とある図書館ー。
そこでは”延滞”に対して
厳しいペナルティが課せられていたー。
そのペナルティとは…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーーー」
OLの浜塚 麗香(はまづか れいか)は、
図書館で本を選んでいたー。
「ーあ、はいー、その本でしたらー
こちらですー」
眼鏡をかけた優しそうな雰囲気の女性職員が、
おじいさんに親切に案内しているのを見つめながら、
麗香は、資格試験の本を数冊、手に取ると
そのままカウンターへと向かうー。
が、職員が案内中だからだろうかー。
カウンターには人がおらず、
少し待っていると
すぐに先程の眼鏡の女性職員が戻って来たー。
「ーこちら、貸出ですねー」
そう言葉を口にする女性職員ー。
「はいー。お願いしますー」
麗香がそう答えると、
”水脇(みずわき)”と書かれた名札を身に着けている
その女性職員を見つめながら、
淡々と貸し出しのための処理を待つー。
「ー返却期限は今月の28日となりますのでー
よろしくお願いします」
女性職員・水脇の言葉に、
麗香は「ありがとうございますー」と、だけ言葉を口にして
借りた本を自分のカバンの中に詰めるー。
がー、その時だったー。
図書館の電話が鳴り、たった今、応対してくれた
水脇という女性職員が電話に出るー。
”大変そうだなぁ…一人なのかなー?”
麗香はそんな風に思いながらも、
仮に一人だとしても、特にしてあげられることはないしー、と
思いつつ、そのまま外に向かって歩き出すー。
「ーーー…本を返すつもりはない、ということでしょうかー?
お返しいただけない場合、”ペナルティ”を課すことになりますが」
ふと、脅すような口調で、女性職員・水脇が
そう言葉を口にしているのが
少しだけ気になったものの、麗香はそのまま外へと出たー。
「ーーふぅー…」
図書館の外に出ると、図書館の前で
スマホをいじりながら、会社からのメッセージを確認する麗香ー。
ちょっとした仕事上の確認で、
麗香はそれを見ながら返信を入力し始めるー。
がー、その時だったー。
「ーー2丁目の重沼(しげぬま)さんでいいんだな?」
中から、図書館の職員と思われる男が出て来ると、
「ーはい」と、もう一人別の女性職員が頷くー。
「ーーー分かったー。すぐに”連れて”来るー」
男は、そう言葉を口にすると、そのまま図書館の敷地の
外に向かって歩いていくー。
「ーーー…?」
少しだけ違和感を覚えつつ、首を傾げる麗香ー。
延滞した人の家に直接乗り込んでその人を
連れて来る、とでも言うのだろうかー。
そう思いつつも、麗香は
”ま、わたしには関係ないかー”と、そう思いながら
スマホをバッグにしまうとそのまま歩き出すー。
”でもまぁ…仕事が忙しいとついつい返しに行くの
遅れちゃう気持ちは分かるけどー”
私生活がいい加減な麗香はそんな風に思いながら
図書館を後にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
半月後ー。
「ーーは~~~疲れた」
仕事を終えて帰宅した麗香は、
だらしない姿勢でソファーに寝転ぶと、
そのままスマホを弄り始めるー。
外ではそれなりに”真面目な雰囲気”を漂わせている麗香ー。
しかし家ではこうしてだらしのない過ごし方をしていることも多いー。
「ーーーあ」
ふと、麗香は部屋の隅に置かれた半月前に図書館で借りた本の
存在を思い出すー。
あのあと、その週のうちに全部読み終えていたものの、
それ以降、仕事がそれなりに忙しくなってしまったこともあり、
返却しないまま、そのままになっていたー。
「ーーあ~…返却期限過ぎてるけどー
まぁでも、わたしはちゃんと返すから
もう少し待ってもらおっと」
麗香はそう言葉を口にしながら
面倒臭そうにスマホを弄り始めるー。
最近は、仕事が忙しいー。
図書館の本を返すのなど、後回しだー。
そう、思いながらー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
がー
その数日後のことだったー
”中央図書館の重沼と申しますー”
図書館から電話がかかって来たー。
麗香は、少し面倒臭そうに
重沼と名乗る職員からの話を聞くー。
案の定、延滞がどうのこうのー、
そんな話だったー。
「すみません、わたし、今
仕事が忙しくてー
なかなか足を運ぶ時間が取れなくてー
仕事がひと段落したころに返しに行こうと思ってるんで、
それでいいですか?」
麗香が少しだけ申し訳なさそうな口調で言うー。
がー
”期日は守っていただかないとー
既に1週間以上延滞されていますし”
重沼と名乗る女性職員が、そう不満そうに言葉を口にするー。
「ーー分かってます分かってますー
だから、仕事がひと段落したら返しに行くって
さっきから言ってますよね?
