<憑依>ポゼッションストーム①~巨大竜巻~

世界各地で巨大竜巻が発生ー。

人類存亡の危機の中、
そんな状況でも憑依薬を手に、暗躍する人間がいたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

2XXX年ー
地球全土で、立て続けに巨大竜巻が発生したー。

その原因は不明ー。

世界各地で甚大な被害が出る中ー、
それでも、生き残った人々は諦めることなく、
この状況に立ち向かっていたー。

「ーーお父さん!」
娘の結花(ゆか)が、そう叫ぶー。
通っている高校の制服を着ているものの、
既にその高校は壊滅しており、
そもそも”学校”というものがもはやこの世界では機能していないー。

「ー大丈夫だ!!しっかり捕まってろ!」
父親の陽平(ようへい)は、そう叫ぶと
車のハンドルを握り、猛スピードで道路を疾走するー。

その背後には、巨大な竜巻ー。

「ーーー…」
結花は歯を食いしばりながら、父親の運転する
車の中で、恐怖に耐えたー。

あの竜巻に飲み込まれてしまってはー、
もはや、助からないー。

これまでにも大勢の人間が死ぬのを結花は見て来たー。

自分たちだって、いつまで生きることができるかは分からないー。
今日までかもしれないし、明日までかもしれないー。

世界中で巨大竜巻が立て続けに発生ー、
収まることなく、今でも発生と消滅を繰り返していて
地球全体で甚大な被害を及ぼしているこの状況ー。

地球温暖化が原因と言われているものの、
ハッキリとした原因は不明ー。

地球上で、何か人類の知らない未知なる変化が
起きた可能性や、
宇宙から”何か”特殊な物質が降り注いだ説を唱える者などもいたものの、
ハッキリとしたことは分かっていないのが現状だったー

「ーーお、お父さん、あそこに人がー!」
結花が窓の外を見ながらそう叫ぶー。

「ーーー!」
窓の外には、バイクに乗った女性の姿が見えるー。

今、陽平と結花の背後にある竜巻は、先ほど突然発生した竜巻だー。
あの女性にとっても、想定外の発生だったのだろうー。

「ーーー…」
陽平は車を運転しながら、その女性の身も案じるー。

しかし、バイクの女性を回収するような時間はないし、
車を近づけて、逆に事故を起こすような結果になってしまっては、
こっちにとっても、あの女性にとっても不幸になるー。

陽平は窓を開けて、
「ーーーーこっちの道なら、竜巻から逃げきれるはずです!」
と、竜巻の動きと、道路の進行方向を考えながら、
バイクの女性に向かってそう叫ぶー。

この方向に進めば、しばらく大通りが進むし、
まだ道路も崩壊していないー。

「ーーーありがとうございます」
バイクの女性がそう叫び返してくるー。

あとは、お互いに自力で生き延びるしかないー。

陽平は窓を閉めて運転に集中するー。

がーーー
背後に迫る竜巻から、強風が吹き荒れて、
バイクがバランスを崩すー。

「ーーチッー」
バイクに乗る女性は、舌打ちをしながら、
バランスを立て直そうとするー。

しかしーーー

「ーーくそっ!」
バイクごと、強風に攫われー、竜巻の方に身体ごと吹き飛ばされる女性ー。

その様子を車から見ていた結花は
「お父さん!さっきの人がー!」と、そう叫ぶー。

けれどー
もう、どうすることもできないー。

これまでにも、色々な人間の死を見て来たー。

”誰かを助けようとして”死んだ人間も、
何人もー。

”ーー大丈夫ー。大丈夫だからー”

陽平は”妻”のことを思い出すー。
妻・紀恵(のりえ)も、そうだったー。

保育士だった彼女はーー、
子供たちを助けるために、園に引き返してー
そのまま犠牲になったー。

陽平がたどり着いた時には、
もう、保育園ごとなくなっていたー。

あの時ー、
保育園があった場所を前にー、
陽平は誓ったー。

どんなことがあっても、結花を守るー。
とー。

「ーーーーー」
結花は悲しそうに表情を歪めるー。

最初の頃は”お父さん”が、人を助けずに
見捨てるような振る舞いをするたびに、反発していたー。

「何であの人を助けに行かないの!?」
「見捨てるなんてひどいよ!」
「お父さんは自分のことばっかり!」

そんな風に叫んだこともあったー。

けれどー、やがて、”そうではない”事に気付いたー。

父・陽平は”人を見捨てている”わけではないー。
助けられる人はみんな助けているー。

父が”見捨てて”いるのはー
”自分が助けようとしても、助けることができない人”ー。

今の、バイクの女性もそうー。
他に何かできたか?と言われれば何もできなかったー。
竜巻に吸い込まれそうになっているのを見て、
仮に車で引き返しても、
あの女性を助けることはできないー。
自分たちも吸い込まれて、犠牲者が”1”から”3”に増えるだけー。

