<憑依>僕は悪いやつらと縁を切る①~変化~

最近、幼馴染が悪いやつらと付き合い始めたー。

その影響を受けてか、彼女の素行もだんだんと
悪くなっていくー。

そんな状況を苦々しく思っていたある日ー…

・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーあははは~
 それホントですか~?」

茶髪の女子生徒が、楽しそうに笑っているー。

その近くには、三人のガラの悪い男子生徒ー。

特に、その三人のリーダー格である、
一学年上の先輩・熊山 浩司(くまやま こうじ)という男子生徒は、
以前、問題を起こして停学処分を受けたこともある厄介者だー。

「ーーへへーホントだぜ?今度、俺んちで見せてやろうか?」
熊山先輩の言葉に、「え?いいんですか?見に行きます!」と、
目を輝かせている女子生徒ー。

その横にいた彼氏の北澤 久義(きたざわ ひさよし)が口を開くー。

「ーー先輩~、麻梨奈(まりな)は俺の彼女なんですからね~?」と、
茶髪の女子生徒・麻梨奈を自分の方に近寄らせながら笑みを浮かべるー。

「ーーーーー」
そんな、麻梨奈と三人の男子が話しているのを、横目で見つめながら
少しイヤそうな表情を浮かべている男子生徒がいたー。

彼の名は、小沼 武史(おぬま たけし)ー。
気弱な雰囲気の男子生徒で、性格も”見た目通り”の性格と言ってよいー、
そんな男子生徒だー。

彼とー、今、ガラの悪い男子三人と話をして騒いでいる
女子生徒・川井 麻梨奈(かわい まりな)は幼馴染だったー。

麻梨奈は小さい頃からお姉さんのような性格で、
武史が困っているとすぐに助けてくれるような、
優しい性格の女子だったー。

小さい頃は一緒に遊んだりもした間柄だー。

しかしー、
高校に入学して”彼氏”が出来てから、麻梨奈は変わってしまったー。

隣のクラスのイケメンな男子生徒・北澤 久義ー。
彼は裏ではそこそこ派手な生活を送っていて、
それを知らずに久義と付き合い始めた麻梨奈は
だんだんと、久義の影響を受けたのか、
派手になっていき、素行も少しずつ悪くなりつつあったー。

しかも、最悪なことに久義は
学校一の問題児とも言える不良男子で先輩の熊山 浩司とも親しくー、
彼女となった麻梨奈も、彼氏の久義を通じて
熊山先輩と親しくなってしまったー。

その上、クラスの問題児・柿原 竜一(かきはら りゅういち)とも
最近は仲良くしていて、
今もその三人の男子と楽しそうに談笑しているー。

「ーーーーー」
別に、麻梨奈は武史の彼女ではないし、
あくまでも”幼馴染”でしかないー。

しかも、自分は大人しい性格で、
どちらかと言うと、クラスの端っこにいるタイプー。
いつもキラキラしている麻梨奈とは、
昔、仲良かったとは言え、住む世界が違うー。

自分のような人間が口出しをすることではないー、と、
武史はそう思いながら我慢をしていたー。

がー、そんなある日の放課後ー。

「ーーーー」
図書委員会に所属している武史が
放課後の図書当番を終えて、図書室の片づけをしていると、
麻梨奈が突然、図書室に入って来たー

「ーーあ…小沼くんー。ごめんねー もう閉める?」
麻梨奈の言葉に、武史は「え…あ、いや、大丈夫だよー」と、
そう答えると、麻梨奈は「よかったー。ありがと」と、
言葉を口にしながら、図書室の中に入って来るー。

麻梨奈は昔から、本を読むのが好きだったー。
悪い奴らと付き合い始めても、それは変わっていないのだろうー。

茶髪になった麻梨奈の後ろ姿を見つめるー。
スカートも以前より短くなっただろうかー。

爪にもネイルが施されていて、”変わってしまった幼馴染”を見ると、
なんだか、胸が締め付けられるような、そんな感覚を覚えるー。

「ーーーお待たせ!これをお願いー」
読みたい本が見つかったのか、麻梨奈がそれを借りようと
カウンターに持ってくるー。

「ーーーーーあ、うんー」
どう話していいのか分からず、何となく口数が少なくなってしまいー、
そのまま貸し出しの手続きをしていると、
麻梨奈は「小沼くんー最近、元気ないように見えるけど、大丈夫?」と、
心配そうに言葉を口にしたー。

