<憑依>ムスメの人質交換③~復讐の果て~(完)

憑依されてしまった娘ー。

犯人の男の目的を知り、憑依された娘を前に彼は困惑するー。

復讐の果てに、待ち受けている結末は…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーこの人が、わたしのお父さんー」
「わたしのお父さんー」

亜香里が嬉しそうに笑みを浮かべながら、
”笹原浩司”の写真を手に、何度もそう言葉を繰り返すー。

「ーやめろ!!やめろ!!!」
椅子に拘束された亜香里の父・竜平は必死に叫ぶも、
身体は動かないー。

「ーははははっ!無駄だー
 その椅子は、背面のスイッチを押すか、俺の持つキーで解除するしかないー
 力づくで外すのは、無理だよ」

亜香里はニヤニヤしながら、さっき”自分の拘束”を解除した
小さなリモコンのようなものを手に持ちながら
見せ付けるー。

「ーーお前は、お父さんじゃないー」
「ーーお前は、お父さんじゃないー」

亜香里は、今度は竜平を見つめながらそう連呼し始めるー

「ー俺ならどうなってもいい!でも亜香里には手を出すな!!
 俺はお前に殺されても構わない!
 だから、亜香里だけは解放しろ!」

竜平がもがきながら叫ぶー。

「ーーーーうるさい口だなー
 それじゃ、お前が俺から奪った”娘”を取り戻せないだろうがー」
亜香里が怒りの形相で迫って来るー。

高校生になっても、父との関係が良好だった亜香里ー。
本人に向けられたことのない、怒りの視線に、
竜平は酷く心を痛めるー。

亜香里の意思ではないと分かっていてもー、
亜香里の姿で、そういう視線を送られると、
どうしても、そう感じてしまうー。

「ーー亜香里は、お前の娘じゃないー。
 何をしたって、亜香里は、お前の娘の梨々花にはならないんだ!」

竜平がそう叫ぶと、
亜香里は竜平の顔をビンタしたー。

「ーーー…っ」
娘に叩かれるという初めての経験に、竜平は強くショックを受けるー。

「ーーわたしは、今日から”亜香里”じゃなくて”梨々花”になるんだよ?」
クスクスと笑う亜香里ー。

「そんなことしてー…天国にいる娘が喜ぶと思ってるのかー…!」
竜平が苦しそうに叫ぶー。

「ーうるさい!うるさいうるさいうるさいうるさいうるさい!」
亜香里に何度も何度も何度も叩かれる竜平ー。

それでも、竜平は亜香里の方を見つめるー。

「目を覚ましてくれー…亜香里ー!」
今度は、亜香里に直接呼びかけるー。

がー、亜香里は笑いながら
「”憑依”に逆らえる人間はいないー。
 どんなに意思が強い人間でも、憑依されてしまえばこの通りーー
 俺の意のままだー」
と、得意気に説明するー。

