<憑依>偶然、憑依薬を拾ってしまった②~追跡~(完)

ある日、偶然憑依薬を拾ってしまった男子大学生。

その結果、憑依薬の取引を行おうとしていた
2つの組織から命を狙われる羽目に…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー何も覚えてませんー。」
”姫百合会”に所属しているサングラスの女・由美が
不満そうに言葉を口にするー。

「ーチッー…あくまでもとぼけるつもりかー」
刑事・桂田(かつらだ)が、不満そうに表情を歪めるー。

取引現場で偶然憑依薬を拾った男子大学生・俊太を
始末しようとした際に、逆に俊太に憑依されてしまい、
服を脱ぎ捨てて、持っていた銃を上空に発砲、逮捕されてしまった
サングラスの女・由美は、逮捕されたあとも”黙秘”を続けていたー。

「ーーー……あの女、何もしゃべる様子はないなー」
桂田刑事がそう言葉を口にすると、同僚の刑事は
「銃の出どころを早いところ割り出さないとな」と、
そう言葉を返したー。

「ーーーーー」
由美はギリッと表情を歪めるー。

「ーあの子ー…絶対に許さないわー」
自分に憑依した男子大学生・俊太に対し、激しい怒りの炎を燃やすと
由美はガリガリと爪をかじり始めたー。

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♪~~~

翌朝ー。

俊太がアパートの外に出ると、
ツインテールの女子高生が待ち構えていたー

「やっほ~!俊太くんー、おはよ~!」
笑顔で手を振る美少女ー。

「ーえ……ど、どちら様ー?」
俊太がそう言葉を口にすると、
ツインテールの少女は「え~やだな~…俊太くんってば
わたしのこと、忘れちゃったの?」と、
ニコニコしながら近づいて来るー。

「ーーえ…え~~っと…」
俊太は自分の頭をフル回転させるー。

がー、現役高校生の知り合いなど、
頭に浮かばないー。
高校時代も、”後輩の女子の知り合い”なんていなかったし、
相手が知り合いであるはずがないー。

「わ、悪いけどー俺に高校生の知り合いなんていないよー」
俊太がそう言うと、ツインテールの少女は笑みを浮かべたー。

「ーー後輩の立花(たちばな)ですよぉ~~
 忘れちゃったんですかぁ~? ひど~い!
 先輩に会いに来たのにー」

そう言葉を口にする”立花”を名乗る女子高生ー。
が、俊太は即答するー

「俺、女子の後輩の知り合いとかいないから」
とー。

マイペースで独特な空気を持つ俊太は、
ハッキリそう言い放つとー、
”立花”を名乗る少女はにこにこしながら言ったー

「なんだー…そういう系?
 ーモテそうな顔だと思ったから、この手、通用すると思ったのに」

そう言いながら、
「ーー通用しないならいいやー
 わたしは姫百合会の立花 葵(たちばな あおい)ねー。
 ーー憑依薬、盗んだのって君だよね?」
と、そう言いながら葵が近付いて来るー。

”毒針”を手に、それを俊太に突き刺そうとする葵ー。

がー、俊太は咄嗟にそれに気づいて身を引くと、
葵は表情を歪めたー。

「ーーお…俺のこと見逃してくれるならー
 以降、永遠に関わらないって約束してくれるなら
 憑依薬は喜んで返しますよー?

