<皮>人間関係をリセットしたい①~異変~

友達の多い彼女と、
友達の少ない彼ー。

ある日、彼女を皮にして乗っ取った彼は
”彼女の人間関係”は不要だとして、
人間関係をリセットしようと動き出したー…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「最近、内藤(ないとう)さんー、
 なんか次々とブロックしてるみたいだからー、
 あまり気にしなくていいんじゃないかなー?」

とある大学ー。
親友だった”内藤 萌々香(ないとう ももか)から、
突然連絡手段を次々とブロックされてしまった
彼女ー、梅村 尚美(うめむら なおみ)は、
戸惑いの表情を浮かべていたー。

そんな尚美を心配して、尚美の友人である和江(かずえ)が、
”あまり気にしなくていい”と、そんな言葉をかけているー。

「で、でもー」
尚美は”萌々香を怒らせるようなことをした覚えがなくて…”と、
そう言葉を続けるー。

しかし、和江は「わたしもブロックされてるしー、
話しかけても”話しかけないで”オーラが凄いしー…
尚美に問題があるというよりー…あの子に何かあったのかもー」と、
そう言葉を口にしたー。

親友の”内藤 萌々香”は、
明るい性格で、友達も多い子だったー。

しかし、最近になって急に、
尚美をはじめ、周囲の人を強引に遠ざけるような、
そんな振る舞いをし始めたのだー。

「ーー…ーー」
尚美は、不安そうに表情を曇らせると、
「今後、ちゃんと話をしてみるー」と、
そう言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

彼女は、いつも眩しかったー。

男子大学生の磯村 達平(いそむら たっぺい)は、
幼馴染でもあり、同じ大学に通う女子大生・内藤 萌々香のことを
いつも眩しく思っていたー。

友達の少ない達平に対し、
友達が多い萌々香ー。

しかし、幼馴染だからだろうかー。
萌々香は達平のことを何かと気にかけてくれていて、
高校生の時も、大学生になってからも、
達平に話しかけて来ることが多かったー。

「ーあ、あのさー」

大学生活最初の学園祭ー。
”一緒に色々、回ろ!”と、萌々香から誘われた達平は
「え?ぼ、僕と?」と、戸惑いながら、自分を指差すー。

「ーーーぼ、僕とー? って、
 たっくん以外、ここに誰もいないでしょ?」
萌々香が苦笑いしながら周囲を見渡すー。

確かに、今、この場には達平と萌々香しかいないー。
萌々香が話しかけている相手が達平じゃなかったらー、
萌々香は幻覚を見ているか、ひとりで喋っていることになってしまうー。

「ーーで、でもー…え?
 内藤さんー、友達もたくさんいるのに、
 何で僕ー?」

困惑する達平ー。

「え~~? うーん…
 なんでって言われてもー…」
萌々香は少し戸惑いながら、考える仕草をすると、
「ーーたっくんが、好きだから?」と、少し疑問形で
言葉を口にしたー。

「ーえっ!?!? えぇっ!?」
達平は戸惑いながら顔を赤らめるー。

が、すぐに自分の中で
”いやいや、内藤さんが僕のことを好きなわけないー
 きっと、幼馴染としての好きだよね”
と、納得すると、
「ーー…べ、別に内藤さんがいいなら、僕は別に構わないけどー…
 ほら、僕、友達いないしー」
と、達平が笑うー。

「ーーーーふふー。そんなこと言わないのー。

 じゃ、決まりね!」

萌々香は諭すような口調でそう言うと、
達平も照れ臭そうに「よ、よろしくー」と、そう言葉を口にしたー。

そしてーー
”告白”されたのはその数か月後だったー。

「ーーええええっ!?!?」
告白された達平は、あまりの驚きに
裏返ったような変な声を出すと、
「ーーーえっ…えぇっ!?」と、萌々香も
少し戸惑ったような声を上げたー。

「ーー……えっ!?!?えっ!?」
達平はなおも、自分が告白されたことが
信じられず、そう言葉を口にすると、
「ーー…え…ご、ごめんね?
 わたしじゃ、嫌だよねー」と、
萌々香は苦笑いするー。

「ーーあ、いや、ち、ちがっ!
 そういうことじゃなくて?

 えっ!?
 僕ー?
 え???
 罰ゲームとか何かだよね???
 