そしてーーー

「ーわたしは亜香里じゃないー
 わたしは亜香里じゃないー
 わたしは亜香里じゃないー

 わたしは…梨々花ー」

亜香里に憑依している浩司は、
亜香里に、死んだ自分の娘・梨々花を名乗らせるー。

何度も何度もそれを繰り返すと、
「さぁ、もう十分だろうー」と、笑みを浮かべながら、
亜香里の身体から抜け出したー。

亜香里の身体から煙のようなものが飛び出しー、
亜香里がその場で意識を失うー。

浩司が実体を取り戻し、
笑みを浮かべるー。

竜平は呆然と、倒れている亜香里の方を見つめながら
「亜香里!」と、声を上げるとー、
やがて、亜香里は意識を取り戻したー。

「ーー亜香里!」
竜平が亜香里の名を呼ぶー。

しかし、竜平の方を見た亜香里は、
表情を歪めたー。

「ーーー………ーーーーーあかりー…?」
亜香里の様子がおかしいー。

その様子に、竜平は唖然とするー。

そしてー…
背後に立っていた浩司が笑いながら言ったー。

「ーーー”梨々花”ー」
とー、死んだ自分の娘の名を呼ぶー。

その言葉に、亜香里は嬉しそうに振り返ると、
「ーーお父さん!」と、嬉しそうに笑ったー

「ーーーー…ぁ……」
竜平は、呆然としながらその光景を見つめたー。

娘の亜香里が、”違う名前”を呼ばれて振り返りー、
父親でもない男に”お父さん”と、嬉しそうに駆け寄るー。

一人の娘を持つ父親にとって、
この上ない絶望的な光景だったー。

「ーーくくくー…
 ”梨々花”無事でよかったー。」

浩司がそう言いながら、
亜香里に向かって、
拘束されたままの状態の竜平を指差しながら笑うー。

「ーーあの人、誰だか分かるかい?」
とー。

「ーーーー」
亜香里は表情を歪めながら父・竜平を見つめるー。

「ーーー…あ、亜香里…!俺だ!」
竜平がそう叫ぶと、
亜香里は「ーー亜香里って…誰…?」と、表情を歪めるー。

それを見ていた浩司は満足そうに頷くと、
「ーあの男は、”梨々花”のことを亜香里と呼んで
 連れ去ろうとした変質者だー」
と、そう言葉を口にするー。

「ーー…な…なにそれー…?」
亜香里は”気持ち悪いもの”を見る目で竜平を見つめるー。

「ーーー…あ……あか…りー」
竜平は放心状態に陥るー。

”憑依されている娘”から、暴言を吐かれるよりもー
”憑依が終わったはずの娘”から、こういう視線を浴びせられるほうがー、
”さらに”辛いー。

まさに、地獄と言うほかないー。

「ーーーーでも、もう大丈夫ー。
 この”変態”は、俺が捕まえたからー…。

 ”梨々花”は安心していいよ」

浩司がニヤッと笑いながら、そう言うと、
亜香里は「うん!ありがとうお父さんー」と、
いつもは父・竜平に向けるはずの笑顔を
父親ではなく、しかも自分自身にさっきまで憑依していた男・浩司に向けたー。

「ーーーー…」
歯軋りをして、目を血走らせながら、溢れる涙を堪える竜平ー

「こんな……こんなこと……」
竜平のその言葉に、浩司は笑みを浮かべると、
竜平に近付きながら「ーお前に奪われた”娘”は返してもらったよ」と、
そう言い放ったー。

「ーーさぁ、”梨々花”いこうかー」
浩司が笑みを浮かべながら亜香里にそう声をかけると、
亜香里も頷いて、そのまま立ち去ろうとするー。

「あ、亜香里!」
竜平が叫ぶー。

しかし、亜香里は不満そうに振り返ると、
「ーわたしは、亜香里じゃありませんー。梨々花ですー」と、
キツイ口調でそう言い返して来たー。

満足そうにその光景を見つめる浩司ー。

”ーまだ、色々”染め上げる”必要はあるが、
 あとは家でゆっくり憑依して、色々変えていこう”

浩司はそんなことを考えながら歩くー。
もっともっと、亜香里を”梨々花”にしていかなくてはならないー。

拘束した竜平を放置したまま、
そのまままずは、亜香里を家に連れて帰ろうとするー。

がー
その時だったー。

倉庫の外で様子を見守っていた人物が、倉庫の中に入ってきて、
浩司と亜香里の行く手を遮ったー。

「ーーー…お前はー…!?」
浩司が驚くー。

そしてー
拘束されている竜平も驚きながら叫んだー

「か、和江ー!?」
とー。

姿を現したのは、竜平の妻で亜香里の母・和江だったー。

家に置いて来たはずの和江が、
どうしてここにー!?と、
竜平が思っていると、
和江は「心配でこっそり後を尾けてきたのー」
と、そう言葉を口にしたー。

「ーお、お母さんー…?」
亜香里がそう言葉を口にするー。

「ーーー!!!!」
浩司は目を見開くー。

憑依した状態で、認識を”塗り替えた”のは
父親に関することだけー。

勿論、母親に対する認識も”あとで”塗り替えようとは
思っていたものの、
今は”まだ”亜香里は、自分の母親のことを認識できているー。

「ーー亜香里ー…わたしの言うことをよく聞いてー
 この人は、お父さんじゃないー」

母・和江にそう言われた亜香里は、横にいる浩司を見て
動揺するー

「お母さん…なに言ってるのー?
 お父さんだよー?