それとも、わたしに分身でもしろと言ってるんですか?」
麗香は仕事が忙しいイライラからか、
八つ当たりするかのようにそう言葉を口にするー。
するとー…
”ーーー…本を返すつもりはない、ということでしょうかー?
お返しいただけない場合、”ペナルティ”を課すことになりますが”
と、女性職員の重沼はそう言葉を口にしたー。
「ーーな、何ですかーその言い方ー」
不満そうに呟く麗香。
”ーーーいえ、お返しいただけないのであればこちらから
お伺いしますのでー”
その言葉に、麗香は
自分が図書館に本を借りに言った時にも、
カウンターにいた別の名前の女性職員が
同じような電話を誰かにしていたのを思い出すー。
そしてー、
その時に図書館の外に”これから本を返さない人の家に乗り込む”と
思われる職員の姿も確認しているー。
”ーーーー…”
麗香は少しだけ表情を歪める。
「ーわかりましたー、だったら、明日と明後日は仕事が忙しいので
3日後にして頂けますか?」
麗香がそう言うと、
電話相手の女性職員・重沼は
”延滞しておきながらまだ、3日待てとおっしゃるのですか?”と、
不満そうに呟いたー。
「ーーだ、だから忙しいって言ってるでしょ!」
麗香が少し苛立ってそう声を発すると、
”分かりましたー。では対応に移らせていただきます”と、
言葉が聞こえてきて、そのまま電話は切られてしまったー。
「ーー対応!?ちょっと!何をするつもり!?」
麗香が不満そうに叫ぶー。
がー、既に電話は切られていて、
相手にその言葉は届かなかったー。
「ーーふん!忙しいって言ってるじゃん!」
麗香はうんざりした様子でそう叫ぶと、
図書館から借りた本を、玄関の前に用意だけしておくー。
「ーま、取りに来てくれるならいいか」
麗香は、それだけ口にすると、
仕事帰りに購入したファッション雑誌を読み始めるー。
しかしーー
ふと、”あること”を思い出したー。
”「ーー2丁目の重沼(しげぬま)さんでいいんだな?」”
あの日ー
図書館で本を借りたあと、外でスマホを確認していた
麗香は、中から出て来た職員がそんな会話を
していたことを思い出したのだー。
”2丁目の重沼さん”
それが、当時、本を借りたまま延滞していた人の
名前だろうー。
しかし、今ー…
電話をかけてきた職員は”重沼”と名乗っていた気がするー。
「ーーーー…」
麗香はなんだか嫌な感じを覚えるー。
”重沼”という名字は、そこまで多い名字ではない。
もちろん、いるにはいるだろうけれどー、
鈴木だとか高橋だとか山田だとか、
そういうレベルの定番ではないー。
「ーーーー……」
延滞していた人が、図書館で働いているー?
どうしてー…?
「ーーそういえば、ペナルティってー…?」
麗香がさらに嫌な予感を強めて、
そう言葉を口にしたその時だったー
♪~~~
部屋のインターホンが鳴ったー。
麗香はビクッとして玄関の方を見つめるー。
タイミング的に”図書館”の人間だろうー。
「延滞のペナルティってなにー…?
なんで延滞してた人があの図書館で働いてるのー?」
麗香は戸惑うー。
勿論、”重沼”という人が別人である可能性はあるー。
延滞していた”重沼”と、
さっき電話をかけて来た図書館の職員”重沼”は、同じ人物では
ないかもしれないー。
がー、何だかここに来て急に恐怖を覚えたー。
”え…何?脅されたりして無理矢理図書館で
働かされたりするの??”
そんなことまで考えてしまう麗香ー。
が、深呼吸をするとなんとか平静を装って、
そのまま玄関の扉を開けたー。
すると、この前図書館で本を借り終えた後に
スマホをいじっている際、
見た男ー
”これから重沼さんのところに行く”と
言っていた男が入って来たー。
「中央図書館の境(さかい)と申しますー
本の回収にお伺いしましたー」
男性職員・境がそう言うと、
麗香は「わ、分かりましたー」と、本を慌てて差し出すー。
「ほ、本は返しましたよ?