「え??そ、そうかなぁ?」
武史は戸惑いの表情を浮かべながら苦笑いするー。

今は特にいじめられているわけではないし、
悩み事を抱えているわけでもないー。

元気がないように見えたのであればー
それはー…
きっと、麻梨奈のことだと思うー。

しかし、本人に対して”川井さんが変わっていくのがつらくてー”
などと言うことはできないー。

「ーー何か困ってることがあったら、何でも言ってね?
 わたしにできることなら、力になるから」

麻梨奈はそう言いながら微笑むー。

少し派手になってもー
悪いやつらと付き合い始めても、
こういうところは変わらないー。

だからこそ、余計に心が痛むー。

「ーーーー…あ、ありがとうー…
 そ、そういえば川井さんは、最近なんだか、派手になったよねー」

武史はそんな言葉を口にするー。

”あんな奴らと一緒にいてほしくないー”
それが、武史の本当の願いー。

だが、そんなことを言うわけにもいかずー、
”これ”が、武史に言える精一杯の言葉だったー。

「ーーーあー、あはははー…
 小沼くんは、こういうの苦手だよねー?」

自分のネイルを見つめながら、麻梨奈はそう言葉を口にすると、
「ーーでも、わたしはわたしだから大丈夫ー。気にしないで」と、
そんな言葉を口にしたー。

麻梨奈の彼氏・久義は表向きはさわやかなイケメンだが、
”裏の顔”も持つ男子生徒ー。
昼休みに隠れて喫煙しているのも知っているー。

先輩の熊山は、どうしようもない悪党だし、
その二人と一緒になっているクラスの問題児・竜一も
喫煙したり、さらには別のクラスの男子生徒をイジメたりしている問題児だー。

夜遊びもしていると聞いたー。

「ーーーーーー……川井さんはーー…
 煙草、吸ったりしてないよねー…?」

勇気を振り絞り、武史はそんな言葉を口にすると、
麻梨奈は表情を少しだけ歪めるー。

「煙草ー…?なんで?」
麻梨奈の言葉に、武史は「そ…その…北澤くんー…喫煙してるみたいだから」と、
そう言葉を口にするー。

麻梨奈が”彼氏の悪い顔”を知らないのではないか、と、
そう思ったのだー。

がー。

「ーーふふ 知ってる知ってるー
 でも、ちゃんと隠れて吸ってるし、問題ないでしょ?」

麻梨奈が微笑むー。

「ーーーー…」
そんな言葉、聞きたくなかったー。

小さい頃から、優しくて、しっかり者だった麻梨奈ー。
確かに”煙草ぐらい”という生徒もいるのかもしれないー。
でも、違反は違反だー。

麻梨奈の口から”隠れて吸ってれば問題ない”なんて言葉は
聞きたくなかったー。

「ーーー……小さい頃の川井さんならーーー」
武史がそこまで言いかけると、
麻梨奈は「もういい?」と、借りようとしていた本を手にして、
立ち去ろうとし始めるー。

「ーーーあ、ご、ごめんー…じゃあ、返却期限は1週間後のー」
と、武史が説明を口にすると、
麻梨奈は「ありがと!」と、それだけ言いながら
立ち去って行くー。

「ーーーーーー」
”川井さんは変わってしまった”

確かに、変わっていないところもあるけれどー、
やっぱり、悪い生徒たちの影響を受けているー。

そう思わずにはいられなかったー。

「ーーーあ…」
ふと、カウンターの上に
スマホが置かれているのに気づくー

「あ…川井さんのスマホー」
そう思った武史は、そのままスマホを手に、図書室を飛び出すー。

そしてー、階段を下りている最中だった麻梨奈に追い付くと、
「ーー川井さん!スマーーー
と、そう言葉を口に仕掛けたー。

がーー

「あっ!?!?」
階段を一段踏み外し、そのまま転倒してしまう武史ー

「ーえっ!?」
振り返った麻梨奈に、正面から衝突して、
武史はそのまま階段を転がり落ちてしまったー…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーー…ぅ」

