約200年後の未来からやってきた三人の女性ー。
その三人に協力し、
”憑依により崩壊した世界”を救おうとする彼ー。
その先に待っている結末は…?
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2232年ー。
英輔が未来で目撃した
謎の黒いローブの集団は、
一度未来に戻って来た真桜たち三人がいる
建物を包囲していたー。
「ーー包囲完了しましたー」
黒いローブの一人がそう言うと、
黒い巫女服のようなものを身に纏ったリーダーの女・莉愛が
「分かりましたー」と、静かに頭を下げるー。
「わたしたちは、この世界を解放しますー。
必ずー」
莉愛は、そう呟きながら真桜たちがいた建物を見つめるー。
ここは”拠点”の一つー。
”解放”するには、一つ一つ地道に潰していくしかないー。
そうもいつつ莉愛は連絡を入れるー。
”ーーよかったー。無事だったかー
こっちもあと5分ちょっとで到着するー”
この時代独自の通信方法で莉愛から連絡を受けた”人物は
そう言葉を口にするー。
「ーー慎吾(しんご)ー、
気を付けてねー」
莉愛がそう言葉を口にすると、
”莉愛”と共に黒いローブの集団を率いる男・慎吾が
そう言葉を口にしたー。
”ここまでは、順調だなー”
慎吾のその言葉に、
莉愛は少しだけ表情を歪めたー。
”どうした?”
心配そうに呟く慎吾ー。
「ーーー…何だか、嫌な予感がするのー」
莉愛は、そんな風に呟くと、
表情を曇らせながら、建物の方を今一度見つめたー。
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2024年ー…。
長岡晋二郎を”処分”する許可が出たー。
政府の上層部も、”一人の人間を未来のために抹殺する”ことは
流石に躊躇した様子だったものの、
約200年後の未来で起きる”憑依の蔓延による世界の崩壊”という
あまりにも重大な事態を回避するためー、
重い決断を下したー。
”事後処理はこちらで行う”
上層部の男は、そう言ったー。
未来からやってきた三人と、共に対策にあたるチームのリーダーである
英輔も意を決して、長岡晋二郎の”処分”に賛同したー。
”死刑”を行うための施設へ長岡晋二郎を秘密裏に移送しー、
その中に入る英輔ー。
ゴクリ、と唾を飲み込むー。
「ーふ、ふざけるな!俺が何をしたって言うんだ!」
晋二郎がそう叫ぶと、
英輔は罪悪感に押しつぶされそうになりながらも
「ー未来の世界を救うためだ」と、そう言葉を口にするー。
「意味が分からないぞ!!」
晋二郎はそう言いながら、英輔を罵倒するー。
が、英輔は甘んじてそれを受け入れたー。
”彼には、俺を罵倒する資格がある”と、そう思ったのだー。
もし、自分が逆の立場ならー。
”未来の世界を救うために死んでくれ”と、突然”死”を迎える運命になったらー
やはり、彼と同じように怒り狂うだろうー。
「ーーーーーーー」
英輔は、それ以上晋二郎には何も言わなかったー。
晋二郎は拘束されて、普段は”死刑”の執行に使われているその場所で
今、まさに処断されようとしていたー。
「ーーーーすみません。こんな思いをさせてー」
子孫を名乗る美冬が眼鏡をいじりながら申し訳なさそうに言うー。
「ーーーいや、いいんだー。」
英輔はそれだけ呟くー。
ふと、隣にいる美冬が身体を震わせながら、
眼鏡を一度外し、手で目を覆うような仕草を
見せていることに気付くー。
「ー君も、辛いんだなー」
英輔がそう言うと、美冬は頷きながら、
