<憑依>自暴自棄な妹を救いたい②~救うため~(完)

先輩からのストーカー行為がきっかけで
精神的に病んでしまった妹…。

そんな妹が命を絶とうとしたりするたびに、
兄は”憑依”で妹を救っていたものの…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・

雨の日ー

買い物に出かけたという妹の真奈美を心配して、
兄の和人は部屋で幽体離脱をすると、
そのまま霊体の状態で真奈美を探していたー。

最近の真奈美はさらに暗くなっている気がするー。

今日は”外出の予定”がないと思って油断していたー

「真奈美ー…真奈美ー…」
霊体の状態のまま、妹の真奈美の無事を
只々必死に祈りながら、周囲を見渡す和人ー。

とにかく”生きていてほしいー”
それだけを願って、必死に真奈美の姿を探し続けた和人はー…

ようやくー…
”真奈美”を見つけ出したー。

「ーーーーーー」
真奈美は、公園のベンチで傘も刺さずに
濡れていたー。

酷く落ち込んだ様子の真奈美ー。

「ーー真奈美…」
そんな真奈美の姿を見て、目の前にやってきた兄・和人は
心配そうに言葉を口にするー。

当然、幽体離脱していて幽霊のような状態になっている和人の姿は
真奈美には見えないし、言葉も届かないー。

けれどー、それでも
ずぶ濡れの状態で公園のベンチに座っている真奈美を見て、
その名前を呼ばずにはいられなかったー。

「ーーこんなところにいたら、風邪ひくぞー?」
心配そうに、けれども優しさを感じさせる口調で
そう言い放つ和人ー。

「ーーーーはぁ…」
真奈美は大きくため息をつくと、落ち込んだ様子で
一人、言葉を口にするー

「わたし、どうすればいいのー…」
とー。

「ーー…」
和人は、そんな真奈美の言葉を聞いて、
”やはり、まだ何か問題を抱えている”のだと
そう確信するー。

真奈美が高校を辞めて、精神的に病むきっかけを作った
”先輩のストーカー”だろうかー。

それとも、別の誰かがー…?

「ーーとにかく、真奈美をこのままにしておくわけには
 いかないなー」

和人はそう呟くと、
周囲を見渡すー。

幽体離脱している状態では真奈美に話しかけることはできないー。

話しかけても、言葉は真奈美には届かないため、
コミュニケーションは成り立たず、
”霊体の和人の独り言”にしかならないー

かと言って、和人は”他の人には憑依しない”ことを
決めているため、誰かの身体を一時的に借りて、
真奈美に話しかけることもできないー。

”無関係の人に勝手に憑依しちゃいけない”と、
彼は自分の心の中で固く誓っていて、
他人に憑依できる力を持ちながら、
それを悪用することは決してしようとしなかったー。

「ーーー…このままだと風邪ひいちまうしー、とにかく
 家まで帰らせないとー」

和人はそう呟くと、ずぶ濡れの真奈美に憑依したー

「ぁ……」
真奈美がビクッと震えるー。

すぐに、”ずぶ濡れの洋服”の感触が伝わってくるー

「おいおいおい…冷たすぎるだろ……
 ホントに風邪ひくぞー?」
ずぶ濡れの状態の洋服が思った以上に
身体を冷やしていることを感じ取ると、
「ーど、どうしようこれー」
と、そう言葉を口にしながら、周囲を見渡すー。

