その男は、人を皮にした上で、
自分の”息”を吹き込み、
人々を邪悪なる道へと転落させていたー。
拡散していく悪意ー
その町には、悪が満ち始めるー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーお疲れ様ですー」
男子大学生の浅沼 尚道(あさぬま なおみち)が、
そう言葉を口にしながらバイト先にやってくるー。
本来、今日は休みだった尚道ー。
しかし、突然バイト先の店長・坂下(さかした)店長から
呼び出されて、こうしてバイト先にやってきていたー。
「ーごめんねー。
香坂(こうさか)さんが急にいなくなっちゃってー」
店長の坂下 優子(さかした ゆうこ)は、
少し前に30代に突入したばかりの女性店長ー。
元バイトで、誰にでも優しいことから
バイトたちからも慕われているー。
「ーいえ、全然大丈夫ですけど、
香坂さんは何かあったんですか?」
その言葉に、店長の優子は
「う~ん…急に休み時間中にいなくなっちゃってー…」と、
そう言葉を口にしたー。
香坂 朱音(こうさか あかね)は、
尚道と同じ大学生ー。
通っている大学は違うが、とても真面目な子だー。
「ーあ、それは俺がやっておきますよ」
尚道が、品出しであたふたしている店長の優子に対して
そう言葉を掛けると、「ごめんねー」と、
言いながら、何やら戸惑いの表情を浮かべているー。
「ーーー」
尚道のバイト先は書店ー。
届いたばかりの商品を並べて終えて、
そのままレジの方に戻ると、店長の優子は
戸惑いの表情を浮かべながら言葉を口にしたー。
「ーーー…お金、盗まれてるみたいー」
とー。
「ーーえぇ?」
尚道が驚くー。
「ーーーーーー………」
優子は、困惑の表情を浮かべながら事務所の方に
戻って監視カメラを確認するー
するとー…
先程、突然姿を消した女子大生バイト・朱音が
笑みを浮かべながらレジからお金を抜き取って
そのまま立ち去っていく姿が監視カメラに残されていたー。
「ーーー……そ、そんなー…」
尚道も、その映像を店長の優子と一緒に見つめながら
茫然とした表情を浮かべるー。
いつも真面目だったあの朱音が、そんなことするわけがー…
そう思いながらも、カメラには”動かぬ証拠”が残されているー。
「ーー…わたし、人間不信になりそうー」
苦笑いする店長の優子ー。
「ーそ、そんなこと言わないでくださいよー
俺も、他のみんなも、店長の味方ですよ」
尚道は、店長の優子を何とか励まそうとそう言葉を口にするも、
優子は不安そうに暗い表情を浮かべたままだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーふふふふふ…
ふふふふ…あはははははははっ♡」
バイト先からお金を盗んだ女子大生バイト・朱音は
嬉しそうに笑みを浮かべながら数十万のお金を手に、笑っていたー
「店長ってば、お人好しすぎ!
それにー、店長のことだから、
”今まで一生懸命頑張ったわたしのこと”守ってくれそうだしー!
ふふふふふっ」
真面目そうな見た目とは真逆な、極悪な笑みを浮かべる朱音ー。
そこにー”男”が姿を現したー。
「ーーククククー…
今の”お前”の方がいい表情をしてるぞー」
男がそう言うと、朱音は笑いながら、
「ふふーそう?ありがとうー」と、そう言葉を口にするー。
「ーーーこれは救済だー。
俺は、お前のことも救ってやったんだー」
男は、それだけ言うと朱音は「うん」と、嬉しそうに頷くー。
”クククククー”
男は、そんな朱音の様子を見つめながら”昨日”の出来事を思い出すー。
・・・・・・・・・・
昨夜ー
「うん、今から帰るねー。
うんーうん。わかったー」
大学後に、バイトも終えて
バイト先を出た朱音は母親に電話でこれから帰ることを告げると、
そのままスマホをしまって、家への道を歩き出したー。
大人しそうな雰囲気の朱音ー
その通り、真面目な性格でバイト先でも重宝されているー。
がーー
そんな、真面目な彼女の背後から、男が迫っていたー。
「ーーーえっ!?」
