出産時に命を落とした妻ー。
その妻を、生まれたばかりの娘に憑依させて復活させた夫ー。
二人の行きつく先はー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー許さないーー
わたしの身体を奪ってー
自分だけ楽しそうに生きるなんて、絶対に許さないー」
”葵”のその言葉に、
葵に憑依した恵美は悲鳴を上げながら逃げ惑っていたー。
「ごめんなさいーごめんなさいごめんなさいごめんなさいー」
高校の校舎を震えながら逃げ惑う葵に憑依した恵美ー
しかしー
逃げた先の教室にも”葵”が姿を現すー。
「ねぇー娘の身体を奪って生きるってどんな気持ちー?」
”葵”がそう言葉を口にするー
「ー教えてよー…どんな気持ちー?
”娘を殺して”得た新しい人生はー」
”葵”のその言葉に、葵に憑依した恵美は
その場で膝を折って泣き崩れるー
「ーわたしはー…わたしはー…
こんな風になりたくなったー
わたしはーー」
泣き崩れる葵と、
そんな葵を冷たい目で見つめる葵ー
「ーーーーわたしは、お母さんに殺されたのー
身体もー、人生も、何もかも奪われてー」
葵のその言葉に、
「もうやめてー」と、耳を塞ぎながら叫ぶー。
「ーーもうやめてええええええええ!」
悲鳴を上げながら、葵が目を覚ますとー
そこはー”自宅”だったー
「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…はぁー…」
目から涙を溢れさせながら、
荒い息を吐き出す葵ー。
仕事に出かけている夫ー、
いやー、今は”父”の昌義が作った朝食が
机の上に並べられているー。
悪夢にうなされー、汗だくになりながら
葵は「もういやだー…」と、言葉を口にするー。
「ーもういやだーー…
…なんでー…なんで、こんなことになったのー…?」
一人でその場で泣き出してしまう葵ー。
葵に憑依した恵美はー、
”悪夢”から逃れるために、夜の街で遊び回る日々を送っていたー。
誰かと一緒なら、夜も怖くないー。
夜の街で男遊びをしたり、同じぐらいの年代の家出同然の子と遊んだりー、
そうしていると、悪夢を忘れることができたー。
けれどー、
先日、警察沙汰を起こしてしまい、
昌義から”もう絶対にそういうことはしないでくれ”と言われて、
夜に外出できなくなってからは、
さらに悪夢を見る頻度が増えたー。
娘の”葵”に、責められる夢ー。
恵美は”葵はきっと、わたしを恨んでいるー”と、
さらにさらに、塞ぎ込んでいったー。
もちろんーー
葵の意識など、とうの昔に消えているしー、
生まれた直後に憑依された葵には
”お母さんに身体を奪われた”などという認識もないー。
何も分からないまま、葵はこの世から消えたに等しかったー。
夢で出て来る”葵”はー、
葵に憑依している恵美が、罪悪感から作り出した幻ー。
所詮は、夢ー。
けれど、恵美はその夢にー、
自らの罪悪感に日に日に追い詰められていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーただいまー」
昌義が帰宅するー。
葵は、いつものように部屋に引きこもって塞ぎ込んでいるー。
そんな様子を見つめながら
昌義は「恵美ー…」と、そう言葉を口にするーー。
恵美を、生まれたばかりの娘・葵に憑依させて
生き返らせればー、
恵美も喜んでくれるだろう、と、彼はそう思っていたー。
けれど、違ったー。
自分は冷静さを欠いていたー。
恵美が、こんなやり方を喜ぶはずがないとー、
それは、冷静に考えれば分かったはずなのに、
昌義はそれをしてしまったー。
「ー……ーーー…俺は、どうすればー」
昌義が、そう言葉を口にしていると、
葵が、派手な格好で部屋から出て来て
そのまま外に出かけようとし始めたー
「お、おいっ…め、恵美ー!
夜に出歩くのはダメだって言っただろー!?」
昌義が戸惑いながら言うと、
葵は「ー恵美って呼ばないで!」と、不満そうに叫ぶー。
「ーーー…葵!警察沙汰まで起こしたんだぞ?
自分が何をしたのか分かってるのか!?」
昌義がなおも食い下がるも、
葵は「うるさい!!黙ってて!」と、声を荒げるー。
「ーあなたのせいで、こんなことになってるの!!!
あなたはどこまでわたしを苦しめれば気が済むの!?」
葵の言葉に、昌義は沈黙するー。
「ーわたしだって、もちろん死にたくなんてなかったよ!
昌義とー、生まれてきた葵と一緒に生きたかったー!
でも、わたしは死んだの!!
