<皮>悪意の吐息③~対峙~(完)

人を皮にして、悪意を吹き込む男ー。

彼によって、闇に堕とされていく人々…。

その先に待ち受けている運命は…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”お兄ちゃん!助けて!”

そんな電話を受けた尚道は、困惑するー。

「ど、どうした!?何があった!?」
尚道がそう返すと、
妹の咲は”へ、変な人がー…ひ、人をーー人をーー!”
と、パニックになっているのか要領を得ない
そんな言葉を口にしたー

「ーわ、分かった!今行く!場所は!?」
尚道がそう言うと、咲は、今自分が走っている場所を告げたー。

「ーー俺が到着する前に、助けを求められる場所があれば、
 そこに行くんだ!いいな!?」

尚道がそう言うと、咲は”わ、わかったー”と、そう返事をしながら
電話を切ったー

バイトの休憩中だった尚道が慌てて、
事務所から出ようとすると、
店長の優子が「どこに行くの?」と、冷たい口調で
その行く手を阻んだー。

”剛”の息によって闇に堕ちた優子ー。
そこに、かつての優しさはないー。

「す、すみません店長ー 妹がー…」
尚道が事情を説明すると、
店長の優子は「ーそんなこと、どうでもいいー」と、
歪んだ表情を浮かべながら、尚道を睨みつけたー。

「ーーこの店にいるバイトは、みんなみんなわたしの下僕ー
 わたしの言う通りに、働きなさいー」

優子の言葉に、尚道は表情を歪めるー。

「本当に、どうしちゃったんですかー…店長ー」

最初は、バイトの朱音が”金を盗んで”辞めたからだとそう思っていたー。
だが、どうも、そうではない気がするー。
ここ数日の優子の振る舞いは異常だー。

「ーーー…わたしはこの店の女王ー。
 あんたたちは、売上を伸ばすための駒ー」

優子の憎しみに満ちたような目を見て、
ゾワッと、恐怖すら覚える尚道ー。

がー、その時だったー。

突然、店の非常ベルが鳴り響くー。

「なにっ!?なんなの!?」
ヒステリックに騒ぎ出す優子ー。

道を塞いでいた優子が、店内の方に向かっていくー。

尚道は”今がチャンスだ”と、そう思いながら
店を抜け出そうとするー。

店の出入り口のところまで来ると、
バイト仲間のフリーター女性・梓が少しだけ笑うー。

「よく分かんないけど、妹さんヤバいんでしょ?
 おかしくなっちゃった店長はわたしに任せて」

先日、尚道に”店長がピリピリしている”と忠告してくれた
フリーターの梓は、それだけ言うと、
「さっさと行って!」と、そう笑うー。

梓が店長の気を引くために非常ベルを鳴らしてくれたようだー。

「あ、ありがとうございますー
 今度…必ずお礼します」

尚道がそう言葉を口にすると、
梓は「じゃ、駅前のお店のケーキでよろしく!」と、笑いながら
そう答えて、そのまま店の中へと戻って行ったー。

尚道は少しだけ梓の身を案じながらも、
妹・咲から連絡があった場所に向かって走り出したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーすみません!助けて下さい!」

”剛”から逃げていた咲は、
兄・尚道から電話で言われた通り
”助けを求められる場所”ー
交番に駆け付けると、そこにいた男性刑事と女性刑事が
戸惑いの表情を浮かべたー。

「ーどうかしましたか?」
優しそうな年配の男性刑事の言葉に、
咲が事情を説明しようとするとー、
小悪魔のような服装の朱音ー…
尚道の元バイト仲間の女子大生がそこに入って来たー。

「ーーこ、こ、この人とー、もう一人、男の人がー」
咲が、朱音の方を指差しながら言うと、
朱音はクスクスと笑うー。

「ー見ちゃったんだからー逃げられないよ?」
とー。

女性刑事が、そんな様子を見て「ちょっと!離れなさい!」と、
朱音に対して言い放つと、
朱音は不敵な笑みを浮かべながら
「うっさいなぁ…」と、反抗的な態度を取り始めるー。

