<憑依>最悪な先輩①~お願い~

ある日、バイト先の先輩が”憑依薬”を手に入れたー。

”お前の妹に1時間だけでいいから憑依させてほしい”

そんなことを言われた彼はー…?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーへ~やっぱ、みんなそんなもんなのかなぁ」

男子大学生の土谷 利幸(つちや としゆき)は、
そんな言葉を口にしたー。

「ーう~ん、みんなってわけじゃないけど、
 そういう子もそこそこいるかもー」

現在高校に通っている妹・円香(まどか)が、
そう言いながら少しだけ笑うー。

”友達が、お兄ちゃんと滅茶苦茶仲が悪いらしくて、
 羨ましがられちゃった”
と、そんな雑談をしている最中だー。

「ーーう、うちもそうなったりしないよな??」
利幸が不安そうに言うと、
円香は「あははーわたしはお兄ちゃんのこと、ウザいとか
キモいとか思ってないし、大丈夫!」と、
笑いながらそんな言葉を口にするー。

「ーーこの世の思春期の妹全員が
 お兄ちゃんのこと嫌いなわけじゃないだろうしー」

円香はそう言いながら笑うと、
「ーわたしは、お兄ちゃんから嫌われない限り仲良しだよ!」と、
そう言葉を口にしたー。

「はははーならよかったー
 俺も嫌われないように、変なことはしないようにしなくちゃな」

そう言いながら、嬉しそうにしている利幸ー。

だがーー
翌日ー
バイト先で利幸は、”とんでもない事態”に直面することになってしまったー。

それはー…

「ーーなぁ土谷ー
 俺、すげぇモン手に入れたんだー」

利幸のバイト先の先輩・藤岡 卓也(ふじおか たくや)が、
そんな言葉を口にし始めたことから始まったー。

「ーすげぇモンー?何ですか?」
笑いながらそう答える利幸ー。

バイト先の先輩・卓也は、利幸がこのバイト先に
入った時から何かと世話になっている先輩で、
後輩に対する面倒見がとても良い先輩だー。

少しフレンドリーすぎるところがある気もするけれど、
お世話になっている先輩であることは間違いなかったー。

そんな卓也が言うー。

「ーー”憑依薬”ー
 他人に憑依できる薬さ」

とー。

「ーーーーー」
瞬きをしながら利幸は、きょとんとした表情を浮かべると、
「ーははは、え?一体どういうことですかー?」と、
笑いながら言葉を口にするー。

いきなり、”憑依薬”などと、
あまりにも現実離れしたことを言われて
流石に笑わずにはいられなかったー

「ー他人の身体を乗っ取って、その身体を自分のものとして
 使うことができる薬を手に入れたんだ」

卓也がそう言い放つと、
利幸は「え?それ本気で言ってます?」と、思わず聞き返してしまうー。

「ーーあぁ。昨日”試した”けど、普通に使えたしー」
卓也の言葉に、「た、た、試した!?」と、利幸は戸惑いの表情を
浮かべるー。

「ーーえ…いや…でも”憑依”なんてー え…?
 本当にできるんですか?」
少し興味があるのか、利幸がそんな反応を示すと、
卓也は「へへー」と、満足そうに頷いたー。

どうやら、ネットで”憑依薬”なるものを見つけて
興味本位でそれを注文した卓也ー。
卓也自身も、最初は”どうせ詐欺だろ”などと思っていたようだったが、
昨日、それが到着して”姉”で試したところ
本物だったのだと、卓也はそう説明したー。

「ーーーへ…へぇ~…なんかすごいですね」
利幸はそう言いながらも、
だんだんと”興味”よりも”恐怖”の方が自分の中で
勝り始めるのを感じたー。

それもそのはずー。
”憑依”などということがもしも本当にできるのだとしたら
自分だって憑依される可能性があるからだー。

「ーーそれより先輩ー」
利幸が”憑依”の話を終わらせようとそう言葉を
口にしたその時だったー

「お前の妹って可愛いよなー」
卓也がそんな言葉を口にするー。

「ーーーえ」
利幸が表情を歪めるー

妹の円香は、以前、兄のバイト先であるこのお店に
何度か来たことがあって、
その時に卓也とも顔を合わせているー。
そのため、卓也自身も利幸の妹である円香のことは
知っているー。

