追いつめられて病院に逃げ込んだ凶悪犯ー。
しかし、院内で歩くことができない少女とぶつかり、
身体が入れ替わってしまいー…?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「はぁ…はぁ…
くそっ!俺はこんなところでは終わらねぇぞー…」
逃亡中の男・村瀬 龍治(むらせ りゅうじ)は、
歯ぎしりをしながら走っていたー。
彼は数日前ー、
銀狼(ぎんろう)と呼ばれる不良や荒れくれ者の集団に所属する
チンピラに絡まれ、その際に絡んで来た三人を殺害ー、
さらには逃亡の際に警察官1名の命を奪い逃亡している最中だったー。
元々彼は、数々の悪事に手を染めている人間で、
主に”裏取引”を中心に暗躍してきた男だー。
しかし、”銀狼”なる組織に目をつけられて
あまりにしつこいチンピラたちに腹を立てて、
”格の違い”を思い知らせてやったー。
がー、
相手はチンピラとは言え、三人の命を奪ったのは事実。
その上、警察官の命まで奪ってしまった以上ー、
もう逃げ切ることは難しい状況だったー。
「ーーチッ…」
警察の包囲網に次第に追い詰められていく龍治ー。
龍治は表情を歪めながらー
視界の先にある大病院を見つめたー。
「ーー病院、かー」
好き好んで人の命を奪う趣味は龍治にはないー。
しかし、邪魔をするやつには容赦しないし、
いざとなれば人の命もためらわずに奪うー。
彼は、そういう男だったー。
「ーー村瀬!もう諦めろ!」
龍治を追跡していた警官2名が叫ぶー。
「ーーーうるせぇ!俺の辞書に諦めるなんて言葉はねぇんだよ!」
そう叫ぶと龍治はそのまま病院の中へと駆け込むー。
「ーー仕方ねぇ…人質でも取ってなんとか逃げる隙を伺うかー」
数十分前ー
パトロール中の警官と遭遇してしまった龍治ー。
今の二人以外にも、既に大勢の警官が龍治を追っている状態で、
このままでは確実に捕まるー。
「どけっ!」
病院内で乱暴に患者たちをかき分けて走るー。
病院の患者やスタッフが戸惑いの声を上げるー。
龍治は、とりあえず上層階を目指そうと
そのまま病院の廊下の曲がり角を曲がって、
階段のありそうな方向を目指すーーー
はずだったー。
がーーー
「ーーうぉっ!?」
曲がり角を曲がった直後ー、
ちょうどそこを移動中だった車いすの少女と鉢合わせするー。
驚いて声を上げる龍治ー。
その相手の少女も驚いて目を見開くも、
龍治はそのまま止まることができず、
その車いすの少女の車いすに激突ー、
派手に転倒してしまったー。
「ーちょっ!?ちょっと!」
車いすを動かしていた看護師と思われる女性が声を上げるー。
「ーーーーーぐ…」
頭を押さえながら、痛みに耐える龍治ー。
そして、再び移動しようとしたその時だったー。
「ーーーあ…?」
龍治は、いつの間にか自分自身が車いすに座った状態に
なってしまっていることに気が付くー。
転倒した際に上手く車いすに座るような形に
なってしまったのだろうかー。
そんなことを思いながら、不満そうに腰を上げようとしたその時だったー
「ーー!?」
足に力が入らず、上手く立ち上がることができないー。
「ーーー…ちょっと!何するんですか!病院内で走るなんて
危ないですよ!」
女性看護師の麻梨(まり)が怒りの形相で、
叫ぶー。
「ーーーうるせぇ!そっちがーー」
女性看護師・麻梨の言葉に対して、反論しようとした龍治ー。
がー…
その口から出た”声”はー、
自分の言葉とは裏腹に、可愛らしくー、
それでいて儚げな感じのする声だったー
「え……」
龍治は、思わず言葉を止めるー。
そうこうしているうちに、
龍治はさらに驚きの光景を目の当たりにしたー。
”目の前”に、”自分”が倒れているー。
「ーーぅ…」
苦しそうに表情を歪めた”自分”が倒れているのだー。
「ーーな…なんだ…これ…」
可愛い声で、唖然とする龍治ー。
”何で俺がもう一人いるー?
そもそもこの声は一体ー…?”
