<憑依>ポゼッションストーム②~亀裂~

巨大竜巻が世界中に発生し、壊滅状態に陥った世界ー。

そんな中でも何とか生き延びていた父と娘ー。

しかし、娘が”憑依”で生き延びている男に憑依されてしまいー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「お父さんなら、年寄り二人から
 車ごと食料を奪うことなんて、簡単でしょ?」

クスクスと笑う娘の結花ー。

そんな結花を前に、父の陽平は困惑の表情を浮かべる。

娘の口から”他の人の食糧を奪え”なんて言葉が
出て来るとは、夢にも思わなかったのだー。

「ーーほ、本気で言ってるのかー?」
父・陽平が戸惑いながらそう言うと、
「ーだって、そうしないと生きていけないでしょ?」
と、結花は、不満そうに言葉を口にするー。

「ーで、でもー…
 と、とにかく少し分けて貰えないかお願いして見るからー」

陽平がそう言葉を口にするー。

だが、結花は”わざと”目に涙を浮かべながら、
「ーもう、お腹空いて限界なのー…」と、そんな言葉を口にしたー。

「ーゆ、結花ー…」
戸惑う陽平ー。

「ーーーー娘が苦しんでるのにー…
 お父さんは助けてくれないんだねー…」

結花は、なおもそんな、”父”を責めるような言葉を口にするー。

「ーーそ、そ、そんなことは言ってないー…でもー」
いくら娘の頼みでも、おじいさんとおばあさんから食料を奪い取ることなんて
できないー。

そう思いながら陽平が、何とか結花を説得しようとするー。

しかしー
”今の結花”は、もう、さっきまでの結花ではないー。
身体は”陽平の娘”だがー、
中身は”別人”だー。

そんな言葉で、今の結花が納得するはずがなかったー。

「ーもういいよー。お父さんはわたしを守ってくれないんだね」
結花が不満そうにそう言葉を口にして、
おじいさんとおばあさんの車に近付いていくー

「ゆ、結花ー?」
陽平が戸惑いながら、結花の方を見つめると
結花は少しだけ笑みを浮かべながら
言葉を口にしたー。

「ーお父さんがやらないなら、わたしがやるー
 ーーー役立たず」

結花とは思えないようなキツイ口調でそう言うと、
結花は舌打ちしながら、おじいさんたちの車に近付いていくー

「ケッー。役に立たねぇ父親だぜー
 まぁいいー。
 女子高生の身体でも老人二人ぐらい強引にー…」

結花がそんな言葉を呟きながら、
おじいさんたちに声を掛けようとしたその時だったー。

「ーー!」
上空のどんよりとした黒い雲から、地上に向かって伸びる渦のようなものが
出現し始めたー。

「ーーー…こ、これはー」
結花が表情を歪めるー。

「ー結花!!!また竜巻だ!」

小雨になっていた雨が強まりー、
急激に風が強くなるー。

竜巻が急発達して、強風をその場にもたらし、
周囲の建物を破壊し始めるー。

「ーーチッー…また…!」

世界各地で巨大竜巻が発生するようになって以降、
大気の状態は非常に不安定な状態が続いていて、
急速に竜巻が発生、発達することも多いー。

「ー結花!!!こっちに戻って来るんだ!」
父親の陽平が叫ぶー。

「ーチッ!くそっ!」
結花は、食料を諦めて、父親の待つ車の方に戻ろうとするー。

だがーー
直後、大きな雷の音が響き渡り、
結花の身体がビクッと震えたー

「ーーあ?」
結花は一瞬表情を歪めるー。

結花に憑依した男は、雷など恐れていないー。
がー、結花は雷が大の苦手だったー。
男に憑依されて、その意識を封じられた状態になっていても、
結花の身体にもその恐怖が染みついていたのか、
一瞬、雷にビクッと反応したー。

