ある所にー、
”人間に憑依した悪の怪人”がいたー。
しかし、その怪人は次第に”人間として生きたい”と
思うようになってしまいー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーー由梨花(ゆりか)~!」
そんな声が聞こえたー。
大学の敷地内の目立たない場所で
誰かと話をしていた宮川 由梨花は
「ー”人間”が来たー。いったん切るぞ」と、
そう言葉を口にすると、
連絡を終えて、息を吸うー。
「ーあ、真桜(まお)~!」
たった今、”誰かと”話をしていたのとは
まるで別人のように明るい笑顔を浮かべながら
そう返事をする由梨花ー。
「ーーー今日もお昼、一緒に食べよ~!」
同じ大学に通う真桜は、由梨花の親友で、
やたらと由梨花に懐いているー。
時々、常識はずれの行動や言動を取ることも多く、
一緒にいてハラハラするものの、
なんだか放っておけない、そんなタイプの子だー。
由梨花と真桜は、いつものように一緒に大学での
お昼を済ませると、
そのまま、真桜は「あ~!わたし、教授に用事があるんだった!」ろ、
慌てた様子で走り去っていったー。
「ーー…っ…騒がしい小娘だな」
真桜が立ち去って行くと、
一人になった由梨花は、別人のような表情で、
冷たくそう呟いたー。
「ーーまぁでもー暇つぶしになるからいいけどな」
由梨花は、それだけ口にすると、
そのままゆっくりと大学内を歩き出したー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
夜ーーー
目立たないようにするためか、
真っ黒なラバースーツに身を包み、
不気味な施設の中にやってきた由梨花は、
笑みを浮かべるー。
「ーーーーーククククー。
ずいぶん可愛くなっちまったもんだなー」
ニヤニヤしながら目の前に姿を現したのはー
”異形”の怪人ー。
が、由梨花は、そんな”怪人”を前にしても
動じることなく、「クロノスかー」と、
そう言葉を口にしたー。
そんな反応に、
由梨花の目の前に現れた怪人・クロノスは
笑みを浮かべると、
「ーーへへへ…”ガイラス”ちゃんよー
今日は何の用だよ?」
と、そう言葉を口にするー。
「ー魔皇様から呼び出しを受けてなー」
由梨花がそう言葉を口にするー。
「ーへへへーそうか」
クロノスと呼ばれた怪人は、笑みを浮かべながら頷くと、
自慢の武器なのだろうかー
禍々しい形状の鎌を手に、
それを由梨花の方に向けながら言葉を口にしたー。
「しっかし、人間界での任務のためとは言え、
そんな可愛らしい身体を使うなんてなァー」
ニヤニヤしながら怪人・クロノスは由梨花の髪を触るー。
「ー気安く触るな」
由梨花が鋭い目つきでクロノスを睨むと、
「お~お~こわいこわい」と、クロノスは揶揄うように
言葉を口にするー
「ー”女”の身体の方が目的を果たしやすかったー
ただそれだけのことだ」
由梨花はそう言葉を口にすると、
そのままクロノスを無視して、通路の奥へと進むー。
「ーーー」
一人残されたクロノスは「ケッ」と舌打ちをしながら
由梨花の後ろ姿を見つめるとー、
「ー”生意気な小娘”だぜー」と、そう言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数か月前ー。
「ーーーーーうん、うん、じゃあまた明日ー」
実家を離れ、一人暮らしをしている
女子大生・由梨花は友達との電話を終えると、
そのままスマホを置いて、
昨日、途中まで読んでいた本の続きを読もうと、
その本に手を伸ばそうとしたー。
がー、その時だったー
「ーーー…?」
突然、部屋の照明が薄暗くなり、
由梨花は表情を曇らせるー
「え…?なにー?」
電気は少し前に取り替えたばかりのはずー
そんな風に思っているとーー
”声”が聞こえて来たー。
”ーークククククー”
不気味な笑い声ー
それと同時に、部屋の中の空間が歪みー、
そこから、黒い人型の”怪人”が姿を現したー。
剣を携えた、いかにも”怪人”という感じの
恐ろしい風貌ー。
それを見た由梨花は「ひっ!?」と、声を上げて、
後ずさるー。
「ーークククーそう怯えるなー。
俺の名は”ガイラス”ー。
貴様たち人間からすればー
そうー”怪人”とでも言えば分かりやすいかな?」
ガイラスと名乗ったその怪人は
笑みを浮かべながら言うー。
「ー…い…いったい、どこからー…?」
戸惑いながら、そう言葉を口にした由梨花は、
すぐに机の上に置かれていたスマホを手にしたー。
「け、け、警察を呼びますよ!」
由梨花がそう言い放つー。
「ーーークク…無駄なことをー」
ガイラスはそう言うと、