そして、
そこにーーー
”剛”がやってきたー。

悲鳴を上げる咲ー。

男性刑事が「止まりなさい!」と、剛に対して言い放つも、
剛は、義手から針のようなものを発射するー。

男性刑事も、女性刑事も”あっという間”に皮になっていくと、
そのまま”剛”は不気味な笑みを浮かべたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

”お兄ちゃんー…今、この場所に隠れてるー”

咲からそんな連絡が入りー、
その場所にやってきた尚道ー。

そこは、既に使われていない廃工場のような場所だったー

「咲…?」
尚道が不安そうに咲の名前を呼びながら、
その中へと入っていくー。

するとーー
物陰から、バイト仲間だった朱音が姿を現したー

「ーーこ、香坂さんー?」

先日ー、バイト先から突如お金を盗んで姿を消した朱音ー。
その小悪魔のような服装に違和感を感じつつー、
尚道は言葉を口にするー

「ーーーふふー 久しぶりー
 店長、何か言ってた?」

クスクスと笑う朱音ー。

優しくて、真面目な朱音のことが、
尚道は少なからず好きだったー。

しかし、今の朱音にその面影はないー。

「な、なんでこんなところにー…」
尚道が困惑しながら言うと、
朱音は「妹を探しに来たんでしょ?」と、ニヤリと笑ったー

「ーーー…な、なんで咲のことをー…!
 さ、咲はここにいるのか!?」
尚道がそう言うと、朱音は「いるよー」と、笑いながら
背後を見つめたー。

すると、背後から”捕らえられた”咲と、
男が姿を現したー

「クククククー
 今からお前の妹はーーー”悪い子”になるんだー」

謎の男ー
”剛”はそう言うと、「お兄ちゃん!助けて!」と、
咲はそう叫んだー

「ーーさ、咲!咲から手を離せ!!」
尚道が必死に叫ぶー

がーー
男は義手から針のようなものを発射すると、
咲がうめき声を上げながら、”空気の抜けたボール”のようにしぼんでいきー、
そのままペラペラになって床に横たわったー

「ーー!?!?!?」
尚道は一瞬、”咲が殺された”と思い、真っ青になるー。

がーー
剛は、”皮になった咲”を掴むと、
それを着ぐるみを着るかのように着始めたー。

そして、信じられないことに”咲”そのものになると、
「素晴らしいだろう?」と、咲の身体を乗っ取って笑みを浮かべせて見せたー。

「な……?さ、咲ーー?」
尚道が震えると、横に立っていた朱音が微笑むー。

「あんたの妹は今、この人が乗っ取ってるのー」
嬉しそうに笑う朱音ー。

「クククーその通りー
 どうだ?この悪そうな悪人顔はー」

咲の顔を悪女のように歪めながら、咲は満足そうに自分の顔を触るー。

「ーーふ、ふ、ふざけるな!さ、咲を返せ!」
叫ぶ尚道ー。

「ーーそんな顔をするなー
 これは”救済”なのだからー」

乗っ取られた咲が言うー。

「き、救済ー?」
尚道が増えるながら言うと、剛は続けたー。

「そうー。
 この世は真面目にやっている人間がバカをみるー」

剛はー、小さい頃から”真面目”に一生懸命頑張って来たー。

しかし、大学を卒業し、就職したその先で、
問題が起きたー。
やりがいを求めて、小さな会社に就職した剛ー。
急成長を続けるその企業で真面目に頑張っていた剛ー。
会社も、そんな剛のことを評価してくれたー。

