「この寄生虫をどう思いますか?」
面接中に、突然そんなことを聞かれた就活生ー。
果たして、彼女の運命はー…?
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就活中の井村 裕美(いむら ゆみ)は、
緊張した様子で、面接の順番を待っていたー。
今日は就職を希望するとある企業の
面接にやってきていた裕美ー。
最近急成長しているアパレル系の会社で、
裕美もこの会社への入社を目指す就活生の一人だったー。
「ーーーーー」
廊下に、少し身長の高いキリッとした雰囲気の
女性がやってくるー。
確かー、彼女がこの会社の社長・岡嶋 伸枝(おかじま のぶえ)だー。
裕美は、周囲にいた就活生たちは
緊張した様子で、そんな岡嶋社長の方を見ると、
岡嶋社長は「ーーあなたはー、あちらで面接して下さるー?」と、
別の方向を指差したー。
「ーーえっ…?あ、はいっー」
面接が行われている部屋は、今、列が出来ている
この先の部屋のはずだー。
しかし、裕美には”別の部屋の前で待て”という指示が出たー。
裕美は”わ、わたし、何かしちゃったかな…?”と、
戸惑いの表情を浮かべながらも、
岡嶋社長に言われた通り、
一般の就活生が待っている列を離れて、
別室の前へと移動するー。
「ーーー…」
裕美は、ゴクリと緊張した様子で順番を待っていると、
やがてー、その部屋から、同じ就活生らしき子が出て来たー。
とても可愛らしい子だったが
妙に髪がボサボサなのが少し気になった裕美ー。
その子は満足そうに「ありがとうございましたー」と、
部屋の中にいるであろう面接官に声をかけると、
そのまま耳のあたりを嬉しそうに触りながら、笑みを浮かべたー。
「ーー…」
その子と目が合い、ぺこりと会釈をする裕美ー。
そんな裕美を見ると、その子はー
「”選ばれた”んだねー。おめでとうー」と、そんな言葉を口にしたー。
「え…ど、どういう意味ですかー?」
裕美は戸惑いながらそう言葉を口にすると、
先に面接をしていた子が、笑みを浮かべながら言ったー。
「”こっち”の部屋に呼ばれた人は”選ばれた”証ー」
その言葉に、裕美はさらに戸惑うー。
よく見ると、髪がボサボサなだけではなく
スーツも少し乱れているように見えるー。
何か暴れたようなー、
そんな感じの乱れ方だー。
「ーーは…はぁ…」
裕美は、戸惑いながらもそれだけ返事をすると、
「じゃあー…次は入社式の日かなー?よろしくね」と、
そう言葉を口にしながら、先に面接を受けていたその子は
笑みを浮かべながら立ち去ってしまったー。
「ーーーー…」
呆然とする裕美ー。
それと同時に、”あぁ、やっぱこっちに呼ばれたってことはー”
と、先ほどまで並んでいた”面接待ちの列”を見つめるー。
”わたし、絶対不採用じゃんー”
ガクッと項垂れる裕美ー。
今、こっちの部屋から出て来た
面接を受けていた子は、とてもまともとは思えないー。
髪もボサボサだったし、
スーツも乱れていたし、
会話もあまりかみ合わなかったー。
その上、”次は入社式の日”などと採用される気満々で、
よりヤバさを引き立てているー…
そんな風に、裕美には感じられた。
わざわざ他の就活生と違う部屋で面接させられるなんて、
絶対に”何か問題がある”って認定されちゃったんだー
と、自虐的な考えを頭の中に巡らせているとーー…
部屋の中から、女性社員らしき人物が出て来たー。
「ーー次は井村 裕美さんー。
どうぞー」
その言葉に、ゴクリと唾を飲み込み、
裕美は「はいー」と、真剣な表情で部屋の中へと入っていくー。
大学でも散々練習した面接の作法に従って
用意された椅子に座ると、
面接官と思われる女性社員は「野口(のぐち)ですー」と、
名札を示しながら、軽く自己紹介をすると、
自分も反対側の椅子に着席したー。
「ーーーー井村 裕美さんーー…
う~ん… なるほどねー」
面接官の野口は、そう言葉を口にすると、
「ー確かに、”女王様”が好きそうかもー」と、ぼそっと
そう言葉を口にしたー。
「ーーえ?」
裕美が不思議そうに聞き返すと、