極限状況下での苦しい現実ー。

父・陽平はそれを的確に判断しながら、
助けられる範囲内で、人を助けながら
結花を守っているのだー。

そう気づいてからは、結花も
父・陽平に不満をぶつけることはなくなったー。

”どうやっても助けることができない人”を
助けに行こうとするのは、自殺に等しい行為なのだからー。

「ーーーーー…あの人ー……」
結花が寂しそうに言うと、父・陽平も
少しだけ悲しそうな表情をしながら
「どうすることもできなかったー…」と、そう言葉を口にしたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーくそくそくそくそっ!」
竜巻に吸い込まれてバランスを崩したバイクの女性は、
そう叫びながら、バイクごと宙に巻き上げられるー

彼女はーーーー

いいや、”彼”はーー
世界各地で竜巻が出現し、莫大な数の人間が犠牲になっている
この状況下でも生き延びていたー。

「ーーくそっ!”この身体”、エロくて気に入ってたのにー!」
宙に巻き上げられたバイクの女性はそう言葉を口にするー。

”身体”は正真正銘の女性ー
だが、その中身は”男”ー

この極限状態で、彼は”憑依薬”を使い、
身体を渡り歩くことで、生き延びていたー。

そう、このバイクの女性ー
彼女は今”憑依”されていたー。

元々は、避難所に弟と共に避難していた女子大生だったがー、
男がその身体を乗っ取り、弟を残してその場から姿を消し、
こうして竜巻から逃げる生活を送っていたー。

がー、ついに”この身体”の命運も尽きたようだー。

「ーーこの女はもうだめだー。仕方ねぇー」
自分が竜巻に巻き込まれて、間もなく死ぬ身だというにも
関わらず、彼女は不気味な笑みを浮かべるー。

そしてー…

彼女の口から魂のようなものが飛び出ると、
彼女は失神したまま、竜巻の中に飲み込まれていくー。

”へへへへー”
魂の状態になった男は笑うー。

”魂のまま、ずっと彷徨うことはできねぇからなー”

彼の”憑依”も万全ではないー。
憑依薬を飲んだ際に自分の肉体を失っている彼ー。

人間は”魂のまま”では現世に留まることができないー。
ずっと”身体がないまま”浮遊していることは”消滅”を意味する。

そのため”今まで使っていた身体”を捨てたら
すぐに新しい身体に憑依して、身体を手に入れなくてはいけないー。

”俺は死なねぇー…死んでたまるか”
男は、そう呟くとすぐにそのまま移動を始めるー

”そういやー…さっきのおっさんの車ー…
 後ろの座席に可愛い子が乗ってたよなー…?”

ニヤリと笑う男ー。

”善意”でバイクに乗る女性に声をかけた陽平ー。
もちろん、そのバイクの女性が”憑依されている”などとは
知らずに、陽平は声をかけたー。

そしてー、その声掛けが仇となって、陽平は
大切なものを奪われそうになっていたー。

・・・・・・・・・・・・・・

「なんとか逃げきれたなー」
竜巻から、何とか逃げ切った陽平ー。

がーー
その時だったー。

バックミラーで、”謎の光の玉”が、こちらに向かってきていることを
確認した陽平は
「あれはなんだ!?」と、そう声を上げたー。

「ーーえっ…?」
後部座席にいた結花も、その声に慌てて振り返るとー
車の方に向かってくる謎の光の球体が見えたー

「ーーなーー…なにあれ…!?」
結花も声を上げるー。

次第に近付いてくるその謎の光ー。
竜巻とは違うが、何か得体の知れない恐怖を感じる結花ー。

父・陽平も不安を覚えて
「少し速度を上げるぞ」と、そう呟いたその時だったー。

光が車の後ろをすり抜けて、そのまま車内へと入って来るー。

そしてーーー

「ーーひぅっ!?」
その光がそのまま結花の方に突っ込んでくると、
結花がビクンと身体を震わしながら、変な声を発したー

「ゆ、結花ー?」
陽平が心配そうに声を上げるー。

「ーーぁ………」
結花は少しだけ苦しそうにしながらも、
すぐに口元を歪めるとー、
「ーーーーーんーー…大丈夫」と、そう言葉を口にするー

「ーー少しびっくりしただけー。
 でもー…光も消えたみたいだし、大丈夫ー」

結花はそう言いながら
”その声”にドキドキして、口元を再び歪ませるー。

”へへへー…思ったよりもいい声じゃねぇかー気に入ったぜー
 これからはこの声が俺のものだー”