「ー我々の計画のためにー、”その身体”が必要だー」と、
由梨花を指差すー。
「ーー…ど…ど、どういう意味ー…?」
由梨花はなおも怯えた表情でそう言い放つと、
「ークククー俺がお前の身体を頂くという意味だー」と、
ガイラスはそう言い放つと、
由梨花の方に向かって歩き出すー。
そしてーーー
由梨花を包み込むように、由梨花を抱きしめると、
そのまま”ガイラス”が光のような状態になってー、
由梨花に吸い込まれるようにして姿を消したー。
「ーーぁ…… ぁ… ぅあ…」
苦しそうに声を上げる由梨花ー。
やがてー、
その場に膝をついて動かなくなると、
しばらくして由梨花は笑みを浮かべたー。
「ーークククーー…
お前の身体は有意義に使ってやるー」
怪人・ガイラスに憑依されてしまった由梨花は
笑みを浮かべると、そのまま立ち上がるー。
「ーーー」
目的はーーー…
”魔帝国デビルピア”の計画の邪魔をする
研究者の”息子”、大原 敬之(おおはら のりゆき)への接触ー。
そのために、敬之の大学と同じ大学に通う人間の身体が必要だったー。
「ーーふんー…邪魔くさい」
面倒臭そうに髪を払いのけると、
椅子に座った足を組んだ由梨花は、
笑みを浮かべながら”仲間”に連絡を入れたー。
「こちらガイラスー
ターゲットと同じ大学に通う宮川 由梨花の身体を乗っ取ったー
これより、作戦行動を開始するー」
由梨花はそう言うと、
”了解したー”と、怪人の仲間の返事が返って来るー
「ーククククー…」
支配された由梨花は、本人が絶対に浮かべないような
笑みを浮かべながら、
”我らに逆らう研究者の息子”から、情報を聞き出し、
その父親を抹殺するために動き出したー…。
それがーー
数か月前の出来事だったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「魔皇様ー」
ラバースーツ姿の由梨花が紫色の霧のようなものが
立ち込める部屋にやってくると、
その場に膝をついて、魔皇に頭を下げたー。
「ガイラスよー。
作戦の進捗はどうなっておるー?」
魔帝国デビルピアを統べる”魔皇”の声が響き渡るー。
「ーーはっー。
大原 敬之から、大原博士の情報を聞き出すために
この女の身体を使い、ターゲットとの信頼関係を築いている
最中です」
由梨花がそう言うと、
”魔皇”は不服そうに言葉を口にしたー。
「ーー前回の報告から、大分期間が空いておるようだなー」
”魔皇”の言葉に、
由梨花は「はいー。大原敬之は想像以上に警戒心が強くー」と、
そう言い放つと、
「言い訳など必要ないー。大事なのは”結果”だー」
と、魔皇は冷たく言い放ったー。
「ーはい。心得ております」
由梨花が頭を下げながら言うと、
”魔皇”は、「まぁよいー」と、そう言いながら、
「ーー”サリー”も”イフリート”も、成果を挙げているー
そのことを忘れるなー」と、それだけ言葉を口にしたー。
”サリー”と”イフリート”は、同じく
魔帝国デビルピアに所属する怪人で、
二人とも、ガイラスよりも先に人間に憑依して、
それぞれ人間界で諜報活動を行っているー。
「はっー」
由梨花は、魔皇との話を終えると
そのまま立ち上がるー。
「ーーーー」
”ガイラス”は優秀な怪人だー。
だがーーーー
”誤算”があったー。
それはーー
”人間として生きたくなってしまった”のだー。
由梨花に憑依してから数か月ー。
”人間としての生活”にすっかり慣れてー、
むしろ、”人間として暮らしたい”という気持ちが芽生えてしまったー。
また、”由梨花”の身体を使って誘惑して、
情報を聞き出そうとしていたはずなのに、
ターゲットの男子大学生・大原 敬之が想像以上に手ごわくー、
情報を聞き出せないー、
と、嘘の報告をしてまで”人間界での生活”を味わえる時間を
引き延ばしているー、
そんな状態だー。
人間界での生活が想像以上に楽しくー…
次第に、”人間として生きたい”という想いが
日に日に強まってしまっていたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
「ーーーーーーー」
由梨花は、表情を曇らせながら大学へとやってきていたー。
”人間としての生活”は、本当に楽しいー。
由梨花に憑依して、由梨花のフリをして生活している時間は、
自分が怪人であることも忘れて
心の底から楽しいと思うことができるー。
けれどー、魔皇から呼び出されたり、
他の怪人からの接触を受ければ
イヤでも自分は怪人なのだと思わせられるー。
力と策謀が交錯するドロドロとした世界ー。
以前は、”少しでも上に立つ”ことこそが生きがいだったし、
誇りだったー。
