<憑依>何も知らない”俺”への本命チョコ②~告白~(完)

好きな子に憑依して、
その子として、”自分自身”にチョコを渡す…。

ついに、その瞬間がやってきた…。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「あ…あの…話ってー…?」

バレンタインデー当日の昼休みー。
呼び出された繁明は、緊張した様子で、
生徒会室の隣にある空き教室へとやってきていたー。

”へへへー来た来た…
 うわぁ…俺、すごい緊張してるじゃんー”

絵梨花は内心でそんなことを思いながら笑みを浮かべるー。

今の絵梨花は、繁明に憑依されている状態ー。

しかし、繁明が使用した”魂鉄砲”は、自分の魂の一部を
発射することができる、というもので、
繁明自身も、”いつもの繁明”として行動を続けているー。

そんな状況を利用して、
”絵梨花に憑依した繁明”が、”何も知らない繁明”に告白して、
その反応を楽しもうとしているー。

「ーーさ、笹村さんの貴重な昼休みにあまり時間を
 使わせちゃってごめんー

 で…は、話って何かなー?
 俺、何か悪いことしちゃってたなら、先に謝るよ」

そんな言葉を口にする繁明。

その言葉に、絵梨花はクスッと笑うー。

「ー本当は、”期待”してるんでしょ?」
とー。

絵梨花の言葉に、繁明は「えっ…?」と、顔を赤らめるー。

そうー。
繁明は、バレンタインデー当日の昼休みに
わざわざ絵梨花に呼び出された…というこの状況に
少なからず”期待”を抱いていたー。
チョコを貰えるのではないかー、と。

だが、緊張と照れくささから、
”悪いことをしちゃってたなら、謝るよ”と、そんな言葉を口にして
誤魔化しているのだー。

それが、絵梨花には手に取るようにわかるー

”俺は、お前自身なんだからなー”
絵梨花は心の中でそう思いながら、
「ーーふふー。正直になればいいのに」
と、揶揄うような言葉を口にすると、
繁明は顔を赤くしながら「い…い…いや、そんなー」と、そう言葉を口にしたー。

”まぁ、確かに”期待してる”なんて言えないよなー
 それで笹村さんが”チョコは用意してないけど”なんて言って来たら
 恥をかくだけだしー”

自分の性格を分析しながら、絵梨花に憑依している繁明はそう思うと、
「ーふふ、揶揄っちゃってごめんねー」と、言葉を口にしてから、
少し形の崩れた手作りのチョコレートを差し出したー。

”俺”なら、出来栄えがどうであれ、”好きな笹村さん”からチョコをー、
それも手作りのチョコを貰うことができれば
形なんて気にしないー。

そう思いつつ、チョコを渡すー。

案の定、繁明は「ーえっ!?チョコ…!?えっ!?えっ!?ありがとう!」と、
ニヤニヤが止まらない様子でチョコを受け取るー。

思わず、そんな”俺”の反応に笑ってしまう絵梨花ー。

さらに、絵梨花は言葉を口にするー。

「ーところで、三重島くんー…
 そのチョコ、”本命チョコ”と”義理チョコ”
 どっちだと思うー?」

ニヤニヤを押さえながら、絵梨花がそんな言葉を口にすると、
繁明は顔を真っ赤にしながら「うっ!?えっ!?ほ、ふぉんめい?!」と、
裏返った声で、変な言葉を発したー

完全に挙動不審な男になっているー。

「ーーーーーー…え、えっと、それはー」
繁明は、貰ったチョコを見つめながら、
顔を真っ赤にして、チョコを見つめているー。

「ーーえへへへへへ…」
絵梨花は、そんな”俺”を見つめながら、笑みを浮かべるー。

”いやいやいや、真剣に考えすぎだろ、俺ー…
 いや、まぁー何も知らない俺の立場からすれば、そうなのかー?”

そう思いつつ、魂鉄砲を入れてある机の方を見つめるー。

告白の反応を見終えたら、最後には、
魂鉄砲を手に、”種明かし”をするつもりだー。

自分の魂の一部を絵梨花に憑依させたことで、
”憑依”に関する記憶は欠損している状態の”俺”が、
目の前の絵梨花が”俺自身の一部が憑依している状態”だと
知ったら、どんな反応をするだろうかー。

それも、楽しみだー。

そして、それが終わったら”元に戻る”ために、
絵梨花の身体で繁明自身にキスをしー、
元に戻るつもりだー。

魂鉄砲を回収し、”気絶している絵梨花を見つけた第1発見者”を装いつつ、
何事もなかったかのように、またいつもの生活に戻る…
そんなスケジュールを、絵梨花に憑依している繁明は自分の中で考えていたー

