隣の部屋に引っ越してきた謎の女性から
”僕のことを思い出せ”と迫られる彼ー。
彼女の正体が分からぬまま、
彼は困惑の日々を送るー。
・・・・・・・・・・・・・・・
会社から帰って来ると、
アパートの前で隣人の恵美が待ち構えていたー。
「ーーーおかえりなさい」
ニコッと笑う恵美ー。
「ーーー…、こ、こんばんはー」
康雄がそう言うと、
恵美は「僕のこと、思い出した?」と、
ボソッと呟くー。
「ーーーご、ごめんなさいー。まだですー」
康雄が震えながら言うと、
「ーあと3日以内に思い出してくださいね?」
と、脅すような口調で言いながら、恵美は
アパートの階段を上っていくー。
「く、くそっ…」
康雄は恵美の後ろ姿を見つめながら
そう言葉を口にするとー、
自分の部屋に駆け込むー。
そしてー、スマホを確認すると
実家からLINEが届いていたー。
”中学の頃、2年の時に転校した女子生徒”の名前を
確認するために、実家に当時のプリントが残っているかもしれないー、
と、母親に確認をお願いした件の返事だったー。
写真が添付されていて、2年生当時のクラス名簿が
そこに映し出されているー。
がーーー
「ーーあ、そうだー…恩田 早苗(おんだ さなえ)さんだー…」
康雄は、クラス名簿を見て転校した子を思い出すー。
恩田 早苗ー。
隣人の”峯崎 恵美”とは、全く関係のない名前だー。
結局ー、
中学時代に途中で転校した女子生徒も、
高校時代の生徒会活動の時に一緒だった、一人称が”僕”の女子生徒も、
どっちも”峯崎 恵美”とは関係なかったのだー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー。
「ーーあと2日ー
今日と明日で、僕のこと思い出してくださいね?」
恵美がクスクス笑いながら、
アパートの廊下で声をかけて来るー。
「ーーい、いったい、何が目的なんですかー」
康雄は戸惑いながら言うと、
恵美は頷きながら言ったー。
「いいよなぁ…”傷つけた側”は覚えてないー。
でも、僕は忘れないー
お前のこと、ずっとずっとずっとー」
恵美の目は憎悪に満ちているー。
この子に、自分は一体何をしてしまったというのだろうかー。
康雄は戸惑いながら
「ーお、俺が何かしたなら、謝りますー
だから、だから、教えてくださいー」と、
そう言い放つー。
が、恵美は笑うー。
「ーお前が僕のこと忘れて
のうのうと生きてきたことはよ~く分かったよー」
とー。
「ーー僕は1日たりとも、お前のこと忘れたことはなかったのにー」
恵美はそう言うと、
”大ヒント”と、言葉を続けたー。
「ーー”お前みたいなやつは、女になっちまえよー。この弱虫野郎”」
恵美は、そう言い放つと邪悪な笑みを浮かべるー。
「ーー”やっぱ女の方が、似合うんじゃね? あはははー”」
恵美はさらにそう言うと、
「だからーー”僕”は女になって、お前の前に帰ってきてやったんだー」
と、康雄を睨みつけながら言い放ったー。
「ーーー……ーーーー」
康雄は表情を歪めるー。
「ーこれで、いい加減に思い出しただろ?」
恵美がそう言い放つー。
だがーー…
康雄は、険しい表情を浮かべたままー、
「ーな、何の話ですかー?」と、戸惑うー。
思い出そうとしても、”記憶にない”のだー。
「ーーみ、峯崎さんー、
ひ、人違いしてませんかー?
本当に、峯崎さんが恨んでいる人、俺なんですか?」
康雄がそう言葉を口にするー。
男子まで含めて、頭の中で記憶を探るー。
だが、思い出せないー。
「ーーー………あと2日ー
明日が終わるまでに僕を思い出せなかったらー…
ーーーーーお前を裁く」
恵美はそれだけ言うと、そのまま家の中に入っていくー。
「ーーー…な…な、なんなんだよー…」
康雄はそれだけ言うと、恐怖に怯えながら家の中へと入って行ったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”あんた、高校に入るまでは適当にやってたんでしょ?”
高校時代のクラスメイトで今もそれなりに連絡を取っている
笹井 由麻に再び連絡した康雄ー。
先日、”隣の部屋の峯崎さんの正体が分かったら教えてね”などと
言われていて、途中経過の報告がてら、愚痴を口にするー。
”でも、その子の言ってること、変じゃない?
あんたの言う通りならー
元々男だったみたいな口ぶりだけど”
由麻がそう言うと、
康雄は「そうなんだー。でも、どう見ても女の人にしか見えないしー」
と、そう言葉を口にするー。
”ーー実は男の娘とか?