そう思いながら、自分の手を見つめた龍治は、
表情を歪めたー。
散々見慣れた”自分の手”ではなく、
見慣れない色白の手がそこにはあったー。
「ーーーな……に?」
ふと、車いすの鉄の部分に反射した自分の顔を見つめる龍治ー。
そこには、龍治ではなくー
車イスの少女が驚いた顔を浮かべながら、こちらを見ているー
そんな光景が浮かび上がっていたー。
「ーな、なんだこれは…?!」
声を上げる”車いすの少女になってしまった”龍治ー。
「だ、大丈夫ー?」
心配そうに女性看護師の麻梨がそう言葉を口にすると、
ぶつかった衝撃で苦しそうにしていた”龍治”がー、
「え…なんで…?」
と、そう言葉を口にしたー。
少女になってしまった龍治は、
表情を歪めながらー
”まさかー…”
と、”自分自身”のほうを見つめるー。
”龍治”が驚いた表情で、少女(龍治)に向かって
言葉を発しようとしたその時だったー。
「村瀬ぇ!」
龍治を追跡していた警察官2人が、病院内にまで
駆け込んできたー。
「ーえっ…!? えっ!?」
”龍治”は困惑した表情を浮かべながら
警察官に取り押さえられるー。
「ー村瀬 龍治ー。
お前を逮捕するー」
そう言いながら、警察官が手錠をかけるー。
しかしー
「ち、違います!わ、わたしはー遥香(はるか)です!」
”龍治”はそう叫んだー。
わたしは、杉原 遥香 であるとー、
そう主張したー。
「ーーーー…!」
車いすの少女・遥香になってしまった龍治は、
その状況を目に、
あることを悟るー
”ーーま、まさか、これはー…”
”この女と、俺の身体が入れ替わっているー?”
とー。
既に”龍治”の身体は警察に取り押さえられてしまっているー。
もう、逃げることはできないー。
だがーーー
遥香になった龍治は、邪悪な笑みを浮かべると、
言葉を口にしたー
「な…なんの…ことですかー?」
とー。
「ーーー!!」
龍治(遥香)が泣きそうな顔で遥香(龍治)を見つめるー。
「ーーわ、わたしーーー
わたしの身体を返してください!」
龍治(遥香)のそんな言葉に、
遥香(龍治)は「ーーな、なにを言っているんですか…?」と、
”わざと”とぼけてみせるー。
「ーー村瀬!往生際が悪いぞ!」
警察官の一人が、龍治(遥香)の腕を掴みながら
そのまま連行しようとするー。
「違うんです!わたしは、わたしはホントに…!」
龍治(遥香)はなおも抵抗するー。
「ーーこわい…」
遥香(龍治)は、わざとらしく怯えてみせーー
さらに、顔を手で覆って泣く真似をしてみせるー
「ーー遥香ちゃん…」
女性看護師の麻梨は、何も気付かずに
「もう大丈夫ー大丈夫だからねー」と、
遥香(龍治)の頭を優しく撫でるー。
”へへへへー
美人さんに撫でられるなんて、ゾクゾクするぜー”
遥香(龍治)は、心の中でニヤニヤしながら、
そう呟くー。
「ーー違うの!ねぇ!違う!わたしじゃない!
わたし、村瀬って人じゃないんです!」
龍治(遥香)は、必死にそう叫んでいたー。
しかしー
”この状況”でそんな言葉を信じる人間はいないー。
やがて駆け付けた応援の警察官にも取り押さえられて、
”龍治になった遥香”は、そのまま連行されていったー。
「ーー遥香ちゃんー、大丈夫だったー?」
女性看護師・麻梨のそんな言葉に、
遥香(龍治)は「はいーー」と、微笑んで見せるー。
そしてーー
ちらっと、龍治(遥香)が連行されていったほうを
見つめると、不気味な笑みを浮かべながら、
内心で囁いたー
”クククー…助かったぜー
まさかこんな形でサツから逃げきることができるなんてなー
俺にもまだ、強運が残されてたってわけだー”
遥香(龍治)がそんなことを思いながら
不気味な笑みを浮かべていると、
女性看護師の麻梨は、心配そうに「遥香ちゃんー?」と、
そんな言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ーーーーーーーー…」
病室に戻った遥香(龍治)は、表情を歪めていたー
「こいつ…歩けないのかー」
自分の足をなった遥香の足を見つめながら、
そう言葉を口にするー。
事情は分からないが、この少女は
歩くことができないようだー。
実際に、さっき、強引に歩こうとしたものの
足に全く力が入らずにそのまま転倒してしまい、
看護師の女性の力を借りなければ
ベッドに戻ることもできないー、