葵の人生を盗んでまで、こんな風に生き返りたくなかったのにーー
なんでー、なんで…」
葵は泣きながらそう言うと、
そのまま外に向かおうとするー。
「だからダメだって!」
昌義が、夜の外出はダメだと叫ぶー。
「ー黙っててよ!!人殺し!」
”葵”に自分を憑依させたことを叫ぶ葵に憑依した恵美ー
がー
昌義は思い通りに行かない苛立ちから、
葵の手を掴むと、そのまま葵にビンタをしてしまったー
葵が涙を溢れさせながら、
昌義を睨みつけるー。
「ーー俺はーーー…俺は、恵美のためにやったんだぞ!!
ーそれは、悪いと思ってるし、
葵の人生を奪わせちゃったことも、悪いと思ってるけどー
ーーーでも、いつまでもそんな態度されてちゃ
俺だってどうにもできないよ!」
昌義はそう叫ぶと、
葵は泣きながら「毎日ー、毎日 夢を見るのー葵の夢をー」と、
叫ぶー。
その上で、遊び歩いてでもいないと、
怖くて怖くてたまらないと泣き叫ぶー
「ーー…め、恵美ーーー…」
”恵美”がそこまで苦しんでいるとは思っていなかったのか
昌義は、表情を歪めるー。
「ーもう、嫌だーー
こんなの嫌だー…
ーーイヤだーー…わたし…狂っちゃうーー耐えられないー」
その場で泣き崩れて頭を抱えてしまう葵ー。
そんな葵を見つめながら、
昌義は「ご、ごめんー」と言葉を口にすると、
どうすることもできずに、葵をただ抱きしめたー。
”俺が悪いー”
昌義は、改めてそう理解するー
でもーー
”恵美とまた会いたかったー”
同時にそんな風にも思うー。
しばらくの間、泣き続けていた葵は、
やがて、呆然とした表情のまま、
外に出かけることなく、自分の部屋へと戻っていくー。
「ーー…恵美ーーー…」
昌義は、そんな”葵”のことを呼び留めるー。
がー、葵は「ーーーもう、無理ー」と、
それだけ言葉を口にして、
部屋の中へと戻って行ったー。
そしてーーー
「ーーーーーひっ!?!?!?」
部屋の中の鏡に視線を移した葵は、
思わず悲鳴を漏らして、その場で尻餅をついてしまうー
鏡にーー
”葵”がいたーーー
「ねぇーーわたしの身体ー
使い心地はどうーー????
お母さんーーー
わたしの身体を盗んだお母さんー
教えてよー ねぇー」
葵の”幻覚”に、大きな悲鳴を上げる葵ー。
もちろんー
幽霊などいないー。
そこに、葵などいないー。
葵に憑依した恵美が、強すぎる罪悪感とー
精神的なストレスから、見ている幻覚ー
「ーー恵美!」
悲鳴を聞いて部屋に駆け付けた昌義は
そんな葵を必死に落ち着かせるー。
やがてーー
葵が少し落ち着いたのを確認すると、
昌義は「俺がー…俺が何でもするからー」と、
そう言葉を口にすると、
葵は、涙目のまま静かに頷いたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー。
葵の部屋を開けて、
部屋に籠ったままの葵の姿を確認すると、
「いってきますー」と、それだけ言葉を口にしたー。
葵は返事をせずに、窓の外を見つめながら
静かに頷くー。
昌義は心配そうにしながら
「ー何かあったら、いつでも電話していいからなー?」と、
それだけ言葉を口にすると、
そのまま職場へと向かったー。
だがーーー
「ーーーーー…え……」
帰宅した昌義は、呆然としながら
”それ”を見つめていたー。
「ーーー……な……なんでーーー…」
仕事のカバンをその場にバサッと落とし、
膝を折る昌義ーー
部屋の中にはーーー
自ら首を吊った”葵”が、
無残な姿を晒していたー。
「ーーー…なんでーー…ーーーなんでだよー…
恵美ーーー」
泣きながらそう言葉を口にする昌義ー。
葵に憑依した恵美はーー
あまりの罪悪感に耐え切れずー、
ついに、その命を自ら断ってしまったのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・
”ーわたしーー
葵に謝りに行きますー。
さようなら”
首を吊った葵の部屋には、
遺言状が残されていたー。
それを手に、涙を流す昌義ー。
”勝手に人の身体を使ってわたしを生き返らせるなんてー
ーあなたのしたことは絶対に間違ってるー”
そんなことも、書かれていたー。
「ーーーー…」
遺言状を手にしたまま、昌義は
「すまないー」と、そう言葉を口にするー。
妻の恵美との”2度目の”別れー。
さらには、娘の葵まで失ってしまったー。
「全部ー、全部俺のせいだー」
昌義は悔しそうに呟くー。
他人の身体を勝手に使って、
生き返らせるー。
たしかに、そんなこと、恵美が喜ぶはずはなかったー。
恵美は、誰よりも優しい人だったー
そんな恵美が、他人の身体を奪う形で生き返れば
自分を責めて、責めて、責めて、責め続けて
このような結末になることぐらいーーー
考えれば分かったはずだー。
