<MC>彼女の大きな秘密

夜の街で、自由気ままに過ごす男ー。

そんなある日、彼は一人の女と出会い、
次第に親しくなっていくー。

しかし、彼女から告げられた衝撃の秘密とはー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーー最近、大人しいじゃんー
 前は悪さばっかりしてたのにー」

派手なメイクに派手な格好の女・亜梨紗(ありさ)が、
そんな声をかけて来るー。

「ーーへへー
 そう見えるか?」

柄の悪い雰囲気の男・勝俣 隼吾(かつまた じゅんご)は
そう言葉を口にしているとたまり場にしている
ゲームセンターで、ペットボトルのコーラを口に運びながら
そう言葉を口にしたー。

「ーーあたしと知り合った時は
 もっとやりたい放題だったじゃんー?

 喧嘩ばっかしてたし、
 平気で悪さしてさ」

亜梨紗はそう言葉を口にすると、
隼吾の方を見つめるー。

「ーーそもそも、あたしとあんたが最初に出会った時も
 あんた、喧嘩してたし」

亜梨紗がそう言うと、
「ーそれはお前を助けるためだろ?」と、
隼吾は笑いながら答えたー。

隼吾と亜梨紗が出会ったのは数か月前のことー
亜梨紗が、柄の悪い男たちに絡まれていたのを見かけた
隼吾が、亜梨紗を助けるためにその男たちを蹴散らしたのが、
2人の出会いだったー。

「ーーーあんたが助けに来なくても
 あたしなら何とかできたしー。

 ”女の身体”っていう武器もあるんだからねー」

亜梨紗が笑みを浮かべながら自分の髪を触るー。

「ーーー…はは、ホント、悪女だなぁ 亜梨紗はー」
隼吾はそう言いながらも、
少しだけ間を置くと、
「ーーま、最近、悪さを控えてるってのは間違ってねぇよ」と、
そう言葉を口にしながら、
近くにあったクレーンゲームの方に向かっていくと、
そのままそれを遊び始めるー。

「ーふぅんー何で?今から真面目な大学生にでも戻るつもり?」
亜梨紗が腕組みをしながら言うー。

「はは、馬鹿言えー。
 退学したのに、また大学に通う気なんかねぇさ」
隼吾は、笑いながらクレーンゲームのプレイを続けるもー、
景品を取れなかったのか、「チッ!難しいなこれー」と、
ボタンを少し乱暴に叩くー。

「ーーーー…」
そして、少し間を置いてから亜梨紗の方を見ると、
「ー大切なものが出来たからさー」と、
少し恥ずかしそうに言葉を口にしたー。

「ーーーーーーふぅん」
亜梨紗は、少しつまらなそうにそう言うと、
「ー好きな女でもできたんだ?」と、それだけ呟くー。

「あぁ」
隼吾は即答したー。

「ーへぇ。どんな女?
 あたしも見てみたいんだけど」
亜梨紗が笑いながら言うと、
隼吾は少しだけ躊躇うような様子を見せてから
亜梨紗の方を見つめたー。

「ーーお…お前だよー…
 に…鈍い奴だなー」
隼吾はそれだけ言うと、誤魔化すかのように
ゲームセンター内のもぐら叩きの前に移動すると、
もぐらたたきを始めたー。

「ーーーー」
亜梨紗から返事がないー。
隼吾は気まずさを晴らすように、もぐらを叩き続けるー。

「ーーー…今、あたしが好きって言った?」
亜梨紗がようやくそんな言葉を口にするー。

「ーーー…い、言ったよー」
隼吾はそう言いながら、もぐらをさらに勢いよく叩くと、
亜梨紗は少し間を置いてから言葉を続けたー。

「あたしは、やめた方がいいよ」
とー。

「ーー…へへ…俺に気を遣ってそういう言い方してくれてるなら
 ありがとなー
 でも、変な情けはいらないぜ?」
隼吾がそう言いながらモグラを叩くー。

しかし…
亜梨紗は首を横に振ると、
「あたしも、別にあんたのことは嫌いじゃないよー
 そう思ってくれてるならー……あたしも嬉しい」
と、そう言葉を口にしたー。

「ーへへーそっかー
 じゃあーなんだ、あれか?彼氏が既にいるとか?」
隼吾がもぐらと戦いながらそう言い放つー。

本当は、亜梨紗の話だけに集中していたかったが、
緊張からか、もぐらたたきに熱中している”ふり”を
せずにはいられなかったー。

「ーーいないよ。あたしに彼氏はー」
亜梨紗がそう言いながら少しだけ笑うー。

「ーーじゃあ、なんでー?」
隼吾が少しだけ戸惑うような表情を浮かべつつ、
再び亜梨紗の方を振り返ると、
亜梨紗は少し困ったような表情を浮かべながらー、
ようやく口を開いたー。