 それに、わたし、亜香里じゃないー…
 わたしは、梨々花でしょ?」

亜香里の言葉に、和江は「違う」と、ハッキリと言い放つー。

そしてー、
持っていたスマホを手に、
”亜香里・和江・竜平”の家族写真を見せ付けたー。

「ーーこ、この人ー、変質者のー…」
亜香里がそう言いながらも、瞳を震わせるー。

それを見ていた浩司は咄嗟に、
もう一度亜香里にキスをして、亜香里に憑依しようとしたー。

がーー

「ーーよけろ!そいつは人にキスして乗り移る!」
竜平が叫ぶー。

さっきー、浩司は亜香里から一度抜けだして、再度憑依する際に
”憑依の方法”を竜平にわざわざ見せてしまっていたー。

それが、仇となったー

「ーーー!!」
和江が、亜香里を守るようにして逃がすー。

「ーー今の見たでしょ!?この人はお父さんじゃないー!
 あっちがお父さん!」

和江がそう叫ぶと、亜香里は
「お…お母さん…で、でもー…」と、戸惑うー。

「ーー亜香里…お母さんを信じて!
 お母さんを信じてくれるならー…!
 あの椅子の”背面のボタン”を押して捕まってるお父さんを助けて!」
和江が叫ぶー。

”背面のボタンでロック解除できる”
それもさっき、浩司がペラペラ喋ってしまっていたー。

「ーー…くそっ!ならばお前にー」
浩司は、和江に憑依しようと、和江の方に向かってくるー。

亜香里は浩司と、竜平の方を交互に見ながら表情を歪めるー。

浩司が、和江にキスをしようと、
執拗に襲い掛かっているー。
和江はやっとの思いで、キスだけは防ごうと抵抗するー。

「ーーお母さんを信じて!早く!」
和江が叫ぶー。

「ーーいいや、”梨々花”、お父さんの言うことを聞くんだ!
 そこで大人しく待ってなさい」
浩司がそう叫ぶー。

動揺する亜香里ーー。
”あっちがお父さん”と言われても、今の亜香里には
父・竜平は変質者にしか見えなかったー。

しかしー

「ーー…」

”お母さんとお父さんは仲良しー”

それは、覚えているー。

今、”お父さん”を名乗る浩司は、母である和江に襲い掛かっているー。

それがーー
亜香里に”正解”を選ばせたー

「ーー!」
浩司が目を見開くー。
和江に襲い掛かったことが、更なる誤算となったー。

亜香里は、父・竜平の椅子の背面のボタンを押すー。

そしてー、竜平に怯えた表情を向けるーー。
まだ、竜平のことを変質者だと思っているようだー。

「ーーありがとうー」
竜平は、そんな亜香里にそれだけ言うと、和江と浩司が
争っている方に向かって行くー。

和江がキスされる前に、浩司に強烈なタックルを食らわせると、
倉庫の壁に激突した浩司は、情けない悲鳴を上げて
その場に倒れ込んだー。

「勝手なことしてごめんなさいー」
尾行してきた和江がそう言うと、竜平は
「いやー、本当にありがとうー。来てくれなかったら今頃ー」と、
そう言葉を口にしたー。

「ーーーー…わたしは……」
それを見ていた亜香里が近づいて来ると、
困惑した様子で、「わたしは……亜香里…なの?」と、
そう言葉を口にするー。

そんな亜香里を見つめながら、母・和江は
穏やかな笑みを浮かべながら静かに頷いたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