人通りの少ない道で、男に腕を掴まれた朱音は驚くー。
「ーーこの世は真面目に努力しても報われないー」
男は、そう言葉を口にすると、
朱音を見つめたー。
「ーーお前も、真面目に頑張るのなんてやめてー、
”悪い子”になるんだー」
男の言葉に、朱音は「な、何を言ってるんですかー!?」と、
怯えた表情を浮かべるー。
が、男は笑みを浮かべたー。
「今からお前を”悪い子”にしてやるー
喜べー。これは救済だー」
そう呟くと、男は”義手”から、謎の針のようなものを発射して、
そのまま朱音を”皮”にしたー。
皮になった朱音を手に掴むと、
男は朱音を着て、朱音の身体を完全に支配しー笑みを浮かべるー。
鏡でその顔を確認する男ー。
さっきまでの大人しそうな朱音が
とても楽しそうに、邪悪な笑みを浮かべているー
「クククーいい顔だー。これでいいー」
朱音の”悪女顔”を朱音の身体を乗っ取って確認した男は、
そのまま朱音を脱ぐと、
ペラペラになった朱音のチャックのようなものを開いたままー
息を吸うと、そのまま、自分の息を”朱音の中”に吐き出したー。
風船を膨らますかのように、朱音の皮の中に
自分の吐息を吐き出していく男ー。
やがて、十分に朱音の中に自分の息が充満したのを
確認すると、男は満足そうに、朱音のチャックのようなものを閉じてー、
そしてー、先ほどの義手とは反対側の義手を使って、
光のようなものを放って、朱音の身体を元に戻したー
「ーーーぅ…」
目を覚ます朱音ー
「ーーー…くくくーどうだ?”悪い子”に生まれ変わった気分はー?
男の言葉に、朱音は一瞬表情を歪めるも、
不気味な笑みを浮かべるー
「ーわたしが悪い子…?
ーーーーくっ…ククククーー…」
朱音はさっきまでとは違う雰囲気で、そう言葉を口にすると、
「俺の憎悪や憎しみをお前にも分けてやったー」と、男はそう言葉を口にするー
男に”邪悪な吐息”を吹き込まれた朱音は、
昨夜ー、こうして”悪い子”に変貌を遂げてしまったのだったー。
そしてー
今日ー
朱音は、バイト先で金を盗み
これから豪遊しようとしていたー。
「ーーしかし、いきなりバイト先から金を盗むなんて大胆だなー」
男がそう言葉を口にすると、
朱音は「ふふー。驚いたでしょ?」と、強気な笑みを浮かべながら言うー。
ただー、その見た目は大人しそうな雰囲気であるため、
今の朱音からはとても強い違和感も発されているー。
「ーーわたし、これからこのお金で遊びまくるからー。
じゃー」
朱音のその言葉に、男は「ククー。存分に楽しめー」と、
それだけ言葉を口にすると、不気味な笑みを浮かべたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーただいま」
バイトを終えた尚道が帰宅すると、
家にいた妹の咲(さき)が、「あ、おかえり~」と、
いつも通り言葉を口にしたー。
「ーーバイト、大丈夫だった?」
咲のそんな言葉に、尚道は「ん?あ~なんか急に一人辞めちゃったみたいで」と、
急に呼び出しを受けた理由を咲に説明したー。
尚道と咲は、大学生と高校生になった今でも普通に仲良しで、
よく日常的な会話も交わしているー。
今日も、急にバイトに呼び出された時には
”なんかバイト先から呼び出されて!”と、咲に説明してから
バイト先に向かったぐらいだー。
「ーーへ~…そんな人、お兄ちゃんのバイト先にもいるんだ?
なんか、本屋さんってそういう人、あまりいないイメージじゃない?」
咲の言葉に、
尚道は「いやいやいや、本屋だから変なバイトいないってことはないと思うけど」と、
言葉を口にしてから、
「いやぁ、でもマジで驚いたよー。その辞めたバイトの子、すっごい真面目な子だったのに」
と、少し残念そうに言葉を口にするー。
咲は少しだけ笑うと揶揄うようにして、
「お兄ちゃん、その人のこと好きだったの?」と
クスクス笑うー。
「な、な、なにを言い出すんだよ!」
尚道は少し顔を赤らめながら言うと、
「ーーあ、図星!」と、咲が揶揄うようにして言葉を続けたー。
「ーう、うるさいうるさいうるさい!テストも近いんだろ?