どこかで乾かすのも難しいし、
やはり家に帰るしかないー。

そう思いつつ、真奈美に憑依した秀樹は
慌てて立ち上がると、そのまま移動を始めるー。

「うぅ…ずぶ濡れのスカートも気持ち悪いなー…」

濡れたスカートの感触を生まれて初めて味わいながら
その何とも言えない不快感に、
真奈美に憑依した秀樹は、困惑した表情を浮かべるー。

雨が強いこともあって、あまり通行人はいなかったものの、
”ずぶ濡れの少女”とすれ違った数少ない通行人たちは
みんな、驚いたような表情を浮かべていたー。

「そりゃそうだよなー…
 俺だって真奈美みたいな知らない子がずぶ濡れで
 落ち込んでたらびびるもんなー」

そう呟きながらも、何とか家に到着した真奈美は
”玄関先”で、そのまま座るー。

すぐに真奈美の身体から抜け出した秀樹は
慌てて自分の部屋の”和人”自身の身体に戻ると、
そのまま1階に駆け下りたー。

「ー真奈美…!真奈美…大丈夫か?」
心配そうに、自分の身体でそう言葉を口にする和人ー

「ーーー…ぅ…」
意識を取り戻した真奈美が
少し驚いた様子で、周囲を見渡すー。

真奈美からすれば”公園のベンチに座っていたはずなのに”
急に家に戻っているー…
そんな状態に感じるのだろう。

がー、和人はそれを想定した上で、
真奈美をここで解放したー。

「ー真奈美ーよかったー…
 公園で気を失ってるのが見つかって、
 俺がここまで背負って来たんだー」

和人は、そう言いながら笑うー。

「ーー…お、お兄ちゃんがー…?」
真奈美がそう言葉を口にすると、
和人は「あぁ。でも、ホントによかったー」と、
そう言葉を口にするー。

”憑依”されている間は真奈美の意識はないー。
だから、いつもある程度の時間、
憑依することになってしまった時には、
上手く誤魔化すようにしているー。

「ーーどうかしたのー?
 って、真奈美!?」
奥から出て来た母親も、ずぶ濡れの真奈美を見て戸惑うー。

「ーーー…ごめんなさいー」
真奈美は、謝罪の言葉を口にすると、
和人は「とにかく、無事でよかった」と、
そう言葉を口にしながら、真奈美の方を見て、
穏やかに笑ったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーそれで、どうしてあんなところにいたんだ?
 雨の中ー…」

真奈美がお風呂を終えて、ようやく落ち着いたタイミングで
和人がそう言葉を口にすると、
真奈美は不安そうな表情を浮かべたー。

「ーーー…あんなことがあって、
 ”何も悩みがない”ってことはないだろー?

 …俺が絶対に力になるからー」

真奈美に対して、心配そうにそう言葉を口にするー。

あまり、無理に話すようには言いたくなかったものの、
こんなことがあった以上、聞き出すチャンスではあったし、
このまま、理由が不明瞭なままの状況が続けば
いつか、真奈美は本当に自殺してしまうかもしれないー。

そう思いながら、和人は「ー例の先輩か?」と、
そう言葉を口にするー。

しかし、真奈美は首を横に振ったー。

「ーううんー…もう、先輩には何もー」

その言葉に、和人は表情を歪めるー。

先輩のストーカー行為が原因で、退学して
精神を病み、自殺未遂を引き起こした真奈美ー。

が、その自殺未遂の一件後、
ある程度落ち着きを見せている時期もあったー。

けれど、最近はまた思い悩むような振る舞いが増えていて、
和人も、そんな真奈美の様子を心配しているー。

和人は意を決して、
それを口にするー。

”少し前は落ち着いてきていたように見えたけど
 最近はまた何かに悩んでいるように見える”

とー。

「ーーー……」
真奈美は表情を曇らせるー。

「ーーーー……他に何かあるのかー?
 どんなことでも、俺は笑ったりしないし
 絶対に真奈美の力になるって約束するー。

 だからー…
 教えてくれないか?」

和人がそう言うと、真奈美はしばらく沈黙した後に、
ようやく言葉を絞り出したー。

「ーー言っても、誰も信じてくれないからー」
真奈美の言葉に、和人は少し戸惑ってから
「大丈夫ー。他の誰も信じなくても、俺は信じるからー」と、
そう言葉を口にしたー。

だがー
真奈美は目に涙を浮かべながら
「ーーーーーわたしは、大丈夫ー」と、
”その理由”を告げずに、
そのまま部屋へと戻ってしまったー。

「ーー真奈美…」
和人は、そんな真奈美の後ろ姿を心配そうに見つめることしか
できなかったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それからも、真奈美は
出かけるたびに”自暴自棄な行動”を取ろうとすることが
度々あったー。

”ー理由が分からないと、根本的な解決が出来ないー
 でもー”

「ーーぅっ…」
真奈美に憑依した和人は、今日も駅のホーム
ギリギリに立っていた真奈美に憑依して、
真奈美を後ろに下がらせると、電車が到着して、
乗り込んだすぐ後に真奈美から抜け出したー。