 でも、お前たちみたいなやつは、絶対”口封じ”とか言って
 俺を殺しに来るに決まってる」

俊太がそう言うと、葵は「あははーまぁ、そうなんだけどねー」と、笑うー。

俊太は「ほら、やっぱり!俺はまだ死にたくないんだ!」と、
そう叫ぶと、服のポケットに忍ばせていた憑依薬を飲み込んだー。

「ーー!」
葵は”しまった”という表情を浮かべるー。

「ーーこうなったら、また憑依してやる!」
俊太は葵に憑依すると、葵は「うっー…」と、身体を振るわせたー。

「ーーーー…!」
女子高生らしき葵の身体にドキッとして、
「やばっ…制服ってなんか興奮するなー」と、そう呟くー。

そのまま、葵の身体で、”この子もまた逮捕させよう”と、
由美の時と同じことをしようとしているとー、
突然、反対側から歩いてきた男に声を掛けられたー。

「ーお前、姫百合のババアだな?」
とー。

「ーえっ!?」
葵が表情を歪めるー。

「ーーーーんだよー。俺のこと忘れたか?
 アビスの”浜口(はまぐち)”だよー」
鋭い目つきの男は、笑みを浮かべながら言うー。

”あ、アビスー”
葵に憑依している俊太はビクッとするー。

確か、”姫百合会”の取引相手だー。
つまり、アビスも俊太の命を狙っていることになるー。

”ーマジかよー勘弁してくれよー
 俺、たまたま憑依薬拾っちまっただけだろー?
 大体、あんな裏路地のマンホールの上で取引なんてすんなよー”

俊太は心の中でそう思いながら、
「ーーば、ババアーって…な、なによー」
と、”女子高生”のフリをしながら葵のような口調で答えるー。

がー、犯罪組織アビスの浜口は笑ったー。

「ーお前もう、34だろ?なんでずっとセーラー服姿なんだよ」
浜口の言葉に、葵に憑依している俊太は思わず「えっ!?」と
変な声を出してしまうー。

「こ、この子、34歳なんですか?」
葵がそう言うと、犯罪組織アビスの浜口は「あん?」と表情を歪めてから、
笑みを浮かべるー。

「ーあぁ、あぁ、そういうことかー
 お前、憑依薬を持ち去ったガキだなー
 
 なるほどー
 お前を始末しに行ったそのババアは、無様にもお前に憑依されたって
 わけだなー」

浜口はそう言うと、サイレンサー銃を取り出して、
葵ごと俊太を銃撃したー。

「ーーうっ…!?!?」
銃で撃たれる初めての経験に激痛を感じる俊太ー。

あまりの痛さに、葵の身体を捨てて
すぐに憑依から抜け出すと、
犯罪組織アビスの浜口は笑ったー。

「ークククー霊体の状態では1分しか漂えないぞー?」
とー。

「ーーーぇ……? あ…… あぁ…ああああ…」
憑依されている間に撃たれた葵は、血を流しながら
正気を取り戻して混乱しているー。

「ー邪魔だーどけ」
浜口が無情に葵にトドメを刺すー。

俊太は、”悪人”とは言え、セーラー服姿の女・葵をあっさり射殺した
浜口という男に怒りを覚えたー。

そしてーーー

”ーお前ーー…なんかー、すっごくムカつくー”
と、そう言葉を口にすると、そのまま浜口に”憑依”したー

「ーなっ…!? ぅ…」
浜口も、呆気なく俊太に支配されると、
俊太は怒りに任せて、浜口の身体で銃を自分に突き付けてー
その場で”自殺”させたー。

浜口の身体から飛び出す俊太の霊体ー。

「ーー死んで…死んでたまるか!
 なんで俺が殺されなくちゃいけないんだ!」

そう叫ぶと、俊太は少し離れた場所で実体化して
そのまま大学へと向かったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーー」
大学で暗い表情を浮かべる俊太ー。

「ーお?どうした?」
俊太の友人・恵一(けいいち)が、少し心配そうに
俊太に声をかけて来るー。

「ーあ、いやー…べ、別にー」
俊太が苦笑いしながら、恵一にそう言うと、
「お前のことだから、どうせまた下らないことで
 悩んでるんだろ?」と、笑うー。

「はははー」
俊太は愛想笑いを浮かべながらも、
”今回はーマジでやばいんだよなー”と、
心の中でそう呟いたー。

そしてー
大学での1日が終わりー、
帰路につく俊太ー。

「ーーー!」
がー
俊太は”気配”を感じたー

”さっきから、あの女の人ー、ずっとついてきてるー”
俊太はそう思いながら、鏡でその女を確認するー。

全身黒ずくめのポニーテールの女ー。
姫百合会の会長ー、まるで生徒会会長のような風貌の美琴の側近で、
美琴から”俊太の抹殺”を命じられた凛(りん)が、
俊太を始末すべく、俊太に迫っていたー。

