<憑依>喜びを隠せない①~歓喜~

念願の憑依に成功した男ー。

彼は、ついつい喜びを爆発させてしまい、
その都度周囲から変な目で見られてしまうことに…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーうぉぉぉぉぉ……」
女子トイレの鏡の前に立ち、
笑みを浮かべるOLー。

彼女は入社2年目の
白井 彩夢(しらい あやめ)ー。

少しドジな一面はあるものの
真面目な性格で、周囲からも可愛がられているー
そんな子だー。

しかしー
今日の彼女の様子はどこかおかしかったー。

鏡を見つめながら、スーツ姿の自分に感動しー、
スーツの上から胸を触ると
嬉しそうに下品な笑みを浮かべているー。

「ーーえへへへへー…すげぇ…すげぇすげぇすげぇ」
彩夢は一人でブツブツそう言葉を口にするー。

そうー
彩夢は今朝、この会社に出入りしている
清掃業者の男に憑依されてしまったのだー。

彩夢に憑依した清掃業者の男ー、
佐山 研吾(さやま けんご)は、40代後半の独身の男で、
恋愛経験もこれまで0だったー。
しかし、そんな彼が昨年、掃除中にバケツを倒してしまった際に、
彩夢に助けてもらったことで、
彩夢に対して一方的に歪んだ感情を抱きー、
先日、憑依薬を手に入れた彼は、朝、彩夢に憑依してしまったのだー。

「ーーー」
今まで、ずっと一人で異性との縁も全く無かった研吾にとって
”彩夢に憑依できた”という今、この現実は
夢のような瞬間だったー。

「ーーやった…やったやったやったやったー!」
鏡の前で、喜びを隠せない様子を見せる憑依された彩夢ー。

「よっしゃあああああああああ!」
彩夢は女子トイレの中、一人でガッツポーズをしながら叫ぶー。

喜びを発散しないと、おかしくなってしまいそうなぐらいに、
強い、強い、喜びを感じていたー。

「やべぇ…最高だー最高過ぎる えへへへー
 よっしゃああああああああああ!」
彩夢の大人しい顔が歪むぐらいに、喜びを全身で表現するーー

がーーー

「ーーー………」
2歳年上の先輩の女性社員・北森 麗奈(きたもり れな)が
偶然、女子トイレにやってきてー…
その姿を目撃されてしまったー。

「ーーぁ…」
ガッツポーズして叫んでいた彩夢は、気まずそうな表情を浮かべながら
そのままのポーズで麗奈を見つめるー。

麗奈はきょとんとした表情を浮かべながらも、
そのままぺこりと頭を下げて、そのまま個室の方に向かっていくー。

「ーーー~~~~~~~」
彩夢は気まずそうな表情を浮かべながら、
慌ててトイレから逃げ出すー。

北森 麗奈は、
眼鏡をかけた大人しい雰囲気の先輩女性で、
一言で言えば”何を考えているか、あまりよく分からない”タイプの人だー。
口数も少なく、黙々と仕事をしていることがほとんどでー、
清掃業者として出入りをしていた研吾は、その姿は何度も見かけているものの、
本人と直接会話をしたことはないー。
同僚とも話しているのをほとんど見たことがないし、
笑っているところも見たことがないー。

「ーだ、大丈夫だよなー…?」
彩夢はそう呟きながら、オフィスに戻り、
なんとか平静を装おうとするー。

けれどー、
彩夢のような可愛い子に憑依できた喜びが
張り裂けそうなぐらいに膨れ上がって来てしまいー、
仕事に使っているパソコンに自分の顔が反射する度に「よしっ!」「よし!」などと
小声で呟いてしまうー。

「ーー…???」
近くにいた、先ほどの麗奈とは別の先輩社員が
戸惑った様子で「彩夢ちゃんー…大丈夫?」と、
心配そうに言葉を口にするー。

「ーえ…だ、大丈夫って何がー?
 ーーーですか?」

言葉遣いを間違えそうになって、慌てて敬語を口にすると、
先輩社員は不安そうに、
「さ、さっきから何か一人でニヤニヤしてるからー」と、
そんな言葉を口にしたー。

「ーえっ…?えっ…?」
慌てて口元に手を触れる彩夢ー。

憑依することができた喜びからかー、
自分でも無意識のうちにニヤニヤしてしまっていたらしいー。

”いけないいけないー
 せっかく憑依に成功したんだからー…
 もう少しちゃんと振る舞わないとー”