しかし、ある時、剛は先輩社員の不正を知ってしまい、
それを上司に報告したー。

がーー、その”先輩社員”は、会社にとって重宝されている人材ー。
剛は、会社に切り捨てられて、
罪を全て押し付けられてしまったー。

”ーーあんたは、所詮”使い捨て”の備品ー”
その際に、会社の女社長にそう言われたー。

その時ー、剛は悟ったー。

”この世は正直者が馬鹿を見るー”と。
真面目にやっていれば、最後には自分のように地獄を見るー、
とー。

「ーーだから、俺は”そうなる前に”人々を救済しているんだー
 この力でー

 この世は悪こそ正義ー!
 真面目に生きていれば、俺のように取り返しのつかないことになる!」

乗っ取られた咲が、剛の言葉を大声で叫ぶー。

「ーふ…ふ、ふざけるな!あ、あんたはそうだったのかもしれないけど
 それを他の人に押し付けるな!」

尚道は必死に叫んだー。

この男は、色々辛い思いをしてきたのかもしれないー。
だがー、それでもー…

そう思っていると、”咲”がペリッと真っ二つに割れて、
中から男が出て来たー。

「ーーさ、さ、咲!!」
咲が引き裂かれたような光景を見て、尚道が真っ青になるー。

「ー安心しろ。死んではいないー。
 お前の妹は今、”皮”になっているだけだー。
 元に戻せば、元通りー」

剛の言葉に、尚道は戸惑うー。

「ーわたしも一度、”皮”になったけど、
 ほら、こうして今は元気ー
 だから安心しなさいー」

クスクスと笑う元バイト仲間の朱音ー。

「ーーー…!」
そんな朱音をみて、尚道は剛の方を見つめたー

「ーお…お前…!
 お前が香坂さんに何かしたのか!?」

大人しい性格だった朱音が
バイト先のお金を盗んで逃亡したー

そんなことを香坂さんがするなんてー
と、ずっと違和感に思っていたー

しかしー

「ー言っただろう?これは救済だと」
剛は言うー。

「ー俺の”憎悪に満ちた息”を皮にした人間の中に吹き込むことでー、
 俺と同じように、その人間を悪意に満ちた人間に変えることができるー」

剛はそう言うと、
笑みを浮かべたー。

「俺のように、真面目に頑張りすぎてバカを見る前に、
 人を変えてやってるんだよー

 ”俺のように”なる前にー」

剛は両手の義手と義足ー、さらには機械のようになった
身体の一部を見せるー。

「ー会社に罪を押し付けられた俺は自殺未遂をしてこのざまだー。
 山中で死にかけてた俺を、偶然拾ってくれた男が
 俺に力を与えてくれたー」

剛はそう言うと、咲の皮を掴んで”咲の皮”の中に
自分の息を吐き出し始めたー

「や…!やめろ!おいっ!!おいっ!!!」
尚道が、剛を止めようとするー。

がーー

「ーー邪魔しないでー。
 わたしのように浅沼くんの妹も、救われるんだから」

朱音が、尚道の前に立ちはだかるー。

「ーーこ、香坂さんー…!し、正気に戻ってくれー!
 金を盗むなんて、犯罪だぞ!」
尚道がそう言い放つー。

しかし、今の朱音にそんな言葉は届かなかったー。

「だからなに?
 盗んだお金で、わたしはい~っぱい遊べたのー
 真面目にやるなんて、バカのすることよ?」

朱音がクスクスと笑うー。

「ーーおい!咲から離れろ!」
朱音の背後にいる”咲の皮を持つ剛”に向かって叫ぶー。

剛は、笑みを浮かべながら
尚道の方を見つめると、
「お前の妹は、特別だー」と、笑みを浮かべながら
”いつもより”さらに多くの吐息を、咲の皮の中に吹き込んでいくー

「やめろおおお!!」
朱音を押しのけて、剛の方に向かう尚道ー。

がー、息の吹き込みは終わり、剛は咲を人間の姿に戻したー。

人間の姿に戻った咲は、ゆらりと立ち上がるー。

「さーー咲…」
震える尚道ー

咲の目は、憎しみに支配されている目だったー。

「ーーークククー
 俺の息を”大量に”吹き込んでやったからなー
 どんな影響が出るかも分からないー」

剛がそう言うと、
尚道は、呆然としながら咲の方を見つめたー。

咲は静かに笑うー。

「ーーもうー何もかもどうでもよくなっちゃったー」
そう、呟きながらー。

「ーーさ…咲ー」