”ーーーー”
凛は、俊太を”消す”機会を伺うー。

”わたしに憑依しようとしても無駄よー。
 わたしは、”対憑依”の電磁シールドを装備しているからねー”
凛はそう思いつつ、
俊太が人通りのない道に入ったのを確認して、
俊太を襲撃するー。

「く、くそっ!!なんで俺がこんな目にー!」
俊太はそう言いながら、憑依薬を飲むー。

しかしーー

「ーー!?」
凛に憑依しようとした俊太は表情を歪めるー。

”凛”の装備しているシールドによって、
俊太の霊体は弾かれてしまったのだー。

「ーーふふふふ…わたしに憑依しようとしても、無駄よ」
凛は勝ち誇った表情でそう言葉を口にするー。

霊体でいることができる時間はわずかー。
憑依さえされなければ、俊太を追いつめることはたやすいこと。

「ーーく、くそっ!」
俊太の霊体は周囲を見渡すー。

俊太は周囲に下校中の女子高生の姿を見つけたー。
がーーー

”無関係の子には憑依するわけにはいかないー”
俊太は、そんな風に思いながら、
刻々と霊体でいることのできる時間が過ぎていくのを感じるー。

「ーふふ、観念なさい」
凛は、そう呟きながら特殊なコンタクトレンズで俊太の居場所を確認するー。

”ふふーあそこを漂ってるのねー
 霊体のまま、できるだけ遠くに逃げたり、隠れたりしても無駄よ”
微笑む凛ー。

姫百合会最高の暗殺者である自分から逃れることなどできないー
絶対にー。

がーーー
その時だったー。

「ー!」
凛が表情を歪めるー。

背後からやってきた車が近くに停車すると、
その中からオールバックの髪型の男が出て来たー。

「ーー例のガキーこの辺りにいるのか。」
同じく俊太の命を狙う犯罪組織アビスの男・水野(みずの)が
笑みを浮かべながらそう呟くー。

「ーー…あんたはアビスのー。
 わたし一人で十分よ。引っ込んでなさいー」

そう言い放つ凛ー。

がーー
凛にとって犯罪組織アビスの水野がやってきたことは
”誤算”だったー

何故ならー

「ーーー!」
俊太は目を見開くー。

「ーーこれならー!」
そう言い放つと、俊太は犯罪組織アビスの男・水野に憑依したー。

「ーーうっ…」
凛の横にいた水野がうめき声をあげるー。

「ーーーえ」
表情を歪める凛ー。

「ーー…死んで…死んでたまるか!」
憑依された水野は、持っていた銃を凛に向けて放つー。

凛は驚きの表情をあげながら、身体ごと吹き飛ばされるように
倒れ込むと、当たった場所が悪かったのか、
そのまま即死したー。
憑依対策をしていても、別の人間が憑依されて攻撃されてしまえば
意味がないー。

「ーはぁ…はぁ…」
犯罪組織アビスの男・水野の身体で荒い息を吐き出すと、
俊太は水野の身体を乗っ取ったまま、持っていた銃で
水野自身も自殺させたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーアイツ…絶対に許さないー
 ここを出たら、必ずー」

留置場にいる由美ー
最初に俊太に憑依された姫百合会の女が、怒りの形相を浮かべるー。

そこに、警察官の女が近付いて来るー。

「ーーー…!」
由美が、少しだけ表情を歪めると、直後、首筋に衝撃を感じたー。

「ーーーーーーー」
警察官の”姿をした”女はそのままゆっくりと立ち去っていくー。

”姫百合会”は、女だけで構成された犯罪組織ー。
そこには、恐怖の掟があるー。
”使えない花は、枯れるのみ”

