<寄生>触手に囚われし者②~救出~(完)

海から出現した謎の触手に
支配されてしまった彼女…

なんとか、彼女を助け出そうとするも…?

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「ーーー!?」
旅館周辺で、乗っ取られた彼女・杏奈を助け出そうと
その方法を考えていた彼氏の照樹に、
その”杏奈”から電話が掛かって来たー。

「あ、杏奈ー!?」
照樹は慌てて電話に出ると、
すぐに、電話の向こうから杏奈の声が聞こえて来たー

”て、照樹ー…助けて…”
聞こえてきたのは、杏奈の苦しそうな声ー。

「ーーあ、杏奈ー…今、どこにー!?」
照樹が慌てた様子でそう叫ぶと、杏奈は
まだ海辺の近くにいるらしく、”海の側…動けない…”と、
苦しそうにそう言葉を口にしたー。

「ーーわ、わ、分かったー今、助けに行くから!」
照樹は、そう叫びながらも
”さっきのOL”ー…夏帆のことを思い出すー。

夏帆は”海辺で倒れた状態”で、照樹と杏奈をおびき寄せ、
罠にはめたー。

結果、杏奈は触手に乗っ取られてしまっているー。

「ーーー……本当に、杏奈だよなー?」
照樹がそう言葉を口にすると、
杏奈は泣きながら”ーーどういう意味ー?”と、返事をしたー。

杏奈には”乗っ取られた”という自覚はないのだろうー。
触手に意識を支配されている間、
自分の意識が飛んでいるのだとすれば、無理もないー。

一時的に杏奈が自分の意識を取り戻して、
必死に助けを求めて来たー、という可能性も十分にあるー。

しかしー…

”杏奈を乗っ取ったやつ”が、杏奈のフリをして、
照樹をおびき出そうとしている可能性も十分に考えられるー。

「ーー分かったー今、行くよー!そこで待ってて」
照樹は、電話の向こうの杏奈に対してそう叫ぶと、
そのまま電話を終えたー。

「どうかしましたか?」
近くにいた、”乗っ取られたOL”の同僚である雄平が
心配そうに言葉を口にするー。

「ーー彼女から、助けを求める電話がー」
照樹がそう言うと、雄平は表情を歪めたー。

「ーーーー実はーー…私の方にもー」
とー、ちょうど同じタイミングで同僚のOL・夏帆からも
助けを求める電話があったことを告げたー。

「ーー……そ、それってー」
照樹は表情を曇らせるー。

杏奈と夏帆が同時に電話をしてきたー。
明らかに”本人が助けを求めているのではない”ことを示している気がしたー。

”触手”のような形をした生命体が、逃げた照樹や雄平をおびき寄せようとしているのだろうー。

そう思いつつも、照樹は悔しそうに表情を歪めるー。

分かっているー。
罠だと、頭では理解しているー

でもーーー

”照樹ーお願い…助けて”
今度は、杏奈からそんなメッセージが送られてくるー。

”綿野さんー…助けて”
同時期に雄平にも、同僚の夏帆からメッセージが送られてくるー。

「ーーー……」

確実に罠だー。
明らかにー。

それでもーーー

照樹には、杏奈を見捨てることはできなかったー。

「田原さん!?」
雄平が叫ぶー。

「ーお、俺には…杏奈を見捨てることはできませんー!
 もし、俺が戻らなかったらー…あとはお願いします!」

照樹はそう叫ぶと、旅館の中に戻り、
”料理用の包丁”を、何とか借りることはできないかどうか、
スタッフに確認するー。

「ーーし、しかしー」
戸惑うスタッフー。

「お願いしますー。彼女が、あの触手にー!」
テレビのニュースを指差しながら、必死にお願いをする照樹ー。

ようやく、スタッフは照樹の願いに応じて、
包丁を手渡してくれたー

「ーあの触手ー…ぶった斬ってやる!」
照樹は怒りの表情でそう叫ぶと、そのまま海に向かって走り出したー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「触手への攻撃準備が整いましたー」