「ご先祖様はー もっと… 辛いと思いますからー」
と、振り絞るように言葉を口にするー。
少し離れた場所ではギャル風の紗季が、
周囲の状況を確認しているー。
リーダー格の真桜は、”死刑”が行われる直前となった
長岡晋二郎に近付くと、何かを囁くー。
「ーーー!」
晋二郎が表情を歪めるー。
「ーーー」
真桜はにこっと笑うと、そのまま晋二郎から離れて、
「ーー…では、宜しくお願いします」と、
英輔の方に向かって頭を下げたー。
あとは、ボタンを押すだけー。
ボタンを押せば長岡晋二郎の”死刑”が執行されー
彼は死ぬー。
ボタン一つで、人を殺すー。
英輔は、三人の方を見つめるー。
真桜は意を決した表情で静かに頷くー。
ギャル風の紗季は「行っちゃえ!」などと軽い調子で
エールを送って来るー。
子孫を名乗る美冬や、身体を震わせながら
目頭を押さえているー。
そんな三人を見つめー
意を決した英輔は「すまない!」と、叫びながら
死刑執行のボタンを押したーーー
長岡晋二郎は、死んだー…。
「ーーーーはぁ…はぁ…
これで、未来はー」
英輔がそう言葉を口にすると、
突然ー、笑い声が響き渡ったー
「ー!?」
英輔が驚いて笑い声の主を見つめー
そして、驚くー。
突然笑いだしたのは、英輔の子孫を名乗る美冬だったのだー
「あはっ…あははは…!
くく…ひゃははははははははは!
あ~~~~~…」
美冬は、目から涙をこぼしながら
ようやく笑い声を止めると、
「ー笑いを堪えるのが、大変だったァ~…」と、
邪悪な笑みを浮かべながら、英輔の方を見つめたー。
「ーーえ…」
戸惑う英輔ー。
長岡晋二郎を処断する直前から、
美冬が身体を震わせながら目頭を押さえていたのはー
泣いていたのではないー
”笑いを堪えれるのに必死”だったのだー。
「ーーご苦労様ー」
そんな美冬の横にいた真桜が、穏やかな笑みを浮かべながら
言葉を口にするー。
美冬の笑い声に呆気に取られていた英輔は
「あ、いやー、別にー」と、そう言葉を口にするとー、
真桜が言葉を続けたー
「ーーお馬鹿さんー」
とー。
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2232年ー
”目的地に到着ー。”
黒いローブの集団を率いている莉愛の反対側から、
真桜たちがいた建物を包囲した”慎吾”は、そう言葉を口にするー。
「ーーーー了解ー」
莉愛がそう返事をすると、
慎吾から再び連絡が入るー。
”ー俺たちは裏口の方から突入するー。
莉愛は、表からだー。
中にいるのは全員”憑依された人間”であることは確認済みー。
一度拘束した上で”中の人間”を消滅させるー。
施設内に残っている憑依薬も、全部処分するんだー”
慎吾の言葉に、
莉愛は「うん」と、そう答えると、
”よし、5秒数えるー。それで突入だー”と、
慎吾がそう言葉を口にしたー
”5、4、3ーー
ぶちっー…
「ーーー…?」
莉愛が表情を歪めるー。
慎吾との通信が突然途絶したー。
「ーーーえ……?」
莉愛は困惑しながら「慎吾ー?」と、そう言葉を口にするー。
「慎吾!?どうしたの?しんーーー
ーーーあ…あれ?」
莉愛はさらに表情を歪めたー。
”誰かを呼んでいた”気がするー
けれど、急にそれを忘れてしまったー。
「ーーー…………し……」
必死に思い出そうとするも、それを思い出せない莉愛ー。
「ーーどうしました?」
黒いローブの男の一人が言うと、
莉愛は「い、いえー。すぐに突入しましょうー。あそこは