一瞬驚いたような表情を浮かべる真奈美ー。

和人は、そんな真奈美の様子を見つめるー。

がー、やはり今日も真奈美が悩むような異変は
見当たらなかったー。

自分の身体に戻る和人ー。

真奈美は、いったい”何”に苦しんでいるのだろうかー。

しかし、何か原因があるはずだー。
何かー。

「ーーーーー」
自分の身体に戻った和人は、表情を歪めながら
”真奈美が苦しんでいる理由”を考えるー。

だが、それは思い浮かばないー。

「ーーーー…ただいまー」
そうこうしているうちに、真奈美が帰宅するー。

真奈美は疲れ切った様子で、部屋の方に向かっていくー。

「ー大丈夫か?真奈美ー」
心配そうに呟く和人ー。

「ーーーーうん」
真奈美はそれだけ呟くと、
そのまま部屋の方に向かっていくー。

「ーーー…真奈美は、いったい何に悩んでいるんだー?」

先輩のことではないー。

”「ーー言っても、誰も信じてくれないからー」”
とは、何のことなのかー。

「ーーー母さんー」
和人は、母であれば何か知っているのではないかと、
そう考えながら、
この前の会話のことを相談するー。

ギリギリまで母に言うかどうか迷ったー。

”誰も信じてくれないからー”
などと、思いつめた様子の真奈美から聞いた話を
”母さんや父さんに言いふらした”と気付かれれば
真奈美をさらに追いつめてしまう可能性があると考えて、
これまで黙っていたー。

がー、もう、真奈美を守るのも限界ー。
”原因”を一刻も早く突き止めてー、
その原因を何とかしてあげない限りー、
真奈美はーー…

「ーーーーー”あのこと”かしらー?」
母は、そう言葉を口にしたー。

「ーあのこと?」
和人が首を傾げると、母は続けたー。

「ー真奈美、先月ぐらいだったかなー
 ”最近、わたしの中に知らない誰かがいる気がする”ってー、
 そんなことを言ってたのー。

 その時は”疲れてるんじゃないの?”って流しちゃったんだけどー」

母親の言葉に、和人は目を見開くー。

「ーー急に意識が飛んだりー、
 それなのに、”ちゃんと”意識が飛んでる間も
 移動してるとかー…なんか、そんなこと言ってた気がするー」

母の言葉で、和人は悟ったーーーーー

”真奈美を追いつめていたのは、俺だーーー”
とー。

和人は、”自暴自棄になった真奈美”を救おうと、
真奈美がそういう行動に出ようとした時に、
真奈美に憑依して、それを止めていたー。

けれどー、真奈美からすれば
”記憶が度々飛んでいる”状態ー。

口には出さなかったけれどー、
真奈美はそれに酷く怯えていたのだとー。

”先輩”によるストーカー行為で高校に行けなくなり、
退学した真奈美ー。
確かに、最初はそのことで病んで自殺未遂まで引き起こしたー。

けれど、その時に母親に泣かれてー、
真奈美は少しずつ立ち直りつつあったー。

がーーー
その頃から、和人は真奈美を助けようと
真奈美に憑依するようになったー

”それ”こそが、
一度は立ち直りつつあった真奈美が、再び思い詰め始めた原因ー。

そうとは知らずに、和人は憑依を繰り返しー、
真奈美を助けているつもりになりつつー、
実はそれが真奈美を追いつめていたー。

しかもー…
和人が”憑依”を始めたきっかけー。

駅のホームで真奈美が”また”自殺しようとしていると感じて
憑依したのはー
”誤解”だったー。

真奈美は”元々”
駅のホームギリギリや、踏切ギリギリで待つ癖があり、
それは”小さい頃からのタダの癖”だー。

しかし、それを自殺しようとしていると誤解した和人は、
真奈美に憑依を繰り返してしまったー。

それがーー
真奈美を追いつめたー。

和人は慌てて真奈美の部屋に向かうー。

だがーーー

”ーわたしー…わたしの中に知らない誰かがいるのー
 わたしがわたしじゃなくなっちゃう前にーー

 さよならーー

 ごめんなさいー”

「ーーーーー…」

遅かったーーー…

真奈美は自分の部屋でたった今、
命を絶ってしまっていたーー

遅かったーーー
遅かったーーー

真奈美の足元にむなしく置かれた”遺書”を手に、
和人は泣きながら
何度も何度も謝罪の言葉を口にするー

”救うため”の憑依がーー
結果的に、大切な人を”殺す”結果になってしまったのだったー…。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

良かれと思ってしていた憑依が、
最悪の結末を招く結果に…★

途中でハッピーエンド案も浮かんだのですが
最初に思いついた通りに最後まで執筆しました~!

お読み下さりありがとうございました!

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