結花はー
いいや、結花に憑依した男は、心の中でそんな風に考えながら笑うー。

「そ、そっかーならよかったー
 でも、今の光は何だったんだろうなー?」

陽平のその言葉、結花は「さぁ…」と、答えると、
あとはそのまま口を閉ざしたー。

陽平は車を運転しながら、”まだ竜巻から距離が近い”と、
もう少しこの場所から離れようと車を走らせるー。

「ーーククククー」
結花は笑みを浮かべながら、後部座席で足を組むと、
「ーへへ…ゾクゾクするぜー」と、ニヤニヤと笑みを浮かべるー。

運転中の父親にバレないように胸を揉むと
嬉しそうに口元を歪めながら
”せいぜい、わたしを守ってねー。お父さんー”と、
父親を利用することを決意して、結花は笑うー。

こういう父親は、娘のためなら命も賭けるだろうー。

しばらくはこの男を利用して、楽をしようー。
そう思いながら結花は笑みを浮かべるー。

”しかしーさっきまで使ってた女の身体ー
 割と気に入ってたんだけどなー…”

結花に憑依した男は、さっきまで使っていた身体のことを
思い出しながら、少しだけ残念そうな表情を浮かべると、
そのまま結花の身体を見下ろすー。

”ーーへへへへーでも、この身体の方が若いしー
 利用できる父親もいるしー…
 これからの生活はもっとよくなりそうだなー”

結花はそう思いながらクスッと不気味な笑みを浮かべたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーー」

陽平の運転する車は、何とか竜巻から逃げきり、
少し離れた場所にいったん停車していたー。

街は既に見る影もない廃墟ー。
世界各地で巨大竜巻が連続発生しては消滅を繰り返していて、
世界各地の大都市はほぼ壊滅状態ー。

当然、社会のシステムも維持できなくなり、
世界は世紀末のような状態になってしまっているー。

「ーーーーーー」
父親の陽平が、この先どこに向かうべきかを、
地図を確認しながら考えているー。

「ーーーチッ」
そんな姿を見ながら、結花は表情を歪めるー

「ーーこの女ー結構空腹だなー」
結花は不愉快そうにそう呟くと、
父の陽平の方を見つめるー。

「ーま、いいかーこういう時のための”父親”だー」
結花は笑いながら、陽平の方に近付いていくと、
「ねぇ、お父さんー」と、
そう言葉を口にするー。

「ん?どうした?」
地図を確認していた陽平が振り返ると、
結花は苦笑いしながら言うー。

「ーーちょっとお腹空いちゃってー」
結花がそう言うと、陽平は「ーーははーそうだなー。
そろそろ食料もまた確保しないとな」と、そう言葉を口にするー。

「ーーーそうだー。10キロ先に、地下避難所があるみたいだから
 そこで食料を分けてもらおうー。」

陽平のその言葉に、
結花は少しだけ笑うー

”避難所で貰える飯の量なんて少しだけだろうがー
 そんなんじゃ、役に立たねぇよ”

そんな風に思いながら、結花に憑依した男は、
悪魔のような言葉を口にしたー。

「ーーううんー お父さんー
 そんなものよりーー」

結花はそう言うと、今、停車している広場の少し先の方に
止まっている車の方を指差したー

「あの車に、さっき食料が積まれているのを見たのー」
結花の言葉に、陽平は「ん?あぁ、じゃあ、少し分けて貰えないかどうかー」と、
そう言葉を口にすると、
結花は邪悪な笑みを浮かべたー

「車に乗ってたのおじいさんとおばあさんだからーー…
 ーーーー全部、貰っちゃおうよー」

とー。

「ーーーえ…?」
陽平は、娘のとんでもない提案に驚くー。

「ーーーお父さんなら、”できる”でしょ?
 相手は年寄りふたりなんだからー」

結花の邪悪な笑みー。

”女子高生の身体じゃ、不安だけどー、
 お前なら、できるだろ?”

結花に憑依している男が心の中で呟くー。

「ーーゆ、結花ー…」
娘から”略奪”をお願いされた父・陽平は
戸惑いながらそう言葉を口にしたー…

②へ続く

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コメント

巨大竜巻により崩壊した世界が舞台の
憑依モノデス~!

どんな状況でも、憑依を悪用する人は
きっといるのデス…笑

続きもぜひ楽しんでくださいネ~!

今日もありがとうございました~!

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