「ーあたしさ、ホントは真面目な優等生なんだよねー。
 高校の時は、生徒会長もやってたし」
亜梨紗がそう呟くー。

「ーえ… へ… へぇ~~~」
隼吾は少し驚くー。

どう見ても”不良”な感じの亜梨紗が
1、2年前には生徒会長をやっていたというのだから
驚かずにはいられないー。

「ーーそ、それじゃ、どうして今みたいにー?」
隼吾は少しだけ戸惑いながら聞くー。

亜梨紗は短いスカートを少しだけ触ると、
自虐的に笑ったー。

「ーあたしさー、”洗脳”されたんだよね」
と、そう言葉を口にしながらー。

「ーーは…???」
隼吾が困惑するー。

亜梨紗の返事が予想の斜め上を行く奇妙な返事だったからだー。

「ーせ、洗脳ってー?」
隼吾はいつしかもぐらたたきをまともに遊ぶのも忘れて
亜梨紗の方を見つめたー。

「ー言葉の通りよー。
 高校の時、隣のクラスにいた不真面目な男子から逆怨みされて
 ”洗脳”されたのー

 その結果が、今のあたしー」

亜梨紗はそう言うと、自虐的に笑いながら
近くの椅子に座るー。

「ーーそいつに散々遊ばれて
 最後には”お前が一番嫌いなお前に変えてやるー”ってそう言われて
 不良なあたしが完成したってわけ」

亜梨紗の言葉に、
隼吾は少しだけ驚いたような表情を浮かべながら
「え、えっとー……俺、馬鹿だからよく分かんねぇ」と、
そう言葉を口にするー。

すると、亜梨紗は舌打ちをしてから、
スマホを手にすると
「これを見て」と、そう言葉を口にしながら
スマホに写真を表示させて、それを差し出して来たー。

「ーーー…これはー?」
亜梨紗とは似ても似つかない、黒髪の優しそうな子が
映っているー。

「ーー…あたしよー。洗脳される前の」
亜梨紗はうんざりした様子でそう言うと、
「ーいい子ぶっちゃってウザいでしょ?」と、
かつての自分をあざ笑うー。

「ーーー…あ、亜梨紗ー」
隼吾はさらに戸惑いの表情を浮かべるー。

亜梨紗は写真を切り替えると、
「で、あたしを洗脳したのがコイツ」と、それだけ言葉を口にすると、
その男の写真を憎しみに満ちた目で見つめたー。

「ーーー…」
隼吾は、亜梨紗を洗脳した男の写真を見つめながら戸惑うー。

「ーだから今のあたしは、あたしであって、あたしじゃないのー
 ま、今はもう真面目にやるなんて馬鹿らしくて笑っちゃうけどー…

 今のあたしは本当のあたしじゃないからー…
 ”いつ”急に元に戻るか、分からないでしょ?」

亜梨紗はそう言うと、
隼吾の方を見つめたー。

「ーあんたと付き合ったとしても、
 あたしはある日急に、前のあたしみたいに
 真面目ぶったウザい子になっちゃうかもしれないー。
 
 だからー…あたしはあんたとは付き合えないー

 ううんー。誰とも付き合えないー。
 いつまでも”今のあたし”でいられるかは分からないんだからー」

洗脳されてから、時間は経っているー。
けれど、亜梨紗も”今の自分”が、洗脳された結果であることは
理解していて、
元々の自分は”真面目な優等生”だったことも理解しているー。

だからこそ、
”いつかまた”急に元の自分に戻るんじゃないかと、
”今の亜梨紗”は怯えていたー。

「ーーーー…も、元に戻りたくないのか?」
隼吾がそう言うと、
亜梨紗は「今のあたしはねー」と、頷くー。

「ーまぁでも、”本当のあたし”はこんなあたしに
 なりたくなかったんだろうけど」
自虐的に笑う亜梨紗ー。

そんな亜梨紗を見て、
隼吾は叫んだー。

「それでも構わねぇよ」
とー。

「ーーーは?今の話、聞いてなかったのー?
 急に元に戻っちゃう可能性もあるし、
 あたしは、そもそも普通じゃないからー、
 あんたとは付き合えないって言ったでしょー?