 内藤さん、誰かに言われて
 僕に告白してない?」

戸惑った様子で、達平がようやくそう言い放つと、
萌々香は「ー罰ゲームで告白ってー…そんなことするわけないでしょ」と
溜息をつきながら笑うー。

「小さい頃から、わたし、たっくんのこと
 好き好きってずっと言ってたはずだけどー」
萌々香は呆れ顔でそう言葉を口にするー。

確かに小さい頃、萌々香はよく、
”将来はたっくんと結婚する~”とか、
”たっくん好き~”とか、よく言っていたし、
中学で一度別々の学校になり、高校で再会したあとも
”たっくんのことは今でも好きだよ~”などと言っていたー。

けれどー
達平は”小さい頃のよくある戯言”だと思っていたし、
高校で再会後ー、大学生の今に至るまでの”好き”は、
恋愛的な意味ではなく、
”幼馴染として好き”だと、そう思っていたー。

「ーーーーえ……ほ、ホントにー…?」
達平が震えながら言うと、萌々香は
「ーほ、ホントに決まってるでしょ?」と、言葉を返すー。

「ぼ、僕なんかのどこがー?」
達平が不安そうにそう聞くと、萌々香は
「優しいところ、真面目なところー、
 それに、一緒にいると落ち着くしー、
 他の男子と違って、わたしのこと変な目で見たりもしないでしょ?」
と、優しく微笑んだー。

「そ…そ、そんなにー?」
苦笑いする達平ー。

萌々香は少しだけ微笑むと「だから、本気で告白してるの」と、
もう一度、改めて達平に”告白”してきたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

それから、半年ー。

達平と萌々香は恋人同士として付き合いを続けていたー。

実家暮らしの達平は、
一人暮らしをしている萌々香の家に時々足を運びながらー、
”最初は”楽しい”彼女のいる生活”を送っていたー。

しかしー…

「ーーうんうん、それでね~」

大学内で、友達と楽しそうに話をする萌々香の方を見つめる
達平ー。

萌々香は、とても楽しそうに笑っているー。

「ーーーー」
対する達平は、萌々香のような”キラキラした人気者”の
彼女が出来たとは言え、やはり”友達は少ない”ままー。

元々奥手な性格で、人と絡むのも得意ではない達平には、
友達と言えるような友達は、ほとんどいなかったー。

それ故だろうかー。
友達の多い萌々香が、他の友達と楽しそうにしているのを見ると
嫉妬するようになったー。

萌々香のことを、束縛したい気持ちが日に日に強まって来たー。

一度、萌々香に”友達より、僕を優先してほしい”と、
そう言ったこともあったー。

けれど、萌々香は
「ごめんねー。たっくんのことはもちろん一番だけど、
 でも、友達のことも大事だし、
 わたしが急に、友達全員と縁を切ったりしたら、変でしょ?」と、
申し訳なさそうにそう言って来たー。

頭では分かっているー。
萌々香は浮気なんてしていないし、
基本的に友達は萌々香の同性の友達がほとんどだー。

達平のことも放置しているわけではないし、
ちゃんと、付き合い始めてからも、
萌々香はしっかりと達平のことも大事にしてくれているー。

けれどー…
それでもー、
達平は、萌々香に対する”独占欲”のようなものを
強め始めていたー。

「ーー…内藤さんー」
萌々香と一緒に撮影した写真を見つめるー。

これは、初デートのときに一緒に行った
遊園地で撮影した写真だー。

「ーー僕は…優しくなんかないし、
 真面目なんかじゃないしー…
 それにー…」

達平はそう言葉を口にするー。

萌々香は、達平が好きな理由を”優しい”と言ったー。

しかし、達平は特別優しいわけではないー。
大人しい性格ゆえに、そう見えるだけー。
親切にするのも、自己保身のためー。

”真面目”とも言われたー。
でも、それも違うー。
大人しいから、”真面目に見えるだけ”だー。

そしてー、”変な目で見ない”とも言われたー。

けれどーー…
達平はいつも、どんどん可愛くなっていく萌々香のことを
ドキドキしながら見ていたー。

大人しい性格だから、全くそう見えないのかー、
あるいは萌々香が気付いていなかっただけなのかは分からないー。

けれどー、いずれにせよ、
達平は、優しくもないし、真面目でもないし、下心で萌々香のことを
見たこともあるー…。

”内藤さんの思ってるような人間じゃないのにー”

真面目で大人しい彼はー、
”勝手についた”自分のイメージに苦悩しー、
そして、今日も友達の誕生日のお祝いに行っているはずの
萌々香のことを思いながら、
嫉妬のような表情を浮かべたー。