「ー円香ちゃんだったっけー?
 なぁ、1時間だけでいいからさー”憑依”させてくれよ」

卓也は、そんな信じられない言葉を口にしたー。

「ーーえ… え… い、妹に、ですかー?」
利幸は激しく動揺しながら、ようやくそんな言葉を吐き出すー。

正直”そんなことを言われる”とは夢にも思っていなかったのだー

「ーそ、それはー
 さすがにー…
 俺が勝手に決めちゃわけにもいきませんし、
 妹に確認を取らないとー」

利幸は、内心で焦りながらそんな言葉を口にするー。
藤岡先輩は確かに、普段はいい人だし世話にもなったー。

しかし、だからと言って妹に憑依させるなんてことはあり得ないー

”円香に確認を取って断られたことにして”
穏便に済ませようと、そう利幸は心の中で考えるー

だがーー

「ーー大丈夫だって。1時間ぐらいなら
 寝落ちしてたってことにすれば
 本人も気付かないだろうし、気にすることないだろ?」

卓也はしつこく食い下がって来たー。

「い…いや…で、でもー…
 妹だからとかじゃなくて、他人の身体を勝手に使うなんてー…
 ちゃんと本人の許可を取らないとー」

利幸が、そう反論するー。

「ーーはははー土谷は真面目だなぁ。
 大丈夫大丈夫ー。
 1時間で必ず解放するし、妹さんの人生を壊すようなこととか
 傷つけることも絶対にしないー。

 本人が寝落ちしても、不自然じゃないタイミングに
 教えてさえくれれば、俺が上手くやるからさー

 あ、もちろん、妹さんに憑依した俺のことは
 見張っててもらって構わないー。

 な?1回きりだから!頼むよ!」

卓也の言葉に、利幸は困惑するー。
いくらお世話になっている先輩とは言え、
正直、”妹に憑依”なんてさせたくはないー。

円香本人だって嫌がるに決まっているし、
そんな話をしただけで怖がるはずだー。

だがー…
昔から”人に強く言われると折れてしまうタイプ”の
利幸は、先輩からの執拗なお願いを断ることができずー、
「じ、じゃあー…1時間だけ。1回きりですよ?」
と、不満そうにしながらもそう言葉を口にするー。

「分かってる分かってる!
 約束は守るよ!」

卓也のそんな言葉に、
利幸は、内心で”ごめんー円香”と思いながらも、
憑依のことを押し切られる形で許可してしまったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

後日ー

”今日、憑依したい”
そう言われた利幸は、妹の円香が部屋に戻り、
”寝落ちしても不自然じゃないタイミング”になったら
先輩に合図となるLINEを送る約束をしていたー。

「ーーあれ?お兄ちゃんーどうしたの?」

利幸自身の部屋の前でソワソワしていた利幸を見かけて、
妹の円香が不思議そうに首を傾げるー。

「ん?あぁいやー、ドアのところにちょっとゴミが溜まってたから
 たまには掃除をと思ってー」

咄嗟にそんな言葉を口にして誤魔化す利幸ー。

「ーーふふー、ちゃんと掃除して偉い!」
まるでお姉ちゃんかのように、円花がそんな風に笑うと、
「ーわたしはこれからテスト勉強~」と、
笑いながら部屋の中へと入って行ったー。

「ーーー」
円香が部屋に入ったー。

”勉強中に寝落ちしてしまった”
そういう設定にすれば、確かに”憑依するタイミング”としては
最適なのかもしれないー。

円香が部屋に戻って行ったのを確認した利幸は
震えながら自分の部屋に戻ると、
先輩・卓也にLINEを送るためにスマホを手にして
表情を歪めるー。

「ーーーー……」
困惑の表情を浮かべる利幸ー。

だが、”1回憑依させる”と約束してしまったー。
ここで連絡をせずにやり過ごしたら、何をされるか分からないー。
そんな不安から、利幸は意を決して、
”今がいいタイミングです”と、そんなLINEを送り付けたー。

”ーーオッケ~!じゃあこれから憑依するぜ”

