<憑依>あの世から娘を見ていたら①~怒り~

彼は”あの世”から娘のことを見守っていたー。

うっかりすることが多く、ドジな娘のことが心配で、
”その先”に進めずにいたのだー。

しかし、ある日…
彼は娘が”憑依されるところ”をあの世から目撃してしまうー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーーー…」
笹島 大輔(ささじま だいすけ)は、
”娘”である絵美里(えみり)のことを、
見つめていたー。

見つめているー、と言っても
近くから見つめているわけではないー。

遠い、遠いところから、
娘・絵美里のことを見守っていたのだー。

「ーーー…”まだ”先に進む決心はつきませんか?」
”案内人”の女がそう言葉を口にするー。
可愛らしい風貌だが、どこまでも事務的で、
あまり感情を感じさせない感じの子だー。

「ーーーすみませんー。もう少しの間、見守っていたいんです」
大輔がそう言うと、
”案内人”の女・ミズキは「そうですかー」とだけ、言葉を口にして、
そのまま姿を消すー。

ここは、”死んだ人間”が、”次”に向かうまでに一時的に滞在することになる場所ー。
ここで、自分が死んだ、という現実を受け入れて
人々は先へと進むー。

大輔は、先月、病により世を去ったー。
十分に”お金”は残せたと思うー。
妻と娘が生きていくことはできるはずだー。
そこのところは心配していないー。

しかし、大輔にはどうしても気がかりとなる
”未練”があって、先に進むことが出来ずにいたー。

それが、現在高校生の娘・絵美里のことだったー。

絵美里は、昔からよくうっかりしたミスをやらかしたり、
ドジなところがあるー。
そんな娘のことを、大輔はいつもいつも心配していたー。

できれば、せめて娘の絵美里が、社会人になるぐらいまでは、
見守っていてあげたかったー。

がー、病がそれを許してはくれなかったー。

「絵美里ー…」
大輔は、現世への未練を断ち切れずに、
この”死後の中間地点”とも言える場所に留まりー、
水晶玉のようなもので、現世の様子を見つめ続けて居たー。

自分のように、こうして未練を抱えたまま、
ここに留まっているものもいれば、
すぐに”次”に進む者もいるー。

ここは、そんな世界だー。

「ーーーー」
来る日も、来る日も、絵美里のことを見守る父・大輔ー。

何かできるわけでもないし、
本当にただ、見つめるだけの日々ー。

がー、そんな日々が続いたある日ー…
”とんでもない出来事”が起きようとしていたー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーー先輩ーお話って何ですかー?」
絵美里が、同じ高校に通う
先輩・生徒会副会長の平尾 修武(ひらお おさむ)から
呼び出されて生徒会室にやってくるー。

眼鏡をかけた頭の良さそうな雰囲気の
修武は、3年生の生徒会副会長ー。
絵美里より一学年上の男子生徒だー。

「ーーあぁ、笹島さんー
急に呼び出しちゃってごめんねー」

修武はニコニコとしながら、そう言葉を口にすると、
修武は言ったー。

「ーーー笹島さん、”自分のドジなところを直したい”って
前に言ってたよね?」

修武のそんな言葉に、絵美里は「あ、はいー」と、苦笑いするー。

生徒会書記として活動する絵美里は、
生徒会活動でも時々ドジなことをしてしまい、
その時に、そんなようなことを言った記憶があるー。

「ーーそれで…僕、考えたんだー。
どうすれば、笹島さんが”ドジ”なことをせずに済むかー」

修武がそう言うと、絵美里は「何かいい方法があるんですか?」と、
少し期待するような表情を浮かべながら、そう確認したー。

「ーあぁー。
せっかく真面目で清楚な見た目なんだしー
見た目通り、もっともっと、それを生かせる方法があったよー」

修武のそんな言葉に、
絵美里は「ど…どんな方法ですか?」と、少しだけ表情を歪めるー。

見た目のことを言われて、少しだけ違和感を感じている様子だー。

がー、修武はそんなことお構いなしに、笑みを浮かべたー。

「僕が、”笹島 絵美里”になるんだー。
僕なら、絶対にドジなんかしないー
君よりも、完璧な笹島 絵美里になれるー」

その言葉に、絵美里は「ど、どういうことですか!?」と、
困惑の表情を浮かべるー。

「ーーふふー
こうするんだよー」

そう言い放つと、修武は手にしていた”謎の黒い液体”をそのまま口に含み始めるー

「ーーーーーー…」
呆然とした表情でその光景を見つめる絵美里ー。

そんな視線に気付いてか、修武は笑いながら
「あぁ、墨汁を飲んでるわけじゃないから安心してー」
と、そう言葉を口にすると、黒い液体の入っていた容器を
投げ捨ててから、そのまま身体の下の方から、”煙”のような状態へと変わっていくー。

