モテない男子高校生ー。
しかし、バレンタインデーを前に
彼は”自分の魂の一部を他人に憑依させることができる”夢のような
道具を手に入れたー。
それを使い、クラスの子に憑依、
”何も知らない俺自身”に、本命チョコを渡して反応を楽しもうと画策するー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”魂鉄砲”ー
そう書かれた箱を嬉しそうに開けながら、笑みを浮かべる
男子高校生の三重島 繁明(みえしま しげあき)ー。
玩具の水鉄砲のような形をしたものを
取り出すと繁明は嬉しそうに笑うー。
「これを使えば、俺の魂の一部を笹村(ささむら)さんに
憑依させることができるー」
ニヤニヤと笑う繁明ー
この玩具のような見た目のカラフルな鉄砲ー
”魂鉄砲”は、自分の魂の一部を、この中に入れ、
それを憑依したい相手に発射することで、
その相手に”自分の魂の一部”を憑依させることができる、というものー。
自分の身体を”空っぽ”にしてしまえば、自分の身体の安全面に不安が残るー。
かと言って、自分の身体ごと幽霊のようになって消滅してしまうタイプの憑依では、
他人から見ればその人は”行方不明”になってしまうー。
そういったことを”防ぎたい”というニーズから生まれたのが
この”魂鉄砲”でー、自分の魂の一部だけを発射することにより、
自分自身は他人への憑依を楽しみつつ、
自分の身体にも魂が半分残っていることで”いつも通り”行動してくれるという
優れモノだー。
「ーーーー…へへ これでー…」
がー…繁明には、そんな小難しいことはどうでもよかったー。
繁明がこの魂鉄砲を入手した目的は一つ。
繁明自身が好きなクラスの女子ー、笹村 絵梨花(ささむら えりか)に憑依しー、
笹村絵里香として”何も知らない俺”に告白ー
”俺自身”の反応を楽しむ、というものだった。
「へへへー笹村さんから告白された”俺”
どういう反応するかなぁ…」
繁明はそんな言葉を口にしながら笑うー。
彼はー、女子から壊滅的に”モテない”男子でー、
恋愛経験は今のところは0。
バレンタインデーを2日後に控えているものの、
チョコを貰える可能性は、ほぼ皆無と言えるようなそんな生活を送っていた。
そんな中、数日前に偶然ネットで見つけたのが
この”魂鉄砲”ー。
もちろん、いかにも怪しいし、絶対に憑依などできないと思いつつも
あまり値段が高くなかったこともあってこれを購入ー、
実際に妹の葵(あおい)で試したところ、
本当に”魂の一部”を葵に憑依させることができたのだー。
魂鉄砲は”魂の一部”を発射する都合上ー、
”他人に憑依している間”自分の本体は”憑依”に関することは忘れている状態で、
”いつも通り普通に”生活を続けるー。
がー、そういう特性故に、
”あるお楽しみ”ができるのだー。
テストがてら、妹の葵に憑依した繁明は、
自分の本体に向かって、突然、葵の身体で
「お兄ちゃん!大好き!」と言いながら、抱き着いたー
”え… えっ!?あ、葵ー!?”
普段、あまり口も利いてくれない妹・葵に
突然抱き着かれたことで、顔を真っ赤にする繁明ーー。
葵に憑依した繁明の一部は
そんな”俺自身”の反応を存分に楽しんだー。
「いつも、お兄ちゃんに冷たい態度取っちゃうけどー
わたし、本当はお兄ちゃんのこと好きなのー」と
葵の身体で言ってやった時の”俺”の反応は本当に面白かったー。
本体の残る方の魂は”憑依の記憶が抜けた状態になるため、
”繁明”からすれば、”突然、妹が抱き着いて来た”というー
戸惑うことしかできない、そんな状況なのだー。
そしてー
”魂鉄砲”が本物だと確信した繁明は、
葵の身体で繁明自身に”キス”をして、元に戻ったー。
魂鉄砲を用いて他人に憑依させた”自分の一部”を
自分の身体に戻すためには、キスをする必要があるー。
ただ、憑依されていた人間が意識を取り戻すまで
少し時間があるために、その間になんとか状況を
整えれば疑われることはないー。
葵への憑依で、魂鉄砲が本物であることは既に確信したー。
そしてー、
次はいよいよ本番ー。
明日13日に学校で魂鉄砲を使い、
繁明が好きな女子生徒・絵梨花に自分の一部を憑依させるー。
その後、絵梨花になった繁明は、絵梨花として
