<憑依>双子のはずだったふたり①~共存~

彼女には”双子の弟”がいたー。

しかし、出産時にその弟は命を落としてしまいー、
姉である彼女だけがこの世に生を受けたー。

がー…、彼女の中にはその”命を落とした双子の弟”の意識が宿っていたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーねぇ……あなたは、だぁれ?」

”ぼくー? 僕はー…”

彼女の中には、小さい頃から”誰か”がいたー。
その子は、自分のことを”瑛太(えいた)”と名乗ったー。

彼女は、”瑛太”と一緒に成長してきたー。
”わたしの中にいる不思議な男の子ー”
まだ小さかった彼女は、そんな風に瑛太のことを思っていたー。

両親は、そんな娘を前に
”独り言が多いような気がする”と感じたりー、
”誰かと喋っているような気がする”と感じたりー、
そういった違和感を覚えつつも、
”子供には時々あること”と、医師から言われたこともあって
それ以上気にすることはなくー、
医師の言う通り、娘が成長するにつれて、
独り言は減り、誰かと喋っているような振る舞いもしなくなったために、
そのことを特に深く気にすることはなかったー。

そんな娘ー、梨花(りか)は、今では高校生ー。

しかしーーーー
梨花の中には今でも”瑛太”なる男の子の意識が
憑依した状態が続いていたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーただいまー」
帰宅した梨花は、母親と言葉を交わすと、
そのまま自分の部屋へと向かうー。

自分の部屋にたどり着いた梨花はひと息つくと、
「ねぇねぇ、明日の体育の授業だけどー」と、そう言葉を口にしたー。

誰もいない部屋で、一人言葉を口にする梨花ー。

すると、梨花の頭の中に声が響き渡ったー。

”ーーん?僕が出ようか?”

その言葉に、梨花は「うんー。お願いしていい?
どうしても、体育は苦手でー」と、苦笑いするー。

”ーあははー、オッケーオッケー、全然いいよ”
梨花の中でそう言葉を口にするのはー、
小さい頃から梨花の中にいる”瑛太”だったー。

小さい頃、独り言が多いと両親から心配されていた梨花ー。
だが、最近はそういった素振りを”人前で見せること”は
無くなっていて、両親もすっかり安堵していたもののー、
梨花の中にはまだ”瑛太”がいたー。

大きくなるにつれて、
”他の子は、自分の中に”別の子”はいない”と気付き、
瑛太と喋っていると、”おかしな子”に見られてしまうことにも気付いてー、
両親や、他の人の前では”瑛太と喋らないように”していただけー。

「ーーじゃあ、今日は晩御飯の時間まで瑛太でー、
 そのあとはわたしでー、夜の22時以降は瑛太ね」
梨花がそう呟くと、瑛太は”りょーかい”と、そう言葉を口にしながら、

ーーー”表”に出て来たー。

「ーーよっーー、とー。
 やっぱ”表”はいいなぁ」
梨花の身体の主導権を握った瑛太は、
そう呟くと、
「ーえへへへー」とニヤニヤしながら、
瑛太が好きな漫画の最新刊を読み始めるー。

どうやら今日、新しい巻の発売のようだったー。

”ーーその漫画、そんなに楽しいの~?”
梨花のその言葉に、梨花の身体を今、支配している状態の瑛太は
「ーえへへ…滅茶苦茶楽しいしー、ほら、このヒロインの子、
 すっげぇ可愛いじゃんー?」
と、梨花の身体でそんな言葉を口にするー。

”あははー…まぁ、わたしも中にいる時は暇だし、
 一緒に見てようかなー”

梨花の意識がそう呟くー。

”中”にいる時は、自分の身体を動かすことはできないー。
しかし、目を通じて”自分の身体”が見ているものは
”見ようと思えば”見ることができるために、
一緒に漫画を読んだりすることはできるー。

「ーーえへへへへー…
 マリンちゃんが可愛いんだよなぁ~この漫画ー」
梨花の身体でニヤニヤしながら瑛太がそう言うと、
”あ、ちょっと!ページめくるのが早い~!”と、
梨花の意識が心の中からそう呟くー。