麻梨奈が目を覚ますー。

だが、その様子は何だかおかしかったー。

周囲をキョロキョロと見回すとー、
「ーーぼ、僕はー…?」と、そう呟いてから
「えっ…!?」と、一人で自分の口元を触りながら、
混乱の表情を浮かべるー

「な…なんだこの声… えっ…?」
そう思いながら、表情を歪めていると、
保健室の先生が、ちょうど保健室に戻って来たー。

「ーあー”川井さん”目を覚ましたんだねー。よかったー」
保健室の先生がそう言葉を口にするー。

「川井ーー…さん?」
麻梨奈は表情を歪めるー。

”川井”とは、
川井 麻梨奈ー、
つまり彼女自身のことだー。

しかし、麻梨奈は不思議そうに表情を歪めるー。

「ーーーえ…えっとーー…
 え…?」

そう呟きながら、自分の身体を見下ろすと、
そこには女子の制服が見えるー。

しかもー…
あるはずのない胸の膨らみがー

「ーーな、なんだこれ!?」
思わずそんな声を上げてしまう麻梨奈ー。

それもそのはずー。
”麻梨奈”として目を覚ましたのは、
麻梨奈の幼馴染でもある武史だったのだー。

「ーーどうしたの…?大丈夫?」
保健室の先生が、困惑した表情を浮かべるー。

その表情は、既に疲れているような感じにも見え、
何か問題が起きているであろうことを、伺わせるー。

「ーーーえ…えっとー…
 あ、か、鏡ー…鏡は、ありませんかー?」
麻梨奈になってしまった武史は、そんな言葉を口にすると、
保健室の先生は、「鏡ならあそこにあるけどー」と、
保健室内の鏡を指差すー。

寝ていたベッドから立ち上がる麻梨奈ー。
幸い、怪我はほとんどしていないようで、
少し足が痛むぐらいだー。
それも、歩く分には問題ないー。

生まれて初めてのスカートの感覚に混乱しながら、
よろよろと鏡の前に歩いていくと、
そこに映っていたのはー、
他でもない、麻梨奈の姿だったー。

「ーーーー…ぼ、僕が川井さんにー…?」
そんな言葉を小声で呟く。

ドキッとすると同時に、
”川井さんはどうなってしまったのか”という不安と、
”僕の身体はどうなってしまったのか”という不安ー、
色々な不安が頭の中に浮かび上がってくるー。

「ーーあ、あの、ぼー………お、小沼くんはー…?
 ぼk…じゃない…わたしと一緒に落ちたー」

麻梨奈がそう言うと、
「ーーそれがー」と、保健室の先生が言葉を口にするー。

「ーーえ……」
麻梨奈は、その反応にとてもイヤな予感を覚えたー。

”もしかしたら、僕の身体は死んでいるのではないか”と、
そんな、強い不安を覚えたのだー。

がーー…
保健室の先生から出た言葉は、
その”最悪の予感”とは少し違う言葉だったー。

「それがー…”どこにいるか”分からないのー」

「ーーえ?」
麻梨奈は、表情を歪めるー。

「それは…どういうことですか?
 ぼー…… お、小沼くんがどこかに立ち去ったってことですか?」

また”僕”と言いそうになってしまいながら、
そんな言葉を口にすると、
保健室の先生は首を横に振ったー。

「ーー倒れていたのは、川井さんー、あなただけだったってことー」
保健室の先生の言葉に、麻梨奈は困惑の表情を浮かべるー。

一瞬、保健室に一緒に運び込まれたあとに、
武史が先に目を覚まして、どこかに行ってしまったのかと、
そう思ったものの、
どうやらそうではない様子だったー。

「ーーあなたたちが階段から落ちるのを見た子がいて、
 その子がすぐに職員室と保健室に伝えに来てくれたんだけどー、

 その子が言うのー。
 ”階段から落ちる途中に小沼くんが、突然消えた”ってー」

保健室の先生の言葉に、
麻梨奈は表情を歪めるー

「消えたー…?」

麻梨奈は、自分の手を見つめるー。

”ーー僕が、川井さんの中に入り込んで、消えたってことー…?”

何らかの原因で、武史は麻梨奈に憑依してしまったー…
そういうことなのだろうかー。

「ーーー…きっと何かの見間違いだとは思うんだけどー
 今も、小沼くんは見つかってなくてー」

保健室の先生の言葉に、困惑する麻梨奈ー。

「ーーーー…それより、川井さんは
 身体、何ともない?」

保健室の先生の言葉に、
「ーーあ…はい、足が少しジーンとする以外はー」と、
そう答えながら、自分の足を見つめるー。

しかしー
麻梨奈の足が視界に入って、少しドキッとしてしまい
顔を赤らめるー

「ーーーーーー」
保健室の先生が、そんな様子を見つめながら
少し不安そうにすると、
「ーー小沼くんのことは、先生たちで探しておくからー、
 今日は念のため、安静にね」と、
麻梨奈にそんな言葉を掛けたー。

「ーーー…僕が、川井さんにー…」

麻梨奈に憑依してしまった武史は、
保健室の外に出ると、そう言葉を呟きながら
戸惑いの表情を浮かべるのだったー。

②へ続く

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コメント

幼馴染に憑依してしまった武史くん…★

入れ替わりみたいなきっかけでの憑依ですが、
今回は<憑依>と書いてある通り、
憑依モノデス~!

また明日も楽しんでくださいネ~!

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