そう思いつつ、
自分の手が彩夢の唇に触れていることに気付くと、
その瞬間に「ーーあぁ~~~…最高♡」と、
思わず声を上げてしまったー。

「ーーーー…~~~」
心配そうにしていた先輩社員が、
さらに困り果てたような表情を彩夢の方に向けるー。

彩夢は「あ…あはははー」と、咄嗟に誤魔化すと、
”ーー落ち着けー俺。深呼吸だー”と、
周囲からも露骨に分かってしまうように、
激しく深呼吸をし始めるー。

「~~~…」
先輩女性社員だけではなく、周囲にいた他の先輩も、
必死に深呼吸をしている彩夢を見て、
戸惑いの表情を浮かべていたー。

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彩夢に憑依できた喜びを隠しきれない男ー、研吾ー。

彼が喜びを爆発させてしまうのも、
ムリはなかったのかもしれないー。

彼は小さい頃から、容姿に恵まれず
さらには、”性格”的にもちょっと面倒臭いと思われてしまうような、
そんな一面があったからだろうかー。

恋愛経験は全くなく、
異性からも相手にされない人生を送って来たー。
学生時代は”キモい”とまで言われた始末だー。

しかし、そんな研吾には
異性に対する興味もあったし、
彼女が欲しいという気持ちもあったし、
結婚願望もあったー。

モテないのであれば
いっそのこと”女性嫌い”であれば楽だったかもしれない。
しかし、彼はいつまでもそんな想いを消すことが出来ず、
40代後半になってしまったー。

もちろん、彼も”このままもう何の出会いもないだろうな”と、
そう諦めの境地に達し始める年齢ではあったし、
実際、彼自身もそんな風に思い始めてはいた。

しかしー…
そんな時だったー。
ちょうど半年前ー…

この会社の清掃作業中にバケツを倒してしまい、
盛大に水を床にぶちまけてしまったその時ー、
偶然通りがかった彩夢が声をかけてくれたのだー。

「ーあの…大丈夫ですか?」
とー。

「ーーえ…あ…あ、はいー」
女性慣れもしていない研吾は、
突然彩夢のような若い子に声を掛けられたことに
動揺しながら、そう答えたー。

ちょうどお昼休みの時間ー。
彩夢は、一緒に歩いていた同期の子に
「ちょっと先に戻っててー」と、そう声をかけると、
汚した床の後片付けを一緒に手伝い始めたー。

「ーーえ…あ、あのーーすみません」
研吾がそう言うと、彩夢は
「いえ、いつもお仕事お疲れ様ですー」と、
にっこり微笑みながらそう言葉を口にしたー。

彩夢は元々優しい性格で、
研吾を手伝ったことに深い意味はないー。

強いて言えばー…
小さい頃、大好きだった”おじいちゃん”が
定年退職後にこういう仕事をしていて、
彩夢もそれを見たことがあるから、
放っておけなかったのかもしれないー。

いずれにせよ、
彩夢が、研吾を手伝ったことには深い理由など何もなかったー。

けれどー……
今まで、異性との接点が皆無だったからだろうかー。
優しくされたことなどなかったからだろうかー。

研吾は、歪んだ感情を彩夢に抱いてしまったー。

具体的に”何かをする”ということはなかったものの、
それ以降、研吾は彩夢のことをいつもいつも、
気にしていたー。

そしてー……
手に入れてしまったのだー

”憑依薬”をー。

自分のような40代後半のおっさんが彩夢に告白したところで、
”良い結果が待っていない”ことぐらいは、研吾にも理解できるー。

だからー
”なんとかする方法はないか”と、探していたところ
憑依薬を手に入れてしまったのだー。

そして、
今朝ーー

ついに”彩夢”に憑依したー。

「ーーあの、すみませんー」
朝ー、出勤してきた彩夢に声をかける研吾ー。

「ーあ、お疲れ様です」
何の疑問も抱かず、彩夢はぺこりと頭を下げながら
近付いてくると「どうかされましたか?」と、
そう言葉を口にしたー。

これから”すること”を考えただけで、
心臓がバクバクしてきてしまう研吾ー。

汗を垂らしながら顔を赤らめている状態の研吾を見て、
体調が悪い…とでも勘違いしたのだろうかー。
彩夢は「ーーー…え?だ、大丈夫ですか?どこか具合でもー…?」と、
心配そうにそう言葉を口にしたー。

常にキモいキモいと言われるような人生だった研吾ー。
彩夢以外の女性社員からは声を掛けられたこともないし、
そもそも男性社員を含めても、
”汚いおっさん”のような目で見てくるだけー。