「ーく…くくくー可愛い身体だな」
結花はニヤリと邪悪な笑みを浮かべると、
暴風吹き荒れる中、父親の車の方に向かおうとするー。

髪が乱れ、制服がずぶ濡れになっていく中ー、
「ーーお父さんー!」と、苦しそうに声を上げる結花ー。

がー、想像以上に竜巻の接近が早くー、
父親の車から離れていた結花は、近付くことができないまま、
風に飛ばされそうになってしまうー。

「ーー結花!」
父・陽平が必死に叫ぶー。

がーー

「ーーチッーダメだ…父親の車まで辿りつけねぇ」
結花は表情を歪めるー。

せっかく”気に入った”身体なのに、もうここで廃棄かー…。
そんな風に思っていた結花ー。

しかしー

「ーーー!」
おじいさんたちから食料を奪おうとしていた結花は、
”父親の車”よりも”おじいさんたちの車”に近い位置に立っているー。

しかもー
”風向き”的に、おじいさんたちの車の方に近付くことは
たやすいー。

「ーーーククーならー」
結花は、父・陽平の車の方に向かうことを諦めて、
おじいさんたちの車の方に向かって走り出すー。

「ゆ、結花!?」
反対側に向かって走り出した娘を見て、戸惑う陽平ー。

すぐに後を追いかけようとするも
暴風も雨もさらに強くなり、
雷鳴が轟くー

吹き荒れる強風と豪雨に視界も悪くなってしまい、
結花の姿が見えなくなった陽平は、
慌てて「結花!!!!」と、叫ぶー。

しかしー、
その声も暴風と豪雨にかき消されて、
むなしく宙を舞ったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーた、助けて下さいー」

おじいさんたちの車の側にたどり着いた結花は、
乱れた髪のまま、そう叫ぶと、
おばあさんの方が「ひ、一人かいー?」と、困惑した様子で
言葉を口にするー。

「ーは、はいーお父さんとはぐれちゃってー」
か弱そうな雰囲気を出しながら、結花がそう言うと、
「ーーここはもう危険だー。とにかく乗りなさい」と、
おじいさんが、後部座席の扉を開けてくれたー

ニヤッと笑みを浮かべる結花ー。

車に乗せてもらい、おばあさんと共に後部座席に座るー。
車が走り出し、間一髪で竜巻を回避したのを確認すると、
結花は突然、後部座席の扉を開けたー。

「ーーーなにをー?」
おばあさんが不思議そうに首を傾げるー。

「ーーふふーーーーー」
結花は笑みを浮かべながら、おばあさんを掴むとー
そのまま強引に後部座席から、外に向かっておばあさんを押し飛ばしたー

「ぎゃあっ!?」
おばあさんが車から突き落とされて、走っていた道路を転がっていくー。

「ーーな、なにを!?」
運転していたおじいさんが叫ぶと同時にー、
結花は後部座席から強引に前にやってきて、
「ジジイーお前も降りろよー」と、笑うー。

「ーー…!?!?!?」
戸惑うおじいさんー

可愛らしい雰囲気の女子高生の恐ろしい行動に
おじいさんは唖然としながら
「き、君は一体ー!?」と、声を上げるー。

がー、結花は「いいから降りろって言ってんだよ!」と、
おじいさんのベルトを強引に外して、おじいさんを足で
外に蹴り飛ばそうとするー。

しかしー
結花の身体は華奢で、年寄りと言えども、
なかなか外に押し飛ばすことはできずに
争うような形になるー。

「ーーーいいから……出てけよ!ジジイ!」
結花が顔を真っ赤にしながら、ありったけの力を込めて
おじいさんを足で外に押し飛ばすと、
おじいさんが悲鳴を上げながら道路を転がっていくー

「ーーはははっ!これでこの車も食料も俺のものだ!」
結花は嬉しそうにそう叫ぶと、扉を乱暴に閉めて、
そのまま運転席に座るー。

「ーこの女、免許なんて持ってねぇだろうけどー
 まぁ、んなこと関係ねぇかー」

髪を邪魔そうに払いのけながら、車を運転する結花ー。

「これで、当分食うものには困らねぇなー」
結花はそう言葉を口にすると、邪悪な笑みを浮かべたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

姿を消した結花を追って、結花が走って行った方向に
車を走らせていた陽平は、
大通りで横たわっているおばあさんを発見するー。

「ーーあのおばあさんーさっきの車のー」
陽平がそう言葉を口にして、
停車して声を掛けようとするー。

がーー
竜巻が目前に迫って来ていて、
”車を降りて、おばあさんを助ける時間はない”と判断した陽平は
悔しそうに歯ぎしりをしながら、アクセルを踏むー。

おばあさんが倒れていた場所に竜巻が直撃するー。

「ーーーーーーー」
陽平は、心底申し訳なさそうな表情を浮かべながら、
車を走らせるー。

仮に今、おばあさんを助けるために、
車を停車させて、車を降りていた場合、
犠牲者がおばあさん一人から、陽平とおばあさんの二人に増えただけー。
それが現実だー。

どうすることもできなかったー。

それでも、陽平は張り裂けそうになるような思いに耐えながら、
表情を歪めるー。

ーそんなことを思っているその時だったー。

「ーーー!!」
陽平の前に、よろめいた状態でおじいさんが姿を現したー。

「ーーー!」
おばあさんとは違い、立って歩くことのできているおじいさんー。
意識を失い、倒れていたおばあさんとは違い、助けるのにそう時間はかからず、
おじいさんを助けても、竜巻から逃げきることはできるー。

