”憑依”が当たり前のように行われるようになったその世界ー。
その世界での
企業の”情報漏洩”は、さらに過酷なものになっていたー。
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”株式会社NDフーズ 顧客情報数十万件流出かー”
そんなニュースが報じられていたー。
「ーー大変、申し訳ありませんでした」
猫向けの商品展開をしている企業・NDフーズの社長が
そんな言葉を会見で口にしているー。
”外部からの攻撃”による情報漏洩ー。
企業にとって、それは致命傷となるー。
がー、この世界の場合、情報漏洩は
ネット上のセキュリティの問題ではなく…
それ以上に気を付けなければいけないことがあったー
それがー、”社員の身体”ー。
そう、たった今、謝罪会見を行っている株式会社NDフーズは、
入社2年目の女性社員が憑依されてしまい、
その女性社員が顧客情報を自ら流出させてしまったのだー。
「ーー申し訳ありませんでしたー
本当に、ごめんなさいー」
泣きながら謝罪する入社2年目の女性社員ー。
彼女は、真面目に働いていて、
先輩や上司からも可愛がられている存在だったー。
そんな彼女が憑依されて、企業の情報を流出させてしまったのだー。
現在、この世界で社会問題となっているのはー
”憑依による情報漏洩”
社員や社長が憑依薬によって憑依されることで、
会社の機密情報や顧客情報が流出してしまうー。
そんな事態が起きていたー。
”憑依薬”は20年ほど前から裏社会を中心に流通している
この世界では”使用”を禁じられている違法なアイテムー。
がー、企業へのサイバー攻撃が止まらないように、
憑依薬に関しても、”違法”であっても使用するものが後を絶たず、
世間では憑依薬による事件や、情報漏洩が当たり前のように起きていたー。
今やー、犯罪の何割かに”憑依薬”が用いられるのは
当たり前となっているー、そんな、時代だー。
「ーーー該当の社員は、憑依の予防接種を行っておらずー、
今回はそこを突かれた形となってしまいましたー。
大変、申し訳ございませんでしたー。」
NDフーズの社長が、改めて記者たちに向かって頭を下げるー。
憑依による情報漏洩は、企業にとっては深刻だったー。
社員が憑依されてしまえば、どんな情報にアクセスすることもできてしまう
だけではなく、
憑依薬の中には、乗っ取った相手の記憶をそのまま読み取ることができる
”上位種”と呼ばれるさらに危険なタイプもあるー。
上位種の憑依薬によって、”憑依”されてしまった場合、
それだけで乗っ取られた人間の記憶を読み取られてしまうために、
簡単に情報を抜き出されてしまうー。
そんな状況に、企業や社会も当然対策はしている。
その一つが”憑依薬の予防接種”ー。
憑依される際に、脳が示す拒否反応をベースに
開発されたもので、これを投与することにより、
霊体に憑依されることを防ぐー…
つまりは、憑依されない身体を作ることができるー。
中には、この憑依薬の予防接種を義務付けしている
企業もあるものの、
予防接種は、体質上できない人間もいて、
今回、憑依されたNDフーズの女性社員もそうだったー。
他にー、
機密情報に触れることのできる社員数の削減や、
人間ではなく、できる限りロボットや機械を用いた仕事をすることー、
ダミーデータを保存しておき、憑依された人間が情報を探ろうとした際に
”偽の情報”を掴むように予防策を練っておくことー、
統計上、憑依のターゲットになりにくいとされる男性を中心に採用する企業などなどー、
様々な情報漏洩対策が行われていたー。
「ーーーあ~あ、NDフーズもやられちゃったみたいだねー」
とある企業ー。
仲良しの女子大生二人組が卒業後に起業、
若者向けのSNSの運営やサービスの運営、女子向けのスマホアプリ・ゲームなどを開発している
”ろあそふと”の副社長・早内 愛唯(はやうち めい)が、
そう言葉を口にするー。
その言葉を聞いた
”ろあそふと”の社長・天坂 彩夢(てんさか あやめ)が、
「ーーうちはちゃんと”憑依対策”バッチリだから大丈夫」と、そう言葉を口にしながら
微笑むー。