あわよくばーー…
”気絶している絵梨花を助けた”ことで、本当の絵梨花から
好意を抱かれることを少しだけ期待してー…。

「ーーーぎ、義理、かなー?」

そんなことを考えていると、繁明が言葉を口にしたー。

「ーー義理?」
絵梨花はクスッと笑うー。

”へへー。まぁ、俺ならそう答えるよなー。
 本当は本命だと思いたいけど、そう答えて義理だったら恥ずかしいもんなー”

絵梨花はそう言葉を口にしながら、
「ーーーー本命なのに」と、わざとむすっとした表情を
浮かべて見せるー

「ーーえっ!?!?えっ!?!?えっ!?!?
 ほ、ほ、ほ、ほ、ほーー…?????」

挙動不審な反応を見せる繁明ー

「ーわたし、三重島くんのことずっと好きだったんだもん」

そんな言葉を絵梨花に言わせて自分自身も興奮しながら、
ニヤリと”繁明”の反応を見つめるー。

すると、繁明は心底嬉しそうに、
「う、う、うおおおおおおおおお!」と、叫び声を上げるー

”いやいやいや、俺、喜びすぎだろー
 いや、まぁ、気持ちは分かるけどー
 でも、本当の笹村さんだったら多分引くぞ?”

そんなことを思いながら、
「あ、あ、三重島くん!喜びすぎ!」と、笑いながら言葉を口にすると、
繁明は「で、で、で、でも、本命チョコだなんてー えっ!?マジかー
夢みたいだ!」と、嬉しそうに笑うー。

「ーー…えへへー
 そんなに喜んでもらえてよかったー!
 三重島くん、だいすき♡」

さらにリップサービスを続けると、繁明は顔を真っ赤にして
嬉しそうに教室内でスキップを始めたー

「あははー
 マジで喜びすぎー」
思わずそんな言葉を口にしてしまう絵梨花ー。

がー、”大喜びしている俺”には、
もはやそんな言葉も届いていない様子で、
嬉しそうにスキップしながら、
「夢みたいだ!」と、言葉を口にしているー

”ーーしかし、女になってみて思うとー、
 ”俺”のそういうところがモテないんだろうなー
 調子良すぎると言うかなんというかー”

”女”の身体に憑依したからだろうかー。
なんとなく、”俺”が鬱陶しいリアクションを
しているように見えて、
絵梨花は少しだけため息をついたー。

がー、その時だったー。

ガン!!!

大きな音がしたー。

あまりに喜んでいた繁明は、
積まれていた机に激突して、
机を勢いよく倒しー、自分自身も転倒してしまったのだー。

「ーーったくー」
絵梨花は髪を掻きむしりながら
「ちょっと~!三重島くん、はりきりすぎ!」
と、叱るような口調で言うと、
繁明は「ご、ごめんー嬉しくてつい」と、照れくさそうに言葉を口にしたー

「ーーーー!」
絵梨花は、ふと、少し先の方に視線を向けて、顔色を変えたー

たった今、繁明が机にぶつかって、机を勢いよく倒したことで、
”種明かし”のため、事前にこの教室に持ち込み、机の中に
入れておいた”魂鉄砲”が、床に叩きつけられて、壊れてしまっているのが見えたのだー

「ーーおい!!馬鹿!!おい!ふざけんな!」
絵梨花は血相を変えて、魂鉄砲に駆け寄るー。

「ーーえ」
急に態度を変えた絵梨花に戸惑う繁明ー

「ーーおいっ!くっそ…これ、壊れちゃったらもう憑依できねぇじゃんー」
絵梨花は、”魂鉄砲”が壊れてしまったことに、つい素を出してしまうと、
ハッとしてから「あ…いやー」と、そう言葉を口にするー。

がー、繁明は戸惑った様子のまま、絵梨花を見つめているー。

「ーーー(なんかやべぇなー。万が一”俺”が騒ぎ出してもアレだしー
 もう元に戻るか)」

そう思いながら、絵梨花は慌てて、
有無を言わさず繁明に”キス”をしたー。

キスをして、絵梨花に憑依していた”繁明の一部”は、
絵梨花の中に戻るー。

「ーーーーーー…えっ… えっ… さ、笹村さんー!?」
突然キスをされたことに、心底驚きの表情を浮かべる繁明ー。

がーー
それ以上に驚いていたのは、絵梨花だったー

「え…な…何で…?」
絵梨花は驚きで、普段見せないような表情を浮かべているー。

何かに絶望しきったかのような、絵梨花の形相に、
繁明も「…え…えっと…?」と、戸惑った様子を見せるー。

絵梨花はそのまま、もう一度繁明にキスをする。

しかしー
”絵梨花に憑依している繁明の魂の一部”が、
繁明自身の身体に戻らないー

「ー……~~~~」
何度もキスをされて、顔を真っ赤にしている繁明ー。

「ーお…おい、なんで…?」
4,5回キスを繰り返した末に、一人でそんな言葉をボソッと呟く絵梨花ー。

絵梨花の様子に、繁明もさすがに違和感を感じたのか
「ーど…どうかした?」と、顔を真っ赤にしながら
言葉を口にすると、
絵梨花は「ま、まさかー」と、繁明を乱暴に押しのけて、
そのまま”壊れた魂鉄砲”を見つめたー。

”ま…まさか、憑依した時に使ったコレが壊れると、
 キスをしても元に戻れないのか?”