「ーーえ??ええ?そうかなぁ…
 じゃあ、もうちょっとゆっくり見るよー」
梨花の身体で瑛太がそう返事をすると、
少し戸惑った様子で、漫画の続きを読み始めたー。

”瑛太”が読む漫画を、心の中から見つめる梨花ー。

梨花は、今、”瑛太”と人生を半分こするような形で
生活を送っていたー。

始めて”瑛太”の存在を知ったのは小さい頃ー、
その後、二人は”瑛太が表に出ることもできる”ことを知って、
それ以降は”人生を半分ずつ”にして生きて来たー。

小3の頃には”瑛太”が、”生まれる時に死んだ自分の双子の弟”
だということを知ったー。

きっかけは、家で母親と雑談している最中にー、
”わたし、弟か妹、欲しかったなぁ~”などと言ったところ、
”本当は弟がいるはずだったのよー”と、
出産の際に、実は梨花は双子の姉で、”瑛太”という弟が
いるはずだった、ということを教えてくれたー。

梨花の中にいる男の子と名前が同じだったことで、
そのことを中にいる”瑛太”に伝えると、
”そうだったんだー”と、瑛太も驚いた様子で、
自分が憑依している梨花の双子の弟であることを認識したー。

梨花は、”わたしの中にいる”瑛太”が、弟だった”と知ってからは、
さらに自分の中にいる瑛太を可愛がるようになり、
人生を半分ずつにしよ?と、その時に約束したー。

あれから、中学生、高校生と順調に成長を続けてー、
今もその状態は続いているー。

「あ、そうだー」
漫画を読みながら、梨花の身体で瑛太が呟くー。

「ー明日の体育、着替え終わったら僕と交代してよ」
そう呟く瑛太に対して
”梨花”の意識は”え?どうして?”と、不思議そうにそう言葉を口にするー。

すると、”瑛太”は梨花の身体で答えたー。

「いや、あのー…
 ね、姉さんもさー、もう高校生だしー、
 あの、そのー…身体つきがどんどんーーー さ…

 僕、男だから、そのー… ね?? 分かる?」

と、気まずそうに言葉を口にするー。

”あ~~~着替える時にドキドキしちゃうみたいなやつ?”
梨花の意識がそう言うと、
「そうそうーそれ」と、梨花の顔を赤らめながら
瑛太は頷いた。

”ーあはは、瑛太にとって
 この身体は、自分の身体みたいなものでしょ?
 でも、やっぱりそんな感じになっちゃうのー?”

梨花の意識が言うー。

梨花は、自分の身体のことを言う時に
”わたしの身体”とか”自分の身体”とは絶対に言わず、
いつも”この身体”と言うー。

”たまたま”自分が無事に生まれただけで、
死ぬのは瑛太じゃなく、”梨花”の方でもおかしくなかったわけだし、
身体を半分こすると決めてからは、
”わたしの身体”という言い方はしないようにしていたー。

”わたしと瑛太の身体”とか”この身体”とか
そんな言い方をしているー。

「ーーう~ん…それはそうなんだけどー…
 やっぱり僕、本来男だったみたいだから、
 精神的に男みたいでー」

梨花の身体でそう言うと、
梨花の意識は”そっか~なんか大変だね”と笑ったー。

”瑛太”の魂は、生まれてすぐに死亡した際に
梨花に憑依してしまったー。

そのため、瑛太からすれば
”男”の身体で過ごした時間など0に等しく、
ずっと女として生きて来たー。

それでも、精神的にはやはり”男”らしくー、
最近は梨花自身の身体にドキドキしてしまうことが
増えたのだというー。

”うん、分かったー。
 じゃあ、着替え終わったら交代するね”

梨花の意識が、瑛太の気持ちを汲み取って
そう呟くと、瑛太は梨花の身体のまま「ありがとうー」と、
そう口にしながら、漫画の続きを読み始めたー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

翌日ー。

「ーーー…~」
数学の授業を受ける”瑛太”ー。

数学は瑛太の方が得意であるため、
いつも数学の授業中は”瑛太”が”梨花”の身体の主導権を握って
勉強しているー。

”わぁ…すごいー。全然わたしには分からないー”
梨花の意識の言葉に、
梨花の身体を今、使っている瑛太は特に反応を示さないー。

これは”二人”の間での約束ー。
周囲に人がいる時には、”反応”はしないー。

今、奥にいる”梨花”も、そのこと分かっているために、
瑛太からの返事が無くても、特に気にすることはなく
”頑張ってね!”と、それだけ言葉を口にすると、
後は心の奥底に引っ込むー。

奥底に引っ込んでいる状態ではー、
寝ているような状態になることもできるし、
のんびりしながら、”自分の視界”を、映画のように
見たりすることもできるー。

”ーあ、次は国語ねー。
 国語はわたしの番ー”

「ーーだんだん、女子トイレに入るのもドキドキするように
 なってきたんだよなぁ」
数学の授業が終わり、女子トイレ内に利用者がいないことを
確認すると、梨花の身体で、瑛太はそう言葉を口にするー。

”あははー…瑛太だってずっと女子として生きて来たのにー
 やっぱ、心は男の子ってことかなー?”