彩夢と愛唯は、大学時代から大の仲良しで
2人で企業、今は社員を10人程度抱えるまでに成長したー。
特にSNSサービス”ろあろあ”は、若者を中心に一定の人気を得ているほか、
スマホアプリ”イケメン★ハザード”というゲームもそれなりに
ヒットしているー。
「ーーーうちは可愛い子が多いからねー
わたしも含めてー
他の会社以上に気を付けないと」
副社長の愛唯がそう言うと、彩夢は苦笑いしながら
「自分でそれ言う?」と、笑うー。
「ーあははー、うちみたいな急成長している企業は狙われやすいしー、
それにー…中には社長とか幹部クラスの社員が憑依されて
情報漏洩どころか会社を乗っ取られたケースもあるみたいだから
気を付けないとね」
愛唯は、そう言葉を口にすると、
彩夢は「ふふーそうねー」と、頷くー。
”ろあそふと”では、徹底した憑依対策が取られていてー、
入社条件は”憑依薬の予防接種を必ず受けること”ー。
そして、それだけではなく
”ろあそふと”が入居しているビルは”憑依妨害対策”がなされているビルだー。
”霊体を弾く”ー
そんな、特殊な電磁波により守られている建物ー。
憑依が問題になって以降、そういった建物が増えつつあり、
”憑依薬を飲んで霊体になった人間”の侵入を防ぐ効果があるー。
入居するための費用はその分高いものの、
それでも、会社の安全を考えると、
”憑依妨害対策済み物件”に入居することは
安全のために、必要なことだったー。
「ーそういえば、もうすぐうちも3周年だねー」
社長の彩夢がそう言うと、
副社長の愛唯が「あ、うん~そうだね~あっという間だったよね」と、笑いながら
カレンダーを見つめるー。
「まさか、わたしと彩夢の会社がここまでうまくいくとは思わなったけどー。
始めた時って、本当に”学生同士のノリ”みたいな感じだったじゃん?」
愛唯が笑いながら言うと、
彩夢も懐かしそうにしながら「そうだったね~」と、微笑むー。
「ーーでも、ここまでこれたのは愛唯がいてくれたからだよ」
社長の彩夢はそう言うと、愛唯は「あははー…そんなそんな」と、
謙遜するようなポーズをするー。
共同で起業した際に、
副社長の愛唯は「わたしはトップの器じゃないから」と、彩夢に
社長の座を譲り、No2に徹したー。
それ以降も、No2として本当によく、彩夢のことを支えてくれているー。
「ーーーーそれより、明日の新作発表だけどー」
社長の彩夢がそう言いながら、
ヒットしたスマホゲーム”イケメン★ハザード2”の企画書を見せながら
愛唯に何か相談を始めるー。
イケメン★ハザード2が発売されれば、さらに会社の業績も伸びるー。
ますます、会社は成長していくはずだー。
「ーーうん。それでいいと思うよー。
あ、はいーお茶」
お茶を差し出しながら、副社長の愛唯が、
企画書に今一度目を通すと、
「ーわたしはいつも通り、裏方に回るから、
頑張ってねー」と、そう言葉を口にするー。
社長の”彩夢”は、大学時代から”美人”と周囲から言われるほどに
容姿にも恵まれていて、
今では会社の”看板”にもなっているー。
社長自身のファンもいるぐらいだー。
一方で、副社長の愛唯も、彩夢と並ぶ美人ではあるものの
その性格上、愛唯は表舞台に立つことはなく、
副社長としてこれまで彩夢を支え続けて来たー。
「ーー」
そんな彩夢を見つめながら、愛唯は少しだけ微笑みながら、
”これからの会社の未来”を頭の中で思い描いたー。
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翌日ー。
社長の彩夢が、新商品発表の”生配信”を行っているー。
イケメン★ハザード2だけではなく、
展開しているSNSや、その他の商品などについても、
一つ一つ発表していく彩夢ー。
”今日も社長、おしゃれですよね”
”社長自体が、うちの看板だもんねー”
社員がそんな会話をしながら、仕事場から
発表の様子を見つめているー。
発表は、ろあそふとが入居しているビルの別室で
行われているー。
副社長の愛唯は、そんな様子を見つめると、
”よろしくお願いします”と、既にこのビルの中に入っていた
”清掃業者の男”に、連絡を入れたー。
”本当にいいのか?”