もちろん、被害妄想かもしれないけれどー、
”あの目”をしないのはこの彩夢だけだー。

「ーーー…え…えへへへー……
 ご、ごめんなさいー」

研吾はそれだけ叫ぶと、彩夢に憑依するために
突然、彩夢にキスをしたー。

「ーー!?!?!?!?」
清掃業者の男の突然の恐ろしい行動に
彩夢は、怯えた表情を浮かべるー。

しかしー、
彩夢自身、”何が起きているのか”を理解する前に、
研吾の身体がそのまま彩夢に吸い込まれるようにして、
”消滅”してしまったー

彩夢の驚いたような表情がー、
やがて、笑顔に変わっていくー。

「ーう… ぉ…??
 ま、まさか、本当にー?」

彩夢はそう言葉を口にしながら、
自分の身体を触りー、声を発しー、髪を触ると、
その場で足をばたばたとさせて、
笑い始めるー。

既に”憑依薬”は、今朝のうちに飲んでおいたー。
あとは、憑依するために彩夢に”キス”をするだけだったー。

もしーー…
もしも、憑依薬が”偽物”で、キスをしたのに憑依できなかったら
人生終了になるところだったがー、
それでも、研吾は賭けに出たー。

どうせ、この先の人生も大したことがないまま
終わっていくー
それが目に見えていたー。

だから、失敗したら潔く人生終了を受け入れるつもりだったー。

だがー…

”逆転”に成功したー。

「ーーくくく…えへへへへ…
 やった…やったやったやったやったやった…!」

その場で興奮した様子で飛び跳ねる彩夢ー。

「ーやったあああああああああああああああ!!!」
顔を真っ赤にして、あまりの喜びに気絶してしまいそうなぐらい
喜びを露わにする彩夢ー。

本人は絶対に、喜んでなどいないのに、
喜びを爆発させる彩夢の姿は、”異様”な光景だったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それがー、今朝の出来事ー。

仕事を終えた彩夢は
嬉しそうに”彩夢の家”に向かっていたー。

彩夢の家の場所はもちろん知らなかったものの、
”彩夢の身体”を乗っ取った今、
それを調べることは簡単だったー。

彩夢自身が持っていた身分証明書から
彩夢の家を確認した彼は、
彩夢の身体で意気揚々と、彩夢自身の家へと向かっていたー。

「ーー♪~~~~!
 ♪~~~~~」

あまりに嬉しくなって、ご機嫌そうに歌を歌いながら、
スキップしながら、家に向かって移動していく彩夢ー。

がー…

「ーーーーー」
「ーーーなにあれ?」
「ーーーー頭イっちゃってるなー」
「ーなんかすげぇ」

周囲のそんな声が聞こえたー。

それもそのはずー

大声で古い歌を歌いながら、
満面の笑みで子供のようにスキップしているOLー

周囲から見れば”なにあれ?”となるのも
ムリはないほどの喜びの爆発っぷりだったー。

「ーーーーー~~~~……」
ようやく、彩夢に憑依している研吾も
それに気づいたのか、苦笑いしながら
「あ…あはははははー」と、
ぺこりと周囲に頭を下げると、
そのままスキップするのをやめて、”普通のOL”を装って歩き出すー。

「ーむふふふふふふー
 うふふふふふふー

 ふふふふふふふふ♡」

が、今度は笑みが溢れてきて、
自分が彩夢に憑依できたことへの喜びを隠しきれずに
また、外に溢れさせてしまったー。

「ーーんふふふふふふふ…
 あ~~~~早く家に帰りたい」

彩夢はそう言葉を口にすると、
今度は子供のように全力で疾走し始めたー。

しかしー
女の身体にー、
そしてOLの格好にー、
慣れないヒールにー、
バランスを崩してしまい、その場で盛大に転んでしまうのだったー。

「ーーだ、大丈夫ですかー?」
突然、盛大に転んだOLを見て心配そうに声をかけて来る通行人ー。

「あ、あははー大丈夫ですー
 えへへーー…よし!よし!!よしっ!!!!」

通行人の目の前でも喜びを爆発させてしまう彩夢ー。

憑依できた喜びを隠しきることができないままー、
彩夢はようやく自分の家にたどり着くのだったー…

②へ続く

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コメント

”憑依できた喜び”を隠しきれずに
それを爆発させてしまう男の人のお話デス~!☆

せっかく憑依できても
これだとなんだか大変なことになりそうですネ~笑

続きはまた明日デス~!!

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憑依<喜びを隠せない>

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