尚道はそんな咲に声をかけるー。

がーー
咲が、尚道の手を振り払ったー

「ーいつもいつも、お兄ちゃん面してウザいんだよ!」
咲の鬼のような形相と言葉に、尚道はショックを受けるー。

「ーーおぉー…ククーいい顔だー」
剛はニヤニヤしながら笑うー。

咲は、そのまま不機嫌そうに立ち去っていくー。

「ーもう、家には帰らないからー
 わたしは、わたしの好きなように生きるの」

咲のそんな言葉に、
尚道は「さ、咲…し、正気に戻ってくれ!」と、咲に向かって言い放つとー、
すぐに剛の方を振り返って「おい!咲を元に戻せ!」と、叫ぶー。

だがーー
剛は笑みを浮かべながら、
尚道にこう言い放ったー

「ー俺は普段、”女”しか救済しないんだがー、
 今回は特別だー。

 お前も”救済”してやるー」

とー。

「ーー!?」
剛の義手から、針のようなものが発射されて、尚道の身体から
力が抜けていくー。

咲と朱音が、尚道が皮になっていく様子を
興味なさそうに見つめるー。

「ーーークククー
 お前も、”闇”に染まれ」

剛はそう言うと、皮にした尚道に息を吹き込み始めたー。

剛はーー
かつて自分を裏切った女社長がー
普段は優しい雰囲気だった彼女が
”ーーあんたは、所詮”使い捨て”の備品ー”と、冷たく
言い放った顔が、忘れられなかったー。

トラウマになると同時にー、
悪女の顔に、ゾクゾクしたー。

そして今ー、
剛は、その興奮を楽しみつつ、”救済”と称して
人々に悪意を吹き込み続けているー。

「ーーまぁ、たまには男を救済するのもいいよなー」
剛は、そう言うと自分の息を吹き込んだ尚道を”人間”の姿に戻したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数日後ー。

「ーーえ……ちょ、浅沼くんー!?」

バイト先の書店のフリーター・梓が戸惑いの表情を浮かべるー。

咲を助けに行く前に、店長の優子を足止めしてくれたバイトだー。

しかしー

「ーーおい!咲!事務所の金庫を開けろ!
 俺はこいつをどうにかする」

尚道がそう言うと、咲は「分かったー」と、言いながら
書店の事務所に向かい、店長の優子を棒で殴りつけるー。

「ーーど、どういうことー!?」
梓が尚道の方を見つめるー。

「どういうって?
 強盗してるんだよー?みりゃ分かるだろー
 ククーこの店さ、結構売上あるからー」

尚道のそんな言葉に、梓は「ど、どうしちゃったの?」と、
震えながら言うー。

「ーーおい!クソ!わたしの店で好き勝手しやがって!
 ふざけんな!」
店長の優子が声を荒げるー。

優子自身も、”剛”の闇に染められて、もはや元の面影はないー。

「ーーうるさい!」
尚道の妹・咲が店長の優子にビンタを食らわせると、
そのまま金庫をこじ開け始めるー。

「ーーーーーー…な…なんで…こんなことー…」
梓が戸惑いながら呟くー。

がー、今の尚道にはそんな言葉はもう届かないー。

「ーーうるせぇ女だなー。
 お前は黙って金を盗まれるのを見てりゃいいんだよ」

尚道がそう言うと、
何が起きているのか分からない梓は、涙を浮かべながら
尚道の方を見つめたー。

闇は拡散していくー。
”剛”の悪意によって、人々は闇に堕ちていくー。

やがてー、尚道たちは
書店からお金を盗み出し、
この数日後に兄妹共々、警察に逮捕されてしまうのだったー。

おわり

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

コメント

”皮”の中に何かを吹き込んで悪い子にしてしまう…
そんなところから思いついた作品でした~!

お読み下さりありがとうございました~~~!☆

…元に戻れるなら私も(息を吹き込まれたら)私がどうなってしまうのか
見てみたい気分デス~笑

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皮<悪意の吐息>

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