その後ー、浩司は”逮捕”されたー。

”憑依”自体は未知なる現象であり、
現行の法律で罪に問うことは難しかったものの、
警察にもそれを伝え、罪に問うことはできなくとも
その点もしっかりと取り調べると約束してくれたー。

また、憑依自体は罪に問えなかったものの、
亜香里を拉致した点や、
人質交換を要求したという強迫ー、
さらには憑依薬の入手ルートが違法なルートであったことなどから、
それらの点が決定打となり、浩司は逮捕されたー。

がー、竜平自身も、
知らなかったこととは言え、浩司の娘・梨々花が大変な時期に、
家族から離れさせてしまっていたことには、責任を感じていたー。

半年の約束だった異動ー。
半分が過ぎた頃に”早めに戻りたい”と相談された際にー、
もっと理由をこっちから聞いてやればよかったー、と、
竜平はそんな風に、後悔していたー。

とは言え、当時、浩司は理由を言ってくれなかったし、
娘の亜香里に憑依して奪おうとした凶行は許されることではないー。

「ーーーふぅ…」
竜平は、少し複雑な思いを抱えながらため息をついたー。

「ーーー…あの…行って来ますー」
学校に向かう準備を終えた亜香里がそう言葉を口にするー。

亜香里は、今でも”憑依された時の後遺症”とでも言うのだろうかー。
浩司に塗り替えられた部分はそのままで、
本来の父親である竜平のことが”お父さんなのかどうか”
分かっていない状況だったー。

そして、自分の名前も”梨々花”だと思ってしまっているー。

けれど、幸いー、母・和江に関することはいじられてはいなかったため、
事情を全て聞かされた亜香里は、
”そうは思えないけど、きっとそうなんだよね…”と、
こうして無事に家に戻って、日常生活に復帰していたー。

「ーーごめんねー…
 わたし…まだ、頭の中の整理がついてなくてー…」

亜香里が戸惑いながら言うー。

「きっとー…本当のお父さんなんだとは思うんだけどー…
 でもー…どうしても逮捕されたあの人が
 お父さんのように思えてしまってー」

その言葉に、竜平は少し寂しさを感じながらも笑うー。

「ーーー大丈夫ー。
 焦らなくていいさー。

 こうして家に戻って来てくれるだけでも、十分だよ」

竜平が寂しさを押し殺しながら、
亜香里を心配させないように、優しく言い放つー

「ーーうんーー…
 ありがとうー。」

少しずつー
亜香里は、”元の亜香里”を取り戻しつつあるように感じるー。

憑依により”思考への影響”がどの程度のものなのかは分からないー。

けれど、きっと、いつかはー…
きっといつかはまたーー。

「ーーお父さんーいってきます」
亜香里が少しだけ微笑みながら、そう言葉を口にしたー。

「ーーーー」
竜平は、その言葉に希望を感じながら
穏やかな口調で答えたー。

「ーーいってらっしゃいー」
とー。

おわり

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コメント

最終回でした~!☆
ちょっぴり影響が残ってしまってますケド、
無事に救出できましたネ~~!☆

これからも、時々、
以前書いた作品のリブート(?)みたいなものにも
挑戦していたいと思います~!☆
(今回が2,3個目ぐらいだったはずデス~!)

お読み下さりありがとうございました~!

コメント

  1. TSマニア より:

    まさかの和江さんだったんですネ~!★

    和江さんタックルもできるしビックリでしたっ!

    浩司はもう少し上手く憑依薬使っていたら…計画は成功していたかもしれないですネ☆

    MVPは和江さんなのデス( ´∀` )b☆

    無名さんに短時間、憑依した時はタイツ破らないように気を付けます(^o^ゞ笑
     

    • 無名 より:

      感想ありがとうございます~!☆

      助けに来てくれなかったら、
      そのまま亜香里ちゃんも奪われてしまうところでしたネ~…!

      MVPなのデス!