そんなメッセージが返ってきて、
利幸は心がぐしゃっとなるのを我慢しながら、
その時を待ったー。

そしてーーー

「ーーー…」

コン コン、と部屋がノックされたー。

「ーーー……えーー…ま、円香ー?」
何と言っていいのか分からず、妹の名前を呼ぶと、
妹の円香が部屋の中へと入って来たー。

「ーーーーーま、円香ー?」
不安そうな表情を浮かべる利幸ー。

先輩の卓也に合図を送ったとは言え、
もう、円香は憑依されたのか、
それともまだ円香は憑依されていないのか分からず、
利幸は困惑していたー。

「ーーーーお兄ちゃんさー、お兄ちゃんのバイト先の人から
 今、連絡があったんだけどー」
円香の言葉に「連絡?」と、利幸が困惑しながら言うー。

すると、円香はスマホを手に
「ー”憑依”ってどういうことー?」と、不思議そうに表情を曇らせながら
質問を口にしたー。

「ーーえ…? え…? ひ、憑依ー?」
利幸は混乱するー。

「ーーお兄ちゃんから、”妹に憑依していい”って言われたーって、
 お兄ちゃんのバイト先の人が言ってるんだけどー…

 憑依ってどういうこと?」

不満そうに、繰り返しそんな言葉を口にする円香ー。

「ーーーえ…?え???
 お、俺のバイト先の先輩から、円香に連絡があったってこと?」

利幸はなおも混乱するー

”えー…?先輩、円香には気付かれないようにするって
 言ってたはずじゃー?”

そう思いながら焦りだす利幸ー

「ーわたしの身体で先輩に何させようとしてたの?」
円香が悲しそうに言うー。

「ーーえっ…ち、ちがっ…えー…ち、違うんだー円香!」
利幸が慌てた様子でそう言葉を口にすると、
円香は「お兄ちゃんなんてもう知らない!」と、
声を荒げてそのまま立ち去ろうとするー。

「ーま、待って!ぜ、全部話す!
 円香を傷つけるつもりはー」

利幸が必死にそう叫ぶとー、
立ち去ろうとしていた円香が振り返って
笑みを浮かべたー

「ーーへへーなんてなー」
とー。

「ーーえ…」
慌てていた利幸が呆然として円香の方を見つめるー。

すると、円香は笑みを浮かべながら言葉を口にしたー

「ーへへへー俺だよ
 藤岡だよー」

円香がいつもとは別人のような雰囲気で笑うと、
そのまま部屋の中に戻ってきて、イスに腰かけたー。

「ーーな、な、な…せ、先輩ー
 も、もう憑依終わってたんですかー?
 お、驚かさないでくださいよー」

利幸が真っ青になりながら言うと、
「ーちょっと揶揄いたくなったんだよ」と、
足を組みながら、「いい足だなぁ…へへ」と、
足を触り始めるー。

「ーーーほ、本当に円香にバレたかと思ってー
 心臓止まるかと思いましたよ…」
利幸はそう言いながらも、
”乗っ取られた妹”を見るのは、想像以上にイヤな気持ちだったー。

ニヤニヤしながら自分の足を触っている円香を見て、
とてつもなく、イヤな気持ちが膨らむのを感じるー

「ーーへへへーそんな顔すんなってー
 1時間したら出ていくからー」

円香はそう言うと、
「ーーへへへー”妹”って響き、なんかエロイよなー」と、
ニヤニヤしながら、立ち上がるー

「俺は今、お前の”妹”なんだからなー
 へへへへー」

円香はそう言いながら
「お兄ちゃん…キスしてあげよっか?」と、
揶揄うようにして言葉を口にするー

「や、やめてくださいよー先輩」
目を逸らす利幸ー。

「ーそうだー円香ちゃんの制服、着てみたいなぁー
 ちょっと円香ちゃんの部屋の方に行こうぜ」
円香はそう言いながら、勝手に隣にある
円香の部屋に向かうー。

そんな円香の姿にモヤモヤしながら、仕方がなく
後を追う利幸ー。

部屋に移動すると、円香は勝手に着替え始めていたー。

「ーうわっ…」
慌てて部屋の扉を閉じて目を逸らす利幸ー

”はははー、なんだよー
 今は大丈夫だぜ?
 円香ちゃんの意識はないんだしー。
 お前も見ちまえよ? な?”

部屋の中からそんな円香の声が聞こえるー。

しかしー、利幸は「いえ、お、俺はいいですー」と言うと、
円香は着替えながら笑ったー。

やがてー、少し手間取りつつも、制服に着替え終わった円香は
部屋から顔を出して
「お兄ちゃん!着替え終わったよ~!」と、揶揄うような口調で
兄の利幸を部屋に招き入れたー。

部屋に入ると同時に、嬉しそうに胸を揉む円香ー。

”乗っ取られて好き放題されている妹”の姿を見るのは
想像以上にイヤなモノだったー。

苦痛に耐えながらも、チラッと時計を見つめる利幸ー

”あぁ、早くこの1時間、過ぎてくれないかなー”
そう思いつつ、利幸は憑依された円香の方を心配そうに見つめたー。

②へ続く

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コメント

先輩からのお願いを断り切れずに、
妹への1時間の憑依を認めてしまったお兄ちゃん…!

このあと、大変なことにならなければ…いいですネ~笑

続きはまた明日デス~!★!

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憑依<最悪な先輩>

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