ほらほら、俺のこと揶揄ってる暇なんてないだろ?」
尚道はそう言いながら、咲から逃げるようにして笑うー。
「ーー大丈夫大丈夫!勉強は順調だしー、
それよりお兄ちゃん!その人ー」
なおも楽しそうに尚道を揶揄おうとする咲ー。
「ーや、やめろ~!こう見えて以外と俺、
香坂さんがお金盗んだのショック受けてるんだから!」
尚道はそう言いながら、
バイト先の朱音がお金を盗んだことを、考えつつ
改めてショックを受けるのだったー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”店長ってばお人好しすぎー”
”皮”の中に、吐息を吹き込み、闇に染めた朱音が
言っていた言葉を思い出すー。
彼ー…
西園寺 剛(さいおんじ ごう)は、
人を皮にする力で、人を皮にし、
皮にした人間の中に、自らの息を吹き込むことで
その人間を闇に染めて回っているー。
全ては”救済”のためにー。
剛のあらゆる負の感情に満ちた吐息を
身体の中に直接吹き込まれた人間は、
バイトの朱音のように、闇に染まってしまうー。
「ーーー……」
閉店後の片づけをしている書店の前にやってきた剛ー。
「ーーー」
剛は少しだけ笑みを浮かべると、
「ーここの店長も”救済”してやろう」と、そう言葉を口にすると、
店の入り口をノックしたー。
「ーーはい…?すみませんー
今日はもう閉店でしてー」
店の中から、店長の優子が顔を出すー。
なるほどー。
確かにあのバイトの女が言っていた通り、
真面目で優しそうな雰囲気だー。
責任感も強いのだろうー。
顔には少しやつれた様子もあって、
きっと、”豹変した朱音”がバイトを急に辞めて、
しかもお金を盗み出していたことに、
困惑しているのだろうー。
「ーーー…」
男は、警察手帳のようなものを出すと、
「ここのバイトの香坂 朱音さんのことで
お伺いしたいことがあるのですが」と、
そう言葉を口にしたー。
「ーーえ?香坂さんの?」
店長の優子は、その名前に反応すると、
そのまま店の入り口を開けて、剛を店の中に
招き入れてしまうー。
店内に入った剛は、
店の中に優子と共に入ると、
すぐに言葉を口にしたー
「香坂 朱音さんがどうして急に”豹変”したかー
その理由を突き止めました」
剛の言葉に、店長の優子は少し不思議そうな表情を浮かべるー。
すると、剛は笑みを浮かべながら言ったー。
「ーーそれを今から、あなたの身体で実演しましょう」
とー。
剛が義手から針のようなものを発射して、
優子を”皮”にするー。
驚いた表情を浮かべながら、その場に崩れ落ちる優子ー。
そんな優子の”皮”を着て、優子の身体を支配すると、
優子の”顔”で、悪人顔をしてみせるー
「クククー普段の責任感ありそうな顔がー
こんなにーーー」
邪悪な笑みを浮かべた優子の顔は、
普段の優子が見せる優しい笑顔とは、
別人のように悪意に染まっていたー。
「ーーククククーお前のことも”救済”してやる」
剛はそう言うと、店長の優子の皮を脱いで、
そのまま自分の息を、皮になった状態の優子の中に吹き込みー、
そのまま優子の身体を”元”に戻したー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーー浅沼、今日、元気なくないー?」
翌日ー
大学での1日を終えた尚道の横を歩いていた
少し派手なギャルっぽい女子がそう言葉を口にしたー
「いや、そんなことはないよー」
尚道が笑うー。
彼女ー
野中 萌々奈(のなか ももな)は、
高校時代に知り合った子で
大学も同じであることからそれなりに喋る相手だー。
萌々奈の方がどう思っているかは知らないが、
少なくとも恋人同士という間柄ではなく、
”良く喋る異性”ぐらいの間柄だー。
「あたしが当ててあげよっかー?
さてはーーー
浅沼ーーー
失恋したでしょ?」
萌々奈がニヤニヤしながらそう言葉を口にするとー、
「ーー何で妹と同じようなことを言うんだよー」
と、昨日の妹・咲との会話を思い出しながら
尚道がため息をつくー。
「ーあははは!やっぱり~!
何なら、あたしが変わりに付き合ってあげよっか?」
笑いながら言う萌々奈ー。
「ーーいやいや、別に付き合ってた相手に振られたわけじゃないしー」
尚道はそう言いながら、萌々奈としばらく会話をしながら歩くー。
そして、大学を出た先で分かれると、
尚道はバイト先の本屋に向かって歩き出したー。
そのバイト先には
もうー
”優しい店長”はいないー。
そのことを、知らないままー。
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
身の回りの人間が次々と悪意に染まっていく…
恐ろしい状況ですネ~!☆★!
この先狙われそうな人物もチラホラと…?★笑
続きはまた明日デス~!
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