”俺への本命チョコ”を用意し、その日はそのまま
絵梨花として寝て、
翌日の14日、バレンタインデーの当日に
絵梨花として、”俺”に本命のバレンタインチョコを渡すー。
その時、”俺”がどんな反応をするのかを見るー…
それが、繁明がやろうとしていることだー。
”俺自身を揶揄って楽しむ”
そんなことを頭の中に思い浮かべながら、
繁明は笑みを浮かべると、
「とりあえず、明日、”魂鉄砲”を学校に持って行くのを
忘れないようにしないとな」と、
そう言葉を口にしたー。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
13日ー
バレンタインデー前日ー。
放課後になると、繁明は魂鉄砲を鞄に潜ませたまま
図書室へと向かっていたー。
図書委員として活動している絵梨花は、
ちょうど今日が放課後の図書当番であることを確認済みー。
放課後、図書当番は最後に図書室の戸締りを行うー。
その際が、魂鉄砲を使うチャンスだー。
「ーーーーー」
図書室の近くで、図書室の戸締りが始まる時間を待つー。
やがてー、図書室の利用時間が終わり、
図書室にいた生徒たちが立ち去っていき、
絵梨花と、もう一人の図書委員だけが図書室に残ったー。
「ーーーーへへへ…もうすぐ俺が笹村さんにー」
ゴクリと唾を飲み込みながら、絵梨花に憑依したあとの
自分のことを思い浮かべるー。
そうこうしているうちに、「ーあとはわたしがやっておくからー」と、
絵梨花が優しく、後輩の図書委員の生徒に言葉を口にしているのが聞こえたー。
”よしー…これで笹村さんが一人になるー”
後輩の図書委員が、図書室から出てきて
そのまま立ち去っていくのを確認すると、
繁明は、図書室の扉を少しだけ開けて、
中にいる絵梨花を確認するー
「よし」
繁明は魂鉄砲の”吹き込み口”に自分の口をつけると、
「ふーっ」と息を吐き出して、
魂鉄砲の中に、自分の魂を”リロード”するー。
「ーーー」
自分の魂が、魂鉄砲の中に入ったのを確認すると、
絵梨花をめがけてー、魂鉄砲を構えて、
そしてーー
それを発射したーー
「ーひっ!?!?!?」
繁明の魂が絵梨花に命中し、絵梨花がビクッと震えるー。
すぐに絵梨花は「へへへー…笹村さんに憑依成功ー…」と、
自分の両手を見つめながらニヤニヤとし始めると、
図書室の外で「あ、あれ!?」と、いう声が聞こえたー。
”繁明”だー。
魂の半分を発射した繁明は、憑依のことを忘れて、
魂鉄砲をその場に落とし、
「あ、あれ、俺、なんで図書室にー?」と
そう言葉を口にしているー。
絵梨花になった繁明の一部は、
絵梨花の身体でニヤリと笑みを浮かべると、
「あ、三重島くん!」と、わざとらしく図書室から
顔を出して、笑顔を浮かべたー
「え…あ…さ、さ、笹村さんー」
ドキッとした反応を見せる繁明ー
”へへへー 好きな子に声を掛けられて喜んでるー
分かりやすすぎだろー…俺”
絵梨花はそんなことを思いながら
「笹村くん、ここで何してるの?」と、わざとらしく言葉を口にするー
「えっ…あ、いやー…
えっとー…」
戸惑う繁明。
その顔は先ほどから真っ赤で、絵梨花に話しかけられていることが
余程嬉しいと見えるー。
思わず笑いそうになりながら、絵梨花は
繁明が持ったままの”魂鉄砲”を指差して、
「あ、ねぇ…それ、落とし物ー?」と、わざとらしく言葉を口にするー。
「ーーえ…?あ、うんーたぶん」
繁明は困惑した様子でそう言葉を口にするー。
今の繁明からは”魂鉄砲”に関する記憶は欠落しているー。
そのため、”魂鉄砲と出会わなかった場合の俺”として、
自然に振る舞うー。
「ーーじゃあ、図書室の落とし物のところに置いておくから、
それ、わたしにちょうだいー」
”絵梨花”に憑依した繁明は、絵梨花として
そんな言葉を口にすると、
繁明はそう言いながら何も疑うことなく、
その”魂鉄砲”を、絵梨花の方に渡すー。
「ーーー」
少し笑みを浮かべる絵梨花ー
照れくさそうにしている繁明の方を見て、
思わず笑ってしまったのだー
”まぁ、俺は笹村さんのこと好きだし、
笹村さんと話が出来ればうれしいから、
気持ちは分かるぜー”
相手は自分自身ー。
だから、その気持ちはよく分かるー
そう思いながら、絵梨花は今、この場で”俺自身”を誘惑してやりたい