面接官の野口は「あぁ、いえ、こちらの話ですー」と、
そう言葉を口にしながら、
履歴書に目を通し始めたー。
見たところ、かなり若い社員に見えるー。
20代ー、見た目より年上だとしても30代前半だろうかー。
そんな彼女が、一人で面接を担当しているー。
やっぱり”こっちの部屋”は不採用者を振るい落とす部屋だと
裕美は心の中でそう思ったー。
「ーー…じゃあー…志望動機をーーー」
面接官の野口はそこまで言葉を口にするとー、
「ーーーって言いたいところだけど、そんなものは
別に聞く必要はないのでー」と、
履歴書をそのまま机に置いたー。
「ー質問は、一つだけ」
面接官の野口はそう言葉を口にすると、
何かを用意し始めるー。
「ーーーーえ…」
裕美は、”この場で不採用を告げられる”のだと、そう思ったー。
志望動機すら聞かれずー、
質問も一つだけー。
完全に採用する気のない振る舞いだー。
そう思っていると、面接官の野口は、
突然、”白いミミズ”のような不気味な虫を手に、
それを机の上に置いたー。
「ーーひっ!?」
裕美は思わず変な声を上げてしまうー。
まさか、いきなり虫が登場するとは思わなかったからだー。
「ーーこの子はーー
そうですねーーー
分かりやすく言えば”寄生虫”ですー」
面接官の野口はまるで我が子を見るかのような
愛おしそうな表情で、寄生虫を見つめながら
そう言葉を口にしたー。
「き…きせ…… え…?」
裕美は戸惑うー。
仮にも面接中であるために、平静を装うとしたものの、
明らかに動揺が顔に出てしまっているー。
「ー質問は一つです。
”この寄生虫をどう思いますか?”」
面接官の野口はそう言葉を口にすると、
ニヤリと笑みを浮かべるー
「ど…ど… どうってー…」
裕美は、うねうねと動く
”白いミミズのような気持ち悪いそれ”を見つめるー。
「ーー…え…えっとー…
あまり、得意ではないですー…すみません」
裕美は、そう言葉を口にしながら頭を下げたー。
この会社が虫に関係する会社ならともかく、
この会社はアパレル関係の会社だー
”虫が苦手”と言っただけで不採用が決まるー…とは思えないし、
そもそも、もう顔に出てしまった以上、
素直に言うしかないと判断し、そう答えたー。
「ーふふふー
”わたし”も、おととし、面接を受けた時には
そう答えましたよー」
面接官の野口は笑いながら言うー。
”おととし”面接を受けたということは、
この人はまだ、入社してそんなに経っていないということだろうかー。
そんなことを思っていると、
「でも今はー…この子が大好きー」と、面接官の野口は
うっとりとした表情を浮かべたー。
「ーーー…!!」
裕美は、困惑しながら面接官である彼女の方を見つめるー。
「ーーーーそうそうー、あなたは”採用”よー」
その言葉に、裕美は「えっ!?」と、思わず変な声を出してしまうー。
別室に通されー、
意味の分からない質問をされて、
”わたしはもう、不採用が決まっているんだね…”と、
そう思っていた裕美は、予想外の言葉に、
唖然とするー。
「ー”こっち”に通された子は、採用の証なのー。」
その言葉に、裕美は「ほ、ホントですか?」と、
寄生虫のことも忘れて嬉しそうに微笑むー。
「ーえぇ。たくさんの人を集めているのはー、
”いい身体”を探すためですからー」
面接官の野口がそう言葉を口にするー。
「ーか…身体ー?」
”採用”の言葉に一瞬喜んでいた裕美が
再び表情を曇らせると、
面接官の野口は「えぇー」と、頷いたー。
「”乗っ取る身体”は、可愛い方がいいでしょう?」
その言葉に、裕美は意味が分からず
「ど、どういう意味ですかー?」と、聞き返すー。
「ーー我々が探しているのは”映える身体”ですー。
性格とか、自我とか、そんなものはどうでもいいー」
面接官の野口はそれだけ言うと、
「ーわたしも、そうですよ?」と、クスッと笑ったーー。
「ーー”この器”は、見た目がいいー…」
女性面接官の野口の耳から”白いミミズ”のような寄生虫が顔を出すー。
寄生虫がうねうねと動きながら、
面接官・野口の目が虚ろな目つきになって、機械的に言葉を口にするー