「ーーう~ん、まぁ、そういうことなのかもなー」

”梨花”の身体で瑛太はそれだけ呟くと、
「ーじゃあ、次は姉さんよろしくーとだけ言葉を口にして、
身体の主導権を”梨花”に返すー。

途端に表情が少し変わって、梨花は「わっ!」と、
少し驚いたような表情を浮かべると、
「この主導権が戻って来る感覚ー、未だに不思議な感じ」と
笑いながら、鏡で自分の顔を確認するー。

「ーあ、体育は着替え終わったら瑛太に交代すればいいんだよね?」
梨花が言うと、奥底に引っ込んだ”瑛太”は、
”うんーそれでお願いするよ”と、そう言葉を口にしたー。

「ーーわたしの身体しかなくて、ごめんねー」
梨花がそれだけ言葉を口にすると、
瑛太は少し驚いた様子で”あ、いやー。姉さんが謝ることはないよー”と、
笑いながら、
”それにー…謝るのは僕の方だよー。
 ちゃんと生まれたのは姉さんなのに
 こんな風に身体を貸してもらってるしー”と、少し申し訳なさそうに言葉を
口にするー。

「ーーあははーそんなことは気にしなくて大丈夫だよー」
梨花はそれだけ言うと、「じゃあ、またあとで」と、
トイレを出る前にそう言葉を口にしたー。

”暫く人前に出るとき”は、表に出ているほうが、
そんな言葉をよく口にするー。

人前ではこんな風に会話は出来ないからだー。

「ーーー(”瑛太も頑張ってから、わたしも頑張らなくちゃ”)」
国語の授業を一生懸命受ける梨花ー。

いつも”二人”でいることで、
互いに競争心のようなものが刺激されるのかー、
二人はいつも、お互いの得意分野で一生懸命だったー。

学校の授業では、
梨花の方が得意な国語と社会ー、
瑛太の方が得意な数学と英語を受けているー

”理科”はどっちも五分五分だったものの、
”姉さん、梨花だから”という理由で梨花が受けているー。

その他、実技系の授業も二人でしっかりと分担しているー。

国語の授業が終わり、体育の授業ー。
予定通り、梨花が着替えまでやって、
その後、瑛太に交代するー。

「ーーーー~~~」
”梨花”の身体をジャージの上から見つめる瑛太ー。

「~~~~~~(姉さんも、すっかり女子っぽい身体つきになったよなー…)」
そう思いながら、瑛太は、梨花の身体で体育の授業を受け始めるー。

「(まぁ…僕、男の身体で生きた経験がないからー、
  男の身体がどんな感じかは分からないんだけどー、
  でも、なんか、意識しちゃうんだよなー)」
そんなことを思いつつも、体育の授業を進めていく梨花になった瑛太ー。

もちろん、瑛太も”女子の身体”で生きることには
慣れているー。
むしろ、今急に男子の身体になった方が戸惑うと思うー。

けれど、やはり精神的には男なのか
高校生になったあたりから、特に意識するようなことが
増えて来たー。

そしてーーー
最近は、”あること”を、少し不安に思い始めていたー。

”ーそういえば、姉さんさー、好きな人っていないの?”

夜ー。
家で、奥にいる瑛太がそう言葉を口にすると、
「ん~?わたし?わたしは恋愛感情があまりないからね~」と、
スマホをいじりながら、梨花がそう言葉を口にしたー。

”ーーーはははー、そっかぁ~”
瑛太はそう言いながらも、少しだけ表情を歪めるー。

瑛太は知っているー。
梨花には”好きな男子”がいることをー。

けれど、
梨花はそれを絶対に表に出そうとしないー。

”一緒の身体を使っているからこそ”分かる、
僅かな感情の揺れから、瑛太はそう思っているー。

ただーーー

(やっぱり姉さんー、僕に気を遣っているのかなー…)

瑛太はそんな不安を抱きながら、
少しだけ複雑そうな表情を浮かべたー…。

②へ続く

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コメント

死んだ双子の弟が憑依した状態の
お話デス~~!☆

弟と一緒に一つの身体を使う…★
なんだかドキドキデス…!

続きはまた明日~!☆!

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