気持ちになってしまうー。
一体、どんな反応をするだろうかー。
そんな欲求を抱き、ゾクゾクしながら絵梨花は
繁明に声を掛けようとするー…
がーーー
絵梨花に憑依した目的は、繁明自身を今日、誘惑するためではないー。
明日のバレンタインデーで本命チョコを渡し、
その時の”俺の反応”を見て、揶揄いたいのだー。
バレンタインデー前日の今日、今ここで誘惑してしまったら
それが台無しになってしまうー。
そう思いつつ、絵梨花は興奮する自分を押さえて、
「じゃあ…わたし、戸締りするからー」と、
なんとか冷静な雰囲気を装って言葉を口にしたー。
「うー、うんー。そ、それじゃー」
繁明本体は、そう言葉を口にすると立ち去っていくー。
絵梨花はニヤッと笑みを浮かべながらー、
「ーー図書室で色々しちゃいたいけどー、
誰かに見られちゃったら笹村さん、学校に来れなくなっちゃうかもだし
家に帰ってからにするかー」
と、静かにそう呟いたー。
そしてー、
絵梨花は帰宅し、散々お楽しみをしてー、
明日、”俺自身”に渡すための本命チョコ作りに挑んだー。
チョコ作りの”素材”は揃っていたものの、
正直、繁明からすれば未知の世界で滅茶苦茶難しかったー。
が、何とかネットの情報を駆使して、
ようやく、かなりぎこちない感じのチョコを完成させると、
そのまま絵梨花は笑みを浮かべるー。
「ーこれしかまともに渡せそうなものないけどー、
まぁ、いっかー」
昨年、絵梨花は同性の友達も含む、それなりの人数に
チョコを渡していたようなー、
そんな気がするー。
が、今年は”何とか渡せそうなチョコ”が1個、
辛うじてあるだけだー。
他のは、見るに堪えない状況ー。
「チョコ作りって簡単じゃないんだなー…」
絵梨花はそう呟くと、
「まぁでも、”俺”に渡す分だけ作れればいいしー」
と、ニヤニヤしながら明日のバレンタインデーを楽しみにしつつ、
「ーーへへーまずは今夜を存分に楽しむかー」と、
普段の絵梨花からは想像もつかないような下品な笑みを浮かべた…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
翌日ー
2月14日、バレンタインデーの当日…。
絵梨花は笑みを浮かべながら学校へとやってきていたー。
”他人の身体を乗っ取って、何も知らない自分自身に本命チョコを渡す”
そんなことに興奮して、それしか考えられない状況になっていた
絵梨花は、チラチラと”自分”の方を見つめるー
”へへ…何ソワソワしてるんだよー
俺がチョコを貰えるわけなんてないだろ?”
絵梨花は笑うー。
絵梨花に憑依しているのも、繁明だからこそ、”自分自身”のことは
よく分かるー。
”俺がソワソワしたところで、どうせチョコなんて貰えない”のだー。
「ーーま、今年は俺が俺にチョコをあげるんだけどなー」
絵梨花はそう思いながら、さっきから何か話しかけてきている友達を
完全無視していたことに気付いて「ん?なに?」と、
愛想悪く応じるー。
今の絵梨花には”俺に俺が本命チョコをあげた時のこと”で
頭がいっぱいだー。
今から”俺”がどんな反応をするのかー。
それが、楽しみでたまらないー。
そう思いつつ、絵梨花は友達を無視して、
繁明の方に向かうと、
静かに言葉を口にしたー
”今日の昼休みー、話があるんだけどー…”
絵梨花がそう言うと、
”え…お、俺にー?”と、
繁明本体はドキッとしたような表情を浮かべたー
「ーうん。西棟の生徒会室の隣の教室で待ってるー」
絵梨花はクスッと笑うと、それだけ告げて
そのまま立ち去っていくー。
返事は聞かなかったが
”俺”なら、絶対に来るはずー。
そう思いつつ、絵梨花は”他人の身体で自分自身に告白する瞬間”を
頭の中に思い浮かべて、笑みを浮かべたー
②へ続く
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コメント
今日はバレンタインデーですネ~!☆
今年は憑依モノデス~!
2話完結なので、バレンタインデーが過ぎちゃう明日も
続きはありますが、楽しんでくださいネ~笑
今日もありがとうございました~!
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