<皮>僕が誰だか分かるかな?①~綺麗な隣人~

アパートの隣に引っ越してきた美人女性ー。

しかし、彼女は突然、隣の部屋に住む彼の元を
訪れて奇妙な言葉を口にしたー。

”僕が誰だか分かるかな?”
とー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

社会人2年目の角永 康雄(すみなが やすお)は、
今日も、一人暮らしをしているアパートに帰宅すると、
ひと息つきながら、スマホを見つめるー。

2年目、ということもあり
去年よりも大分仕事に慣れ、
生活も安定してきたー。

幸い、就職した会社が”実はブラック企業でした!”などということもなく、
残業がある日はあっても、自分の時間をしっかりと確保できるような、
そんな会社だー。

康雄自身、持ち前の明るさと、仕事も一生懸命こなすために、
上司たちからもそれなりに気に入られているー。

昔は授業態度が良くなかったり、
不真面目な振る舞いをしていた時期もあったものの、
高校生になった頃から心を入れ替えて、
今ではすっかり、真面目に頑張っているー。

「ーーそういや、次はどんな人が来るかなー…」
ふと、そんなことを考える康雄ー。

アパートの隣人であった栗山(くりやま)という
20代後半のサラリーマンが先週、引っ越ししたのだー。

特に親しいわけでもなかったし、
顔を合わせれば挨拶する程度の間柄だったものの、
特にトラブルもなかったために、隣人としては”いい隣人”であったのは確かだー。

”隣人”がハズレだと、
アパートでの生活はとても苦しいものになるー。

”栗山さん”が引っ越したということは
そのうち、隣の部屋にまた新しい人がやって来るはずだー。

”次はどんな人がやってくるのか”
少しだけ期待と不安を覚えながら、
康雄は「ま、隣人でハズレを引くことなんて、そうそうないだろー」と、
ポジティブに考えながら、仕事帰りに買ってきた晩御飯の
支度を始めるのだったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

それからしばらくして、アパートの隣の部屋に
新しい住人がやってきたー。

「ーーーーー」
ちょうど、その日は休みで
康雄が買い物から帰って来ると、
”新しい隣人”と、その家族ー…両親だろうかー。
年配の男女と、その近くに康雄と同じぐらいーーか、
少し年下に見える若い女性の姿が見えたー。

三人は、話し込んでいる様子だったため、
康雄はとりあえず頭だけ下げて、
そのまま自分の部屋へと向かっていくー。

会話を盗み聞きするつもりはなかったが、
恐らく両親と娘、その三人の会話が聞こえて来るー。

「でも、恵美(めぐみ)が急に一人暮らししたいなんてー
 まさか、そんなこと言うと思ってなかったからびっくり

 ”わたし、ず~っとここにいるもん!”なんて
 この間まで言ってたのにー」

そんな言葉を口にする母親らしき人物ー。

「ーあ、あははー…やっぱり色々チャレンジしてみようかなって」
恵美がそう言うと、
父親らしき人物が「困ったことがあったら、いつでも力になるから」と、
そんな言葉を口にしているー。

自分の部屋があるアパートの2階の通路から
チラッと、その家族の方を見つめるー。

恐らく、新しい隣人はさっき”恵美”と呼ばれていた娘らしき人なのだろうー。

「ーーー…」
思った以上に、美人な雰囲気の恵美と見て
少しだけドキッとしながら
”いやいやいやいや、ただの隣人だし”と、すぐに
自分で自分にツッコミを入れるー。

今現在、彼女のいない康雄は
ちょっとだけ変な期待をしそうになったものの、
”いや、隣の部屋の男が変な期待をしてたら最悪だろー
 俺こそ、やべぇ隣人になっちまうー”と、
すぐに、そんな自制心を働かせて、首を横に振るー。