そんな状況になってしまったー。
「ーーチッ」
舌打ちをする遥香(龍治)ー
結果的に警察から逃れることはできたー。
龍治になった遥香は、そのまま警察に連行されて
”身代わり”になってくれたー。
今頃、必死に”わたしは違うんです!”とか、
そんなことを言っているとは思うがー、
恐らく、”凶悪犯の苦し紛れの言い訳”ぐらいにしか
思われないだろうー。
”まぁ、でもあまりにも俺になったこの女が騒げば
俺のところに色々話を聞きに来る可能性はあるからなー”
そう思いながら、遥香(龍治)は
”無理のない範囲で、この女のことは知っておいた方がいいな”と、
少しだけ笑みを浮かべるー。
がーーー…
そんな余裕はすぐに崩れ去っていくー。
”立てない”ー
思うように身体が動かないことは、
彼にとって強いストレスだったー。
「ーくそっ!コイツ……使えねぇ身体だな!」
遥香(龍治)が怒りを露わにしながら、自分の足を睨みつけるー。
「ーー遥香ちゃんー…大丈夫?」
そんな様子に偶然通りがかった女性看護師の麻梨が気付き、
心配そうに言葉を口にするー。
「ーーうるせぇ!放っとけ!」
遥香(龍治)はイライラしながらそう叫ぶと、
麻梨は、遥香が普段見せない表情と苛立った声に驚いた様子を
見せながら「ーーど、どうしたのー…?」と、
そう言葉を口にするー。
遥香(龍治)はすぐにハッとすると、
「ーーチッ」と、小さく舌打ちしてから
「ご、ごめんなさいー。足ー…言うこと聞かなくてームカついてー」と、
自分の素が出ないように、なんとかそんな言葉を口にしたー。
「ーーー…遥香ちゃんー…焦っちゃダメー。
少しずつー、少しずつー、頑張っていこ?」
麻梨のそんな言葉に、
遥香(龍治)は”ふざけるな!”と、声を荒げそうになったものの、
それを何とか我慢して、
「ーーーはい」と、だけ答えたー。
これ以上喋ると”自分の素”が出てしまいそうだったー。
遥香(龍治)は、悟られないようにギリギリと歯ぎしりをしながら、
しばらく間を置くと、
「ーーお……わたしの足ー、治るんですか?」と、
そう言葉を口にしたー。
危うく、”俺”と言いかけたが何とか誤魔化したー。
足のことを聞けば、”この女”の足が動かない理由も
分かるかもしれないー。
「ーーー……うんー。
時間はかかるかもしれないけど、
少しずつ、前に進んでいけばきっとー」
麻梨のそんな言葉に、
遥香(龍治)は表情を歪めるー。
麻梨が一瞬、暗い表情を浮かべたのを見逃さなかったー。
”裏社会”で生き抜いてきた龍治は
”相手の表情のわずかな変化”を見抜くことを
得意としていたー。
裏社会では嘘をつく人間が山ほどいるー。
それを見抜くスキルは、裏社会で生き抜くために
必要なスキルだからだー。
「ーーー………”嘘”つくなよー」
ボソッと呟く遥香(龍治)ー
「えっ…」
麻梨が困惑した表情を浮かべると、
遥香(龍治)は言ったー。
「ーこの足、動くようになるのか、ならないのか、
どっちなんだよ!」
遥香の声で怒鳴っても”自分の声”で怒鳴るより
迫力は全くないー。
が、女性看護師の麻梨は驚いた様子で
遥香(龍治)の方を見ると、
「は、遥香ちゃんー落ち着いてー。足はきっと治るからー」
と、そんな言葉を口にするー。
「ーーーーー」
さらに問い詰めたい気持ちになりつつも、
それを必死にこらえた遥香(龍治)は、
そのまま自分を抑えながら話を続けるー。
どうやら”遥香の足”は、交通事故の後遺症で
こうなっている様子だったー。
それ以上のことは今は分からなかったが、
”遥香の足は交通事故の後遺症”
”治る見込みは、恐らく薄いと思われている状況”
であることが分かったー。
「ーーーチッ」
一人になった遥香(龍治)は
不機嫌そうに舌打ちをすると、
「こんな使えねぇ身体になっちまうなんて…」と、
不愉快そうに、そう言葉を口にしたー。
②へ続く
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
コメント
歩くことができない少女と凶悪犯の男が
入れ替わってしまうお話デス~!
逮捕されてしまった方も、もちろんこの後も
登場するので、安心(?)して下さいネ~笑
続きはまた明日デス~!
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