鹿児島湾ー。
照樹たちのいる場所とは別の場所では、
”謎の触手”に対する攻撃命令が発令されていたー。

「ーー攻撃を受けた触手が、どんな反応をするか分からないー。
 気を付けろ!」

隊長らしき人物がそう言い放つと、
謎の触手に向けての攻撃が開始されたー。

海中から次々と現れる巨大な触手ー。

”上陸”すると、触手は”自ら”切り離されるように本体から分離し、
人間に向かっていくー。

「ーーくそっ!次から次へと!」

”本体”は、海中に潜んだままー。
その姿を確認することはできず、
地上に触手を伸ばしてはそれを自ら切り離して、
地上に放っているー。

「ーーこのままじゃキリがない!海にいる本体に攻撃を叩きこむぞ!」
隊長がそう叫ぶと、上空から戦闘機がやってきて、
海に対して攻撃を放つー。

激しく上がる水しぶきー。
後々、色々批判は上がるだろうー。
しかし、今はこの危険な生命体の排除を優先しなければならないー。

鹿児島湾の他、
浦川沖や、千葉沿岸部でも同様の戦闘が開始されているー。

突如として出現した触手型寄生生物への攻撃ー。

それは、順調に進んでいるかのように見えたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

照樹は、再び海辺へと戻っていたー。

そこにはー、触手に囚われ、
宙に浮いた状態の杏奈の姿があったー

「杏奈!」
触手に拘束された状態の杏奈に向かって
声を上げる照樹ー。

杏奈は、苦しそうに目を覚ますと
「照樹ー…」と、照樹の方を見つめたー。

杏奈は正気なのかー
それとも、乗っ取られているままなのか、
それも分からないー。

「ーー…」
照樹は警戒しながら、杏奈から一定の距離を取ったまま
声を発するー。

「ーおい!触手野郎!」
照樹は”触手”に向かって話しかけるー。

海の穏やかな波の音を聞きながらもー、
心は荒波のように荒ぶっていくー。

照樹は、”相手”の返事も待たずに
さらに言葉を続けるー。

「ーーどうせ、聞いてるだろ?」

触手からの返事はないがー、
触手は、杏奈、あるいはOLの夏帆の身体を使って
照樹の言葉を聞き、理解しているはずだと思いながら、
照樹は、触手に語り掛けるー。

「杏奈を早く解放しろ!
 そして、大人しく深海へと帰れ!
 