引っ越してきた隣人と急に親密な関係になったりするのなんて、
フィクションの世界だけだー。
現実でそんなこと起きるわけがないー。

現実で大事なのはー
あの新しい隣人が”厄介な隣人でないこと”を祈るばかりだー。

そう思いながら
自分の部屋に戻った康雄は、
”そういや、あんな綺麗な人だと彼氏とかいるんだろうなぁ…”と、
変なことを考え始めるー。

そういえば、SNSで、
”隣の部屋から喘ぎ声が聞こえてきて迷惑”みたいなやつを
見たことがあるー。

「ーーー…まさか、そんなこと起きないよなー?」
康雄は少しだけ不安そうに表情を歪めるー。

まぁ、最初はドキドキするかもしれないし、
ご褒美かもしれないがー、
連日それをやられれば、だんだんとそれはノイズになってくるー…
と、思うー。

毎日毎日そんな変な音を聞かされれば
それこそ、地獄でしかないー。

”いやー…でも、さすがにそんなことしないだろー”
改めてそう言葉を口にすると、康雄は「そうだー」と、
買ってきた食材や日用品を袋から取り出し始めるー。

がー、片付けを始めて数分が経過したその時だったー

♪~~~

インターホンが鳴るー。

「ーーはい」
康雄がそう言葉を口にしながら
インターホン越しに来客を確認するとー、
そこには、さっきアパートの前で両親らしき人物と
会話をしていた美人女性・恵美の姿があったー。

”今日から隣のお部屋に引っ越してきた、
 峯崎(みねさき)ですー。”

その言葉に、「あ、どうもー」と、少し照れ臭そうにしながら
康雄は「お待ちくださいー」と、玄関から顔を出して、
改めて、お互いに社交辞令的な自己紹介をするー。

「ー色々ご迷惑をおかけすることもあるかもしれませんが、
 よろしくお願いしますー」

恵美は、そう言葉を口にするとぺこりと頭を下げたー。

とても礼儀正しい雰囲気で、好感を持てる感じの女性だー。
さっき、遠目で見た時よりも、さらに綺麗に見えるー。

「ーーいえいえ、こちらこそー。
 わざわざご丁寧にありがとうございます」
康雄はそう言いながら頭を下げると、
そのまま挨拶を終えて、家の中に戻って行こうとするー。

がーー

「ーーーーー覚えてます?」
ふと、恵美がそんな言葉を口にしたー。

「え?」
康雄は、不思議そうにしながら振り返ると、
恵美はにっこりと微笑みながら、言葉を口にしたー。

「ーーわたしと、角永さんー
 ”はじめまして”じゃないんですよ?」
とー。

「ーーえ…???」
康雄は表情を一瞬歪めながら
「え…??え…???そうでしたっけー?」と、
困惑の表情を浮かべるー。

「ーはいーたくさん”お世話”になりましたからー」
恵美はなおも微笑みながらそう言葉を口にすると、
康雄は戸惑いの表情を浮かべながら
「え…え~っと…… え~~~…
 す、すみませんー。今、思い出すのでー」と、
そんな言葉を口にしたー。

”峯崎 恵美”などという名前に覚えはないー
会社の関係者じゃないと思うー。

が、大学・高校・中学ーーと、
どんどん遡りながら同級生の顔と名前を思い浮かべても
思い出すことができないー。

「ーーーーーふふ 分からないですよねー
 ”この姿”じゃー」
恵美は少し不気味な笑みを浮かべながらそう言うと、
クスっと笑いながら顔を近づけて来たー。

恵美の顔が思った以上に近くに来て、
ドキドキしてしまう康雄ー。

そんな康雄に対して、恵美は小声で言葉を口にするー。

”ーーーヒント”
囁くようにしてそう言い放つ恵美ー。

そしてー、さらに言葉を続けたー。

”僕が誰だか、分かるかなー?”
とー。

「ーー!?!?」
康雄は、表情を歪めるー。

”僕ー?”
困惑しながら、恵美の方を見つめると、
恵美はニコッと笑いながらそのまま康雄から離れるー。

「ーーえ…え、えっとー…」
康雄がなおも戸惑うー。

”僕”とはどういうことなのかー?

