

すると、
リクは信じられない行動に出たー。

その場で突然土下座をすると、
「ーー俺たちのミスでー、すまなかったー」と、
これまで全く悪びれる様子のなかったリクが、謝罪の言葉を口にしたのだー。

「ーーーー!」
春奈は少し驚きながらリクを見つめるー。

「本来、あの場所で死ぬのはその女だったところを
 こっちのミスで、お前を死なせてしまったー
 
 本当に、悪かったー」

リクの謝罪を前に、
春奈は戸惑うような表情を浮かべる

「ーー…い、いいよーべ、別にー
 僕だって、ミスなんてたくさんしてたしー」

いざ謝られると戸惑うー。
春奈がそう思いながら、リクに言葉を掛けると、
リクは顔を上げたー。

「ーーーーーそいつのことは嫌いでいいー。
 それは当然だー。

 でも、自分のことは嫌いになるなー」

リクはそう言うと、春奈は戸惑いの表情を浮かべたまま
「ー分かったよー。頑張ってみるよー」
と、そう言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数か月後ー。

”リク”は、あの世から
”春奈”のことを見つめていたー。

あれからー
春奈は長かった髪をバッサリと切りー、
大幅にイメチェンしたー。

あの後も、一度話を聞きに行ったリクは、
春奈に憑依した恭太から、
”見た目、変えないとどうしても思い出しちゃうし、イライラしちゃうからさー”
と、そう言われたー。

いじめを裏で指示していた愛唯には”お仕置き”をしたー。
春奈に憑依している恭太は、自分の意思で春奈の父・洋一郎に
脅されていることを相談ー、
父と共に、愛唯に立ち向かい、最終的に愛唯は脅していた件が原因で
停学、その後、自ら退学したー。

父・洋一郎は”スキャンダル”は”俺がしたことだから”と、
公表されることも恐れずに、春奈に協力してくれたー。

結果ー、春奈の父はそれなりにダメージを受けはしたものの、
今でも経営者として、仕事は続けているようだー。

「ーーーー…順調そうだなー」
久しぶりにリクが姿を現して、春奈に声を掛けると、
ショートヘアーに眼鏡と、大分イメージの変わった春奈が笑ったー。

「ー順調かどうかは分からないけどー、
 こう生きていくしかないみたいだからー」
春奈がそう言うと、リクは「視力、落ちたのか?」と、眼鏡を指差すー。

その言葉に、春奈は首を横に振ると、
「ーーううんー…脅されていたんだとしても、
 やっぱり、皆口さんの顔を見るとイヤな気持ちになっちゃうからー
 できるだけー…違う雰囲気にしようと思って」
と、春奈は苦笑いしながら言葉を口にしたー。

「ーーそうかー。まぁ、いつか慣れるー」
リクはそれだけ言うと、
「ーもう心配はなさそうだな」と、そう言葉を口にしたー。

「ーーー…ありがとう」
春奈はそれだけ言うと、
リクは「ーーー別に礼を言われることはしてない」と、
そう言葉を口にして、
最後まで愛想のないまま、リクはそのまま
春奈の前から姿を消したー。

「ーーーーー」
春奈になった恭太は、少しだけ寂しそうにしながらも、
「ーー…とりあえずー…頑張ってみるよー」と、
そう言葉を口にしたー。

生きていればー、
いつかは、”恭太自身の両親”に何か恩返しできる機会も
あるかもしれないしー、
もし、春奈の身体で死を選べば、
葬式の映像で見た恭太の両親のように、悲しむ人もきっと出てしまうー。

「ーーー気に入らないけど、でも、僕は生きるよー」
春奈はそう言葉を口にすると、そのままゆっくりと歩き始めたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーねぇーひとつ聞きたいんだけどー」

”あの世”で、
同じ”あの世の案内人”のマーヤが背後から姿を現すー。

最初に恭太があの世に行った時に、リクに”ミス”を指摘した案内人だー。

「ーー”ミス”するように指示したの、あんたでしょ?」
マーヤの言葉に、リクは「何の話だー?」と、言葉を口にするー。

「本来死ぬ予定だった、皆口 春奈じゃなくて、
 丸山 恭太が死ぬようにしたのは、あんたでしょ?」
マーヤのその言葉に、リクは「さて?何のことだか」と、今一度呟くー。

「ーーーーーわたし、見たんだけどーー…
 あそこで、皆口 春奈が死んだ場合ー…
 ”残された丸山 恭太”くんの方も悲惨な人生を歩むはずだったー

 そうでしょ?」

マーヤは言うー。

”本来”の通り、皆口 春奈が死んだ場合ー、
恭太はその場で救急車を呼びー、
”春奈を殺した”と疑われるー。

幸い、疑いは晴れるものの、
残された沙耶と愛唯の二人、そして他のクラスメイトからも
”殺した”と言われて追い詰められていきー、
最後には、自らも命を絶つー。
そんな、地獄のような結末が待っていたはずだったーー

とー。

「ーーー…」
リクは、静かに目を閉じるー。

「あんた、同情して”介入”したんでしょー?」
マーヤが笑いながらそう言うと、
リクは「どうだかなー」と、それだけ言葉を口にしながら立ち去っていくー。

「ーー”いじめ”られてる子には、あんた、優しいよねー
 態度は最悪だけどー」
マーヤはそう言葉を口にすると、静かに笑みを浮かべるのだったー。

おわり

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コメント

最終回でした~!★★!

ひとまず、前向きに生きていくことができそうですネ~!

ちなみに、いじめっ子のもう一人の沙耶(自分を可愛いと思い込んでいる子)は、
何も事情を知らずに、ただ単に面白がって加担しているだけでした~!★
(春奈として生きていくことに決めた恭太くんに、絶縁されています~笑)

お読み下さりありがとうございました~!

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