”憑依の悪魔”たちが潜む拠点ですー」と、
真桜たちがいた建物を指差したー。
がーー
次の瞬間ー。
黒いローブを着ていた集団の”黒いローブ”が消滅しー、
普通の服に変わるーーー
莉愛の着ていた黒い巫女服のような服も消えてー、
普通の服にー
「ー!?!?」
莉愛は驚くー
「ーーなっ!我々の防憑具(ぼうひょうぐ)がー!?」
黒いローブを着ていた男の一人が叫ぶー。
黒いローブの集団は、怪しい団体ではないー。
身に着けていたものは”防憑具”と呼ばれる
”憑依から身を守る”服ー。
莉愛が着ていた巫女服のようなものもそうだー。
「ーーー…な、何が起きてー」
莉愛は怯えた表情を浮かべるー。
そしてーーー
すぐに、”防憑具”の存在も記憶から消えるーー
「ーーー……」
急激な変化に混乱する莉愛ー。
何に混乱しているのかも分からないまま莉愛は
「ーい、一度逃げましょうー」と、仲間たちにそう告げたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2024年ー
「ーど…どういう意味だー」
英輔が言うと、
未来から来た三人のリーダー格・真桜が言ったー。
「今、死んだ長岡晋二郎はー
未来における”英雄” 長岡 慎吾の”先祖”ですー
憑依薬の開発者の”先祖”は、別の人間です。」
真桜の言葉に、英輔は「え…」と、表情を歪めるー。
「長岡慎吾は、憑依が支配する世界において、
”憑依”からの解放を訴え、”対憑依”のレジスタンスのようなものを
作り上げー、”憑依されていない人々”の希望になっていましたー。
防憑具と呼ばれるあの黒いローブを開発し、
人々を憑依から守りー
無駄な抵抗をしていたー、”俺たち”の邪魔者ー」
真桜が突然、口調を変えるー。
「ーーー………な…なんだって?」
英輔は、未来を一度訪れた際に見た”黒いローブの集団”を思い出すー。
しかし、真桜たちからは”憑依されていない人々を狩る団体”だと聞いたー。
しかしー
「ーーあの団体は、”憑依から人々を救おうとしていた団体”ー
ーーくくくく…」
真桜はそう言うと、
横にいたギャル風の紗季も、子孫を名乗っていた美冬も笑いながら、
英輔を見つめたー
「ー俺たち全員、”憑依”でこの身体を乗っ取っているんですよー」
真桜がそう言うと、紗季と美冬もゲラゲラと笑いだしたー。
「ーー…そ…そんなーー…
ーーだ、騙してた…のか?」
英輔がそう言うと、
美冬は笑ったー。
「ーくくくくくくーー
”子孫なんですぅ~”なんて言葉に騙されちゃってー
俺の可愛い演技、上手だっただろ?」
美冬は大人しさを演出するためにかけていた眼鏡を放り投げると
それを踏みにじりながら邪悪な笑みを浮かべるー。
「ーお、お前たちが憑依薬を悪用している人間なのか!?」
英輔が言うと、
ギャル風の紗季は言ったー。
「そうそうー
で、あんたはあたしたちにまんまと騙されて、
”未来の英雄”の先祖を始末したってわけー
今ごろ、あたしたちの時代では
憑依に抵抗する組織のリーダーが”消えて”、
組織は壊滅状態に陥ってるんじゃないかなー
それとー、憑依を防ぐ、”防憑具”を開発したのも
長岡晋二郎の子孫の慎吾だから、
今頃、それも消えてるでしょ」
紗季がそう言うと、
英輔は真っ青になりながら
「だ、だ、騙したな!!!お前ら!」と、叫ぶー。
未来に行った時に真桜たちが見せた”予防接種”も嘘ー
あれはただの栄養剤ー。
「ーークククー
あぁ、でもー
”ご先祖様”ー
お前が結婚するって言うのはホントだぜ?