「くそっー…恵美ーすまないー…本当にすまないー」
恵美の死を受け入れられず、恵美を娘の身体に憑依させて
生き返らせるという凶行に走ってしまった昌義は、
悔しそうに、何度も何度もそんな言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”恵美は”また”死んだー”
娘の葵の身体と共に、死んでしまったー。
「ーーーーー」
昌義は、己の行為を深く深く反省したー。
生まれてきたばかりの葵には、
本当であれば”葵”の人生があったはずなのだー。
妻の恵美の言う通りー。
それに、恵美のことも苦しめてしまったー。
夫と娘を残して死ぬ、ということは
とてもつらいことだったはずなのに、
娘の身体に憑依させて生き返らせるー…などということを
してしまった結果ー、
さらに、恵美を苦しませる結果になってしまったー。
”もう、葵が意識を取り戻すことはできないー”
そんなことを、恵美が自覚して
葵の代わりに人生を生きる決意をした頃からー、
葵になった恵美は、無意識のうちに”葵の人生をわたしが奪った”という
自責の念をさらに強く膨らませていき、悪夢を見るようになりー、
最終的に、このような結末になってしまったー。
「ーー俺は…バカだったー」
昌義はそう言葉を口にするとー…
ゆっくりとその場にやってきていたー。
中東のとある国に存在するー”神殿”ー
”死んだ人間の霊を呼び出し、生きる者に憑依させる”
そんな、禁断の呪術が行われているその場所にー。
「ーーおや、あなたは確かー」
ローブの男が振り返るー。
10年以上前にー
生まれたばかりの葵に、死んだ妻の恵美を憑依させた時と同じー。
彼は全く歳を取っていなかったー。
彼自身にも何か秘密があるのだろうかー。
いや、今はそんなことはどうでもいいー。
「ーーーーー」
昌義は「もう一度、頼むー」と、そう言葉を口にしながら
自殺した葵の”遺骨”の一部を手に、ローブの男に渡すー。
「ーーおやーー…
ーーーあなたの最愛の人の魂を感じますねー」
葵の遺骨ー
しかし、葵の意識はとうの昔に消え、
妻の恵美が使っていた身体であるためにー
ローブの男はそう言葉を口にしたー。
「ーーもう一度、恵美を蘇らせてくれ!」
昌義はそう叫ぶー。
「ーーーーそれは構いませんがー。
しかし、あなたの最愛の人を呼び寄せるには”身体”が必要です」
ローブの男はそう言い放つー。
以前、昌義は生まれたばかりの娘・葵を持ち込んだー。
しかし、今回は儀式に必要な憑依する側の遺体の一部しか
持ち込んでいないー。
「ーー身体ならあるー」
昌義はそう言い放つとーー
”自分自身”を指差したー。
「ー俺だー。俺に妻の魂を憑依させてくれー」
そう叫ぶ昌義ー。
「ーなるほどーそれがお望みならー」
ローブの男はそう言葉を口にすると、
”死者の魂を生きる者に憑依させる”禁断の呪術を始めるー。
昌義は、笑みを浮かべるー。
”そうだー
最初から、こうすればよかったんだー”
”憑依される側が納得してればー
恵美だって、喜んでくれるはずだー”
”恵美ー…今、助けるからなー
今、生き返らせてやるからなー”
昌義は、嬉しそうに小声でそう呟くー
”葵”は本人の同意がなかったから、
恵美もその身体を奪うことに抵抗があったんだー。
けどーー
”俺”は違うー
俺は喜んで恵美に身体を差し出すー。
「ー恵美ーー」
恵美の魂に憑依される直前、昌義はそう言葉を口にしたー
がーーー
妻の恵美は、そんなこと望んでなどいないー。
娘・葵に死んだ妻を憑依させるという形で妻を生き返らせて、
全てを失ってしまった昌義は、何も分かっていなかったー。
己の行為がー、さらに恵美を苦しめることになることをー、
全く理解していなかったー。
「ーーーーえ……… な…なんでー…?」
昌義に憑依した恵美は呆然とするー。
「ーこれが、あなたの夫の望みですー」
ローブの男がそう言うと、
昌義に憑依した恵美は困惑した表情のままー、
「ー昌義ー…何でこんなことばっかりするのー…?????」と、
心底、悲しそうに、そう言葉を吐き出したー。
おわり
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コメント
最終回でした~!
最後の最後まで、夫は妻を苦しめることばかりを
繰り返す結果になってしまいましたネ~…!
お読み下さりありがとうございました~!☆
コメント
昌義は救いようがありませんね。全く凝りてないです。
まあ、見ず知らずの他人を拉致でもして、その身体に憑依させようとはせず、今度は自分に憑依させた分、まだマシだったかもしれませんが。
感想ありがとうございます~~!☆
見ず知らずの子を海外の神殿まで連れていくのは
難しそうなので、
昌義もそれはしませんでした~笑☆