しかし、人間と接すれば接するほどー、
”この者たちを支配して、世界征服をする必要があるのか”という
考えが膨らんでしまうー。
「ーーーー……」
由梨花は鏡を見つめながら自虐的に笑うー。
「ーー人間一人の身体を奪って、人生を奪っておきながらー
都合のいい考え方だなー」
そんな風に呟くー。
既にこの由梨花という子の身体を奪い、その人生を踏みにじったー。
やはり、自分は怪人ー。
人間にとっての敵、そんな思いが膨らんでしまうー。
「ー宮川さんー」
そんな声が聞こえて、由梨花は少し驚いた様子で振り返ると、
「あ!お、大原くんー」
と、言葉を口にしたー。
魔帝国デビルピアに逆らう”大原博士”の息子である大原 敬之ー。
由梨花に憑依したあと、敬之に積極的に絡みに行き、
今ではある程度親しくなっていて、
こうして声もかけてくれるー。
”情報を聞き出そうと思えば、聞き出せる”ぐらいの間柄ではあるー。
「ーーーどうかした?なんだか暗い顔をしていたけどー」
心配そうに呟く敬之ー。
「ーあ、う、ううんー。大丈夫ーちょっと考え事してただけだからー」
由梨花がそう言葉を口にすると、
敬之は「そっかー。ならよかったー」と、少しだけ安堵の表情を浮かべるー。
「ーーーーーーー…」
由梨花は、敬之から”父親”である大原博士のことを聞き出そうとするー。
それが、任務ー。
そろそろ引き延ばすにも限界があるー。
「ーーあ、あのさー…大原くんー」
由梨花はそう言葉を口にするー。
「ーーーははー…やっぱ悩みごとかなにか?
俺でよければいくらでも話は聞くよー。
内容次第じゃ、力不足で力になれないかもしれないけど」
苦笑いしながらそう呟く敬之ー。
そんな、優しい笑顔に由梨花は
「ーーううん…なんでもないー」と、
”大原博士”のことは聞けずに口を閉ざすー。
結局、何も聞き出せないまま、
敬之と別れると、暗い表情のまま大学内を歩き出したー。
そしてー、昼休みー。
「おひる~おひる~!」
いつも元気な親友・真桜が今日も嬉しそうに
昼食を前に、ご機嫌そうな振る舞いをしているー。
「ーー…あはは、いつも真桜は元気だねー」
由梨花が言うと、真桜は「え~?そうかな~?」と、
笑いながら、首を傾げるー。
真桜はいつも明るいタイプで、時々爆弾発言もするような不思議な子だー。
そんな真桜が言うー。
「そういえばさ~~~…
由梨花ってーー」
真桜はそんな言葉を口にすると、
少しニヤニヤしながら言葉を続けたー。
「ー大原くんのこと、好きでしょ?」
その言葉に、「ぶっ!?」と、由梨花が驚いたような反応をするー。
「ーえっ!?えっ…す、好きー?
いや、あの、お… いや、わたしはー」
由梨花に憑依しているガイラスは動揺から一瞬”俺”と言ってしまいそうになるー。
が、真桜には意味が分からなかったのか、
特に気にする様子もなく、
「ーー言いたいことは言っちゃえばいいのに~!」と、
揶揄うような口調で言うー。
「え… え~~…あははー」
告白しようとしているとでも思われているのだろうかー。
ただー、”それも悪くないかも”と一瞬思ってしまったガイラスは
慌てて、由梨花の身体で「す、す、好きとかじゃないよ!」と声を上げるー。
「あはは~またまたぁ~」
真桜はなおも楽しそうにそう言葉を口にすると、
そのままお昼を食べる手を再び動かし始めたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
もしー、もしもー、
魔帝国デビルピアと縁を切り、
自分が人間として生きることができるのであればーー
どうするだろうかー。
その手段がもし”目の前に”あったらー、
自分はどうするだろうかー。
「ーーーーーー」
由梨花は表情を歪めるー。
今までにも”人間”に憑依して悪の計画を遂行したことは
何度かあるー。
けれどー
何故だろうかー。
今回はーーーー…
「ーーー」
由梨花は表情を歪めながら
ため息をつくと、そのまま家に向かって歩き始めたー。
「ーーーーーーーーーーー」
その姿を、背後からサングラスをかけた男がじっと、見つめていたー…
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
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人間に憑依して悪事を働こうとしたのに、
人間として生きたくなってしまった悪の怪人さんのお話デス~!
なんだか大変そうですネ~!
続きはまた明日デス~!!
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