 地上は、お前たちのいる場所じゃない」

照樹はそう言うと、
杏奈は困惑した表情で「て、照樹ー…早く助けて!」と、
まるで”照樹に近付いてきてほしい”かのような言葉を口にするー。

「ーー大丈夫だ杏奈ー
 必ず、必ず助けるから」

照樹は、その誘いには乗らず、
”もしも”杏奈が正気だった場合も考えた上で
優しくそう言葉を言い放つー。

そして、再び”触手”に向かって語り掛けるー。

「ーー杏奈をー、いや、人間をそんな風に支配しようとするなら、
 人間も、お前たちを攻撃しなくちゃいけなくなるー。

 俺は、ただの一般人だけどー、
 もう、全国でニュースになってるー。

 人間が本気になったら、お前たちだって無事じゃすまないー。

 杏奈を、他の場所の人たちも解放して、
 深海に戻ってくれー。頼む」

照樹はそう言い放つー。

それが、”お互いのため”だとー。

争わずに済むのであれば、
それが一番いいー。

するとー、
触手は、宙に浮かべるような形で拘束していた
杏奈の身体を地上まで下ろし始めたー。

「ーーー…」
杏奈の身体が地上に到達して、触手たちが杏奈から離れるー。

「ー分かってくれたのか…?」
杏奈を解放してくれたー。
そんな風に感じた照樹はそう言葉を口にするー。

しかしー…

”そう”ではなかったー。

触手が再び動き出すと、
先端部分を細く変形させて、そのまま杏奈の耳から、口から
中に進入していくー

「ぁっ… ひぃっ… ぁ…」
杏奈が苦しそうにもがき始めるー。

ガクガクと震えて、痙攣しながら白目を剥く杏奈ー。

「おっ…おいっ!」
照樹がそう叫ぶと、杏奈は白目のまま笑みを浮かべるー。

「ー早く、助けてくれないと… わたし、苦しいよぉ…」

苦しそうに笑みを浮かべながら呟く杏奈ー。

明らかに、正気ではないー。

しかし、触手は、杏奈の耳に突き刺した部分を
ぐりぐりと動かしー、杏奈がこの世のものとは思えない
苦痛の声を上げるー。

「ーーあ…杏奈ー くそっ…!」

杏奈の身体を使って、照樹をおびき寄せようとしているのは、
分かっているー。

しかしーーー

さらに、杏奈は白目のままにやりと笑うと、
「脳みそー、かき混ぜられちゃぅ」と、苦しそうに呟くー。

そして、ブルブル震えながら、
「がっ… …ぁ」と、恐ろしい苦しみ方をし始めるー。

”罠だー”
そう分かってながらも、照樹は耐えられずに、
杏奈の方に駆け寄ってしまうー。

すると、杏奈は笑みを浮かべたー。

「ーー”情”って、人間の最大の弱点だよねー」
と、言葉を口にしながらー。

杏奈は、近付いてきた照樹の腕を掴むと、
「ーー人間の身体を使って、情に訴えればお前たちは
 すぐに思い通りに動くー」と、邪悪な笑みを浮かべたーー。

電話をかけてきたのも、
触手に拘束されて助けを求めてきたのも、全ては演技ー。

人間は、”情”に弱い生き物だからー

「ーーククククク…
 大丈夫ー。お前も仲間になったら、
 ”こいつ”と一緒にいさせてあげるからー」

杏奈は笑いながらそう言うと、海の方に向かって叫んだー

「ーほら!新しい身体!!
 来なさい!」

杏奈の言葉に反応するかのように、海から触手が飛び出すー。
陸地に上がった触手は、照樹の方に向かって来て、
そのまま照樹の眼前まで迫ったー。

「ーーーぐ……」
照樹は何とかしようともがくも、どうすることもできないー

力を振り絞って、照樹は杏奈の方を見つめると、
「助けられなくて、ごめんー」と、悔しそうにそう呟いたー。

その言葉は、もう杏奈には届かないー。
そうは、分かっていても、
そう吐き出さずにはいられなかったー。

触手が、照樹の耳の中に入り込んでいくー。

照樹に入り込んだ触手だけ、本体から切り離されて、
本体は、そのまま海の方に戻っていくー。

「ーーーぁ…」
照樹は、意識が途切れるその瞬間まで、
大切な杏奈のことを、只々、考えていたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

各地の沿岸部では、謎の触手型寄生生命体との
戦いが続いていたー。

「ー海外でも同様の触手が出現したらしい!」
「一体、どうなってるんだ!?」

戦闘を行いながら、そう叫ぶ隊員たちー。

海から飛び出す触手に対して
砲撃の嵐を浴びせ、触手の進行を阻止していくー。

だがーーーー
しばらく攻撃を加えると、触手の出現は止み、海が静まり返ったー。

「ーー…た、倒したのかー?」
隊員の一人がそう言い放つと、
次の瞬間ー、海から何か”巨大なもの”が出現するかのように、
海が波打ち始めたー。

今まで以上の数の触手が、蠢きー、
戦闘をしていた部隊の男性隊員も、女性隊員も触手に捕まり、
”寄生”されていくー。

そしてーー、
寄生された女性隊員は笑みを浮かべたー。

「ーお前たち人間は、我々には勝てないー」
そう、笑いながらー。

海から”巨大な何か”ー
そう、触手の”本体”が姿を現すー。

「ーな、な、なんだあれはー!?」
まだ寄生されていない隊員が叫ぶー。

全長数十メートルにも及ぶ、
巨大なタコのような生物ー。

その手足が、長く伸びる触手状になっているー

これが、海から出てきていた触手の”本体”ー。
海の中から触手を伸ばし、人間を捕獲すると、
触手の先端部分を切り離し、人間に寄生ー、
その人間を支配する謎の生命体ー。

切り離した触手にも、それぞれ知性があり、
乗っ取った人間の脳を駆使しながら、
それぞれ自立して行動する。

「ーこ、こ、こんなやつー……見たことも聞いたこともないぞ!」
隊員の一人がそう叫ぶと、
既に寄生されている女性隊員が笑いながら叫んだー

「ーお前たち人間は、”深海”の何を知っている?
 
 地球の支配者気取りがー。
 我々は、深海でずっと力を蓄えて来たー。
 今日、この日のためにー」

寄生された女性隊員の言葉に、男性隊員は震えるー。

ずっと、待っていたー
この日を。

深海から一斉に各地の攻撃を始めた
謎の寄生生命体たちー。

各地での戦闘は、敗北に終わったー。

各国は、沿岸部から退避するように
呼びかけを行いー、
人類は、海の付近から撤退したー。

だがー、
海に近寄ることのできなくなった人類は、
次第に追い詰められていくー。

ジワジワとーーー

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーククククー
 人間たちが追い詰められていくのを見てるとー
 興奮しちゃうねー?」

寄生された杏奈が、笑みを浮かべながら言うと、
隣に立っていた寄生された彼氏・照樹が
笑みを浮かべながら答えたー。

「ーーそうだなー…最高の光景だー」

二人は、追い詰められていく人類を見つめながら
嬉しそうに手を繋ぐー。

もう、元の関係に戻ることはできないー…。

おわり

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コメント

触手X寄生の物語でした~!☆

人類側の反撃……は、
なかなか難しそうですネ~!笑

お読み下さりありがとうございました~!☆!

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