ほら、今、わたしから見ても、わたしより可愛くない?みたいな子も
それなりにいるしー”
「ーーで、でも、名前は本名みたいだしー」
康雄がそう言うと、
”恵美…ねぇ…。まぁ、男の子に恵美ってつける親はあんまいないとは思うけどー”
由麻はそう言いながら、
”でも気を付けた方がいいよー”と、言葉を口にするー。
”たとえ誤解だとしても、その子、あんたのこと滅茶苦茶恨んでるみたいだしー、
用心に越したことはないと思うからー”
由麻がそう言葉を口にすると、
康雄は不安そうに「わ、分かったよー。ありがとうー」と、
そんな風に言葉を口にしたー。
結局ー、その日も”峯崎 恵美”のことを思い出すことは出来ずー、
”あと3日”と言われた最後の日が訪れてしまったー。
康雄は仕事を終えると、
周囲をキョロキョロしながら部屋の中へと戻って行くー。
がー、
その時だったー。
近くで隠れていたのか、扉を閉めようとしたその瞬間に
隣人の恵美が姿を現しー、
そのまま強引に部屋に入り込んで来たー。
「な、なにをするんですか!?」
康雄が叫ぶとー、
恵美は康雄を部屋の中に突き飛ばしてから、言い放ったー。
「ーーで? 僕のこと、思い出したー?」
とー。
最初の頃と違い、まるで男のような振る舞いー。
「ーーー……そ、それはーー…」
康雄がそう言うと、
恵美は「”コイツがもしも女になったら、俺、死んで詫びてやるぜ!ははは”」と、
そう言葉を口にしたー。
康雄は表情を歪めるー。
「ーーそう、言ったよねー?」
恵美の言葉に、康雄は「どういう意味ですかー?」と、
聞き返すー。
「ーだから僕は女になって、お前の前に帰って来たんだー。
”この女”を”皮”にしてーーー
身体ごと乗っ取って、ねー」
恵美はそう言うと、
康雄は「な…何を言ってー?」と、
そう言葉を口にするー。
その直後のことだったー。
恵美は、自分の後頭部のあたりを手で触ると、
着ぐるみを脱ぐかのように、自分の頭をめくりーー、
その中から、男が姿を現したー。
「ーーひっ!?!?!?」
思わず情けない声を出してしまう康雄ー。
「ーこの女は、僕とは何の関係もなかったんだけどー
ちょうど、一人暮らしを始める口実もありそうだったしー、
当時、お前が付き合ってた彼女に似てたから、
復讐には持ってこいだと思って、乗っ取ったんだー」
中から出てきた男が言うと、
康雄は「だ、誰なんだー…き、君は一体、誰なんだ!?」と、
声を上げるー。
「ーー小久保 紀明(こくぼ のりあき)だよー」
恵美の中から出てきた男は、そう言い放つー。
康雄は表情を歪めながら
「ちょっと待ってくれー」と、そう声をあげると、
机の本棚にあった中学時代の卒業アルバムを確認するー。
”小久保 紀明”
いたー。
同じクラスにー。
「ーーー僕は、お前にいじめられてたー。思い出しただろ?」
また”恵美”の声が聞こえてきて、振り向くと、
恵美の皮を再び身に着けた紀明の姿があったー。
「ーーでも、卒業後のお前は真面目になったらしいからー
この3日間、チャンスをあげたんだー
僕のことを思い出して、謝れるかどうかー。
でも、お前は僕のことを思い出せなかったー」
恵美が怒りの形相で言うと、
康雄は「ま、待ってくれー…お、俺が何かしたかー?
何かしたなら、謝るー」と、そう言い放つー。
確かに康雄は、中学時代までは不真面目だったー。
その後、高校時代から心を入れ替え、今ではすっかり真面目に
なっているものの、過去を消すことはできないー。
「僕は毎日、お前にキモいとかウザいとか言われたり、
呼び出されてお前の友達とお前にイヤなことをされたりー、
毎日毎日毎日、地獄だったー!」
恵美はそう言うとー、目を閉じながら”中学時代”のことを思い出すー。
”コイツ、ウジウジしていて女みたいだよな~!”
”あ、そうだ、女装させてみようぜ~!”
”ほら、これ着ろよ!”
”着ろ!着ろ!着ろ!”
友達と一緒に、メイド服を着るように促してくる康雄ー。
紀明は、泣きながらメイド服を無理やり着せられると、
ゲラゲラと笑う声が周囲から聞こえたー。
”お前みたいなやつは、女になっちまえよー。この弱虫野郎”
当時の康雄が言うー。
その友達が揶揄うようにして、
”へへーそんなこと言ってて、もしコイツが本当に女に
なっちまったらどうするんだよー?”