「ーー!?
なんだあれは!?」

”あの世”で娘の様子をいつものように見守っていた父・大輔は叫ぶー。

生徒会副会長の修武ー。
前から、娘のことを”イヤらしい目つき”で見ていることに
気付いていて、父としては良い感情を抱いてはいなかったー。

その修武が、煙のようになっていきながら、
娘・絵美里の方を見つめているー。

”僕がその身体を貰うよー
僕が使った方が、もっともっと真面目で優等生にー
それでいて、その可愛さも最大限引き出せると思うんだー”

そんな修武の言葉に、絵美里は逃げ出そうとするー。

がー、修武の両手が煙になって分離すると、
修武のそれが、生徒会室の”扉”に憑依ー。
生徒会室の扉は開けようとしてもビクともしない、
固く閉ざされた状態になってしまうー。

”ふふふふー”
両腕を分離させた状態の修武が、
顔以外は煙のような状態になりながら、
1歩、また1歩と近づいてくるー。

”や…やめて…助けて…!”
絵美里のそんな言葉に、
父・大輔は「おい!絵美里に手を出すな!おいっ!」と、
あの世から、叫ぶー。

が、当然、そんな言葉が現世の人間である修武に届くはずもなく、
ついに顔まで煙になった修武が、絵美里の口ー、鼻、耳ー
あらゆる方向から、絵美里に憑依していくー。

「おい!!ふざけるんじゃないぞ!
おいっ!!!!おいっ!!!!!!!!!」

叫ぶことしかできない大輔ー。
煙に包まれて苦しそうにしている絵美里ー。

やがて、煙は消えて、生徒会副会長の修武の姿も消えると、
膝を折った状態の絵美里が、ゆっくりと立ち上がり始めたー。

”ふふふ…”
不気味な笑い声をあげる絵美里ー。

「え…絵美里ー…?」
あの世から、現世の様子を見つめていた父・修武は
困惑の表情を浮かべるー。

するとー、絵美里は
”これで、僕が笹島 絵美里だー”と、笑いながら、
自分の胸を嬉しそうに揉み始めたー

”ふふっ…たまんないやー…”
ニヤッと笑う絵美里ー。

”これからは僕が”優等生”としてー
そして”美少女”として生きて行ってあげるから、心配しないでねー”

絵美里に憑依した修武は、
絵美里本人の意識に語り掛けるようにそんな言葉を口にすると、
ゆっくりと空き教室から外に出て、
不気味な笑みを浮かべながら、廊下を歩き始めたー。

「ーそ、そんな…ま、まさかこんなことがー」
あの世でその光景を見ていた大輔は、戸惑いを隠せない状況のまま、
そのまま授業を受け始める絵美里の姿を見つめるー。

授業中に、自分のスカートを触ったりして
ニヤニヤとする絵美里ー。

娘が、憑依されてしまったー。
そんな、恐るべき光景を”あの世”から見つめている父・大輔は
たまらず、「今、助けに行くからな!」と、そう声を上げるー。

がーー…
”助けに行く”と言っても、どうすれば良いのだろうかー。
何の打つ手も思いつかないまま、ソワソワとし始める大輔ー。

やがてー、
「ーーど、どうにか、少しの間だけでもいいんです!
娘を、娘を助けるために元の世界に戻らせてください!」と、
大輔は、あの世の案内人・ミズキにそう嘆願したー。

「ーーそれは、できませんー。規則ですからー。
それに、あなたの肉体はもう、死亡していて、使うこともはできません」

ミズキは淡々とそう言い放つー。

「ーーむ、娘が!娘が”憑依”されたんだー!」
父・大輔がそう叫ぶー。

「ーー憑依?」
案内人・ミズキはいつものように表情を変えずに
そう言うと、
「いくら未練があるからと言って、そのような嘘までつくなんてー」
と、呆れたような表情を浮かべながら、
そう言葉を口にするー。