”ええー”
そんなやり取りをする愛唯ー。
そしてー…
配信中の社長・彩夢に異変が起きたー。
「ーーうっ…」
彩夢がビクッと震えるー。
「ーーふふー…」
彩夢はイヤらしい目つきで自分の身体を見下ろすと、
「ーーえへへへー…発表の最中ですがー
わたし~~、憑依されちゃいましたぁ~♡」と、
突然、彩夢は、生配信中のカメラに向かってそう声をあげたー。
胸を触りながら、彩夢は笑うー。
「ーふむふむー ふむふむふむふむー
こいつの個人情報、みんなに教えてあげるねー」
憑依された彩夢は、ニヤニヤしながら
自分の個人情報を次々と口にしていくー。
「えっ?し、社長!?どうしちゃったの?!」
「ーーな、なにこれー!?」
仕事場でそれを見ていた社員たちが驚くー。
「ーーー…」
副社長の愛唯は、そんな映像を見つめながら
少しだけ笑うー。
”ー最初は、あなたがトップでいいと思ってたー”
”でも、会社が成長していくにつれてー
それは変わったー”
”どうして、あなたばかり光を浴びてー
わたしは”影”なのかー
いつしか、そんな思いが強まったー”
”だからー…わたしはあなたを蹴落として、
自分が社長になる方法を考えていたー
ずっと、ずっとー”
愛唯は、新作発表の生配信中に憑依されて
暴走している社長・彩夢の映像を見つめて微笑むー。
「ーー早内さん!どうするんですか!?」
「副社長!」
社員の女が駆け寄ってくるー。
”ふふー心配はいらないー”
愛唯はそう思いながら、彩夢が自分の個人情報や黒歴史を
憑依した男に全部読み取られて暴露された挙句ー、
”わたし、社員たちに憑依の予防接種を強要していたのに
自分はしてなかたんですぅ~!”などと、
笑いながら話している映像を見つめるー。
昨日、彩夢に手渡した”お茶”に、
憑依薬の予防接種の効力を一時的に打ち消すとある”毒”を仕込んだー。
そして、ネットで見つけ出した”依頼されれば誰にでも憑依する”憑依屋”の男に
彩夢への憑依を依頼ー、
この建物は憑依対策物件であるため、建物自体が特殊な電磁波で
守られているものの、”中”に憑依者を入れておけば、建物内の人間にも憑依は可能ー。
清掃業者の男に扮した”憑依屋”をビルに招き入れて、彩夢に憑依させたー。
彩夢は、自分が担当していたプロジェクトのことも全て暴露すると、
笑いながらそのまま発表の生配信を打ち切ったー。
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新作発表会中の情報漏洩ー、
そして社長の彩夢自身の個人情報の漏洩ー。
正気を取り戻した彩夢が錯乱する中、
愛唯は「彩夢は、ゆっくり休んでー」と、
彩夢を社長から解任しー、副社長であった自分が、社長になったー。
「ー前社長、天坂 彩夢が憑依された件で
大変ご心配をおかけしておりますー」
愛唯が、社長就任の会見を開いているー。
「ーーわたしも含めて、わたしと、他の社員は
全員、憑依対策の予防接種を受けていますー
また、今後、憑依による情報漏洩が起きないように、
3つの新たな対策を導入しー」
愛唯は、会社の乗っ取りに成功したことを喜びながら、
会見を行いながら静かに笑みを浮かべたー。
”ろあそふと”の社長は、彩夢から愛唯となったー。
しかしー。
この世界で起きている
”憑依薬による情報漏洩”は止まらないー。
やがて、”憑依対策の予防接種”をしている人間にも憑依できる、
新たな憑依薬が開発されー、
予防接種は事実上、無力化されたー。
そしてーー
”ろあそふと”の女性社員が一人、憑依されて、
顧客情報の流出が起きてしまったー
「ーーーー~~~~~~っ」
彩夢から会社を乗っ取った愛唯は、
ボサボサの髪を掻きむしりながら、
顧客情報流出の責任を問われる状況に、表情を歪めていたー。
「ーーーーーどうしてー…
どうして、こんなことになるの!?」
愛唯は、そう呟きながら
既に事業停止状態となったろあそふとのオフィスで
怒り狂った表情で机を叩いたー。
けれどー
もう、どうすることもできないー。
”憑依”の魔の手に狙われてー
情報漏洩が起きれば、会社は大打撃を受けるー。
それが、この世の中なのだからー。
程なくして、ろあそふとは倒産ー、
社長の座を奪った愛唯も、そのまま姿を消して行方知れずと
なってしまったのだったー
おわり
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コメント
1話完結の憑依モノでした~!☆!
憑依が悪用される世界になってしまうと、
色々大変そうですネ~…!
お読み下さりありがとうございました~!☆
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