絵梨花に憑依している繁明は表情を歪めるー。

妹で”テスト”した時にはちゃんと戻れたのだー。
戻れなくなった原因は、コレしか考えられないー。

「ーーー……マ、マジかー」
ボソッと呟く絵梨花ー。

”ーー…ま、待てよー
 こ、このままじゃ俺ー……
 笹村さんとして生きていくことにー!?”

本命チョコを渡して、”俺自身”を揶揄って反応を
楽しんだら”元に”戻るつもりだった繁明。

がーー…
魂鉄砲の本体が壊れてしまったことで、
”元の身体と、憑依させた自分の魂の一部の繋がり”が切断されてしまいー、
元の身体に戻れなくなってしまったー。

繁明の魂の一部は、絵梨花に憑依したままー。

絵梨花に憑依した繁明と、
憑依に関する記憶は欠落している繁明の本体ー。

その状態のまま、過ごしていくことになってしまったー。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

数か月後ー。

絵梨花として生きていくしかなくなってしまった繁明の一部は、
仕方がなく、”絵梨花”として振る舞いながら、
繁明と付き合いを続けていたー。

冗談で”自分自身”に告白したのに、
まさか本当に”自分自身”と付き合う生活を続けることに
なってしまうなんて、夢にも思わなかったー。

そんなことを思いつつも、
”俺自身”を相手に、絵梨花は彼女としての日々を送るー。

どうせ、もう自分の身体に戻ることはできないー。
絵梨花に憑依した側の繁明は、
開き直って、絵梨花として生きていくことに決め、
”少しずつ”絵梨花を、”自分なりの絵梨花”に変えていたー。

髪型や服装、色々な好みなど、
周囲に違和感を感じられないように、変えていくー。

がー、絵梨花の”人気”はそのままでー、
絵梨花に憑依した繁明は、”自分が繁明だった頃よりも”
充実した人生を送り始めていたー

そしてーーー

「ーーーごめんなさいー」
今日、絵梨花は、繁明を呼び出して”別れ”を告げていたー。

「ーーー…そ、そんなー…」
繁明は悲しそうに呟くー。

”ーー…かわいい彼女が出来て、浮かれちまうその気持ちー
 俺にも分かるし、多分、俺もそうしただろうなー

 でもー”

絵梨花に憑依している側の繁明は心の中でそう思いながら
繁明を見るー

”でもー”女の子側”からしてみると、鬱陶しいっていうかー
 面倒くさいんだよなー…”

絵梨花はそう思いながら、
繁明の方を見つめるー

「ーい…嫌だ!別れたくないー!」
絵梨花と付き合い始めてから調子に乗っていた繁明ー。

絵梨花に憑依している繁明から見ても”俺自身”の行動は
よく理解できたー。

がー、やがて、”絵梨花”としては耐えられなくなっていき、
絵梨花は”俺”を振ることを決意したー。

”もう、俺はどうせ”俺”には戻れないんだー
 これからは”俺”に縛られず、自由に生きていくことにするぜー”

「ーーー今までありがとうー」

別れたくない、と騒ぐ繁明にそう言い放つと、
絵梨花は頭を下げて、そのまま立ち去っていくー。

恋人としての繁明との決別ー。
そして”俺自身”との決別ー。

絵梨花に憑依して、絵梨花から抜け出せなくなった繁明は、
この日、改めて”絵梨花”として生きていく強い決意をして、
自分自身と決別したのだったー

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

「ーーーーはは、そう落ち込むなってー」

数日後ー。

憑依のことは何も知らないまま、絵梨花に振られた繁明の本体は
落ち込んでいたー。

繁明の友人が、繁明を励ますー。

が、繁明は不満そうに言葉を口にしたー

「ー笹村さんなんて、嫌いだー。
 結局、俺のことは遊びだったんだー

 ーーーーー許さない」

とー。

絵梨花は”自分”のことをよく理解しているー。

けれど、絵梨花に憑依したほうの繁明は、
”告白されて、彼女が出来て、その彼女に振られる”という経験をしたことがないー。

そうー
”振られた自分が、どんな考えに至るか”
ということをー、
絵梨花に憑依されたほうの繁明は”想像”することはできても、
”実体験”をしたことはないー。

「ーーー許さないー……」

”俺”は振られると、こんなにも恨みを抱くー、

ーーと、いうことを絵梨花に憑依した方の”俺”は、知らないー。

おわり

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コメント

バレンタインは昨日で終わってしまいましたが、
昨日の続きのお話でした~☆笑

繁明くんが何かやらかしそうで怖いですネ~!

お読み下さりありがとうございました~!☆!

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