そう判断した陽平は車の速度を落として「乗って下さい!」と叫ぶー。

「ーーあ、ありがとうー」
おじいさんはすぐに車に飛び乗りー、陽平は
そのまま車の速度を上げるー。

「ーーー何かあったのですかー?」
陽平がそう言葉を掛けると、
後部座席に乗ったおじいさんは苦しそうに言葉を口にするー

「ーーーー助けてあげた子に、突然車を奪われたんじゃー…」
おじいさんのその言葉に、
陽平は表情を歪めるー。

その”車を奪った子”が娘の結花なのではないかと
強い不安を覚えるー。

このおじいさんは、さっきの広場に停車していた車の持ち主だー。
そして、結花はこのおじいさんたちの車から食料を奪おうと
そう言っていたー。

暴風と雨で、おじいさんたちの車と結花の姿が見えなくなってしまい、
陽平はやむを得ず車で結花を探している最中だったー。

「ーーー…そ、そのーーー…あなたの車を奪った子って、この子ですか?」
陽平がそう言いながら、ほとんど充電も残されていないスマホを手に、
娘の結花の写真を見せると、
おじいさんは表情を歪めながら言ったー

「そ、そうじゃ!この子じゃ!」
とー。

「ーーーーーー結花ー」
陽平は表情を歪めるー。

今まで、どんな過酷な環境であっても、
結花は他人を傷つけるようなことは絶対にしなかったし、言わなかったー。

陽平が”助けられない”と判断して、人を見捨てる選択をした時も、
結花はいつも怒っていたー。

そんな結花が、どうしてー?

「ーーー……娘さんかい?」
おじいさんが、そう言葉を口するー。

陽平は「ええ」と、言葉を口にすると、
「本当に申し訳ありませんー」と、そんな言葉を口にしたー。

「ーーーーー…」
おじいさんは戸惑いの表情を浮かべながらも、
「こんな状況じゃー…誰だっておかしくなるー」と、
それだけ言葉を口にしたー。

「ーーーーーー」
陽平はもう一度頭を下げると、そのまま静かに
結花の姿を探しながら、車を走らせ続けたー。

「ーーーーーーーーーーーーー」

がー
後部座席に座るおじいさんは、
握りこぶしを作って、手を震わせていたー。

”こんな状況じゃ、誰だっておかしくなるー”
結花のことを責めることのない、そんな言葉を口にしていたおじいさんー。

しかし、言葉とは裏腹に
おじいさんの目は、怒りに染まっていたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーー」
結花は、竜巻から離れた場所まで車を走らせてくると、
一旦車を止めて、笑みを浮かべるー。

「ーふぅ…これだけたくさんの食いモンがあれば、しばらくは困らねぇなー」
満足そうに食料の山を見つめる結花ー。

「しかしー、あのジジイとババアも
 どうやってこんな食料を集めたんだかー」

結花はニヤニヤしながら、そう言葉を口にすると、
早速、食料の山からお菓子を見つけて、それを食べ始めるー。

「ククー思った通りー
 こいつの味覚だと美味しく感じるなー」
チョコを食べながら、結花は街の方を見つめるー。

「ーーーあ~ぁ、あの竜巻もヤバそうだなー」
風で揺れる髪を邪魔そうに払いのけながら、
その光景を見つめる結花ー。

上空には、どす黒い雲があちらこちらに広がっていて、
絶え間なく、竜巻が発生しているー。

「ーーどうして、こんなことになったんだかー」
結花はチョコを食べ終えると、その袋を雑に捨てて、
そのまま車の方に戻ろうとするー。

しかしー
そんな結花の姿を、笑みを浮かべながら見つめている人物がいたー。

「ーーへへへへ…いいもんみっけー…」
不気味な笑みを浮かべながら、
そう言葉を口にした男は、結花の方に向かって静かに歩き出したー。

③へ続く

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コメント

どんな状況でも、
憑依を悪用されてしまうと厄介ですネ~!

次回が最終回デス~!

今日もありがとうございました~!☆

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