 今日はこんな感じでも、
 明日になればあたしは
 あんたに怯えて、あんたみたいな奴を嫌ってるかもしれないー。」

亜梨紗がうんざりした様子で言うー。

「でも、今の状態になってから
 もう結構時間も経ってるんだろー?
 急に元に戻るなんてーそんなことー」
隼吾の言葉に、亜梨紗は自虐的に笑うー。

「確かに、あたしが洗脳されたのはもう1年以上前ー。
 でも、病院で言われたのー。

 ”いつか洗脳の効果から抜け出すことが急にあるかもしれないし、
 このままかもしれない”ってー」

亜梨紗はそれだけ言うと、
「あたしは、いつあたしじゃなくなってもおかしくないってこと」と、
そう言葉を付け加えたー。

「ーーーー…」
呆然とする隼吾ー。

「ーってことだからー、
 あたしを好きになるのなんて、やめときなー。
  
 他にもっといい女なんていくらでもいるからー」

亜梨紗はそれだけ言うと、
「今日はもう、帰るわ」と、そう言いながら
立ち去って行こうとするー。

だがーーー

「ーーそれでもいい!!」
隼吾はそう叫んだー。

「ーはぁ?
 あたしが急に洗脳の影響から抜けたら
 あたしは多分、あんたのことを怖がったり
 嫌悪したりするって言ってるでしょ?」

亜梨紗がうんざりしながら言うー。

しかし、隼吾は引かなかったー。

「ーーでも、今のお前にだって、
 ”洗脳される前の記憶”もあるんだろー?

 だったら、元に戻ったって少なくとも
 俺のことを忘れるわけじゃねぇってことだろー?」

隼吾がそう言うと、
亜梨紗は不愉快そうに腕組みをしたまま、
話の続きを聞くー。

「ーだったら、元の真面目なお前に戻ったって
 今のままだって、俺はお前のことを大事にしてやるよ!
 お前が望むんだったら、お前に合わせて真面目になったっていい!

 俺はとにかく、お前に惚れたんだー!」

隼吾がそう叫ぶー。

「ーーーーー…洗脳されたあたしは、普通じゃーー」
亜梨紗がなおも反論しようとすると、
隼吾はその話を遮ったー。

「ーあ~~~~、俺、これ以上難しい話されても分かんねーわ、
 ーーバカだから」

そう言い放つ隼吾に対し、亜梨紗は呆れたような表情を浮かべるー。

「と、とにかくー、
 俺は亜梨紗ー、お前が好きなんだー。
 好きなやつが、どんな風に変わろうと、俺はそれを受け入れるー。

 洗脳されてたって、正気だって構わねぇー。
 俺はお前の全てを受け入れるぜ」

隼吾が、そう言い放ちながら笑ったー。

「ーーーー……あんた、馬鹿?
 正気に戻ったらあたし、あんたのこと絶対怖がると思うしー、
 元々のあたしが、たぶん一番嫌いなタイプだよ?あんたー」

亜梨紗はそう言うと、
「ーーさっきも言ったろ?洗脳される前のこと覚えてるってことは、
 もしもこの先、お前が元に戻ったとしても、
 今、この会話だってきっと覚えてるー
 
 どんなになってもー、俺は努力するからー」
と、隼吾はそう言い返したー。

「ーーあ、まぁ、もちろんー
 本当に心底嫌がられたら、
 ストーカーになっちゃうから、しつこくはしないけどさー」

隼吾は、亜梨紗が不安に思いそうと思ったのか
そう言葉を口にすると、
「ずっと戻らない可能性だってあるんだろ?
 戻って振られても、それも含めて俺はお前の全部を受け入れるー。
 だからー」と、
言葉を続けたー。

「ーーーーーー」
亜梨紗は表情を歪めながら隼吾を見つめるー。

が、考えること数十秒、やがて静かに頷くと、
「ーー…洗脳されてる女を、恋人にしたいとか、
 ホント、馬鹿だねあんたはー」と、
そう言葉を口にしながら、少しだけ笑みを浮かべたー。

「ーあんたみたいな馬鹿が、いつまであたしのこと
 好きでいられるかー、
 ちょっと興味が出て来たー。

 だから、近くにいてあげるー」

亜梨紗の言葉に、隼吾は
「おいおいー、俺はバカだからそれじゃ分かんねぇよー。
 YesかNoで答えてくれると嬉しいんだけどなー」と、
苦笑いしながら言ったー。

「ーーーーっ」
亜梨紗は少しだけ恥ずかしそうに舌打ちをすると、

「ーYesってことよ!」と、
そう言いながら、隼吾の背中をばしっと叩いたー…。

おわり

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コメント

1話完結の洗脳モノでした~!☆!

洗脳モノの中では
穏やか(?)な雰囲気のまま終わりましたネ~笑

お読み下さりありがとうございました~!☆

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