「こいつもー、大した学力もなくて
礼儀作法も微妙な人間だったけどー…
見た目だけはよかったからー、
こうして”採用”してやったんだー」
ロボットのような口調で言う面接官の野口。
寄生虫が”半分”外に顔を出しているからか、
先程までのような振る舞いではなく、
ロボットのような口調になっているー。
それを見て、言葉を失い、ガクガクと震える裕美ー。
ミミズのような姿の寄生虫が面接官・野口の身体の中に戻って行くと、
彼女は再び目の輝きを取り戻して笑ったー。
「ーー大丈夫よー。
乗っ取りは一瞬で終わるからー。
”この器”の記憶を読み取ってもー
乗っ取られた時は一瞬だったし、
痛みもなかったから、
安心して下さいね? ふふー」
面接官の野口はそう言うと、机の上に置いていた
白いミミズのような風貌の寄生虫を手にして、
裕美の方に近付いて来たー。
「ーーひ…… や、やめてーー…」
裕美は怯えて逃げようとするー。
がーー、面接官の野口は裕美の髪を掴むと、
「ー採用されたのに、逃げるんじゃねぇよー。人間ー」と、
そう言葉を口にしたー。
「ーーた…たすけて…」
そう声を振り絞りながら、裕美は思うー。
裕美の前に、この部屋から出て来た就活生ー。
あの子の髪と服が乱れていた理由を悟るー。
あの子も同じように寄生虫を寄生させられそうになってー…
必死に逃げようとして抵抗してー…
その結果、ああなったのだとー。
「ーーーけ、警察呼びますよ!」
裕美がそう叫びながら、面接官の野口を振り払おうとするー。
必死に暴れた裕美ー
面接官の野口の身体がよろめいて、机に激突するー。
裕美は今のうちに!と、外に飛び出そうとするー。
しかしーー
野口の口から触手のようなものが飛び出してくるとー、
裕美はそれに捕まってしまい、床に無理矢理倒されてしまったー
「ーーーが… がが…」
面接官の野口は苦しそうに目から涙をこぼしながら
「ーこれ……人間の身体が痛むからやりたくないんだけどー」と、
触手のようなものを引っ込めながらそう呟くー。
「乗っ取ったあとに、人間の身体の中で作った武器よ」
野口は笑みを浮かべながらそう言うと、
口を大きく開けたせいか、少し血を流しながら
笑みを浮かべるー。
「ーーーひ…嫌だ… や、やめて」
裕美がそう嘆願するー。
しかし、面接官の野口はニヤニヤと笑いながら
「”合格おめでとう”」と、そう言葉を口にすると、
そのまま裕美の耳の中に”寄生虫”を捻じ込んだー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーー」
”自分だけ”別の部屋で面接を受けるように言われて
順番待ちをしていた眼鏡の女子大生が、ふと扉の方を見つめるー。
中から出て来たのは、たった今、面接が終わった裕美だったー。
裕美と目が合い、”次の面接者”である彼女が少しだけ頭を下げるー。
少し乱れた身なりの裕美は
笑みを浮かべると
”次”に自分と同じ運命を辿るその眼鏡の子に向かって言ったー
「選ばれたんだねーおめでと♡」
とー。
「ーーーえ?」
不安そうな表情を浮かべる眼鏡の子ー。
が、裕美はそんな彼女にそれ以上話しかけることなく、
嬉しそうにその場から立ち去って行ったー。
そしてーー
その数年後ー
寄生されて、”寄生虫の欲望のために”使われつつ、
表向きは会社で働いている裕美はー
”面接を担当する側”になっていたー。
震える就活生ー。
裕美は、耳から寄生虫を見せ付けながら
虚ろな目のまま笑みを浮かべるとー、
「ーこの寄生虫、どう思いますか?」と、
就活生に向かって笑みを浮かべながら言い放ったー
おわり
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コメント
1話完結の寄生モノでした~!☆
面接中にこんなことを言われちゃったら…
私も逃げちゃいますネ~笑
お読み下さりありがとうございました~~!☆
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