つまりー、失敗すれば死…そんな、掟だー。

特殊な毒を打ち込まれた由美は、牢屋の中で全く動くことなく、
そのまま死亡していたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー”不良品”は処分できたようですねー。
 ご苦労様です」

姫百合会の会長で、まるで生徒会会長のような真面目な風貌の美琴がそう言うと、
警察官に扮して由美を暗殺した女・真理恵(まりえ)が「ありがとうございます」と
頭を下げたー。

「ーそれで、例の子はどうしましたか?」
会長・美琴の言葉に、真理恵は「それがー…完全に行方不明です」と、
そう言葉を口にするー。

「そうー」
美琴は、残念そうに呟くと、
窓の外を見つめたー。

「ーーーーーそれは、残念ねー」
そう言葉を口にすると、美琴は静かに微笑んだー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「例のガキが消えたー?」

犯罪組織アビスのリーダー・魔崎が部下から報告を受けると、
部下は静かに頷いたー。

「ーーなるほどなー。
 探してもいねぇってことは、恐らくー」

魔崎はそう言葉を口にすると、笑みを浮かべるー。

”あのガキ、考えたなー…
 まぁ、だがー…
 生きるのにそこまで必死なやつがー
 わざわざ今後、俺たちに絡んでくるとも思えねぇ”

魔崎はそう心の中で考えると、
部下に対して命じたー。

「ーガキは放っておけー。これ以上追ってもメリットはねぇ
 本気で探しゃ見つかるだろうが、
 そこまでして、そんなガキ一匹始末しても、労力を無駄するだけだ」

魔崎のその言葉に、部下は「はっー」と、静かに頭を下げたー。

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”俺は、助かった”ー

俊太は、笑みを浮かべたー。

”新しい身体”でー。

あのあと、俊太は
”そういや、憑依薬があるならー”と、
姫百合会、そして犯罪組織アビスから逃げる方法を思いついたー。

それがーーー

「ーおはよ~~!希海(のぞみ)~!
 本当によかったね~!」

”友達”が俊太のことをそう呼ぶー。

「ーうんー でも、記憶がハッキリしないんだけどー…」
”希海”を呼ばれた俊太は苦笑いするー。

そうー
俊太は”憑依”したー。
他人の身体を乗っ取り、その身体で生きていくことで、
姫百合会や、犯罪組織アビスの追跡を振り切ったのだー。

事故で昏睡状態に陥り、もう目を覚ます可能性が低い、
と言われている子を見つけた俊太は、その子に憑依したー。

”普通に生きてる子”に憑依することは、俊太には罪悪感から
出来なかったものの、
”もう目を覚ます可能性の低い子”なら、
周囲は本人が目を覚ましたと思って喜ぶだろうし、
また、”記憶喪失”を装って上手く生活することもできるー

そう考えたのだー。

元々マイペースで友達が少なく、自分の人生自体には
あまり執着がない俊太はー
”生きるため”に躊躇なく自分の人生を捨てて、他人の身体で
生きることを決めたー。

「ーーーー帰ったら、ジグソーパズルやろっとー」
”希海”となった俊太は、元々自分が好きだったジグソーパズルを
思い浮かべながら、
新しい人生を歩み始めるのだったー。

おわり

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コメント

無事に逃げ切ることができて
ハッピーエンド(?)でした~!☆!

これで狙われることもなく、
平穏な日々を送ることができそうですネ~笑

お読み下さりありがとうございました~!☆!

コメント

  1. 匿名 より:

    俊太はここの作品のキャラの中では珍しいくらい善良なタイプですよね。
    わざわざ、目を覚ます可能性の低い相手を選んで憑依しているので。

    まあ、低いだけであって、ゼロではないですし、人生を奪っていることに違いはありませんが。

    • 無名 より:

      こちらにも感想ありがとうございます~~!☆!

      手当たり次第悪用するわけじゃなさそうなので、
      俊太くんが拾ったのが幸いだったかもですネ~…!