「ーち、違う!ほ、本当に娘が憑依されたんだ!
頼むから見てくれ!」

大輔が、悲痛な叫び声を上げるー。

”現世”を映し出す水晶玉のようなものには、
帰宅して、嬉しそうに胸を揉んでいる絵美里の姿が
映し出されているー。

「ーーほ、ほら!娘はこんなことしないんだ!」
大輔が、その水晶玉を指差しながらそう言うと、
案内人・ミズキはうんざりした様子で、
それを見つめたー。

「ーーまぁ、こういうことしたくなる日もありますよねー。
エッチな娘さんですね」

ミズキはそれだけ言うと、立ち去ろうとするー。

「ーお!おいっ!ち、違うんだ!」
大輔は、なおも叫ぶー。

絵美里に憑依した修武のせいで、
この案内人に、勝手にエッチな娘扱いされてしまったことに
腹を立てる大輔ー。

「ー話をちゃんと、聞いてくれ!」
大輔が、ミズキの腕を掴むと、ミズキは不愉快そうにしながら、
「仮に憑依されたのが事実だとして、わたしがその話を聞いたとして、
その先はどうするんですか?」と、淡々と言葉を口にしたー。

「ーそ、それはー…」

大輔は、現世を映し出す水晶玉のほうを見つめるー。

絵美里が”この身体は僕のものだ!”と、叫びながら
嬉しそうにしているー。

やがてー、晩御飯の時間がやってきて
”何食わぬ顔”で、母と一緒にご飯を口にしているー。

「ーーく…ーー…案内人さんの力で、なんとか…!」
大輔がそう言うと、
「ーわたしたちが現世に干渉することは許されません」
と、そう言葉を口にするー。

「そこを、なんとか」
嘆願する大輔ー。

「ー例外は、ありませんー。
話を聞いたところでわたしは何もできませんし、
娘さんに何が起きても、
あなたにできるのは”見る”ことだけですー」

ミズキの言葉に、大輔は
悔しそうに表情を歪めながら、
今一度、水晶玉のほうを見つめるー。

「ーーーー」
晩御飯が終わり、部屋に戻った絵美里は、
「ー僕はこの髪型のほうがいいかなぁ」などと、絵美里の髪を
勝手にいじって楽しんでいるー。

「ーー…」
歯ぎしりをしながら、大輔は「よくも絵美里をー…!」と、
水晶玉に向かって言葉を口にするー。

その時だったー。

”あなたはまだここに来るべき人間ではないー”
ミズキとは別の、若い男の姿をした案内人が、
たった今、やってきた若い女にそう言葉を口にするー。

「ー元の世界に、戻りなさい」
男の案内人の言葉に、女は戸惑った様子を浮かべながらも頷くー

「ーー…あれは?」
少し離れた場所から、その様子を見ていた大輔が
ミズキにそう確認すると、

「あれは、生死の境を迷っている子の魂ですー。
 病気とか事故で、生きぬか死ぬかの状況になると、
 時々、この世界に迷い込むことがあるんです。

 そこでー、生き延びる運命の子は、
 魂を現世に戻しますー。
 もちろん、ここに来た記憶は消去した上で、ですがー」

ミズキがそう言うと、
少し離れた場所にいる男の案内人が、その女を、
”出口”へと案内していくー。

”不自然な穴のようなもの”が空間に出現して、
女はそこを潜っていくー。

「ーーー…」
大輔は、その様子をじっと見つめるー。

「ーーまぁ、娘さんのことは残念でしたー。
 あなたも、いつまでもここに留まっていないで、
 早く先に進めるように、頑張って」

それだけ言うと、ミズキはそのまま立ち去っていくー。

”おはよ~~~!”
現世では、憑依された絵美里が
翌朝、学校に登校して笑顔を振りまいていたー。

他の女子生徒たちのことを”イヤらしい目つき”で
見つめながらー。

「ーーーー…」

そんな様子を見つめていた大輔は、
”あること”を思いついたー。

それはーーー

”死後の世界に間違ってやってきた魂”ー。
それが現世に返される時に、”自分も”上手くそこに入り込めないだろうかー。

と、いうものー…。

「ーーー絵美里ー」
何とか、娘のことを助けたいー。

そう思った大輔は、水晶玉に映る”憑依された絵美里”のことを
見つめながら、何としても娘を救い出すことを、
心の中で誓うのだったー…。

②へ続く

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今月最初のお話は、憑依のお話デス~!☆

死後の世界からじゃ、
大切な人が憑依されたことに気付けても、
何もできないので大変ですネ~…!

続きはまた明日デス~!

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