あと、子供が生まれるのもー」
美冬がそう言うと、
「ーお前、”子孫”に会ったもんなー」と笑うー。
英輔は戸惑うー。
美冬が子孫じゃないのだとしたらー
一体、誰がー
そう戸惑っていると、
リーダー格の真桜は言ったー。
「ー憑依に抵抗する組織のNo2ーー
黒い巫女服の女を見たはずですー。
あれがーーー
あなたの子孫ー」
真桜は、そう言いながら英輔を見つめるー
「ーーーー!!!!!」
未来を訪れた時ーー…
建物の窓から”莉愛”を見た時、一瞬頭痛がしたー。
あれはー、先祖が子孫と遭遇したことによる
何らかの反応だったのかもしれないー。
がーー
もう遅いー。
「ーーーーククククーー
種明かしが終わったところでー」
美冬はそう呟くと、謎の薬を手に、
それを英輔に無理矢理飲ませようとし始めるー。
「ーーな…何をする!?」
戸惑う英輔ー。
すると、美冬は言ったー。
「ーー長岡晋二郎を処断した苦しみに耐えきれず
実行者の源口 英輔は自殺ー
そういう筋書きさー」
その言葉に、英輔は目を見開くー。
「ーあなたが死ねば、
俺たちに抵抗する組織のNo2-・莉愛も消えますー。
No1とNo2が消滅ー
これで、未来の世界は俺たち憑依人のやりたい放題ってわけですよー」
真桜が邪悪な笑みを浮かべながら言うー。
”この時代”を選んだのはー
未来で憑依に抵抗するNo1とNo2の先祖を”まとめて”処分するのに
最適な時代だったからー。
「ーーーふ…ふざけるな……!ふざけるなっ…!!!」
英輔は必死に抵抗しようとしたーー
だがーー
英輔はその場で”未来の謎の薬”を飲まされてー、
その場で息絶えてしまったー
「バカなやつー」
美冬は笑みを浮かべると、倒れ込んだ英輔に向かって
そんな言葉を投げかけたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2232年ー
「何かがおかしい…何かがー」
”憑依薬”を悪用する人々に立ち向かっていた団体のNo2である
莉愛ー…
英輔の遠い子孫である彼女は、
撤退を余儀なくされていたー。
”憑依人”たちの拠点の一つを突き止めてー
そこを攻めようとしていたー。
なのにー
”一緒に挟み撃ちにしようとしていた”リーダーの慎吾が
歴史から消滅し、
さらにはその慎吾が開発した”憑依に対抗する防具”も
歴史から消滅ー
莉愛の記憶からもそれが消え、莉愛は
混乱した状態のまま、仲間と共に撤退していたー。
しかしーーー
「ーーこの先まで撤退すれば、ひとまー
莉愛は、突然消えたー。
跡形もなくー……
そうー
遠い先祖である英輔が死んだことにより、
莉愛は、消えてしまったー。
そしてー、
その周囲にいた莉愛の部下たちの半数も、”消えた”ー
莉愛によって助けられた人々が、莉愛が歴史から消えたことにより
”既に死んでいる”事に変わってしまったのだー
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
2024年ー
「ーー皆さんのおかげで、未来は救われましたー」
真桜が穏やかな笑みを浮かべながら言うー。
「ーー…英輔さんのことは、残念でしたけどー…
本当に、ありがとうございます」
英輔の子孫を騙っていた美冬が笑いながら言うー。
「ーあたしたち、絶対にこの恩を忘れないからね」
ギャル風の紗季が言うー。
英輔以外のチームのメンバーや、
政治家たちに拍手で見送られる三人ー
”未来は救われた”
そう言っておけば、こいつらは気付かないー。
真桜は転送装置を起動すると、
ニヤリと笑みを浮かべながら、2232年へと戻って行くー。
「これで、もう俺たちを邪魔する人間はいませんねー」
真桜が笑うと、
紗季は「あはは、やりたい放題じゃん!」と、笑うー。
美冬も、そんな二人を見ながら笑みを浮かべると、
「憑依に満ちた未来のために、働いてくれてありがとなークク」
と、死んだ英輔に向かって呟くように、
そう言葉を口にしたー…。
おわり
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
未来を救うどころか
破滅させる結果になってしまいました~…☆
でも、200年後の未来の話なので
2024年を生きる人たちがそれに気づくことは
ないのデス…
お読み下さりありがとうございました~~!
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