これでいいですよねー」
麗香がそう吐き捨てるようにして言うと、
男性職員・境は少しだけ笑ったー。
「いいえ。あなたには”ペナルティ”を与えることに
なっていますー。
”ペナルティ”からは逃れられません」
と、そう言いながらー。
「ぺ、ペナルティってい、いったい何なんですかー!?
乱暴なことをしようって言うなら、警察を呼びますよ!」
麗香がそう言うと、
「延滞した人間には、”図書館”で働いてもらうことに
なってるんです」と、
境はそう言ったー。
「ーは、働くー…?
や、やっぱり、さっきわたしに電話をかけて来た”重沼”って人ー!」
麗香がそう叫びながら、
本を借りた時に、”重沼さん”という人が延滞しているという会話を
聞いたこと、
今、自分に電話をかけて来た人がその”重沼”という人なのではないかと
そう指摘したー。
「ーわたしはその重沼さんと違って
脅しても、何をしても、図書館なんかで働かないからね!
わたしは今、仕事で忙しいんだから!」
麗香がうんざりした様子でそう吐き捨てると、
男性職員の境は「はははー」と笑ったー。
「無駄ですよー。
あなたは今日から、我々と一緒に働くー」
そう言葉を口にすると、境は突然、目を赤く光らせたー。
「ーーえっ…!」
ビクッと震える麗香ー。
「ーーさぁ、一緒に来てもらえますね?
あなたには今日から中央図書館で働いてもらいますー」
境のそんな言葉に、
麗香はさっきまでの強気な雰囲気が全くなくなりー…
「はいー…よろしくお願いします」と、
ぺこりと頭を下げたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
「おはようございますー」
”洗脳”された麗香が、ぺこりと頭を下げて、
図書館へやって来るー。
強気な雰囲気はなくなり、ただひたすらに
真面目に図書館の仕事をやり始めるー。
仕事は、昨日のうちに退職することを告げさせられたー。
もちろん、今の麗香はそれを何とも思っておらず、
”わたしはここで働くの”としか、思っていないー。
「ーーーでは、水脇さんはお疲れ様でしたー」
男性職員の境が言うー。
女性職員の水脇は、麗香が図書館を利用した際に
カウンターにいた女性職員だー。
その彼女は”今日で”図書館での勤務ー
いいや、”ペナルティ”が終わりなのだと言うー。
「ーーー皆さん、本当にありがとうございましたー」
ぺこりと頭を下げると、女性職員・水脇は
そのまま奥の部屋に連れていかれてー、
そこで、”洗脳”を解かれたー。
そうー、彼女もまた”延滞”をしたことにより
洗脳された女性だったのだー。
「ーーあ…あたし、ここでーー何をー…」
正気に戻った彼女は戸惑うー。
「ー水脇さんー。
あなたは”延滞”のペナルティで
ここで半年間働いていましたー。
今日、”退職”の順番が来たので
今日でペナルティが終わったんです」
男性職員・境が説明するー。
”一人洗脳されると”
”一番古い洗脳された人”が一人退職するー。
そして、この図書館は回っているー。
「ーー…そ、そんなことー…!
ふ、ふざけないで!」
女性職員だった水脇が叫ぶー。
がーー
「ーここでの記憶は、忘れて貰いましょうー
元の仕事をしていたことも忘れー、
また、1からスタートして下さいー」
そう呟くと、男性職員の境は
目を赤く光らせて、彼女の記憶を操作したー。
洗脳されて図書館で働いていたことを忘れさせられ、
図書館で働かされる前の職場を”自ら辞めた”と嘘の記憶を刻まれー、
水脇は解放されたー。
「ーふふふふ」
男性職員の境ー
この図書館で”2人だけ”正気なうちの一人である彼は
笑みを浮かべながらため息をついたー。
「ー延滞は許されないー。
それが、うちの方針ですからねー」
彼はそう呟くと、そのまま
”洗脳されて働かされている職員たち”がいる図書館の館内の
方に戻っていくのだったー…
おわり
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コメント
私のネタストック(非公開)にずっと眠っていた
ネタの一つを書いて見ました~!☆
元は”図書館を舞台にした憑依”で考えたのですが
結局、洗脳系に調整しての登場デス~!
1話完結なのであっさり目でしたが
お読み下さりありがとうございました~!☆!
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