”本当の僕はー
 自分勝手だし、怠け者だし、下心も隠しているだけー”
達平は、そう思いながら大きくため息を吐いたー。

がーー
その時だったー。

「ーー”内藤 萌々香”をお前だけのものにする方法ー
 教えてやろうかー?」

背後からそんな声がして、達平が振り返ると、
そこには覆面姿の男がいたー。

「ー力を授けようー。
 お前が、それを望むのならー」

そう言葉を口にしながら、覆面の男は
手に光のようなものを浮かべながら、
達平の方を鋭い目で見つめたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数日後ー。

「ーーーーーー」
達平は、ドキドキしながら
インターホンを鳴らしたー。

”ーーあ、たっくん!待ってたよ~!”
萌々香がいつものように明るく声を発すると、
そのまま玄関の扉を開けて、
達平を出迎えたー。

「ーーー急にごめんねー」
達平は心臓をバクバクさせながら、
萌々香の家に入るー。

萌々香の家に来たのは、これが初めてではないー。
が、今日は別の意味で心臓をバクバクさせていたー。

「ーそれで、相談ってー?」
萌々香がそう言葉を口にすると、
達平はゴクリと唾を飲み込んでから言ったー。

「ーーぼ、僕のために、人間関係をり、リセットしてほしいんだー」
とー。

「ーーーえ???」
萌々香は困惑した表情を浮かべるー。

「ーーま、前にも言ったよね?
 たっくんのことはもちろん大事ー。
 でも、友達のことも大事だし、
 急にわたしが、みんなと縁を切ったりしたら、変でしょ?

 たっくんは、そんなことするわたしの方がいいの?」

萌々香の言葉に、
達平は言ったー。

「ーー僕はーー僕はそのほうがいいーー!!」
とー。

萌々香は、なおも戸惑いながら、
「ちょっとー、たっくん…一度落ち着こう?」と、
そんな言葉を口にするー。

だがーー

達平はーー、
決断してしまったー。

”進んでは、ならない道”をー。

右手を紫色に光らせながらー、
その手で萌々香の手を掴むー。

「ーーえ…たっくん…?その光はー!?」
不思議そうに声を上げる萌々香ー。

がー、次の瞬間ー。

萌々香の全身から、突然力が抜けていくー。

「ーーえ…な…なにこれ…?」
萌々香が戸惑いながら表情を歪めるもー、
すぐに、身体のどこにも力が入らなくなりー、
そのまま萌々香は”皮”のような状態となって、
床に崩れ落ちるー。

「ーーはぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」
”皮”になった萌々香を見つめながら
達平は、怯えたような表情を浮かべるー。

使ってしまったー。
授かった力を、使ってしまったー。

もうー…
もう、後戻りすることはできないー。

「ーーな、内藤さんを、僕だけのものにー」
そう呟きながら、萌々香の皮を身に着けていく達平ー。

やがてー、達平は”萌々香”になったー。

鏡を見つめながら嬉しそうに笑うと、
「ー僕がー、僕が内藤さんにー」と、
身体中をべたべたと触りながら、
「こ、これでーー」と、顔を真っ赤に赤らめながら、
嬉しそうに呟いたー。

「これで、内藤さんは僕だけのものなんだー」
とー。

その日から、”乗っ取られた萌々香”は、
周囲との人間関係を”リセット”し始めたー。

乗っ取った萌々香の身体で、新しい人生をー。
いいや、”僕と二人の”新しい人生をー。

それを作り上げようとする達平は、
萌々香の友達、家族ー
あらゆる人間関係を”遮断”し始めたのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・

そして、現在ー。

萌々香から突然、全ての連絡先を遮断された
親友の尚美は、戸惑いの中にいたー。

「ーー…萌々香の彼氏の子なら、
 何か知ってるかもー」

そう呟く尚美ー。

尚美の友達の和江は、少し戸惑ったような表情を
浮かべながら、
「あの子ー…何か怖くない?」と、そう言葉を口にするー。

「ーでも、あの子が萌々香の一番近くにいるでしょ?
 一度、話を聞いて見なくちゃー」

尚美はそう言葉を口にしながら、
ゆっくりと大学内を歩き始めたー…。

②へ続く

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6月最初のお話は皮モノデス~!

乗っ取った身体で人間関係をリセットしていく彼氏…
でも、周囲は当然その異変に気付いて…?

続きはまた明日デス~!!

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