そう思っていると、
恵美は「ーふふっ…よろしくお願いしますねー」と、
そんな言葉を口にしながら、頭をぺこりと下げてー、
そのまま立ち去って行ったー。

「ーーー…え……」
康雄は、”ーー女の人だよな?”と、困惑しながらも
恵美の後ろ姿を見つめながら不安そうに表情を曇らせたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

自分の部屋に戻った康雄は、困惑しながら
大学時代、高校時代、そして中学時代、と、
過去に遡りながら、
卒業アルバムなどで、クラスメイト…
それに関わりのあった人たちの写真を確認していたー。

しかしー、
”峯崎 恵美”という名前は、
どの卒業アルバムを確認しても、
存在しなかったー。

”途中で転校した子かー?”
そういえば、中学時代、途中で転校した子がいた気がするー。
それと、高校時代、途中で退学になった子もいたー。

そんなことを思い出しながら、
その子たちのことを思い出そうとするー。

がー
高校時代、退学になったのは不真面目っぽい細身の男だったはずで、
名前は確か…田村(たむら)とか、何とかだったはずー。
新しく隣人になった峯崎 恵美と関係があるとは思えないー。

「ーー中学の頃の、あの転校になった子はー…」

そういえばー…と、
康雄は”病弱な女子だった気がする”と、それだけ思い出すー。

しかし、もう遠い過去の記憶だし、
そこまで接点がなかったために、その子の名前を思い出すことが
できないー。

「ーー…実家に入学した時の写真か、クラス名簿が
 残ってるかもしれないしー、
 今度、調べて見るかー」

そんなことを思いながら康雄は少しだけ
困惑した表情を浮かべながら、
溜息をついたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーふふふふふふー
 やっぱり、”僕”のこと忘れてるみたいだー」

自分の部屋に戻った恵美は、
実家から持ってきた鏡を見つめながら
笑みを浮かべるー。

「ふふー、まぁ、無理もないかー。
 今の僕はこんなに可愛い可愛い女子大生だもんねー」
恵美は自分の顔を触りながら
ニヤリと笑うと、
そのまま嬉しそうに胸を揉み始めるー。

「ーこれが、僕の新しい身体だー
 ふふふふふふふ…♡」
笑みを浮かべながら夢中になった胸を揉み続ける恵美ー。

「ーーふふふふふっ…ふふふふふふふふ」

”これから”がとても楽しみだー。
”隣人”となった康雄が”思い出す”時が
とてもとてもとても、楽しみだー。

「ーーふふふふふ…この先のことを考えるだけでー
 ”僕”興奮しちゃうよーふふふふふ」

そう言葉を口にすると、恵美は
気持ち良さそうに声を上げながら、
しばらくすると”ペリッ”と、後頭部のあたりに亀裂が入って、
中から”男”が、姿を現したー。

「ー僕のこと、どうせ忘れてるんだろー?
 僕が誰だかー…どうせお前は忘れてるんだろー?」
憎しみを込めた言葉を口にするかのように
”中の人”はそう呟くと、再び恵美の”皮”を着て、
「ーま、今日はこの身体で存分に楽しもうかなー」と、
そう言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーー!?」
翌日の仕事の準備をしていた康雄は、
表情を歪めるー。

「ーーーえ…?」
隣の部屋から、”声”が聞こえて来たのだー。

やがて、それが今日から隣人になった”恵美”の
喘ぐような声であることに気付くー。

「ーーーな…」
康雄は、困惑したー。

初日から、いきなりコレかー、と。

まさか、初日から”隣人のHな声・音”を
聞くことになるとは夢にも思わなかったー。

”彼氏”でも来ているのだろうかー。
それともー…?

恵美の気持ち良さそうな声を聞きながら、
少しだけドキドキしつつも、
”そのうち、こういうのにも飽きて迷惑に感じるんだろうなー”
と、そう思いつつ、そのまま寝る支度を始めるー。

がー、康雄はドキドキするよりも、”不安”な気持ちが勝っていたー。

先程、恵美から言われた言葉ー、
そして、初日からいきなり周囲に聞こえることも気にせず、
大胆な行動ー。

”僕が、誰だか分かるかなー?”
そんな、得体の知れない言葉と共に、
恵美に対して、康雄は”不気味な何か”を感じ始めていたー…。

②へ続く

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コメント

やってきた隣人からの謎の発言…!
なんだか、不穏な気配デス…★!

”中の人”と、どんな関係があるのか、
この先どうなっていくのかは、
明日以降のお楽しみデス~!

今日もありがとうございました~!

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