と、そう言葉を口にするー。
その時に、当時の康雄は言ったー
”いやいや絶対無理だろ?どうやって女になるんだよー
コイツがもしも女になったら、俺、死んで詫びてやるぜ!ははは”
とー。
”ー紀明ちゃん”と、揶揄われて、毎日のように女装させられた
あの日々ー。
紀明は、それをずっとずっと、忘れなかったー。
「ーー僕はお前の言う通り女になったぞ!
死んで詫びろよ?ほら!」
恵美が怒りの形相でそう言うと、
康雄は「す、すまなかったー…本当にごめん!」と土下座しながら叫ぶー。
「ーーーー」
恵美は険しい表情を浮かべながら康雄を見下すー。
”殺す”つもりまではないー。
ただ、復讐してやりたかったー。
そう、思っていると、康雄は言葉を口にしたー。
「俺が”もし”本当にそんなことをしたならー、
何でもするー。
本当に悪かった、だからーー
その子は解放してやってほしいー」
康雄は、”乗っ取られている恵美”のことを気遣うー。
だがーーー
「ーーー”もし”?」
恵美が表情を歪めるー。
「ーご、ごめんー…お、俺ーー
そのこと、思い出せなくてー」
康雄は戸惑いながらそう言ったー。
恵美を乗っ取っている紀明の中で、ぷちんと何かが切れた。
「ーー思い出せない?
はははー、そうかそうかそうかそうかー
そうか!思い出せないんだね!」
恵美は狂ったように笑いながらそう言うと、
「ーーお前にとってはもう”過ぎたこと”なんだねー」と、
不気味な笑みを浮かべながら頷き始めたー。
「ーーお前は卒業してから、心を入れ替えて、
もうそれで終わったつもりだったんだー!
いいよなー
いじめた側はー。
改心して、今一生懸命頑張ってればそれが美談になるー。
けど、いじめられた側はー
僕は違うー。
僕はずっとずっとずっと、1日たりともお前のことを
忘れたことはなかったー
今でもあの頃のこと、夢に見るんだー
この身体を乗っ取ってもなお、夢に見るんだー」
恵美の怒りを感じさせる口調に、
康雄は焦りを感じながら
「本当に、本当にごめんー」と、再び土下座をするー。
「ーーーお前にとっては過去の美談ー
でも、僕にとっては今も続く地獄ー。
決めたよー。
僕はこの地獄を終わらせるー」
恵美はそう言うと、ペリッと頭が真っ二つに割れるようにして
中から、紀明が出て来たー。
「ー思い出さないかー?」
紀明の言葉に、康雄は青ざめながら
「お、思い出したー…!思い出したよ!」と慌てた様子で言うー。
だがーーー
「ーー嘘つき野郎ー」
紀明はそう呟いたー。
康雄は恐怖から”思い出した”と嘘をついて
この場を逃れようとしたのだー。
それすらも見破られてしまったー。
「ーごめんー…ごめんってばー…
俺、昔の自分がクズだと思ったからー、
だから、高校に入ってから心を入れ替えてーー
真面目にやってきたんだー。
過去に戻れるなら、昔の俺を殴ってでも
俺は昔の俺を止めるー。
本当に、本当にー、今は昔の俺とは違うんだー」
康雄はそう泣き叫ぶようにして言うー。
今の康雄は、本当に改心しているー。
もう、人を傷つけるようなことはしないー。
けれどーーー
「ーいじめた側にとっては、あの時の自分は”今の自分とは違う”ー。
でも、いじめられた側にとってはー
いじめっ子は、いつまでも”いじめっ子”なんだよー
改心してようが何だろうが関係ないー」
紀明は憎しみに満ちた目で言うー。
「ーー勝手に、過去のことにするなよー
僕の中では、まだ続いてるんだー!」
紀明はそう言い放つと、
康雄は震えながら謝罪を繰り返したー。
がーー
「ーそんなの関係ないー。
お前は、僕が女になったら死んで詫びると言ったー!」
紀明がそう叫ぶと、台所の包丁を手に、康雄に襲い掛かったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーー」
再び恵美を着た紀明は思うー。
最初は命を奪うつもりはなかったー。
でも、まさかーーー
”最後まで”思い出してすら貰えないとは思わなかったー。
だから、許せない気持ちが爆発したー。
「ーーーーーー次はー」
恵美は邪悪な笑みを浮かべながらそう呟くと、
”康雄と一緒に紀明をイジメていた男子”のことを思い出しながら
ゆっくりと歩き始めたー。
”次”に向かってー。
おわり
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最終回でした~!☆
一番の被害者は…
何も関係ないのに身体を奪われてしまった恵美ですネ~…!笑
お読み下さりありがとうございました~!☆!
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